アメリカのジャズロック・グループ「THE MUFFINS」。 75 年結成。 カンタベリー調のジャズロックから出発し、RIO との邂逅を経てアヴァンギャルドな音楽センスを深める。 (フレッド・フリスの「Gravity」への参加でも知られる) 81 年解散。 98 年再編、活動中。
Thomas Frasier Scott | soprano & alto sax, flute, clarinet, alto clarinet, oboe, bassoon, keyboards, trumpet, vocals |
Paul Sears | drums |
Billy Swann | fretless bass, acoustic guitar, acoustic bass guitar, e-bow guitar |
Dave Newhouse | keyboards, tenor & baritone sax, bass clarinet, accordion, hand slaps, humming |
2012 年発表のアルバム「Mother Tongue」。
内容は、肉感的な管楽器と野獣の雄たけびのようなオルガンをフィーチュアした変拍子固執ジャズロック。
SOFT MACHINE といってしまうと身も蓋もないので、あえて他のいいかたをするならば、ノスタルジックにして無国籍、無時代的な抽象性が特徴である。
カンタベリー(というか往年のチック・コリアか?)風の音作りはそこここに健在(4 曲目など)だが、ビッグバンド系フリー・ジャズのゴツさも押し出しており、全体としてはややヘヴィでラウドな音のプレセンスを狙っているようだ。
(録音であえてそういう音の拾い方をしているのだろう)
金属的なベース音やドラムスの打撃音がノイズ寸前の迫力をもっている。
面白いことに、普通はこの手のアンサンブルのジャズ的な要素を一身に背負う管楽器が、多彩な音色の提供とアドリヴよりも明快なテーマの提示に力を入れているせいか、あまりジャズ、フリージャズらしさが突出しない。
そこがロックっぽさに直結しており、もっといえば VdGG のような往年のプログレの名グループのアプローチと重なるのである。
パワフルな運動性やガレージな凶暴さだけではない、詩的でロマンティックですらある趣が立ち上るところも多いのだ。
また、木管楽器とオルガンによるクラシカルな響きも随所で現れるし、かすかにモダン・ジャズらしいクールネスやチンドン屋っぽいペーソスを漂わせるところもある。
やはり、この多様さ、つかみきれないのに追いかけたくなるところが魅力なのだろう。
ジェイミー・サフトのいた NY 系のグループや MM&W、SOULIVE あたりにも通じる音である。
一部ライヴ録音。
SOFT MACHINE ファンにはお薦め。
「Little Squares」(3:26)
「Trench Mouth」(4:58)
「Sure Thing」(3:35)屋外録音。
「Going Softly」(5:25)完全に SOFTS。ライヴ録音。
「Never Slap A Monkey」(3:18)メドレー風につながるこちらのベース・ラインもなかなか。メロディアスなサックスもいい。名曲。
「Illegal Aliens」(4:33)
「6 Dozen Names」(3:31)屋外録音。
「Parade March」(4:07)
「Beat 10」(4:32)
「In The Ghost Light」(3:29)こちらも。
「Tribute To Percy」(0:14)
(HOBART 003)
Billy Swann | bass, piano, guitar, percussives |
Paul Sears | drums, gong, xylophone, vibes, percussives, pots, pans, pennywhistle |
Tom Scott | piccolo, flutes, soprano & alto & baritone saxes, clarinets, oboe, soprano recorder, percussives |
Dave Newhouse | piano, organ, piccolo, flute, alto & baritone saxes, bass clarinet, cereal box whistle, percussives |
78 年発表の第一作「Manna Mirage」。
マルチ・プレイヤー 四人編成に、若干のゲストを迎えた作品。
内容は、アメリカのグループながらも HATFIELD AND THE NORTH や SOFT MACHINE 直系の本格的なカンタベリー・サウンド、管楽器とキーボードを中心とするジャズロックである。
変則拍子を多用し、HENRY COW 調のフリー・フォームのインプロヴィゼーションも用いながら、木/金管楽器のアンサンブルが音色を活かして重なり合い、不思議なテクスチュアを成している。
おまけに、ファズ・ベースまで現われるのだ。
一見混沌とした音空間を、繊細な音色と緻密なプレイがスタイリッシュにうめてゆき、やがて、活き活きとしたアンサンブルへとみごとに収斂してゆく。
その様子は、本家に劣らない。
転がるようなシロホンとベース、フルート、オルガンによるポリフォニックなアンサンブルは、フリー系の作品に散見される絶叫型や体育会系押し捲りとは異なり理知的であり、飄々としたユーモアと深刻さの境目をスタスタと軽やかにたどってゆくようだ。
とても新鮮だ。
やはり、カンタベリーへとダイレクトに通じる音としかいいようがなく、いわゆるアメリカン・ロックのイメージとはかけ離れている。
ロバート・ワイアットを思わせるドラムスなど、リズム・セクションを筆頭に、演奏は抜群にうまい。
ラフな録音も、かえって生々しい臨場感を与えている。
エピゴーネン然としないのは、曲そのもののおもしろさとフルートの存在だろう。
全曲インストゥルメンタル。
アルバムの謝辞には、元 HAPPY THE MAN のキット・ワトキンスの名前もある。
「Monkey With The Golden Eyes」(4:03)カンタベリー風ながら、重層的な管楽器のオーケストレーションとシロホンのトレモロが美しい佳作。
「Hobart Got Burned」(5:56)細身のサックスがさえずるフリー・フォームからシャープな 8 分の 6 拍子のジャズロックへと進展するカッコいい作品。
二管の緩やかなアドリヴ応酬にドラムスが過激に反応する、本作では特異な存在だ。
HENRY COW 的な深刻さとユーモアが同居する。
バラバラとした即興プレイが、エレピのリフとともに鮮やかにまとまりを見せ、疾走し始める。
この瞬間にえもいわれぬ快感がある。
凶暴なファズ・ベースや、ディレイを効かせた管楽器とエレピが一気にクライマックスへと登りつめる勢いなど、「Fourth」または「Fifth」辺りの SOFT MACHINE そのものである。
「Amelia Earhart」(15:45)
幻惑的な演奏が次々と繰り広げられる、夢の迷宮のようなオムニバス大作。
拍子、テンポとともに、曲の表情がめまぐるしく変化する。
また、フリーな流れに、いかにもアメリカン・ポップス調の暖かみあるテーマを唐突に放り込むところなど、RASCAL REPORTERS とも共通する高度なセンスがあると思う。
丹念なライド・シンバルと痛快な打撃、伸びやかな管楽器(フルートが官能的なアクセントになっている)、饒舌なベース、SE が組み合わさった唐突でユーモラス、万華鏡のような演奏は、HATFIELD AND THE NORTH の一枚目や GILGAMESH の一枚目、または、PICCHIO DAL POZZO、NATIONAL HEALTH と直結する世界を示す。
攻めたてる調子とそれを受け流すユーモラスなプレイの呼吸がいい。
音は弛緩し薄く広がってゆくかと思えば、みるみる凝集し小気味よく響き合う。
要所のファズ・ベース、シロホンも効いている。
「The Adventure Of Captain Boomerang」(22:46)
エレピとソプラノ・サックス、フルートなど管楽器による躍動感あるジャズロック大作。
フルート(ジミー・ヘイスティングスそのもの)、エレピによるファンタジックな展開が HATFIELD AND THE NORTH を思わせ、しなやかなサックスのブロウと強固な反復は SOFT MACHINE である。
前曲が、たまに怪しげな表情を見せたのとは対照的に、こちらは、筋の通ったストーリーに勢いあるトゥッティとメロディアスなプレイが散りばめられていて聴きやすい。
ベースとフルート、エレピ、マリンバらによるクラシカルなアンサンブルもある。
タイトルや変拍子による舌をかみそうなユニゾンからくるイメージは、HAPPY THE MAN にも近しい。
(Cuneiform Records 55004)
Tom Scott | flutes, soprano & alto saxes, clarinets |
Dave Newhouse | piano, organ, soprano & alto & baritone saxes, whisper clarinet, clarinets |
Billy Swann | bass, guitar, vocals, tenor sax on 1, mysterious low noise |
Paul Sears | drums, percussion, sax, vocal noise |
guest: | |
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Fred Frith | prepared piano, guitar, violin (on 1,2,4,7,8,9) |
Dave Golub | clarinet shuffling, shouting & squeaking(on 2,3,4) |
George Daoust | shuffling & shouting(on 4) |
81 年発表のラスト・アルバム「185」。
フレッド・フリスがプロデュースおよびゲストで参加。
管楽器がリードする演奏の凶暴さ/素っ頓狂度が強まり、メロディアスな部分は、ウネウネした変拍子アンサンブルにほのかに残る程度になった。
音には、楽器から力づくで切り出したかのようにゴツゴツした手触りがあり、録音云々ではない存在感がある。
ぐいっと胸を張って居座るような音なのだ。
特に、ドラムスの武骨で生々しい音が印象的。
フリー・ジャズやアヴァンギャルド・ミュージック、ノイズといった要素が束ねられた現代的なサウンドは、まさにアメリカの HENRY COW という呼び名にふさわしい。
もっとも、強迫的でヘヴィな面が強調されていても、無調風のテーマによるアンサンブルが深刻さと軽妙なユーモアの間をするすると自然にゆき交ってしまうところが、ユニークである。
イカレたヴォーカルが飛び込むと、"瞬間フランク・ザッパ" になってしまうこともある。
また、楽曲はぐっとコンパクトになり、スリルも凝縮されている。
CD では、オリジナル・メンバーのみの演奏によるリミックス・トラックが、ボーナス・トラックとしてついている。
フリス参加ヴァージョンとの聴き比べもおもしろい。
「Angle Dance」(4:10)
「Antidote To Dry-dock」(4:57)
「Zoom Resume」(7:13)
「Horsebones」(2:25)
「Subduction」(0:55)
「Dream Beat」(3:32)
「Under Dali's Wing」(3:08)
「These Castle Children」(7:34)
「Queenside」(5:36)
「Street Dogs」(1:13)
「Angle Dance」(4:09)ボーナス・トラック。
「Antidote To Dry-dock」(4:51)ボーナス・トラック。
「Zoom Resume」(7:13)ボーナス・トラック。
「Horsebones」(2:26)ボーナス・トラック。
「Under Dali's Wing」(3:05)ボーナス・トラック。
「Queenside」(5:35)ボーナス・トラック。
「These Castle Children」(7:10)ボーナス・トラック。
(Cuneiform Records 55013)
Dave Newhouse | piano, organ, soprano & alto & baritone saxes, bass clarinets, percussion |
Tom Scott | soprano & alto saxes, clarinets, oboe, flutes, percussion |
Billy Swann | bass, guitar, percussion, vocals |
Paul Sears | drums, percussion |
guest: | |
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Fred Frith | guitar, piano(on 8,9) |
Mark Hollander | alto sax on 8 |
85 年発表のアルバム「Open City」。
グループ解散後に発表された未発表曲集。
94 年 CD 化の際に大幅に曲を追加し、グループの活動全体を見渡せる作品となった。
1-7 曲目が「185」期のスタジオ・ライヴ、8、9 曲目が「Gravity」期、10-14 曲目が「Manna Mirage」期の未発表曲。
1-7 曲目では、金管楽器による強力かつアナーキーなテーマやファズ・ベースの轟音が推進力となって、演奏は重量感のあるリズムとともにドリルのように突き進む。
その展開は、フリージャズ風のネジの外れたフレーズを強力に押し出してとぐろを巻くかと思えば、過剰なコールレスポンス、唐突なテンポ・アップやダウンを繰り返すなど予断を許さない。
特に、「Manna Mirage」収録の 2 曲目「Hobart Got Burned」は、小品ながらもシンバルの予兆から始まるスピーディなドラミングとともにテナー・サックスがいななき疾走する、無茶苦茶カッコいい作品。スピード感があるのに腰がすわっている。
4 曲目「Anitdote To Drydock」は、吹き荒れる嵐のようなドシャメシャ・エレクトリック・フリー・ジャズロック。
5 曲目「Zoom Resume」はフリージャズ風ながらもアンサンブルのキレが抜群にいい。
先の読めない演奏に過激な主張を感じさせる 6 曲目「Boxed & Crossed」もいい。
全体的にはフリージャズ、室内楽、パンキッシュなロックの知的な合体技であり、アブストラクトで硬質、どちらかといえば険しいイメージを与える音楽といえる。
サックスによるフリージャズとの接点など 70 年代初期の英国のバンドに通じめる面もある。
8 曲目、9 曲目はフレッド・フリス作曲の作品。不気味なシャフル・ビートによる不安感に満ちた 8 曲目「Vanity, Vanity」、フリスが得意とする屈折したポップ・テイストのある 9 曲目「Dancing In Sunrise, Switzerland」、ともにやや緩めの演奏ながらも HENRY COW の狷介不羈な姿勢がそのまま感じられる。
10 曲目からの未発表曲では、HENRY COW 的なサウンドへ進む前の、カンタベリー風のジャジーでメロディアスな演奏が現れる。
フルートやクラリネットなど響きにデリケートな息遣いと広がりを感じさせる音がいい。
即興らしき 10 曲目「Blind Arch」、12 曲目「In The Red」は、ほぼ SOFT MACHINE。
13 曲目「Not Alone」は、ユーモアも運動性も繊細な音も HATFIELD AND THE NORTH 風の名品。
硬軟のメリハリは本家以上に効いている。
カンタベリー・ファンはこの後半が楽しいだろう。
「Queenside」(5:19)デイヴ・ニューハウス作。
「Hobart Got Burned」(2:40)デイヴ・ニューハウス作。
「Horsebones」(2:40)トム・スコット作。
「Anitdote To Drydock」(5:06)デイヴ・ニューハウス作。
「Zoom Resume」(1:28)デイヴ・ニューハウス作。
「Boxed & Crossed」(5:38)デイヴ・ニューハウス/ビリー・スワン作。
「Under Dall's Wing」(3:17)デイヴ・ニューハウス作。
「Vanity, Vanity」(2:47)フレッド・フリス作。
「Dancing In Sunrise, Switzerland」(3:11)フレッド・フリス作。
「Blind Arch」(8:51)グループ作。
「Expected Freedom」(2:21)デイヴ・ニューハウス作。
「In The Red」(5:08)グループ作。
「Not Alone」(13:38)デイヴ・ニューハウス作。
「Open City」(0:52)グループ作。
(Cuneiform Records 55010)
Stuart Abramowitz | drums, voice |
Dave Newhouse | electric piano, organ, percussion, toy xylophone, voice |
Tom Scott | clarinets, flute, soprano & alto saxes, oboe, bell tree, xylophone, melodica, voice |
Billy Swann | bass, backwards organ, percussion, voice |
Mike Zentner | guitar, violin, harmonica, voice |
93 年発表のアルバム「Chronometers」。
オリジナル・メンバーらによるカンタベリー・シーン直系の初期曲集。
75 年及び 76 年録音の作品から 21 曲を収録、70 分以上にわたる内容であり、「Manna Mirage」以前の活動を知るための貴重な音源だ。
変則リズム・パターンと目まぐるしいリズム・チェンジの中で、ギター、クラリネット、キーボードらがメロディアスなテーマ、ソロと奇妙なインタープレイを繰り広げ、テープ・コラージュや ザッパ調のヴォーカル、マリンバ、ヴァイオリンも現れる。
挑発的にしてまろやかな感触であり、シンフォニックな瞬間もある。
他の曲は、後の作品のモティーフのような小品が主ではあるが、高密度の演奏と編集の妙(キット・ワトキンスのクレジットあり)のおかげか、充実した聴き応えがあり、細切れな感じはない。
RASCAL REPORTERS にも共通する、チャレンジングな演奏とマイルドな音の取り合わせは、カンタベリー・ミュージックのアメリカにおける優れた咀嚼の一つといえる。
全体に、イメージは、HENRY COW というよりも、ややサックスの饒舌な HATFIELDS、緩めの PICCHIO DAL POZZO といった感じである。
現代音楽的な厳格さよりも、素朴な誠実さやルーズで直截的なユーモアが感じられる内容であり、ETRON FOU や SAMLA を思わせる瞬間も。
ファズ・ギターやヴァイオリン、木管、メロディアスなユニゾンなど、あまりに「マンマ」なので、勝手にリチャード・シンクレアの声が聴こえてきます。
即興である 16 曲目を除き、全曲デイヴ・ニューハウスの作品。
冒頭のタイトル・ナンバーは本発掘のメインであり、ザッパ風のヴォイス・パフォーマンスや即興を交えた 22 分にわたるめくるめく超大作。
朴訥さがいかにもカンタベリーなマイク・ゼントナーのギターは本作品で聴けます。
「Chronometers」(22:59)
「Come What Molten Cloud 」(2:52)
「Apparently」(3:31)
「Courtesy Of Your Focal Interest Span」(0:44)
「Please Do Not Open Dr. Fischer」(2:23)
「The Manilla Robots」(2:21)
「Joe Crop On A Toxic Planet」(5:09)
「The Bush」(2:41)
「Mammoth Hide」(1:34)
「Creature Comforts」(1:29)
「Like A Machine That Only Works When It's Working Right」(1:59)
「Look At The Size Of That Sponge」(1:45)
「Early American Ears」(1:15)
「Three Days That Won't Soon Fade」(2:53)
「You Eat Them Pears」(5:05)
「Peacocks, Leopards, And Glass」(3:38)
「Crezner OK」(3:40)
「Blind Cave Tetra」(2:46)
「Evening Hataiya」(1:37)
「Six Thick Thistle Sticks」(0:31)
「L」(1:24)
(Cuneiform Records 55007)
Billy Swann | bass, guitar on 2,9 | Dave Newhouse | piano, organ, baritone sax, tenor sax, bass clarinet, flute |
Paul Sears | drums, guitar on 2,4,5,8,9 | Thomas Fraiser Scott | alto sax, soprano sax, flute, clarinet |
guest: | |||
---|---|---|---|
Doug Elliot | trombone on 2,3,7,8 | Amy Taylor | violin on 10 |
Amy Cavanaugh | cello on 10 | Kristin Snyder | viola on 10 |
2002 年発表のアルバム「Bandwidth」。
ミニ・アルバム「Loverletter #1」に続くまさかの新作。
内容は、サックス、クラリネットなど「いななき」系管楽器主導のパンチの効いたジャズロック。
今回はブラスのアンサンブルに力点があるらしく、モダン・ジャズ・コンボ、ブラス・ロック、ビッグバンドのニュアンスあり。
主役は饒舌で小気味のいい運動性のある管楽器とワイルドなベース(思い切り目立つ!)、ノイジーなギターなどだが、フルート、ハモンド・オルガン、ゲストの弦楽奏などのワン・ポイントもきわめて効果的。
フリージャズ調の強圧的な演奏と意外なまでにジャジーでメローなプレイの配置の妙は、「アメリカン・カンタベリー」をリードしたこのグループならではの技である。
特徴的なのは、二管、三管のアンサンブル。(ちなみに「アドリヴとバトルによるスリルの醸成」を目指すモダン・ジャズとは決定的にニュアンスが異なる)
曲ごとに的確なビートを打ち出すドラムスもいい。
管楽器をドローンに回し、ベースやギターがアンサンブルを成すといった工夫もある。
全体としては、骨太で挑戦的なプレイの応酬にメロディアスな歌心が浮かび上がってくる、まさしく改心の内容といえるだろう。
モダン/フリー・ジャズの雰囲気とざらざらしたサイケデリック・ロック、オルタナティヴ・ロック調の合体は、まさしく 70 年代初期の英国ジャズロックのイメージであり、HENRY COW や SOFT MACHINE に直結する音である。
再結成作という補正は不要な傑作である。
9 曲目「Out Of The Boot」は、プログレ・ファン直撃の傑作。フルートをフィーチュア。
10 曲目「East Of Diamond」は、メロディアスな名曲。
ヒュー・ホッパーのバンドものの近作と比べたくなる雰囲気あり。
全曲インストゥルメンタル。
ゲストのエイミー・テイラーは、GRITS の元メンバー。
「Walking The Duck」(2:53)
「World Maps」(6:06)
「Down From The Sun Tower」(1:29)
「Impossible John」(1:53)これはコルトレーンなんでしょうね。
「Military Road」(3:14)
「Dear Mona」(3:12)
「People In The Snow」(5:51)
「Essay R」(5:53)
「Out Of The Boot」(7:00)
「East Of Diamond」(6:43)
「Sam's Room」(2:25)
「3 Pennies」(4:14)ピアノ、オルガンによるドリーミーな作品。
これまでとはやや異なる芸風だが、みごとな新境地である。
(Cuneiform Records Rune 161)
Billy Swann | bass, acoustic guitar | Dave Newhouse | keyboards, sax, bass clarinet, flute, flarinette(?) |
Paul Sears | drums, guitar | Thomas Scott | sax, flute, clarinet, keyboards, percussion, programming |
guest: | |||
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Marshall Allen | alto sax | Knoel Scott | alto & baritone sax |
Doug Elliott | trombone | Amy Taylor | violin |
Kristin Synder | viola | Laura Dent | cello |
Okorie Johnson | cello |
2004 年発表のアルバム「Double Negative」。
内容は、キーボードと管楽器をフィーチュアし、管弦楽のサポートも得た雄大かつ神秘性もあるチェンバー・ジャズロック。
インダストリアルなへヴィ・チューンから緊密で圧迫感あるアンサンブルによる現代音楽調、果てはチープなラテン風味漂うビッグ・バンド・ジャズ(渋さ知らズやペレス・プラード楽団などのイメージ)まで、エッジの効いたキャラが立った作品が並ぶ。
さらには、弦楽が高まって映画音楽のようにスケール大きく盛り上がる場面や、ヤクザなドラムスやしなやかにいななくサックスといった 90 年代初頭の NY シーンや思わせるストリート系のヤバさ加減もあり。
また、ハモンド・オルガン、ピアノ、シンセサイザーらが牙を剥いて迫る往年のキーボード・プログレらしさを強調する一方で、そこへ木管と低音系のサックスが神秘的なイメージを重ねるなど、音楽的な懐がいわゆるプログレよりももう一歩深い。
いかにもチェンバー系プロパー出身らしいのは、管楽器のアンサンブルにゴージャス感とナンセンスなユーモア、凶悪な表情が並置されているところだ。
そして、HENRY COW というか NATIONAL HEALTH というか、その方面に特有の鮮やかなまでの切り返しや抜き手がある。
ロマンティシズムにシニシズムがにじむ独特の作風は、まさに現代のカンタベリー・サウンドといっていいだろう。
全体的に音楽性はきわめて豊かであり、特にプログレだ、シンフォニックだと力まずとも、一枚のディスクとしてどこへ出しても恥ずかしくない傑作である。
個人的に、2004 年ベスト 10 ランクイン。
全体に音が迸り飛び散るような感じがあるのは、管楽器のサウンドが電気処理されているためだろうか。
基本的に SUN RA の入った後期 EL&P ですからね、すごくないわけがない。
初期 KING CRIMSON ファンにももちろんお薦め。
1 曲目は PINK FLOYD な EL&P。
13 曲目は即興演奏。
14 曲目はシンフォニックな SOFT MACHINE ともいうべき傑作。
メロディアスな 15 曲目で「ひょっとすると」と思い、サンクスクレジットを確認すると、アメリカン・カンタベリーの朋友 RASCAL REPORTERS の名前が。
個人的には、このディスクの音質が気に入ってます。
「The Highlands」(6:04)キーボード・プログレ的。
「Writing Blind」(5:54)二管とピアノが冴えるシリアス・チューン。
「Choombachang」(2:45)タランティーノの映画で使いたい。
「The Ugly Buttling」(3:39)弦楽の加わった EGG。軽妙から重厚へと変化。
「The Man In The Skin Painted Suit」(2:44)メロディアスかつミニマル。RASCAL REPORTERS を思い出す。
「Childhood's End」(6:15)変拍子にしてメロディアスでロマンティックなカンタベリー・ジャズロック。サックスとピアノをフィーチュア。後半は管弦が登場してより劇的に展開し、最後はフルート入りのソフト・ロック調に。「幼年期の終わり」。
「Exquisite Corpse」(6:56)アッパーなビッグバンド・ノリかと思ったら気まぐれにねじれてゆく「つぎはぎ」な曲。
奇妙なタイトルはこういう「つぎはぎ」を意図した、前衛芸術の製作手法らしい。
「They Come On Unknown Nights」(4:20)シリアスな弦楽奏からインダストリアルなドラムンベースへ。
「Cat's Game」(3:51)
「Stethorus Punctum」(4:01)
「Dawning Star」(5:19)
「5:00 Shadow」(3:15)
「Metropolis」(3:34)
「Angel From Lebanon」(6:55)
「Frozen Charlotte」(2:54)
「Maya」(4:24)
「The Two Georges」(5:20)
(Cuneiform Records Rune 199)
Billy Swann | bass | Thomas Frasier Scott | soprano & alto sax, clarinet, alto clarinet, flute, oboe, bassoon, chanter, keyboards, vocals |
Paul Sears | drums | Dave Newhouse | keyboards, soprano & tenor & baritone sax, bass clarinet, flute, alto flute, accordion, maracas, kalimba |
guest: | |||
---|---|---|---|
Doug Elliott | trombone | Keith Cottril | tuba |
Brian Sullivan | guitar | Elaine Di Falco | vocals |
2010 年発表のアルバム「Palindrome」。
内容は、二管をフロントにキーボードが堅実にバッキングする重量感ある吹奏楽系ジャズロック。
ヴォイスやパーカッション、インダストリアルな SE も効果的に取り入れ、アンサンブルの爆発力や運動性よりも緩やかながらも幾何学的な渦を巻くような、ウネウネとしたミステリアスなタッチが特徴的である。
ミドル・テンポの作品が多いため余計にそう思うのだろう。
ただし、変拍子は多用されている。
ピアノとオルガンを中心とするキーボード・プレイが管楽器の丸みを帯びた音とよくマッチして、力強くまろやかな(時に歌謡曲風の)旋律を打ち出し、近代クラシックを連想させるアンサンブルを構成している。
しかし、その音も、つややかだがどこか歪曲し、ざらついている。
重層的な管楽器アンサンブルや木管楽器の独特な存在感など、一部チェンバー・ロック的なイメージもあるが、メカニカルな反復やほのかなユーモア、ファズ・ベースがうなりを上げるところもあるので、レコメンよりはカンタベリーの方が親戚筋としては近そうだ。
そして、低音のドローンがこれまでより強調されている。
60 年代の TV ドラマの劇伴のようなチープシックながらもクールなサスペンスの味わいがある。
それは、モダン・ジャズがしっかりと染み入ったロックという風に解釈すべきだろう。
つまり、カンタベリーの中でもロバート・ワイアットの作風に近いと思う。
何が出るかと身構えていると意外やあまり険しくなく、むしろ取り付きやすいことに気づく。
だからといって、流されているわけではなく、余人の思いの及ばないひっかかりやこだわりがより洗練された形で提示されているということなのだ。
4 曲目のようなメロディアスで叙情的な作品にはほんとうに不意を突かれた。
ギターの使い方もオーソドックスで、どことなく 70 年代初頭の英国プログレ勃興期の風合いがある。
レコメンというレッテルに拘泥するべきではなく、現代の個性的なロックとして味わうべき好アルバムだ。
7 曲目のカッコよさは、いまやプログレ界隈にいないと味わえないと思う。
聴き慣れない「palindrome」という単語は「回文」という意味だそうです。
ヴォーカルは、最近どこにでも顔を出す魅惑のアルト・ヴォイス、エレイン・デ・ファルコがゲストとして担当している。
バンドが解散しないか心配です。
「The Angel's Share」(3:29)
「Not Yet Awake」(9:14)ヴォーカルあり。
「Fishing In America」(2:33)
「Dynamite Is Not The Solution」(5:33)マイク・オールドフィールド風のクールなインストゥルメンタル。
「When Fela Comes To Town」(3:23)タランティーノが好きそうなミシルルー系ジャズロック。
「King Fish」(4:49)ギターが際立つノスタルジックで夢想的な味わいの佳曲。ソフトなサイケデリック感覚がカンタベリーに通ず。
XTC に似てます。
「Bats And Birds」(11:15)モンド歌謡風ながらもねばねばと展開するジャズロック。
「Yukapoe's Lament」(7:16)
(MUSEA FGBG 4863)