イギリスのミュージシャン「Anthony Phillips」。GENESIS の初代ギタリスト。 70 年代後半から初期 GENESIS 風のアコースティック・サウンド主体の作品を発表し続ける。 近年はニューエイジ的なサウンドへと傾倒気味。作品多数。
Anthony Phillips | acoustic guitars, electric guitar, bass, dulcimer, bouzouki, synthesizer, mellotron, harmonium |
piano, drums, celesta, glockenspiel, timbales, bells, chimes, gong, vocals on 13 | |
Michael Rutherford | acoustic guitars, electric guitar, bass, organ, drums, timbales, glockenspiel, bells, cymbal |
Phil Collins | vocals on 2,9 | Jack Lancaster | flute, lyricon on 14 | |
Charlie Martin | cello on 10-12 | Kirk Trevor | cello on 10-12 | |
John Hackett | flute on 9,13,14 | Wil Sleath | flute, baroque flute, recorder, piccolo flute on 3-8 | |
Rob Phillips | oboeon 11,12,14 | Lazo Momulovich | oboe, Cor Anglais on 3-8,11 | |
Nick Hayley | violin on 11,12 | Martin Westlake | timpani on 3-8,10-12 | |
Tom Newman | hecklephone, bulk eraser | Vivienne McAuliffe | vocals on 9 | |
Send Barns Orchestra and Barge Rabble | ||||
Jeremy Gilbert | conductor | Ralph Bernascone | soloist |
77 年発表のソロ第一作「The Geese & The Ghost」。
旧友やバンドのメンバーのサポートを得て苦節三年かけて制作された。
内容は、中世宮廷音楽とフォーク・ソングの影響を受けた繊細極まるアコースティック・ミュージック。
初期 GENESIS のアコースティック・アンサンブルを支えていたのが、彼とラザフォードであることがよく分かる作風である。
(ラザフォードは GENESIS での活動の合間を縫ってこちらの録音に参加したらしい。Charisma レーベルからのアドバンス集めも担当したようだ)
イメージは神秘と夢想、といっても暗さはなく、そこはかないペーソスの交じった白昼夢のように淡い色合いの芳しき世界である。
インストゥルメンタル主体の内容なだけに、たまに入るフィル・コリンズのデリケートな歌唱が一際映える。
演奏の中心となるアコースティック・ギターのプレイは、中世/ルネッサンス風の雅なスタイルであり、竪琴のイメージ。
同じアコースティック(ガット)・ギターの名手でもセゴヴィア直系のロマン派スタイルを得意とするスティーヴ・ハケットとは趣味のエリアが若干異なる。
逆に、オーボエやフルート、チェロといった音の取り入れ方はハケットの作風とよく似ている。
エレクトリック・ギターやキーボードのファンタジックでソフトな音をアコースティックなアンサンブルで生かすのもとてもうまい。
また、タイトル曲などに顕著なようにゴードン・ギルトラップの作風とも共通性がある。
ピーター・クロス画伯のジャケット・アートは絶妙のタッチで本作の世界を描いていると思う。
プロデュースはアンソニー・フィリップス。
現代のトルバドールです、まさに。
本作品の発表を見送った Charisma レーベルは THE BEATLES を逃した DECCA とともに歴史的「見る目のなさ」を露呈したといえる。
「Wind - Tales」(0:59)
「Which Way The Wind Blows」(5:52)雅歌のように美しくたおやかな歌もの。
「Henry: Portraits From Tudor Times」美しいインストゥルメンタル組曲。
「(i) Fanfare」(1:02)バロック風のホルンが美しい序曲。
「(ii) Lutes' Chorus」(1:05)アコースティック・ギター、フルートのトリオ。
「(iii) Misty Battlements」(2:06)哀愁あるギター、鍵盤のデュオ。
「(iv) Henry Goes To War」(3:52)火を噴く荒々しいコード・ストロークとしなやかな管楽器の旋律。ハケット氏と共通するタッチ。
「(v) Death Of A Knight」(2:09)ガットギターらしき爪弾きによるエレジー。フルートが加わってからの展開は初期 GENESIS そのもの。
「(vi) Triumphant Return」(1:51)教会風のハーモニウムが導く厳かで勇壮な終曲。祝賀の号砲を模すドラムスがいい。
「God If I Saw Her Now」(4:12)ヴォーカルはコリンズとヴィヴィエンヌ・マクオリフ。メランコリックでモダンなフォークソング。
「Chinese Mushroom Cloud」(0:46)重々しいアクセント。
「The Geese & The Ghost Part 1」(8:12)田園の風景画のように美しくおだやかな作品。シンフォニックなエンディングが次曲を導く。
「The Geese & The Ghost Part 2」(7:32)GENESIS 風の繊細かつダイナミックな作品。
「Collections」(3:07)午睡のけだるさと目覚めの官能を描いたような歌もの。フィリップスのヴォーカル。バックは管弦楽。
「Sleepfall: The Geese Fly West」(4:34)ピアノと管弦楽風のアンサンブルが導く終曲。深い幻想の森へ帰ってゆくイメージ。
以下ボーナス・トラック。
「Master Of Time (Demo)」(7:37)
(HIT 001 / CDOVD315)
Anthony Phillips | vocals, harmonica | Michael Giles | drums |
John G. Perry | bass | The Vicar | guitar, keyboards, sundries |
Jeremy Gilbert | keyboards on 7, harp on 9 | Mel Collins | soprano sax on 1, flute on 2 |
Robin Phillips | oboe | Rupert Hine | percussion, backing vocals, locks, probs, modes & vibes |
Perkin Alanbeck | synthesizer on 2 | Humbert Ruse | drums on 7 |
Vic Stench | bass on 7 | Rodent Rabble | clicks, claps, crampons |
78 年発表の作品「Wise After The Event」。
アコースティックな音の質感と夢想性とクラシカルな典雅さはほぼそのままにより現代的なポップスとしてのニュアンスを高めた傑作。
竪琴のようなアコースティック・ギターの響きは全編を彩り、管楽器のまろみのある音色が柔らかく淡くそれでいて溌剌とした調べを奏でる。
そして、エレクトリック・キーボードの音がアコースティックな音をなぞったり、にじませたり、変わった音の管弦楽器のようなアクセントとして散りばめられることで同時代的なポップスのニュアンスを出していると思う。
堅調なリズムも魅力だ。
牧歌調とやや怪奇じみた緊張感が表裏一体をなすところなどはおとぎ話のノリであり、それはそのまま初期 GENESIS が極めた路線でもある。
シンプルなビート感や怪しげな裏メロディを操るエレクトリック・キーボードのサウンドなどニューウェーヴ風(プロデュースのハインのセンスでもあるのだろう)とも思うが、そもそもフォーク・ロックもニューウェーヴも英国ロックの潮流のうねりにすぎないと思えば何ということはない。
この、時代の要請に従った音楽スタイルの変化が GENESIS の音楽の変化とよく似ているところも興味深い。(三曲目は「Wind And Wurthering」に、五曲目は「A Trick Of The Tail」にそのまま入っていてもおかしくない)
改めて GENESIS はこの人のセンスが注ぎ込まれたバンドなのだと思う。
フィリップスが全曲で霧に包まれた峠で旅人を惑わす精霊のようなリード・ヴォーカルを取る。
ジャケット同様、不思議な棘のあるユーモアが散りばめられている。
プロデュースはルパート・ハイン。
「We're All As We Lie」(4:36)
「Birdsong」(6:43)
「Moonshooter」(5:55)
「Wise After The Event」(10:30)
「Pulling Faces」(4:35)
「Regrets」(6:02)
「Greenhouse」(3:00)
「Paperchase」(5:31)
「Now What (Are They Doing To My Little Friends?)」(8:21)
「Squirrel/Sitars And Nebulous」(4:28)CD ボーナス・トラック。シングル ARIST 192 の B 面収録。(A 面は「We're All As We Lie」)ジャケットに大きく「栗鼠」のイラストが描かれているのに LP に本作品が収録されていない件についての顛末はライナーに詳しい。
(SPART 1063 / CDOVD322)
Anthony Phillips | guitar, piano, harmonium, vocals |
78 年発表の作品「Private Parts And Pieces」。
ソロ第一作と同系統のアコースティック/エレクトリック・ギター・ソロ/アンサンブル、ピアノ、キーボードによる作品集。
タイトル通り、そっと暖めておいた作品たちに穏やかな日の光をあてているような、密やかで優しい内容である。
楽曲は 69 年から 76 年までの間に作曲されている。(当然初期 GENESIS のために用意された楽曲もある。スリーヴに「一部のアコースティック・ギター作品はあまりに内省的なために当時の聴衆には合わず、やむをえずお蔵入りした」というコメントが載っている)
プライヴェートと銘打ちながらも、妄想や幻想性よりも、現実の中の穏やかな幸福感、和やかな空気、規範的な調和の美、といったものが感じられる内容である。
フィリップスのモラリストらしきパーソナリティがストレートに染み出ているのは間違いないと思う。
一部ヴォーカルは入るがほぼインストゥルメンタル。
プロデュースはアンソニー・フィリップス。
「Beauty And The Beast」(4:09)キーボードによるスリリングなインストゥルメンタル。名曲。
「Field Of Eternity」(5:11)素朴で優美ないかにもクラシック・ギターらしいソロ。未録音の古い GENESIS の作品や「Flamingo」とともに協奏曲を成すはずであった作品の一部が含まれるそうだ。
「Tibetan Yak-Music」(6:10)
「Lullaby - Old Father Time」(1:15)
「Harmonium In The Dust (Or Harmonius Stradosphore) 」(2:31)
「Tregenna Afternoons」(7:50)
「Stranger」(6:12)CD 追加トラック。ヴォーカル入り。
「Reaper」(6:12)12 弦ギター・ソロ。
「Autumnal」(6:00)印象派風のピアノ・ソロ。
「Flamingo」(11:08)アグレッシヴで構築性に富む 12 弦ギター大作。幻の協奏曲の第一楽章らしい。
「Seven Long Years」(3:03)哀感募るラヴ・バラード。ヴォーカル入り。
「Silver Song」(3:19)CD 追加トラック。THE BEATLES 風ののどかなポップ・チューン。なかなかの佳曲だと思う。
(AFLP1 / CDOVD317)
Anthony Phillips | guitars, keyboards | Michael Giles | drums |
John G. Perry | bass | Frank Ricotti | timpani |
Humbert Ruse | percussion on 3, Cor Anglais on 7 | Ray Cooper | percussion |
Dale Newman | vocals | Dan Owen | vocals |
Ralph Bernascone | vocals | The Vicar | vocals |
guest: | |||
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Vic Stench | cello on 3, bass on 8 | Morris Pert | conga on 3 |
Mel Collins | tenor sax on 4 | John Hackett | flute on 6 |
79 年発表の作品「Sides」。
内容は、緩やかな牧歌調に都会的で不安定な揺らぎを、ときに甘く、ときに薄暗く交えた王道ブリティッシュ・ロック。
元来の密やかファンタジー系の音に同時代的なポップをうまくブレンドできた作風である。
狂的な緻密さのあるインストゥルメンタルなどに、スティーヴ・ハケットやマイク・オールドフィールドと共通する「病み」をおぼえる。
幻想フォーク系の打ち震えるような本人のヴォーカルと対比させるように、より 洗練された AOR 調も黒っぽさもこなすダン・オーウェンとノーブルで誠実なデイル・ニューマンというスモーキーな英国ロックらしさを身につけたリード・ヴォーカリストを擁しており、それによって音楽的な幅広さをうまく示すことに成功している。
数少ないが要所をピリッと締めるシンセサイザーの音もいい。
ペリーの技巧的にして粋なベース・プレイとマイケル・ジャイルズの積極的で精緻なドラミングがフィリップスの音楽に命を与えている。
旧 B 面の力の入った楽曲はプログレ・ファン、ヴァージン・レーベル・ファンも納得すると思う。
ヴォーカルとしてクレジットされている The Vicar というのはフィリップス自身、また Vic Stench というクレジットも本人らしい。
クレジットされている以外は、すべてフィリップスの作詞作曲。
プロデュースはルパート・ハイン。
「Um & Aargh」(4:51)リード・ヴォーカルは、アンソニー・フィリップス。
「I Want Your Love」(3:55)堂々の AOR 系ラヴ・ソング。もう少しテンポにメリハリがあればシングル・カット第一候補。
リード・ヴォーカルは、ダン・オーウェン。
「Lucy Will」(4:05)アコースティック・ギター弾き語りフォーク。クリアーにしてファンタジックな響きが貫く。
パーカッションが愛らしい。
リード・ヴォーカルは、アンソニー・フィリップス。
「Side Door」(4:05)グルーヴィな R&B ポップ・チューン。
ディスコ時代の ELO っぽさあり。
サックスのせいで、ポップな KING CRIMSON に聴こえるという恐ろしさ。
リード・ヴォーカルは、ダン・オーウェン。ここではスティーヴィ・ワンダーばりの黒っぽさで迫る。
「Holy Deadlock」(3:48)BEATLES 直系のユーモアとシニシズムある英国ポップ。
STACKRIDGE と同系。
リード・ヴォーカルは、アンソニー・フィリップス。作詞はマーティン・ホール。
「Souvenir」(3:45)フィリップス自身が歌ってもいいような、GENESIS の血を引いたファンタジックでトラジックなバラード。
ヴォーカルは、ダン・オーウェン。ボーナス・トラック。「Um & Aargh」シングル B 面。
「Sisters Of Remindum」(4:29)ピアノがリードする神秘的でスリリングな緊張感もあるインストゥルメンタル・チューン。名品。
「Bleak House」(6:14)重厚にして希望のあるバラード。ヴォーカルは、デイル・ニューマン。ここでもピアノが演奏をリードする。
「Magdalen」(7:39)穏やかな牧歌調とアグレッシヴな展開を一つにした陰影のある力作。
ドラムスは「クリムゾン・キングの宮殿」ばりに力が入っている。
のどかなヴォーカルと演奏の強度のミスマッチが独特。
ハーモニーやオブリガートの処理なども凝っている。やはり GENESIS を支えたタレントである。
リード・ヴォーカルは、アンソニー・フィリップス。もう一人ヴォーカリストがいるがノン・クレジット。
「Nightmare」(7:24)強い哀感とともに幾何学的なイメージを示すプログレッシヴな変拍子インストゥルメンタル。
ラルフ・バーナスコーンのヴォーカル・クレジットは冗談らしい。
「Magdalen」(6:51)ボーナス・トラック。インストゥルメンタル・ヴァージョン。
(SPART 1085 / BP210CD)
Anthony Phillips | twelve-string guitar, classical guitar, guitars, piano, vocals, synthesizer | ||
Andy McCulloch | drums, percussion | Mike Rutherford | bass on 1,4,20 |
Rob Phillips | oboe on 15 | Mel Collins | flute on 17 |
80 年発表の作品「Private Parts And Pieces II Back To The Pavillion」。
一部収録曲の録音時期は 76 年までさかのぼる。英国での発表場所が見つからずに後年米国、カナダで発表されたようだ。
第一作の延長上ながらもキーボード(ポリフォニック・シンセサイザー系か)のオーケストラ効果やエレクトリックなサウンドを多く盛り込み、たおやかで繊細な作風にアンビエントな深みと陰影を加えている。
アコースティック・ギターによるクラシカルでロマンティックな作品ももちろんあり。
蔵出し風の前半の組曲「Scottish Suite」は宅録感漂うもプログレな傑作。初期 GENESIS が 77 年くらいまでそのまま存続したような作品だ。
プロデュースはアンソニー・フィリップスとルパート・ハイン(11,12,14,16)。
「Scottish Suite」(15:15)
「(i) Salmon Leap」(2:46)
「(ii) Parting Thistle」(2:26)
「(iii) Electric Reaper」(3:03)
「(iv) Amorphous, Cadaverous And Nebulous」(4:53)
「(v) Salmon's Last Sleepwalk」(2:07)
「Lindsay」(3:50)
「K2」(8:53)アンビエントでエレクトリックな音響作品。ジャーマンものに近接。異色作。
「Postlude: End Of The Season」(0:32)
「Heavens」(4:22)
「Spring Meeting」(3:52)
「Romany’s Aria」(0:50)
「Chinaman」(0:41)
「Nocturne」(4:05)
「Magic Garden」(1:56)
「Von Runkel’s Yorker Music」(0:41)
「Will O’ The Wisp」(3:30)
「Tremulous」(1:06)
「I Saw You Today」(4:34)
「Back To The Pavilion」(2:51)
「Lucy: An Illusion」(3:52)CD ボーナス・トラック。
(PB 2012 / BP203CD)
Anthony Phillips | keyboards, electric & acoustic guitars, bass, drum machine, sequencer on 2 | ||
Martin Robertson | clarinet | Ian Hardwick | oboe |
Michael Cox | flute, piccolo | Tjborn Holtmark | trumpet |
Julie Allis | harp | Ian Thomas | drums |
Frank Ricotti | percussion, off spin | ||
John Owen-Edwards | conductor | Gavyn Wright | strings leader |
Speachi Quartet | Ralph Bernascone | quartet conductor |
90 年発表の作品「Slow Dance」。
内容は、二つの大曲から構成される交響楽的かつ内省的なインストゥルメンタル・ミュージック。
マイク・オールドフィールドに通じるスタイルだが作風は異なる。
バロック、ルネサンス期の宮廷音楽の雅と英国クラシックの気品と優美さがあり、全体としてはほのぼのとした暖かみがある。
ケルト風味はあまりない。
そして、いまだ GENESIS 風味もあり。(というか GENESIS の基調にこの人の音が染みているというべきか)
生の管弦楽による悠然とした近現代クラシックからドラムマシンやシーケンサを使ったロック・オーケストラの躍動感まで、音楽の展開は THE ENID ばりに多彩かつダイナミックである。
この人らしさは、クラシック然としたところに、パーソナルな暖かい情感や諧謔味をごく控えめに慈しむように加味しているところだろう。
緻密すぎず安きに流れることもない稀有の作風だと思う。
パート 2 のシーケンサと管弦楽の巧みな連動が "新しい時代の音楽" というイメージを提示している。
(BP213CD)