REFUGEE

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「REFUGEE」。 73 年結成。メンバーは THE NICE の残党リズム・セクションとスイス出身、元 MAINHORSE のキーボードディスト、パトリック・モラーツ。翌年モラーツの YES 参加とともに解散。

 Refugee
 
Patrick Moraz organ, Mini-moog, AKS synth, piano, Clavinet, Mellotron
 marimba, Alpine horn, electric slinky, electric piano, vocals
Lee Jackson bass, electric cello, guitar, 12 string acoustic, lead vocals
Brian Davidson drums, timpani,gongs, Tibetan temple bells, African drums
 kabassa, broken glass

  74 年発表のアルバム「Refugee」。 内容は、モラーツのキーボードによる多彩きわまる音色と縦横無尽のプレイをフィーチュアした、クラシカルかつファンタジックなシンフォニック・ロック。 チック・コリアやヤン・ハマーと遜色ないスピーディなムーグ、品のあるロマンティックなピアノ、ストリングスやメロトロンを用いた抜群のオーケストレーション・センスなど、演奏面ではモラーツの存在が 90% といっていいだろう。 クラシックの素養や演奏の品格という点では、あまたのロック・キーボーディスト中、最高位に座するプレイヤーだ。 別にロックに走る必要はなかったのかもしれないが、時代の熱気がこういう人まで巻き込んでいったのである。
   キーボードをフィーチュアしたバンドはあまたあれど、本作品の特徴は、THE NICEEL&P と比べてキーボードによるオーケストラ・シミュレーションというニュアンスが強いこと、そしてキーボードのアドリヴにヤン・ハマーばりのジャズロック風味があるところだろう。 全体に、火を吹くようなプレイの応酬に緩やかで幻想的な場面を交えて、劇的に物語を綴っており、ひたすら情熱的なパフォーマンスに力点のあるエマーソンよりも、クラシカルな作曲力/描写力では勝っている。 ドラムス、パーカッションのプレイも、安定したリズムを供給するとともに、オーケストラを意識したような重厚さがある。 そして安易なクラシックの翻案に走らずに、オリジナルな表現を目指していることもよく分る。 似たようなタイプである TRACE と比べると人気クラシック・メドレーではない分派手さはないが、密度の高い演奏の生む楽想は、きわめて豊かであり個性的だ。
   ただし、インストゥルメンタルにおいて音を詰め込み過ぎるところがあり、その結果、スピード感や安定感を損なっているような気がする。 デヴィッドソンはエネルギッシュなプレイを放つが、いっぱいいっぱいな感じが強調されてしまっている。 たたみかけるわりには、スリリングではないのは、そういうところに起因するのだろう。 全体のバランスという点で、歌もののほうが演奏が生きている気がする。
  THE NICE 同様ジャクソンのヴォーカルにズッコけるのは確かだが、メロディ・ラインは悪くないし、何よりそれを補ってあまりある圧倒的なインストゥルメンタルがある。 キーボード・ファンには絶対のお薦め。 全体に英国の音というよりは、いわゆるユーロロックの音である。スイス人がいるのだから当然といえば当然だが。
  作曲は、パトリック・モラーツ。 作詞は、リー・ジャクソン。プロデュースは、グループとジョン・バーンズ。現行 CD は韓国版。 ちなみに、ジャケットの写真の人物は、左からリー・ジャクソン、ブライアン・デヴィッドソン、パトリック・モラーツ。

  「Papillon」(5:11)快速バカテクのインストゥルメンタル。まずはご挨拶で度肝を抜く。

  「Someday」(5:07)どことなくユーモラスな歌もの。とぼけたヴォーカルとバッキングの豪華なキーボードの独特なミスマッチの妙。

  「Grand Canyon」(16:58)五部構成の大作。挑発的なプレイの連発、メロディアスでシンフォニックな高揚、幻想的な音空間など、盛りだくさんの痛快作。 品はない。 ヴォーカル・パートは、KAYAK ばりに甘く切ない。 最後の 5 分はやや引き伸ばし的。(アンコール風というべきか)

  「Ritt Mickley」(6:01)クラシカルな面とジャジーな面をともに強調したインストゥルメンタルの佳品であり、後のモラーツのソロへと通じる作風をもつ。US 盤 LP や CANADA 盤 LP では「Gate Crasher」と「Ritt Mickley」の二曲に分けてクレジットされている。

  「Credo」(18:10)八部構成の大作。 冒頭の圧倒的なピアノ・ソロにエマーソンへの意識を感じる。 チャーチ・オルガンの乱れ弾きから、RETURN TO FOREVER のようなエレクトリック・ピアノのリードする演奏もある。 ただし、曲想そのものはややベッタリしたロマンティシズムに偏っており、切れ味鋭いプレイの総和以上のものはない。 シンセサイザーの音色とフレージングが GENESIS の「Selling England By The Pound」の第一曲とよく似ているところがあるのは、レーベル、録音時期、プロデューサーが重なっているからだろうか。
  
(CAS 1087 / SRMC 6024)


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