BAKERLOO

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BAKERLOO」。68 年 BAKERLOO BLUES LINE として結成。HARVEST レーベル。69 年解散し、クレムソンは CLOSSEUM へ、キース・ベイカーは URIAH HEEP に加入する。

 Bakerloo
 no image
Dave "Clem" Clempson guitar, slide guitar, piano, harpsichord, harmonica
Terry Poole bass
Keith Baker drums
guest:
Jerry Salisbury trumpet

  69 年発表のアルバム「Bakerloo」。 内容は、ジャズ的なアドリヴを大きく取り入れ、クラシック、フォークへの志向も示した多才なブルーズ・ロック。 時代の息吹と若い才覚を強く印象付ける佳作である。 トリオ編成ということもあってサウンド面で CREAM と比較されるようだが、スリリングなアドリヴでは十分匹敵し、表面的な音楽性の幅広さでは勝っている。 爆発力のある演奏から漂う独特の醒めたようなクールネスも特徴的だ。 ブルーズ・ロック固有の臭みを他の音楽とのブレンドでフレッシュなイメージへと変化させているといってもいい。 もっとも、器用過ぎること自体はブルーズらしさとは矛盾しないだろうか。 この鋭く才気あふれるギターには、いわゆるブルーズ・フィーリングよりも無邪気な探究心と剥き出しの野心の方が似合う。 本人もそこのところはよく分かっていて、それでこの表現法を選んだのかもしれない。
   ブルーズ・ロックの可能性を一気に拡張せんとプログレッシヴなアプローチを繰り出し、JEFF BECK GROUP を超えて LED ZEPPELIN に迫る新しいハードロックである。 クレムソンが自由自在に操るレスポールが痺れるほどにカッコいい。 ヴォーカルはうまさよりも斜に構えたクールさを堪能すべし。 プロデュースは、ガス・ダッジョン。 ゲストのトランペット奏者、ジェリー・ソールズベリーは VAN DER GRAAF GENERATOR の作品にも参加している。

  「Big Bear Folly」(4:00) ジャジーなベース・ランニングとともに繰り広げられるギター・アドリヴ一本勝負。スピーディでノリノリの痛快な演奏である。 インストゥルメンタル。

  「Bring It On Home」(4:20) LED ZEPPELIN も演じたウィリー・ディクソン作の名ブルーズ。 ブルーズ・ハープ、クリーントーンのスライド、気だるく揺らぐヴォーカル。 ルーズだがギターの切れ味は抜群。

  「Drivin' Bachwards」(2:06) JETHRO TULL も取り上げたバッハの「Bouree」のリズムを崩してジャジーにアレンジした小品。 クレムソンの演奏するハープシコードをダビングしてギターとユニゾンさせている。ヴィヴラートあるなしの対比が面白い。 オブリガートするトランペットの空しさを強調するような響きもいい。 バッハのもつ幾何学性を逆手にとって崩すわけだが元のテーマにブルージーなペーソスがあり違和感がない。的を射たアレンジである。 そして、バッハが名メロディ・メイカーでもあったと再発見。インストゥルメンタル。

  「Last Blues」(7:05) 幻想的で空ろなテーマを前後に配し、中間部に強烈なギター・ソロをはさんだサイケデリックなハードロック。 気弱なヲタクが喧嘩に勝ち捲くる夢を見ているような内容だ。(笑) この中間部のアドリヴはやや細身の CREAM のよう。 なんというか、この寒々しく病んだ感じこそ英国ロックの真骨頂だと思う。

  「Gang Bang」(6:21) キレのいいドラムスをフィーチュアしたハードロック・インストゥルメンタル。 日本ではこういう曲調にもう一味「泣き」や「クラシカルなもの」をのせたハードロックが受けるようだ。 個人的には本曲のオープニングに象徴される簡素な鋭さと乾いた疾走感がいい。 ベースのフレージングもジャジーでカッコいい。

  「This Worried Feeling」(7:05) ギターが虚勢を張り、鬱に沈み、すすり泣くブルーズ・チューン。 ヴォーカルとギターのみで身を削るようなブルーズを繰り広げる。リズムとピアノが加わるも、ヴォーカルは研ぎすまされた孤独感を露にする。コテコテのブルーズです。

  「Son Of Moonshine」(15:00) ハードなブルーズ・ロックから始まる長丁場をアレンジの妙でのり切る大作。CREAM 系のインプロヴィゼーション・バトルを、巧みなギター・プレイのみならずリズム・パターンの変化、タイムリーなオーヴァー・ダヴ、ノイジーなギミック、ベース・ソロに代表される「引き」のうまさでつないでテンションを維持してゆく。 ブルーズ・フィーリングそのものよりも、どう面白く聴かせるか、何をしたら新しいかに注力しているようだ。
  
(SHVL 762 / REP 4358-WP)


  close