ケベックのプログレッシヴ・ロック・グループ「MIRIODOR」。 80 年結成。 2023 年現在作品は十枚。 初期の管楽器、キーボードをフィーチュアしたユニークなジャズロックから次第に RIO 色を強める。 メンバーの一部は CONVENTUM にも関連があるらしい。 2022 年新作「Elements」発表。
Bernard Falaise | guitars, keyboards, turntable |
Pascal Globensky | keyboards, synthesizer, piano |
Remi Leclere | drums, percussion, electronics |
Nicolas Lessard | bass, contrabass, keyboards |
2017 年発表の第九作「Signal 9」。
再びフォーピース編成へ。
ベーシストを迎えて、ヘヴィなロックをプレイにするのに不足はない。
内容は、現代的な感傷を抱えつつもそれを振り切るような刺々しい轟音を放ち、時にシニカルに時にリリカルに迫るチェンバー・ロック。
前作を超えてハードでアグレッシヴな音が多いところが個人的にはとてもうれしい。
グネグネとのたくるようなパッセージが織りなすアンサンブルには、ミニマリズムやカコフォニー、変拍子といった現代音楽の要素も露わだが、いわゆる RIO よりも往年のカンタベリー・ジャズロック直系のロマンチシズムや諧謔味あふれる奇天烈さが感じられる。
センスが若いというべきか。
70 年代の英国ロックに通じる尖った個性の放つ芳香がある。
凶暴な音が渦巻く展開にミュージック・ホール風のペーソスあるアンサンブルを適宜交えるのも巧みだ。
カシオトーンのような宅録風キーボード・サウンドはあたかも重く深刻な展開を茶化しているかのよう。
軽めで小気味のいいリズム・セクションもストリート系というかガレージ・ジャズというか、何にせよこの音には欠かせない。
そして、ヘヴィな展開でもどこか逸脱調というか真っ直ぐには音が飛んでこない感じがある。
脱力するような頓狂な展開はもちろん、攻撃的で重いリフにすら薄笑いのような怪しさがあるところはフランク・ザッパの作風にも共通する。
プロデュースはベルナルド・ファレーズ。
全編インストゥルメンタル。
本アルバムは初期メンバーであるフランソワ・エモンドに捧げられている。
「Venin」(4:32)
「Peinturé Dans Le Coin」(4:32)
「Transit De Nuit À Jakarta」(1:58)
「Portrait-Robot」(8:47)序盤の終わりでメロトロン・ストリングスがうなりを上げて一気に KING CRIMSON と化す。もちろんすぐに躱されますが。
「Déboires À Munich」(1:18)
「Chapelle Lunaire」(6:49)
「Cryogénie」(1:35)
「Passage Secret」(9:56)
「Gallinute D'Amérique」(1:38)
「Douze Petites Asperges」(2:37)
「Le Ventriloque Et Le Perroquet」(8:13)
(RUNE 438)
Francois Emond | flute, violin, synthesizer, electric piano, clarinet, voice |
Pascal Globensky | electric piano, 12 string guitar, bass |
Sabin Hudon | soprano & alto & tenor sax |
Remi Leclere | drums, percussion |
Marc Petitelere | synthesizer, organ, bass, electric piano |
Denis Robitaille | bass, electric guitar, stick, voice |
86 年発表の第一作「Rencontres」。
CD 化は 98 年 CUNEIFORM によって行われた。
86 年発表の第一作 LP(1 曲目から 6 曲目)に 第二作カセットからの作品が追加された内容である。
また、追加曲は 96 年にリミックスされている。
最初期の六人編成によるサウンドは、管楽器とキーボードのアンサンブルによるアコースティックとエレクトリックのバランスのよいジャジーなインストゥルメンタル。
カンタベリーと KING CRIMSON のブレンドの如き独特のメロディアスなジャズロックと、RIO 調のチャレンジングな音楽性を兼ね備えるところがユニークである。
曲によっては、かなりクラシカル、シンフォニックな面もあり、特に目立つのは、サックスのリードによるメロディアスかつ緻密なアンサンブル。
リード楽器は明快なテーマによるメロディアスなプレイを見せるが、激しくもつれる演奏やクラシカルなのに不協和音の反復が現れるなど、アヴァンギャルドの血は隠せない。
ときおり見せる複合拍子や強迫的な演奏スタイルは、フリー・ジャズまたは現代音楽的なニュアンスをもつ。
それでも、硬派に徹底するだけでなくリラックスしたユーモラスな面もしっかりと見せる。
かなり聴きやすい音ではないだろうか。
音の質感は、キーボードとサックスらによるデリケートで知的なアンサンブルのイメージから考えて、HAPPY THE MAN が深刻になった感じといえば近いだろう。
歌のほとんどない VAN DER GRAAF GENERATOR という意見もあるが、アヴァンギャルドな面の類似はあるものの、やや音が軽く内省的な感じはない。
個人的には、純シンフォニック系のグループでは決して聴かれない冷ややかなシンセサイザーと、多彩なアコースティック楽器のアンサンブルが好みである。
7 曲目以降はやや趣向を変え、70 年代プログレの影響色濃い叙情的な作風が現れている。
こちらはまさに、VAN DER GRAAF GENERATOR や初期の KING CRIMSON を思わせる内容だ。
「Echec Et Mat(Checkmate)」(4:49)
「Les Passants(The Stowaway)」(5:40)
「L'Allee Des Martyrs(Road To Martyrdom)」(10:12)
「Brouillard(Fog)」(9:02)
「Rencontres(Encounters)」(7:44)
「La Maison-Dieu(A Tower Struck Down)」(8:43)英語のヴォーカル入りのシンフォニックな作品。
フルートやヴァイオリンがロマンティックな美しさをたたえる。
「Lac D'Orgueil(Lake Of Vanity)」(4:37)
「L'Expatrie(The Expatriate)」(7:05)
「L'Homme Fangeux(The Miry Man)」(5:22)
「Egregore(Assembly Of Spirits)」(7:30)
(RUNE 108)
Pascal Globensky | piano, synthesizer |
Francois Emond | violin, synthesizer |
Sabin Hudon | sax, synthesizer, percussion |
Remi Leclerc | percussions, synthesizer, sequence |
88 年発表の第二作「Miriodor」。
内容は、第二作 LP から全曲と 86 年のカセットからの作品が 5 曲。
四人編成へと移行し、サウンドはサックス、キーボードを軸にロマンティックなリード・プレイと精密なアンサンブルを組み合わせたチェンバー・ジャズロック。
ややフリー・アヴァンギャルド色が強まり、めまぐるしい演奏が増えている。
それでも、いわゆる RIO ほど度外れたところはなく、夢想的な空気を大事にしたまとまりある演奏である。
ユーモアとペーソスが一体となった音楽は、いわば「サーカス」のイメージだ。
暗く落ちつきのあるプレイにはクラシック的なものも感じる。
瞬発力、破壊力、奔放さではなく、丹念なメロディ・和声の計画と工夫を活かすタイプの知的な作家なのでしょう。
ラウンジ、イージー・フュージョン調のサックスがごく自然に聴こえていい感じだ。
後半 86 年のカセットからの作品は、ジャズ・フュージョン色もあり親しみやすいメロディ・ラインが活かされている。
こんなにプログレ/ジャズロック・ファン向きなのに RIO、チェンバーというレッテルがオーディエンスを狭めているようでもったいないです。
(RUNE 14)
Pascal Globensky | piano, synthesizer |
Sabin Hudon | sax, synthesizer |
Remi Leclerc | percussions, synthesizer |
91 年発表の第三作「Miriodor」。
内容はサックス、ピアノ、ドラムスのトリオにシンセサイザーで枝葉と奥行きをつけた室内楽調ロック。
前作の弦楽奏者が参加していないトリオ編成による作品である。
クラシカルで饒舌なサックスをフロントに、ビート感あるピアノと控えめながらも安定した打楽器のリズム・セクションが大胆な変拍子でドライヴする、クリアでメリハリのある演奏である。
ジャズ的なニュアンスはこの手の編成にしてはあまり感じられず、勇壮、悲壮、メランコリックなテーマをロック的なビートともに室内楽的なアンサンブルで綴り、時にリリカルに、時に強圧的に、まれに頓狂に起伏をつけてゆくので、クラシカルなロックというイメージがある。
現代音楽調のアブストラクトでシリアスな展開や暗めの表情ももちろんあるが、サックスのプレイがメロディアスであることやポリフォニーが明快なことなどから、比較的陽性の印象がある。
サックスは、能天気にメロディアスなわけではなく、クラシカルな端正さからほのかにエキゾチックな響き、果てはチンドン屋風のペーソスもあり、多才である。
(チンドン系のみが突出するグループは多いが、このサキソフォニストはクラシカルに歌うのがうまいので、より一層チンドンの黄昏た哀愁が映える)
全体に、よくあるフリー系のジャズロックやチェンバー・ロックと比べると、目の醒めるようなインパクト、強烈さよりも、自然なアクセスしやすさが特長だろう。
ロック・ファン、プログレ・ファンに安心して薦めたい。
「Transsibérien = Trans-Siberian」(5:00)
「Langage De Lézard = Lizard's Language」(2:00)
「Garde À Vous! = Attention!」(1:44)
「Jérusalem = Jerusalem」(4:18)
「Cortège = Procession」(3:45)重量感、疾走感ある佳曲。UNIVERS ZERO 的な面も。
「Vision」(3:48)
「Entraperçu = Glimpse」(3:08)
「Rèconfort Métaphysique = Solace」(2:34)
「3è Avertissement = 3rd Warning」(4:58)
「Debout = Standing」(4:08)
「Viking」(4:27)
「Chute Libre = Free Fall」(3:18)
(RUNE 32)
Pascal Globensky | piano, synthesizer |
Remi Leclere | drums, percussion, octapad, synthesizer |
Bernard Falaise | guitars, bass, mandolin, synthesizer, percussion |
guest: | |
---|---|
Sabin Hudon | sax, accordion |
acoustic ensemble | trombone, violin, cello, flute, trumpet, voice |
95 年発表の第四作「Jongleries Elastiques」。
ギタリストの加入とともに管楽器奏者はサブ・メンバー化したらしい。
内容は、ギター、管楽器とシンセサイザーによるぐにょぐにょしたリフとともに間断なくリズムが変化するアヴァンギャルドなものである。
ギターやキーボードはあるが、サウンドはアコースティックである。
そして、演奏は、即興ではなくきちんと決められたアンサンブルが主。
ソロのアドリヴももちろんあるが、基本的には、変拍子を多用するも全体演奏の駆動力=ロックなドライヴ感で耳を惹きつけるタイプである。
無調のフレーズ、ユニゾンによる圧迫感、ポリリズミックなアンサンブル、はたまたナンセンスな脱力感など、ギターを主に見れば朗らかな KING CRIMSON であり、管楽器やピアノを主に見れば、やはり機嫌のいい UNIVERS ZERO である。
そして、折り重なる奇妙なパターンの狭間からセンチメンタリズムのようなものも漂ってくる。
アヴァンギャルドではあるが、HENRY COW のような厳(いかめ)しさ、険しさ、攻撃性はなく、どちらかといえば SAMLA のようにペーソスとノスタルジックな詩情が勝っている。
また、MANEIGE と同様に、ストレートなジャズ感覚やクラシックのセンスが顔をのぞかせるところもある。
弦楽器やピアノらアコースティック・アンサンブルの高踏でシリアスな響きを、独特のおフザケ(ヴォードヴィル調というか、SAMLA 調というか)の中へ解き放って生み出した新しい音楽である。
サウンド面でびっくりするようなところがない(各楽器のナチュラルな音が使われているし、大幅な加工もない)ため、印象が地味かもしれないが、クラシックやジャズと同じくアコースティックでライヴな演奏と考えれば別にこれでいいわけだし、この録音がほぼスタジオ・ライヴの一発録りだとしても何ら不思議はない。
疾走感あふれる 10 曲目「Igor, L'ous A Moto」がお薦め。
ギタリスト、ベルナール・ファレーゼは、Ambiances Magnetiques レーベル系でも活躍する気鋭の存在。
(RUNE 78)
Pascal Globensky | piano, synthesizer |
Remi Leclere | drums, percussion |
Bernard Falaise | guitars, fretless bass, turn table |
Nicolas Masino | bass, piano, keyboards |
guest: | |
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Marie-Chantal Leclair | sax |
Marie-Soleil Belanger | violin |
Nemo Venba | trumpet |
2001 年発表の第五作「Mekano」。
ベーシスト/ピアニストが加入、再びカルテットへ。
内容は、正統チンドン屋風から SAMLA 風のパワフルにして脱力なアンサンブル(明らかに「The Fate」の影響大)、後期 UNIVERS ZERO 直系のヘヴィ・チューンまで、きわめて多彩なアヴァンギャルド変拍子ロック。
いわゆるレコメンと一線引くのは、こんがらがったアンサンブルを貫くきわめて明快な主題と、緩急やピアノ/フォルテによる正統的な係り結び表現の巧みさ、さらには、幻想的なアクセントがあるところだろう。
アヴァンギャルドといったときの過剰な運動性や脱構築性を、素朴なユーモアで包んでブレイクスルーしたグループは多いが、このグループのように、クラシカルな色彩感、美感と共存させたパターンはあまりなかったと思う。
ヴァイオリンの寄与は大きいといえるだろう。
(THINKING PLAGUE のようなレコメンにしてシンフォニックという、特異性は通じながらもやや異なるベクトルをもつ稀有な存在はある)
そういった意味でも「ユーモラスで機嫌のいい UNIVERS ZERO」という表現はなかなか的を射ていると思う。
ジャジーでワイルドな表現が KING CRIMSON を思わせる場面もあり、初期の英国ロックの影響は大きいのではないだろうか。
13 曲目「Avatar」はジャジーなエレクトリック・ピアノによるクロスオーヴァー風の演奏がいつしか凶暴なレコメン調へと変貌する衝撃作。
14 曲目「La Fantome de M.C.Escher」はメロトロン・ストリングスが唸りを上げる「Uzed」期 UNIVERS ZERO 直系の重厚な作品。
(RUNE 148)
Bernard Falaise | guitars, fretless bass, turn table |
Pascal Globensky | keyboards, synthesizer, piano |
Remi Leclere | drums, percussion, electronics |
Nicolas Masino | bass, keyboards, piano |
guest: | |
---|---|
Marie-Soleil Belanger | violin |
Marie-Chantal Leclair | sax |
Lars Hollmer | accordion, melodica, keyboards, voice on 10,13,16 |
Lisa Miller | bassoon on 4,6,10,12,16 |
2005 年発表の第六作「Parade」。
CD 二枚組で、一枚目は新作スタジオ録音、二枚目は NEARFEST でのライヴ録音。
スタジオ盤は、管楽器、ヴァイオリン、ギター、キーボードらによるポリフォニックな変拍子チェンバー・ロック。
勢い任せだったり、一つの雰囲気に寄りかかりっぱなしでは決してない、機知あふれる変化に富んだ演奏である。
複雑なリズムを使った、音の込み入ったアンサンブルだが、いわゆるチェンバー・ロックの強面ばかりでは迫らず、テーマとなる旋律や音色によって玩具の楽団のような愛らしい表情が見えることが多い。
自宅録音(まあ今や作業の大半は自宅なんだろうが)風のプロダクションによるのか、チープシックというかどこかもの悲しい雰囲気もある。(製作については、ホルメル氏担当の作品の方が音がいい気がします)
もっとも、その雰囲気はチンドンの汗臭いペーソスではなく、生まれたときからインターネットと繋がってます的なプラスティックな感触の哀愁である。
この奇妙な叙情性が今回の特徴だろう。
そして、その叙情性の原点には、英国プログレの感性があると思う。
ゲストは、なんとラーシュ・ホルメル。今回の作風にはハマリ過ぎの人選です。
ライヴ盤は、透明感あるサウンドと正統派の演奏力に感動。こんがらがったアンサンブルが不思議と耳に馴染みやすいのは、クリアーなサウンドのおかげだろう。(エンジニアは名人ボブ・ドレーク)
管楽器奏者の卓越した技量にも注目。
レコメン系苦手の方にもお薦めしたい。
個人的には、一部の曲についてどうしても初期 KING CRIMSON にジェイミー・ミューアが入ったようなイメージが捨てられません。
6 曲目「Contrees Liquides」は、力強い集中力も見せる佳作、8 曲目「Boite A Surprises」は、ヴァイブ、ソプラノ・サックス、ヴァイオリン、オルガンらによる長調 UNIVERS ZERO な "正統" チェンバー・ロック。
10 曲目「Talrika」は、疾走するシンフォニックなジャズロック。というか魔女と踊る快速フォークダンス。文句なしにカッコいいです。13 曲目「Bonsai Givre」(盆栽?)もフレッド・フリスばりのギターやリンゼイ・クーパーのような管楽器にホルメルさんのアコーディオンが加わって、レコメンながらも和みテイストある佳曲。
16 曲目「Foret Dense」も哀愁と深刻さ、ヘヴィネスが合体したレコメン系の傑作。
結局、最も耳を惹くのはホルメル氏の参加した作品のようだ。
(RUNE 208/209)
Bernard Falaise | guitars, fretless bass, mandolin, banjo, keyboards, turn table |
Pascal Globensky | keyboards, synthesizer, piano |
Remi Leclere | drums, percussion, electronics |
Nicolas Masino | bass, keyboards, piano |
guest: | |
---|---|
Pierre Labbe | tenor sax, baritone sax |
Marie-Chantal Leclair | soprano sax |
Maxime St-Pierre | trumpet |
2009 年発表の第七作「Avanti!」。
チンドン調は若干抑えて、80 年代 KING CRIMSON にも一脈通じるヘヴィでドライヴ感ある変拍子ミニマル・プログレとなる。
ギターやオルガンが、やや気難しげながらもダイナミックなプレイで迫り、時にパロディ風のユーモラスな流れも取り込みながら、しなやかに進んでゆく。
即興はほとんどなく、各楽器のフレーズを重ねたり、ずらしたり、対比させたり、異なるリズムを重ねたりといったシナリオを練り上げた感じの演奏である。
管楽器もジャズ的なアドリヴはせず(効果音的なプレイはある)、アンサンブルの一ラインに徹している。
また、音響効果はあまり取り入れられておらず、そのままライヴで再現できそうな内容だ。(もちろんこの譜面を覚えて再現するのは相当たいへんだろう)
執拗に奇妙な幾何学文様を描き続けるアンサンブルであり、そのしつこさ、反復とともに強まる息苦しさは、ユーモアとうっすらとしたペーソスで巧みに和らげられている。
そして、タイミングよく、印象的なテーマや音が浮かび上がるように仕掛けられている。
KING CRIMSON があれば、脱力系のユーモアもあり、アーバンな先鋭ジャズ、N.Y.C タッチもあるという、多様な音楽スタイルの断片を繋ぎ合わせた目まぐるしい変化の相が音楽の今をよく映していると思う。
フリージャズではなく、あくまでロックにモダン・ジャズと現代音楽をかけ合わせた音楽であり、北米レコメン勢(偶然か必然か、復活 MUFFINS は同じような方角を向いている)の強度にしんどくなったらこれくらいで耳を休めるのも一つの方法である。
10 分近くの大作が多いが、音楽的な展開が明快なので飽かず追いかけられる。
いわゆるシンフォニックなプログレ・ファンには見向きもされない作品だと思うが、オールド・ファンはぜひ試していただいて、VdGG や GENTLE GIANT、KING CRIMSON のリリシズムが出発点にあることを確認してもらいたい。
全編インストゥルメンタル。
「Envoutement(Bewitchment)」(9:13)荒々しくヘヴィなサウンドと軽妙な変拍子アンサンブルが 80 年代 CRIMSON に通じる佳作。
「Bolide Debile(Dare Devil)」(8:40)1 曲目のサウンドのまま、ニューオリンズ・ジャズ(あるいはチンドン屋または阿波踊り)となるも、アグレッシヴなレコメン調も交差し、強面の親父ギャグのような、なんともいい難い雰囲気になる。ギターはロバート・フリップ風なのに、曲は妙にダンサブル。
「La Roche(Meeting Point)」(9:12)SAMLA のような北欧ものに通じるペーソスあるテーマが魅力。後半で荒々しく強圧的になるも、終盤に向けて変拍子ミニマリズムでクールダウンしてゆく。カッコいいです。
「Ecart-Type(Standard Deviation)」(6:35)これまでの芸風に並ぶコミカルかつ凶暴な作品。パーカッションが効いている。
「A Determiner(To Be Determined)」(10:24)精緻にしてリリカルな佳品。重量感あるピアノ、マリンバ風のキーボードがいい。やや猫かぶり。だがしっかりレコメン。バリトン・サックスもいい仕事をしている。南米のグループにありそうな音。
「Avanti!(Avanti!)」(8:13)オルガンの描く紋様を歪んだギターが貫いてゆくヘヴィ・チューン。ベースの存在感強し。
「Reveille-Matin(Shadow Of The Alarm Clock)」(7:54)
(RUNE 288)
Tommy Babin | contrabass |
Bernard Falaise | guitars |
Pierre Labbé | tenor sax, flute |
Rémi Leclere | drums, percussion |
Claude St-Jean | trombone, percussion, rhodes |
99 年発表のアルバム「Copie Zéro」。
「Jongleries Elastiques」に参加したトロンボーン奏者のクロード・セントジャンがリーダーを務める楽団「LES PROJECTIONNISTES」の第一作である。(セントジャンは大道芸ビッグバンド L'ORKESTRE DES PAS PERDUS のリーダーでもある)
内容は、パワフルな管楽器ユニゾンとギターが火花を散らす、即興も交えたジャズロック。
フィルム・ノワール調のサスペンスフルなタッチとストリートっぽいサイケデリックな音響(ダイナミックなチンドン屋といえなくもない)が冴える掘り出し物である。
こういう挑戦的なアンサンブルなのにベースがアコースティックなところも個性的だ。
MIRIODOR からはベルナール・ファレーズ、レミ・ルクレールがメンバーとして参加している。
ファレーズのへヴィなギターは音楽的な主役の一人だし、ルクレールは 4 ビートとハードロックをジョン・マーシャルばりの鮮やかさで切りかえる。
意気のよさと過激さが 90 年代初頭のニッティング・ファクトリー勢を思わせる。
最終曲のみ、ライヴ録音によるメチャメチャな即興大作。
管楽器の暴れ方が象徴するように、ナンセンスでバカっぽくそして場末のキャバレエ風の下品さとエネルギーで迫る。
そして、その迫り方に異常なばかりのキレがあるから惹きつけられる。
とにかくカッコいいよん。
「Hiboux」(5:10)
「Laïc Laiton」(5:49)
「Jeu De Bloc」(6:48)
「Circulez!」(4:06)
「Pour Toi Ma Chérie...」(4:55)
「Cacao Chaos」(5:15)
「7e Balcon」(4:24)
「Vacances」(6:16)
「Petits Matins」(5:57)
「Nuit Blanche」(5:30)
「Ballet Mécanique」(11:31)
(AM 071 CD)
Pierre Labbé | tenor sax |
Roberto Murray | alto sax |
Claude St-Jean | trombone |
Rémi Leclere | drums, percussion |
Bernard Falaise | guitars |
Tommy Babin | contrabass, bass |
guest: | |
---|---|
Francois Lafontaine | Hammond B3 |
Eric Breton | percussion |
2005 年発表のアルバム「Vue」。
「LES PROJECTIONNISTES」の第二作。
内容は、奇怪にねじれながらもキャッチーでホットなジャズロック。
スリリングなテーマがドライヴする一体感あふれるアンサンブル(変拍子も多い)に管楽器らによるアヴァンギャルドなアドリヴをフィーチュアしつつも、どこまでもグルーヴィである。
ハモンド・オルガンのワイルドなバッキングが非常にカッコいい。
卓越したエレクトリック・ギターの存在によるのだろうが、スペイシーでサイケデリックな感覚のみならず、全体にハードロック的な「リフ」をうまく管楽器アンサンブルに取り入れている感じがする。
また、昔のサスペンス・ドラマのテーマのようにノスタルジックなモダン・ジャズ、ソウル・ジャズなどのセンスやラウンジ・ミュージック調、ほのかなペーソスもうまく入っている。
AM からのリリースでないのは、音楽的な先鋭性を問われたか。
しかし、リラックスした、ほんのりユーモラスなアヴァンギャルド・ミュージックも悪くないものである。
楽曲はコンパクトに締まり、音質もクリアーだ。
プログレ的には 9 曲目「Qui Est A L'appareil ?」の北欧ロック(SAMLA か?)調大爆発が大切。
個人的にはアルト・サキソフォニストの音が好み。
「Hors-d'oeuvre」(3:35)
「Péril En La Demeure」(3:28)
「Hebdromadaire」(4:15)
「Transport」(5:07)
「Promenade Solidaire」(4:15)
「Série B」(5:11)
「11h16」(6:44)
「Pile Ou Face」(3:33)
「Qui Est À L'appareil?」(4:30)
「Poursuite Impossible」(4:09)
「La Suite La Semaine Prochaine」(3:40)
「Digestif」(1:29)
(RIF 002)
Pierre Labbé | tenor sax, flute |
Nathalie Bonin | violin |
Julie Trudeau | cello |
Bernard Falaise | guitars |
Fredéric Alarie | bass |
Claude Lavergne | drums |
2003 年発表のアルバム「Risque Et Pendule」。
「Avanti!」に参加したサキソフォーン奏者ピエール・ラベのリーダー作。
内容は、弦楽器、エレクトリック・ギターをフィーチュアしたコンテンポラリーなフリージャズ。
ヴァイオリンやチェロによるフォーク風味が特徴である。
サックスとチェロやヴァイオリンとのデュオをきっかけにすると、室内楽風のクラシカルで厳格なタッチも生れてくる。
弦楽器の特徴を活かしたなだらかなトーンの動き(あえて「メロディ」とは呼びません)と呂律が回りすぎる早口サックスとの対比も面白い。
また、弦楽器の重音パッセージがアコーディオンのような響きに聴こえることも多い。
ベルナール・ファレーズが参加し、弦楽器やサックスと空気をよく読んだヴィヴィッドなやり取りを見せている。
ギターの金属的な音色と荒々しいプレイが室内楽アンサンブルへのいい刺激になっている。
複雑なコンポジションと即興を駆使したアヴァンギャルドな作風だが、薄い音でじっくり聴かせる雅楽のようなニュアンスもある。
「Outrages」(6:32)
「Combat De Coqs」(5:29)
「Le Blanc Des Yeux」(5:38)
「Bloops」(6:05)
「Contrepoint Du Vide」(5:34)
「Jouer Du Coude」(5:47)
「L'Empêcheur De Tourner En Rond」(5:12)
「Sur La Corde Raide」(5:25)
「Derrière Le Silence」(2:54)
(AM 117 CD)
Bernard Falaise | guitars, bass, keyboards, banjo, turntable |
Pascal Globensky | keyboards, synthesizer, piano |
Remi Leclere | drums, percussion, keyboards, turntable |
2013 年発表の第八作「Cobra Fakir」。
内容は、アヴァンギャルド・ロックを極める道のりで、往年のブリティッシュ・ロック、いや、より特定するならば、レコメン以前のカンタベリーへの回帰を強めたもの。
管楽器なしの最小編成に合った作品を、多彩な鍵盤楽器による、音響効果も重視したアンサンブルで実現している。
まろやかで愛らしいサウンドにもかかわらず、シリアスで重厚であり、音質以上の重みやクラシカルな堅固さを感じさせる曲調が中心である。
管楽器の不在を鍵盤系の音(独特のチープなサウンドがいい)でカバーしているために、ややジャズから離れてロック寄りになったイメージもある。
そして、脱力、逸脱系のひん曲がり変拍子アンサンブルであっても、ハモンド・オルガンやアコースティック・ギターを交えると、現代音楽やフリージャズ特有の険しさと狷介さ、刺々しさを越えた、健やかな知性と暖かみあるユーモアが生まれてくる。
ほんのりミニマルな室内楽調の展開もあるので、プログレたる必要条件はほぼ満たしているといえそうだ。(さりげないメロトロンも忘れてはならない!)
そして、北欧ロックのような明快なペーソスやオモチャ箱テイスト、内省的で枯れた叙情味、深く広い慈愛の精神もある。
音楽的な懐はいよいよ深まる一方である。
主役は各種のキーボードだろう。
レコメン・ブリティッシュ・ロックの佳品。
全編インストゥルメンタル。
サウンド選択という意味では、TORTOISE や HIGH LLAMAS といったラウンジ系ポスト・ロックに通じる面もある。(変拍子だけどな)
これは、ともにお郷が初期英国ロックだから、ということかもしれない。
十分カッコいいが、もう少しだけサウンドに攻撃性があったら、それこそ歴史に残る名作品になったと思う。
RASCAL REPORTERS、KULTIVATOR といった音への連想も。
カンタベリーのファンにお薦め。
「La Roue」(3:43)変拍子ミニマル・ジャズロック。堅実な低音とビートに支えられていろいろと好き放題のポリフォニー。宅録っぽさに驚く。
「Cobra Fakir」(8:52)重苦しいファズの轟音をぬぐいさる終盤のソロ・ピアノからペーソスあふれるコーディオン、アコースティック・ギターへの展開はみごと。美しい作品です。
「RVB7」(3:56)このグループらしい頓狂な宅録風作品。こういう作品を普通にライヴでやっていたであろう昔のイギリスは、やはり普通ではない。
「Paris-Roubaix」(2:13)小品ながら緊張感がいい佳曲。メロトロン・ストリングス。
「Titan」(4:17)グループ初期の VdGG、KING CRIMSON 風へヴィ・ロック志向が健在であることを示す。
カッコいいです。
轟くオルガン、唸るベース、吼えるギター、そしてメロトロン・クワイヤ。
「Un Cas Sibérien」(2:26)ノイズや断片を重ね合わせる宅録風作品。
「Speed-dating Sur Mars」(7:07)壊れた機械が止まったり動いたりを繰り返しつつ幾何学模様を描いているような、安定した不安定感を供給する変拍子チューン。ぶっ飛んだ展開がいかにも。変拍子テーマを自信たっぷりに音を置くように奏でるところがすごい。
「Tandem」(8:23)センチメンタリズムとパラノイアは矛盾しないと訴える、GENTLE GIANT もありそうなギター主導のグネグネ曲。アコースティック・ギターがいいアクセントになっている。力作。
「Maringouin」(3:41)これが普通のフュージョン風に聴こえるところがすごい。むろんただでは終わらず。
「Space Cowboy」(3:11)即興。
「Expérience 7」(2:29)レクイエムか?
(RUNE 368)