イギリスのキーボーディスト「Rick Wakeman」。 49 年生まれ。 STRAWBS、YES と華麗なバンド遍歴を持つ元祖「キーボードの貴公子」。 70 年代中盤からソロ活動に入り、現在まで、大量の作品を発表している。
Rick Wakeman | keyboards | Dave Winter | bass on 2,4 | Chris Squire | bass on 1 |
Chas Cronk | bass on 3 | Les Hurdle | bass on 1,5 | Mike Egan | guitar on 1,2,5,6 |
Dave Lambert | guitar on 3 | Steve Howe | guitar on 1 | Alan White | drums on 2,4,6 |
Bill Bruford | drums on 1,5 | Barry de Souza | drums on 3 | Ray Cooper | percussion on 1,5 |
Frank Riccotti | percussion on 2,3,4 | Lisa Strike | vocals on 1,5 | Laura Lee | vocals on 5 |
Barry St.John | vocals on 1 | Sylvia McNeill | vocals on 5 | Judy Powell | bass on 1 |
Dave Cousins | electric banjo on 3 |
73 年発表のアルバム「The Six Wives Of Henry VIII」YES 在籍中のソロ第二作。
「英国宗教をも混乱させた悪名高き青髭」ヘンリー八世の不幸な妻たちを一人一人描くトータル作である。
内容は、クラシカルなモチーフと圧倒的なプレイが魅力のキーボード・シンフォニック・ロック。
ウェイクマンは、アコースティック・ピアノ、シンセサイザー、ハモンド・オルガンら中心に、クラシック調からジャズ、R&B テイストあるプレイまで、とにかく縦横無尽に快速フレーズを弾き捲くる。
一歩間違えると品がなくなりそうな、寸前のところで暴れまわるのが特徴である。
あたかもキーボードに煽られるように、リズム・セクション、ギターも音数多く、走りまわる。
ただし、音が分厚いかというとそういうことはない。
スタジオで加工されたイメージではなく、それぞれの音を出す機材を揃えて「せーの」で録音したような、痛快さと小気味よさがある。
名うてのスタジオ猛者どもとともに、コミュニケーションよく、楽しげに自由闊達に録音したようなイメージだ。
こういう「運動性」というか「体を動かしている」というニュアンスは、昨今のキーボード・ロックには微塵もない。
どちらがいいとも悪いとも思わないが、楽しそうな感じがするのは、間違いなく本作のような作品だ。
難しいフレーズを弾きこなしたウェイクマンが、大見得を切っている姿が目に浮かぶ。
当たり前だが、そういうカッコよさは、ロックの基本にあるものである。
STRAWBS、YES のメンバーのサポートを得た充実の大傑作であり、キーボード・ロックの代表作の一つ。
エレガントにして目立ちたがりなピアノは、この人ならではの魅力。
「Catherine Of Aragon」(3:44)「Yes Songs」でも披露されたスリリングな名曲。
「Anne Of Cleves」(7:53)暴走気味でルーズなジャム。
「Catherine Howard」(6:35)レゾナンスの効いたムーグ・シンセサイザーが印象的。
本曲も「Yes Songs」に登場。
「Jane Seymour」(4:46)チャーチ・オルガン、チェンバロの弾き倒しによる正調快速バロック。
チャーチ・オルガンとムーグの高鳴る場面は「Yes Songs」に登場。
「Anne Boleyn 'The Day Thou Gavest Lord Hath Ended'」(6:32)挑戦的なキーボード・シンフォニック・ロックの名作。
硬軟、動静、明暗、虚実、攻守の切りかえしが鮮やか。
GENESIS 的ともいえる転調の妙。
ラグタイムやホンキートンクもあり。
「Catherine Parr」(7:06)リストを思わせる爆発的なハモンド・オルガン。印象派風の美しいピアノ。
終曲らしい華やぎ。
(A&M CD 3229)
Rick Wakeman | keyboards | Ashley Holt | lead vocals | |
Gary Pickford Hopkins | lead vocals | Jeffray Cranpton | guitars | |
Roger Newell | bass | Barney James | drums | |
John Hodgson | percussion | The English Chamber Choir |
75 年発表のアルバム「The Myths And Legends Of King Arthur And The Knights Of The Round Table」。
管弦楽、混声合唱、リード・ヴォーカルを動員したスケールの大きなコンセプト作である。
すごいのは、壮大なオーケストレーションによる史劇風のスペクタクルでありながら、メロディアスでポップな聴きやすさをアピールしているところ。
ウェイクマンのメロディ・センスは(クラシックの翻案はあるにせよ)、その演奏力と並ぶものではないだろうか。
(余談、ひょっとすると、KAYAK の名アルバムは、この作品に触発されたのではないだろうか)
ただし、物語を優先するために、前作のようなキーボード主導のスリリングなアンサンブルの配分が相対的に減ってしまっている。
そして、リズム・セクションが前作と比べるとやや弱い。
爆発的なウェイクマンのソロはあるが、そのソロに付き随い、挑発するような丁々発止のやり取りはあまりない。
奔放なアレンジ/演奏にうまく乗り切れると、最後まで楽しいと思う。
ハリウッド映画やイタリア辺りのポップス・オーケストラに慣らされてきた耳にとっては、本作全体に感じられる一種独特の「野暮ったさ」が悩ましい。
しかし、英国人には違って聴こえるらしい。
実際、全英チャートで第二位に輝いた成功作である。
おそらく、この伝説を寝物語に子供の頃から聴いてきた英国人にはとって、格別の味わいがあるということなのだろう。
本日本盤 CD では、後半(旧 B 面)の曲時間の表示が、LP、これまでの CD とは大きく異なる。
従来は、5 曲目以降 8:51、5:51、9:41 という時間表示だったが、今回の CD では、1:23、7:32、15:35 となっている。
これは、従来の 5 曲目を二つに分解し、6、7 曲目を一つにまとめたことによる。
「Arthur」(7:29)エモーショナルな歌と勇ましい管楽器、ムーグ・シンセサイザーのテーマによる意気上がるクラシカル・ロック・シンフォニー。
優美なメイン・テーマは、KAYAK 的。
「Lady Of The Lake」(1:32)厳かな男声コラールに続いて、哀しげなピアノのテーマが提示される小曲。
印象的なピアノのテーマは、著名なクラシック?
「Guinevere」(6:03)
透き通るストリングスを活かしたセンチメンタルなユーロ・ポップ・チューン。
ウェイクマンは、ややユーモラスなムーグ・ソロとピアノで気を吐く。
クラシカルな曲調が主なだけに、ごく普通のギター・ソロが映える。
シングル向き。
「Sir Lancelot And The Black Night」(5:23)
交響曲とハードロックをあわせたような勇ましい作品。
コラールや管弦楽による重厚な演奏、たたみかけるようなヘヴィなリズムが走るかと思えば、フォークロック風のヴォーカル・パートがしっとりと受けとめる。
ウェイクマン得意のややエキゾチックなムーグ・ソロが圧巻。
「Merlin The Magician」(1:23)
2 曲目同様厳かなコラールが語り、同じピアノのテーマが今度はチェンバロ、ピアノの重奏で奏でられる。
「Sir Galahad」(7:32)YES によるポール・モーリア風のイージー・リスニングにけたたましいキーボード・アンサンブルが放り込まれる。
いかにも YES を意識したようなリズム・セクションがおもしろい。コミカルなラグタイム風の演奏もある。
「The Last Battle」(15:35)今までのモティーフを無造作かつ分裂気味に回想しつつ、「終わりよければすべてよし」的展開を繰り広げる能天気な終曲。終盤、ようやく、悲劇的かつ重厚なイメージへと収束し、そのまま幕を閉じる。
(UICY-9263)