アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「BIRDSONGS OF THE MESOZOIC」。 80 年結成。 83 年 EP デビュー。 力強く美しいオルタナティヴ・チェンバー・ロック。 グループ名は「中生代の鳥の歌」、これは自らの音を現すらしい。
Roger Miller | piano, percussion |
Erik Lindgren | synthesizer, rhythm machines, percussion |
Rick Scott | Farfisa organ, percussion, piano |
Martin Swope | guitar, percussion |
88 年発表のアルバム「Sonic Geology」。
ACE OF HEARTS RECORDS より発表された初期三作品の楽曲を抜粋した編集盤。
2 曲の未発表曲がボーナス・トラックとなっている。
ただし、2008 年に CUNEIFORM よりこれらのボーナスも含めて初期作品を完全に収めた CD「Dawn Of The Cycads」が出ているため、本作品の役割は終わっている。
ギターよりもピアノが主役を張ってパンキッシュ(というかストリート・トライブらしい肉体的な呪術性を打ち出した)な「春の祭典」を放ったり、パーカッションとキーボードを組み合わせたインダストリアルなサウンドをクラシカルなアンサンブルが貫くなど、斬新な音楽性が光る。
クレジットではパーカッションとひとくくりになっているが、実際にはコンクリートや銅板を引っ掻いたり、マウスピースのみで音を出したり、テープ操作などさまざまテクニックを使っているようだ。
また、管楽器やチェロなどの弦楽のサポートも得ている。
深刻さ一辺倒や逸脱調ではないクリアーでパーカッシヴな現代音楽ロックが新鮮だった。
(RYKODISC RCD 20073)
Steve Adams | tenor & alto sax, synth, bass clarinet, percussion, drum machine |
Martin Swope | guitar, samples |
Rick Scott | synth, percussion, piano |
Ken Field | alto & soprano sax, percussion |
Erik Lindgren | piano, samples, trumpet, drum machine |
guest: | |
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Willie Loco Alexander | percussion on 9,10 |
89 年発表のアルバム「Faultline」。
グループの中核であったロジャー・ミラー脱退後、初のオリジナル作品。
内容は、サックス、エレキギター、ピアノを中心とした、パワフルなパンク、ニューウェーブ調チェンバー・ロック。
性急に音をぶつけてくるパーカッションによるビートと、ミニマルなピアノがキンキンと刺さってくる、刺激の強い音である。
これら、硬質で粒だった音に、サックスがメロディアスな音でふくらみをつける。
とぐろを巻くようなプレイや感極まった絶叫などはフリー・ジャズのものだろう。
そして、ギターは強くディストーションを効かせたシリアス・タイプ。
ロングトーンには管楽器並みのしなやかさがあり、ノイズ的なかき鳴らしは管楽器やピアノを包み込んで、演奏の力強い推進力となっている。
全体として、フレージングやビートは明快で、リズム主体の演奏に一体感がある。
現代音楽を硬派でシンプルなロックっぽさでまとめた傑作といえるだろう。
キツメのアンサンブルが多いだけに、メロディアスな場面がきわめて印象的である。
本作の時点では、いわゆるレコメン系というよりは、80 年代らしいキッチュでインダストリアルなイメージが強い。
本作以前のアルバム三作品は現在入手が難しい。RYKODISC の編集盤「Sonic Geology」にて一部を聴くことができる。
プロデュースは、ボブ・ウィンサーとグループ。
「The True Wheelbase」(2:59)
「They Walk Among Us」(3:35)
「Coco Boudakian」(5:47)
「I Don't Need No Crystal Ball」(3:20)
「Chariots Of Fire」(2:46) クラシカルなプログレ風の小品。
「Magic Fingers(25¢)」(6:08) ニューエイジ調の名作。前曲に続きエレクトリック・キーボードが使われている。
「Faultline」(4:41) KING CRIMSON の奏でるフォークダンスのようなカッコいいナンバー。
「On The Street Where You Live」(4:05)
「Maybe I Will」(6:08)
「There Is No One」(3:44)
「Slo-Boy」(4:26)
「Pteropold」(4:30)
「Just Say Yes」(5:13)
(CUNEIFORM RUNE 19)
Ken Field | alto & soprano sax, synthesizer, percussion |
Erik Lindgren | piano, samples, drum machine, percussion |
Rick Scott | synthesizer, percussion |
Martin Swope | guitar, percussion |
guest: | |
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Willie Alexander | percussion on 4,7 |
Ken Winokur | percussion on 4,6 |
92 年発表のアルバム「Pyroclastics」。
内容は、ピアノを含む打楽器による直線的で強烈なビートの奔流にギターとサックスが強引なまでにうねりをもたらすエネルギッシュなチェンバー・ロック。
クラシックやジャズのアカデミックな理論の適用とロックの攻撃性を組み合わせた音楽に見え隠れするは、パンクなマインドであり、スカやラテンなど「街場の音」志向である。
横揺れしない、ストレートでジャストのビート感とミニマルな展開は現代音楽的だが、チープなドラム・マシン風の音がその音楽を象牙の塔から汗と埃にけぶるストリートへと引き戻している。
ただし、フルドラム・キットではなくベースもいないため、ロック的なエレクトリック・サウンドのヘヴィネスやダイナミズムはさほどでない。
へヴィさは主としてピアノが演出しており、必然的に、クラシカルで厳かな重厚さが生まれている。
(パーカッションによる打撃技はビートではなく衝撃の演出のように感じる)
そして、硬派を気取るだけではなく、チンドン屋とまではいわないが、泥臭いペーソスもごく自然に打ち出してくる。
その気風のよさが、やはりストリート・ノリを感じさせる。
これはいわば、デジタル・チェンバー・パンクといった趣の音なのだ。
怪奇、シリアス、アヴァンギャルドといったタームととともに語られることの多いチェンバー・ロックであり、ここにも恐怖感や緊張感をじわじわとかきたててゆくような表現はある。
しかし、それよりも、室内楽とロックがシンプルかつ鋭利なビート感で結び付けられた独特の「潔さ」と「凛々しさ」と「逞しさ」がより効果的に演出されている。
決然とした姿勢には学窓だろうが街場だろうが違いはない。
そして、厳格で緊迫した中から立ち上る清潔感のある開放的な美しさも魅力だ。
最終曲は、THE BEACH BOYS の賛美歌「Our Prayer」の美しいカヴァー。
プロデュースはボブ・ウィンサーとグループ。
タイトルは「火砕物」。恐竜を滅亡させた火山活動も翼竜は滅ぼせなかった、というような含意か?
「Shortwave Longride 」(2:59)
「Pleasure Island」(6:06)
「I'm A Pterodactyl」(2:58)「Pterodactyl」というのはほとんど使徒な原始翼竜だそうです。
「Why Not Circulate」(3:55)「エキゾチカ」風のペーソスあふれるラテン・ジャズ小品。
「Sled」(4:50)
「The Simpsons」(1:57)元 OINGO BOINGO のダニー・エルフマンのアニメ用作品のカヴァー。
「Tyronglaea II」(5:20)
「Papercutstone」(4:52)SOFT MACHINE 的なジャズロック。打楽器をフィーチュア。
「Sombre Reptiles」(3:59)ブライアン・イーノによるメロディアスでエキゾティックな名品のカヴァー。
「Nothing But Trouble」(1:59)
「Tomorrow Never Came」(4:04)角ばったアレンジながらキャッチーなテーマが印象的な作品。
ジョン・レノンの「Tomorrow Never Knows」は若干あるような。
「Our Prayer」(2:34)ブライアン・ウィルソン作。
(CUNEIFORM RUNE 35)
Michael Bierylo | guitar, MIDI programming, percussion |
Ken Field | alto & soprano saxes, flutes, percussion, synthesizer, slide sax |
Erik Lindgren | piano, synthesizer, Farfisa chord organ, samples, drums programming, percussion |
Rick Scott | synthesizers, electric and acoustic percussion, abbreviated clarinet |
95 年発表のアルバム「Dancing On A'A
」。
内容は、パーカッシヴなピアノ、ヘヴィでノイジーなギター、管楽器らによるアグレッシヴなオルタナティヴ・チェンバー・ロック。
レギュラーメンバーにドラムスは不在だが、ピアノ、パーカッション、プログラミングを含め、打撃音主導の演奏を得意とする。
前作よりも力強さが前面に出、メリハリがきつくなったと思う。
変拍子やミニマリズムを多用しつつも、鋭くストレートなビートや凶悪な表情も旺盛な、いわばハードロック・マインドのある演奏である。
「チェンバー」という言葉のイメージほどには、表現は屈折していない。
渦を巻くような変拍子オスティナートで重量感をアピールするアコースティック・ピアノが常にいい位置にいるのも特徴だ。
あえてパートにばらけると、管楽器はフリー・ジャズ風の突発的かつ強圧的なラインを取り、ピアノ、フルートは格調ある現代音楽調であり、ギターは狂暴なロック、パーカッションは民族音楽である。
フルートとピアノのデュオなど、リズムを強調しないときの演奏では、完全に現代音楽になる。
また、シンセサイザーによるシンフォニックな描写が現れて視界を一気に広げる場面もある。
ハードで厳めしい音世界だけにその効果は絶大だ。
ストラヴィンスキーを連想して正しいと思う。
エキゾティックなメロディや和声を混ぜ込むのも巧みである。
攻撃的で厳格、しかし抜群の運動神経で真っ直ぐに突っ走り時に鋭角に屈折する、スピード感のある個性的なチェンバー・ロックである。
抽象的で厳しい演奏から控えめに立ち昇る硬質なロマンチシズムに触れられれば、もう一歩このグループの世界に近づくことができると思う。
間違いなく現代のプログレの一つの形態であり、ハードロックとプログレの間にさほど区別のなかった時代の EL&P や GENTLE GIANT のファンが聴いても、全然かまわないと思う。(オマケのような「Peter Gun」も収録されているし)
プロデュースはビル・カーマンとグループ。
「A Band Of Deborahs (Not Debbies)」(4:24)へヴィな変拍子パターンでドライヴするアヴァン・ジャズ。強烈でスタイリッシュなのにどこかコミカル。
「Dancing On A' A」(4:48)狂乱型変拍子チェンバー・ジャズ。名曲。
「Ptinct」(4:20)
「Readymen」(6:14)
「Birdgam」(4:17)
「Electric Altamira」(4:47)
「Swamp」(7:09)
「Peter Gunn」(1:53)
「Ray」(4:34)
「Sirius The Scorching」(5:28)
「The Pearly Eyed March」(4:02)ミステリアスな表情が魅力の異色作。
(CUNEIFORM RUNE 69)
Michael Bierylo | guitar, programming, sound design |
Ken Field | alto & soprano sax, flutes, percussion |
Erik Lindgren | acoustic grand piano |
Rick Scott | synthesizer, sound design, piano on 5 |
2000 年発表のアルバム「Petrophonics」。
内容は、アコースティック・ピアノ、サックス、パワフルなリズム・セクションらがリードするシャープな変拍子ロック。
現代音楽調のシリアスなピアノ、モダン・ジャズの逞しさをもつメロディアスなサックスを軸としたアンサンブルに、シンセサイザーやギターが幅と色を与え、パーカッションが力強いビートで駆り立てる。
クラシック、ジャズ、ロックの境界をあっさり越えて、独自のリリシズムとポジティヴな躍動感を希求した堂々たるフリー・ミュージックである。
1 曲目から 7 曲目は、アコースティック・ピアノの刻む変拍子パターンと朗々と歌うサックスがコントラストする、シリアスながらも明快なチェンバー・ジャズロック。強靭なリズムがカッコいい。
ビート感あふれるロック・チューンを中心としているが、ピアノとフルートによるクラシカルなアンサンブルによる叙情的な作品や、ノイズを駆使した即興作品もある。スピード感とメロディアスな叙情性が手を組んだ 6 曲目「Birdhead」(別のグループの作品の翻案らしい)がたまらなくカッコいい。
8 曲目以降 4 曲は、一貫したテーマをもつようであり、フルートやアコースティック・ギターもフィーチュアされ、きわめて攻撃的で現代音楽色も強まる。アコースティックな音が主であり、UNIVERS ZERO をややジャジーにしたような調子といえるかもしれない。
最も顕著な特徴は、突進するようにアグレッシヴな演奏のなかに、アンビエントな美感や親しみやすいハーモニー、溌剌とした躍動感があり、狷介さがないこと。
プログレ王道的なアプローチながらも、暗さはなく、アコースティックな音にクリアーな明るさがある。
そこがユニークだ。
一部ゲスト・ミュージシャンも参加している。
アヴァンギャルドなロックへの入門にはうってつけ。
同様な編成の MIRIODOR との違いは、チンドンっぽさが皆無であること、ビートが強く、ユーモアよりもストレートでヘヴィな、いかにもロックらしいカッコよさが感じられることなど。
(CUNEIFORM RUNE 137)
Erik Lindgren | acoustic grand piano, washboard, acetone organ |
Ken Field | sax, flutes, percussion |
Rick Scott | synthesizer, piano, percussion |
Michael Bierylo | guitar, programming, sound design, floor tom |
guest: | |
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Larry Dersch | percussion, drums on 2,3,5,8,12 |
Terry Donahue | percussion, djembe on 2,3,5,8,12 |
Roger Miller | piano on 6,12 |
Eric Paull | drums on 1,11 |
Ken Winokur | percussion on 5 |
2003 年発表のアルバム「The Iridium Controversy」。
作風は大きくは変わらず、ピアノ、サックス、ギターらの明快なアンサンブルによる現代室内楽ロック。
モダン・クラシック的な変拍子、鋭角的なリズムにドライヴされる、非常にかっちりとした演奏である。
したがって、管楽器が中心的な存在の一つであるにも関わらず、フリー・ジャズ系の力任せの素っ頓狂さはない。
どちらかといえば室内楽であり、いわゆるアヴァンギャルドの凶暴さや無秩序、逸脱感もなく、抽象的、幾何学的なパターンを、時おり強圧的な音も使って、丹念に描いてゆくようなイメージである。
そして、真っ直ぐ勝負の峻厳な演奏でありながら、叙情的な演出も非常にうまい。
ピアノ、パーカッションによる角張った小刻みなビートの上で、サックス、フルートやギターが、辛口ながらも明解なフレーズを示してゆく。
特徴的なのは、すべての楽器の打楽器としての特性をうまく生かしているところ。
ピアノにしても、ギターにしても、シングル・ノートやトライアドの連打が頻繁に現れる。
それらがパーカッションとあいまって、波打つようなビート感が生まれている。
それでも、キツキツになり過ぎないのは、フルートやハーモニウムのような、どちらかといえば愛らしい楽器の音をうまく交えたり、サックスやギターによるメロディアスなプレイがアクセントするからだろう。
音の感じは、カナダの MANEIGE や アメリカの A TRIGGERING MYTH 辺りにも共通するところがあると思う。
強固なテーマと不機嫌そうなソロによるインパクトが鮮烈な 1 曲目「Primordial Sludge」(カンタベリー風といっていい)もカッコいいが、4 曲目「Make The Camera Dance」のパワフルにして技巧的な、「ひねくれ」アンサンブルもみごとである。個人的にはこの 4 曲目がベスト。2、3 曲目「Two Iridium Controversy: Before/After」組曲は、フルートを使いやや表情を和らげた作品であり、この手の音楽が苦手の方にお薦め。リズムの変化は目まぐるしいが、各パートが美しく歌い華やかなアンサンブルになっている。5 曲目「This Way Out」は管楽器、オルガンらによるメランコリックで美しい佳品。
6 曲目「Lost In The B-Zone」は再びピアノのビートに支えられた挑戦的な作品。サックスとギターがカッコいい。
7 曲目「Tectonic Melange」は即興風の幻想的な序章から、インダストリアルな音響のアンサンブルへと進化。CRIMSON ばりのテンション。
(CUNEIFORM RUNE 179)
Rick Scott | synthesizer, percussion |
Erik Lindgren | piano, percussion |
Ken Field | sax, flutes, synthesizer, percussion |
Michael Bierylo | guitar, laptop, percussion |
2004 年発表のアルバム「2001 Live Birds」。
2001 年 NEARFEST でのライヴを収録した作品。クリアーな音像、パーカッシヴで明快なアーティキュレーション、アゴーギク < ディナミクなアンサンブルなど、「デジタル・クラシック」なタッチが冴え渡る名演である。
(NFR0005)