イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「BIGLIETTO PER L'INFERNO」。 72 年結成。 作品は二枚。 (二作目は 1992 年に発掘) 2007 年再編。 オルガンとフルートをフィーチュアしたシンフォニック・ハードロック。 TRIDENT レーベル。
Fausto Branchini | bass |
Mauro Gnecchi | drums |
Giuseppe Banfi | keyboards |
Marco Mainetti | guitars |
Claudio Canali | vocals, flute |
Giuseppe Cossa | keyboards |
74 発表の第一作「Biglietto Per L'Inferno」。
ジャケットには、メンバー写真と担当楽器及び歌詞が掲載されているが、発表年度がない。
別途調査して 74 年の作品と判明。
たしかにこの写真のような髭面と長髪が隆盛を誇ったのも、74 年くらいまでだったような気がする。
内容は、ムーグ、オルガン担当およびピアノ担当の二人の鍵盤奏者による多彩なプレイと、メタリックなギター、奔放なフルートらをフィーチュアしたシンフォニック・ロック。
ヘヴィな展開はもとより、パストラルでほのぼのとした抒情性が特徴だ。
ヴォーカルはイタリア語だがメロディや曲調に独特の虚無感があり、いわゆるイタリアものとは微妙にニュアンスが異なる。
フォーク・タッチの部分も、素朴なだけではない屈折感があるような気がする。
むしろ 70 年代初期のブリティッシュ・ロック調というべきだろう。
その英国調にイタリアならではの極端な乱調美がこれ以上ない形でブレンドされている。
全体に振れ幅大きい静動、強弱のコントラストを用いてびっくりさせるのが得意技である。
グループ名は「地獄への片道切符」の意。完全に HR/HM ですね。
1 曲目「Ansia」(4:16)
イタリアン・ロックの長閑さ、牧歌調が特徴的なシンフォニック・ロック。
ロマンチックなフォークロックを基調にハードなサウンド、リズミカルなプレイ、キーボードによるシンフォニックな演出を加えたインストゥルメンタルを盛り込む。
前半は、オルガンとギターのアルペジオによるおだやかな演奏が JETHRO TULL ばりのリズミカルな演奏へ進み、シンセサイザーによるシンフォニックなテーマが打ち出されるという胸熱でストーリーのある進行。
マーチング・スネアとシンセサイザーによる、けたたましくもクラシカルな演奏へと落ちついて、後半からはヴォーカルが加わってメランコリーを加味しつつそれまでの展開をなぞって回想する。
オルガン、シンセサイザーとピアノのコンビネーションがフル回転。
長閑ようでいて大胆に変化しながら展開し、結局は弾き語り調でしめるというイタリアン・ロックらしい作品だ。
2 曲目「Confessione」(6:32)
キーボードがざわめくファンタジックなバラードとファズ・ギターが唸りを上げるハードロックが交差しながら次第にとけあって爆発的なクライマックスへと進む。
パワフルなシャウトをギター・リフが支えるハード・ドライヴィンな演奏をピアノ、オルガン、シンセサイザーがクラシカルに彩り、ハイトーンのファルセット・ハーモニーがロマンティックな潤いを与える。
ギターは全編通してフィーチュアされ、ヘヴィな音とグルーヴィなリフで存在感を示す。
このパワー・コードのリフはシンプルだがなかなか強力だ。
曲展開の軸になるのはこのリフだ。
キーボードとファルセットのスキャットによるブリッジがドラマをなぞり直し、哀愁をいやがうえにも高めてゆく。
再びリフが主導権を取ってヘヴィにハードに突き進み、ファズギターのオブリガートが唸りを上げると、フルートも加わって演奏はワイルドな勢いを得る。
そして、フルート乱れ吹きとヘヴィなギターを中心に目まぐるしい変化を見つつシャフル・ビートで暴れ回る。
シャフル・ビートはイタリアン・ロックならではのタランテラ風のリズムへと展開してまろみを加味しつつも、一貫してハードに豪快に攻め立てる。
最後はギターの咆哮をバックにシンセサイザーとピアノによるエネルギッシュな演奏が幕を引いてゆく。
このエンディングは BANCO を思わせる強烈なものだ。
ハイトーン・ヴォイスのバラード、イタリアの URIAH HEEP というべきか。
3 曲目「Una Strana Regina」(6:11)
哀愁と明日への希望が交差したシンフォニックなバラード。
CRESSIDA のような英国オルガン・ロックの香気が漂う。
オープニングはコントラバスを思わせる陰鬱なキーボードの調べとピアノのささやき、そしてメイン・パートではオルガンを用いたクラシカルで叙情的な演奏になる。
PROCOL HARUM とは違って大見得を切るのではなく、ごく素直な調子で情熱を伝えてくる。
ソフトなフォーク・タッチの歌唱には若々しい溌剌さとメランコリーが交差する。
間奏のゆったりとしながらも説得力あるムーグ・ソロがいい。
伸びやかなサビがいかにもイタリアン・ロックだ。
ここで不意打ち。フルートの突然の暴発に誘われてヴォーカルがつばきを飛ばして早口でたたみかけ、リズムと音量が激変する。
激情の迸り。
そういう変化すらも英国プログレ並にこなれているところが、この曲のみごとなところだ。
また、ここでもツイン・キーボードを活かして、ピアノとムーグがぜいたくに配されている。
悩ましくも甘さのある表情に沈み込むも希望に手を差し伸べるように歌い上げてゆく。
エンディングでは、突然歌謡曲風のメロディアスでお涙頂戴な曲調から軽妙なギターのリードする演奏へと雰囲気が変化してびっくりする。
しかし、それでもよく聴けばナチュラル・トーンのギターを中心としたポリフォニックなアンサンブルになっている。
こういうアヴァンギャルドな感覚も大陸風なのだろう。
4 曲目「IL Nevare」(4:36)
音量と音圧の急変で強引にドラマを叩きつけるハードロック・バラード。
前曲の空気をそのまま引き継いだオルガンのフェード・インによるオープニングは、A、B 面で雰囲気が途切れないようにするために LP 時代によく使われた手法である。
2 曲目同様、メイン・パートでは音量の極端な変化を用いているが、沈み込むように憂鬱な英国風の演奏の方が印象的だ。
エフェクトされたヘヴィなギターに引きずられるままに、リズムは 8 分の 6 拍子へ変化、ギトギトのワウ・ギターがエコー深く朗々と歌う。
再びメイン・パートはささやくようなヴォーカルの弾き語りとオルガンが高鳴るノイジーでヘヴィなトゥッティが呼応する極端な落差ある演奏。
吼えるオルガン、そして脂っこいギターのオブリガート。
8 分の 6 拍子による荒々しくも哀愁あるブリッジを経て、またもアルペジオが陰鬱な眠りへと誘う。
遠吠えのような音はトーン・コントロールしたオルガンだろう。
哀愁は深まるが三度狂おしいスキャットとギターによる熱く雄大なバラードへと染め上げられてゆく。
前曲と対をなす、または一つとみなしていい作品か。
5 曲目「L'Amico Suicida」(13:20)
雄大かつ叙情的、そして少しコワれた(よくいえば現代音楽的な)オムニバス風大作。
オープニングは、MUSEO ROSENBACH の名作に匹敵する堂々たる語り口のオルガンの調べ。
そしてギターの静かなアルペジオ。
打ち鳴らされるドラムスとオルガンの一閃は古びたエンジンの咆哮のようだ。
フルートを思わせる音はメロトロンだろうか。
一転、またも JETHRO TULL ばりのヘヴィなトゥッティが飛び出して荒ぶる。
それも一瞬、直前を大暴れを忘れたかのように虚ろなヴォーカルが悲し気に惨状を訴える。
嵐を思わせるキーボードのオブリガート、重々しいピアノ伴奏と力尽きかけた歌唱。
自由に舞い踊るピアノをバックに気力を振り絞るヴォーカル。
クラシカルなピアノのリードでハードなアンサンブルが繰り広げられる。
執拗な繰り返しのトゥッティに抗うようなノイズ、そして新たなテーマが打ち出されて、前に進み始める。
再びムードが一転、細かなビートとともにスピーディなハードロックが現れる。
フルートのバッキング。
凶暴なギターとピアノ、オルガンによるクラシカルなアンサンブルが飛び込むも、フルートとピアノが生き残って虚しい響きを奏でる。
人声を含めた奇妙なノイズからはキーボード主体のクラシカルだが気まぐれな演奏がパッチワークされる。
ギターは積極的にオブリガートでキーボード・アンサンブルに追従していく。
11 分過ぎ辺り、オルガンの響きとともに歌唱が戻ってくる。
深くイコライジングされた音が定位を歪めて現実感を破壊してゆく。
即興らしき演奏やノイズ、唐突な SE を駆使して破天荒に展開するもキーボード主体のクラシカルなアンサンブルが一貫する奇想曲。
ノイズや思いつき風のプレイで破綻しかけると、強引な全体演奏で踊り場を用意して急展開を乗り切ってゆく。
イタリアン・ロックの醍醐味である強引かつ脈絡をぶった切る曲調変化はたっぷり楽しめる。
音質、作風的にかなり異なるが、ユーモアというかこの独特の感覚は、BARCLAY JAMES HARVEST に共通するものがある。
6 曲目「Confessione」(3:31)
2 曲目のインストゥルメンタル・ヴァージョン。
キーボードを多用した雄大かつ抒情的なシンフォニック・ロック。
英国マイナー・バンド風味とパタパタ入れ代わる「動」と「静」が特徴だ。
70 年代初頭によく見られた、ギター、オルガン中心のハードロックとクラシカルなピアノやアコースティック・ギターによるバラードを融合させる試みのイタリア版である。
このアルバムを歴史に残した要因は、アヴァンギャルドなパートをノリのいいテーマ、フレーズ、リフで包んで聴きやすくしたことだろう。
ノスタルジックなハモンド・オルガンに加えて、ハードロック王道ギターとフルートが大活躍する。
特にギターは、荒っぽいリフからいわゆる「泣き」のソロ、ジャジーなプレイまで芸風が幅広い。
すさまじくチープな音色のシンセサイザーも今となっては魅力である。
ヴォーカルが微妙に撚れるあたりが本格オペラ風の歌唱が多いイタリアン・ロックには珍しく、しかしそこが英国ロックに通じる歪みや軋みになっている。
哀愁漂うバラードは喩えるならば、メタリックさをぐっと抑えてほんの少し陽気さを加味した URIAH HEEP。
「Confessione」のギター・リフは傑作でしょう。
(TRIDENT TRD1005 / VM 006)