アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「THINKING PLAGUE」。82 年結成。コロラド出身。北米レコメンの原点の一つ。コケットな女性ヴォーカルをフィーチュアし、ART BEARS に迫る。寡作だが作品は重厚。 2013 年 UNDERGROUND RAILROAD のビル・ポールが加入。 最新作は 2017 年の「Hoping Against Hope」。
Mike Johnson | guitars, samples, midi instruments | Elaine Di Falco | voice, accordion, piano, toy piano |
Mark Harris | soprano & alto sax, clarinet, bass clarinet, flute | Dave Willey | bass, drums on 5, accordion on 2,6 |
Robin Chestnut | drums, percussion | Bill Paul | guitar |
guest: | |||
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Adriana Teodoro-Dier | piano on 2,5,6, toy piano on 2 | Simon Steensland | bass on 5 |
Mike Boyd | drums on 2 | Kathryn Cooper | oboe on 4 |
2017 年発表のアルバム「Hoping Against Hope」。
内容はタイトでアグレッシヴなチェンバー・ロック。
不協和音がつぎはぎされた無調でポリリズミックな変拍子アンサンブルが何ものにも迎合せずに頭を上げて歩む。
無機質な脱構築性と神秘的な構築美が高い水準でバランスしたみごとな作品だ。
白磁の仮面の空ろな口元でちろちろと蠢く蛇の舌。
重い憂鬱の果てに崩壊飛散してしまった意識の残骸。
昼夜問わず可聴域外で唸りを上げる艶めかしい呪文。
これだけ不安をかき立てるのにあくまで美しい。そして気高い。
タイトルは「一縷の望み」の意。
「The Echoes Of Their Cries」(6:37)
「Thus Have We Made The World」(5:38)
「Commuting To Murder」(4:40)
「Hoping Against Hope」(10:01)
「The Great Leap Backwards」(3:57)
「A Dirge For The Unwitting」(13:45)
(CUNEIFORM RUNE 421)
Sharon Bradford | voice, noise on 3, casio mini-synth & 'drake noise box' on 5 |
Bob Drake | bass, drums & percussion, voice on 1,3,5, guitar on 1,4,5, bowed balalaika on 2,6, synths on 2,5,7, piano on 5 |
Harry Fleishman | piano & organ on 2,3, voice on 3 |
Mark Fuller | drums on 2, Simons drums on 7 |
Mike Johnson | guitar on 1,2,3,7, synths on 1,2,5, piano & metal pipes on 7, voice on 1,3 |
guest: | |
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Mark Bradford | voice on 7 |
84 年発表の第一作「...A Thinking Plague」。
内容は、複雑かつ運動性に富むバンド・アンサンブルによるアヴァンギャルド・ロック。
無調、不協和音、変拍子を駆使した演奏であり、打楽器系のインパクトのある音と奇天烈なヴォイス・パフォーマンスが特徴。
プログレ、レコメン・サウンドに加えて、パンク系ニューウェーヴの影響も強そうだ。
したがって、リズミカルに進むところでは、意外なほどストレートなロックンロール・スタイルも見せる。(1 曲目冒頭や 3 曲目のメイン・ヴォーカルなどは 80 年代イギリスにあったスタイル)
また、ソプラノ・ヴォイスをフィーチュアしたスロー・パートでは、ART BEARS 風の呪術性あり。
一貫して不安で険しい調子やノイジーで破壊的なタッチ、めまぐるしいコラージュなどは、HENRY COW から受け継いでおり、シリアスなメッセージが込められているようだ。
ミニマルな表現とヘヴィで爆発力のある表現のコントラストに、80 年代以降の KING CRIMSON の姿も垣間見える。
即興的なインパクトではなく、アンサンブルの構築が目指されているようなので、フリー・ジャズというよりは一種の現代音楽ロックというべきだろう。
フリージャズ的に思えないのは、管楽器がないことにも起因する。
そして、メタリックでヒステリックなサウンドや、軽めのノリと屈折したユーモアがあるところも現代的である。
インスト・パートは、ナチュラル・トーンのギター、アコースティック・ピアノ、アコースティック・ギターなど歪みのないクリアーな音が支配的であり、ワイルドながらも研ぎ澄まされた演奏というイメージが強い。
特に、アコースティック/エレクトリック両ギターのプレイがみごと。
84 年頃は世間に間が抜けたような音が氾濫していたが、そういう音に明晰にして凶暴な側面をもたせた点ではかなり個性的だったに違いない。
マイク・ジョンソン、ボブ・ドレークといった才人ミュージシャンを擁す。
「I Do Not Live」(5:02)
男女ヴォーカルが珍妙にかけあう軽妙で忙しない変拍子ロックンロールとイタコ的な女性ヴォーカルが現れる呪術系インダストリアル・ミュージック・パートが交錯するアヴァンギャルド・ロック。
アコースティック・ギターによるミニマルなシーケンス的フレージング、オルガン系キーボードの空気の抜けたような怪音、エフェクトで膨らんだベースらしき音など、特徴的な音がたくさんあり。
「Possessed」(8:17)
タイトルとおりのレコメン憑依系シンフォニック・ロック。
ART BEARS によく似ている。
possessed は「取り憑かれたもの」という意味。
「How To Clean Squid」(5:01)テクノなニューウェーヴ・チューンをノイジーなギターを中心とした凶暴な音で変容させた作品。
凶悪。
俊敏なギターがカッコいい。傑作。今ならエレクトロ・ハウスとかいうのでしょうね。
「A Light Is On And Name The World」(1:28)声、楽器の音の断片を撒き散らしたインストゥルメンタル。
「The Taste That Lingers On」(2:06)ユーモラスな頓狂系ニューウェーヴ・ポップ。ノイズが跳び捲くる。
「Four Men In The Rain」(2:29)弓で奏でたバラライカの多重録音による歪曲したストリングス・セクションがフィーチュアされたインストゥルメンタル。厳かなようでそうでなく雅なようでそんなこともない。
「Thorns Of Blue And Red / The War」(15:26)中間部にドレーク、ジョンソン、ブラッドフォードによる即興を交えた傑作。
終盤狂乱するギターがいかにも。
(Endemic Music (no number))
Bob Drake | bass, drums & percussion on 1,5 keyboards on 4, voice on 5 |
Mark Fuller | drums on 2,3,5, timbales & Simons drums on 1 |
Eric Moon | keyboards on 1,2,3,5 |
Mike Johnson | guitar, drums & percussion on 5 |
Susanne Lewis | voice |
Mark McCoin | drums, percussion, voice on 5, cheap sampler on 1(flute, piano), 5(syllables) |
Fred Hess | alto sax on 5 |
Glenn Nitta | soprano sax on 5 |
86 年発表の第二作「Moonsongs」。
当初カセット・テープで発表され、LP 化は翌 87 年。
リード・ヴォーカリストはスザンヌ・ルイスに交代。
ヴォーカルと自分の姿勢を問い質すような厳格な雰囲気が ART BEARS を思わせるも、演奏にはクラシカルな重厚さがある。
打楽器をフィーチュアした強固で屈折したアンサンブルが特徴。
「Warheads」(8:03)アジテーションというにはあまりに重厚な大作。
コケットにして素っ頓狂なヴォーカルを用いるも、内容はあくまでカタストロフィックで重々しい。
巨大な工場が崩れ落ちるようなイメージである。
「Etude For Combo」(6:59)ノリはけっこういいが、終止デンジャラスな音に満ち満ちたインスト・ロック。
生々しい音がニッティング・ファクトリ勢を連想させる。ライヴ録音。
「Collarless Fog That One Day Soon」(3:20)
「Inside Out」(4:12)ルイスの朗唱をスペイシーかつインダストリアルなノイズが取り巻くシリアスな作品。
「Moonsongs」(15:23)
波打つパーカッションの群れ、アジテートするヴォーカル/ハーモニー、KING CRIMSON を思わせる凶暴なギター、ベースらによる攻撃的な演奏に、ノイズやテープ効果による実験も大胆に組み込んだ圧倒的な野心作。
瞬間的に 80 年代 KING CRIMSON 風のポリリズミックでエキゾチックな演奏を見せるも、サックスが現れるとレコメン指数が一気に上がる。
打楽器がフィーチュアされたエネルギッシュな演奏からピアノを用いた神秘的な場面まで、展開はきわめて劇的である。
ニューウェーヴかつプログレというのが「あり」なのだと、気がつかせてくれた逸品です。
P.I.L の「Flower Of Romance」を引き合いに出しても差し支えなさそう。
(DMC 007)
2000 年発表のアルバム「Early Plague Years」。初期二作品、「...A Thinking Plague」と「Moonsongs」を収録した編集盤。上記二作はLP/カセット・テープなので、CD 化に感謝。
(RUNE 141)
Mike Johnson | guitar | Bob Drake | drum, bass, violin |
Susanne Lewis | voice, guitar | Shane Hotle | keyboards |
Maria Moran | bass, guitar | Mark Harris | woodwinds |
Lawrence Haugseth | clarinet | ||
guest: | |||
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Fred Frith | guitar on 4 |
89 年発表のアルバム「In This Life」。
素っ気なくもコケティッシュなヴォーカルと、生音っぽいのに攻撃的な演奏による緊張感あるサウンド。
木管楽器とアコースティック・ギターがからみあう不気味なアンサンブルや、極度に素っ頓狂な演奏など、典型的なレコメン系のスタイルである。
特に、金属的なギター・ノイズともつれるようなクラリネットの音は、どうしても HENRY COW を連想させる。
もちろん、違いはある。
まず新鮮なのは、現代音楽的な枠組みが感じられるダイナミックにして精密な演奏に、ニューウェーヴ調の蓮っ葉ヴォーカルが入っているところ。
ピアノのプレイや凝ったリズムにアカデミックなセンスを感じさせるとともに、チープな描き割風のテイストもあるのである。
さらに、無機的なメロディ・ラインや傾いだような和声に、どことなく淡いペーソスとロマンティックな絶望感が漂い、そこが 70 年代プログレの残り香のように感じられるのだ。
外しやフェイクではない、丹念に構築してゆく美学があるに違いない。
ややアフロな音使いも見せており、音楽の間口は相当広いようだが、やはり原点にプログレがあるのではないだろうか。
それにしても 80 年代終盤でこういう音をやっていたとは、相当のガンコものか半世捨て人状態だったのでは。
もっとも、そういう世間の上っ面に流されない面々のおかげで、こうしていい音楽が残ってゆくのである。
機敏な運動性と重厚な風格のあるチェンバー・ロックの傑作といえるでしょう。
個人的には、アコースティック・ギターが印象的な 1 曲目「Lycanthrope」、劇的な 4 曲目「Organism(version II)」(フレッド・フリスがゲスト参加)が気に入ってます。
CD には、「Moonsongs」のリミックス版、「Possessed」のリマスター版が収録されています。
なお、本作品と同時期にスザンヌ・ルイスとボブ・ドレークは HAIL なるサイケポップ・デュオでも活動している。
「Lycanthrope」()
「Run Amok」()
「Malaise」()
「Organism(version II)」()
「Love」()
「The Guardian」()
「Fountain Of All Tears」()
「Moonsongs」()再録/リミックス・ヴァージョン。
「Possessed」()リマスター・ヴァージョン。
(ReR TPCD1)
Mike Johnson | guitar, synthesizer, sequences | Dave Kerman | drum, percussion |
Mark Harris | sax, clarinet, flute, bass clarinet | Deborah Perry | voice |
Dave Willey | bass, accordion | Shane Hotle | piano, synthesizer, mellotron |
Bob Drake | drum, bass, violin |
98 年発表のアルバム「In Extremis」
十年ぶりの新作。
ロバート・ドレークはこの間に 5UU'S に参加し、デイヴ・カーマンとの知己を得る。
そのカーマンがドラマーとして参加している。
内容は、不協和音と変拍子を多用した深刻な展開という典型的な ReR 系サウンドにして、ダイナミックかつ重厚なシンフォニック・ロック。
レコメンにしてシンフォニックというのは相反しそうな音楽的性格だが、ここではうまい具合にそれらが両立している。
演奏は、変則奏法も多用するギタリスト、マイク・ジョンソンを中心に、アグレッシヴなサウンドとがっちりとしたアンサンブルが組み合わさったものであり、そこへ個性的過ぎるプレイ(たとえば、ドレークのアコースティック・ギターとヴォーカル、デボラ・ペリーの呪術的ヴォイスなど)が連ねられる。
ときに SAMLA MAMMAS MANNA ばりのコミカルさを見せたり、素っ頓狂でありながら、目まぐるしい変転を堂々と突き進んでゆく。
ギターはオーソドックスなトーンによる誠実なプレイ(フレーズは変だが)に、80' 以降の KING CRIMSON 的な煽り、スピード感も盛り込んでいる。
また、デイヴ・カーマンの参加によってロックっぽい骨太さは強まり、コケットなヴォイス(スザンヌ・ルイスに代わる新ヴォーカリスト)や管楽器、キーボードらによるチェンバー風の演奏にカッコいい運動性が生まれている。
厳格な変拍子アンサンブルによる密度の高い構築性のおかげか、即興や脱構築を超えた序破急のセンスというべきか、全編とにかくドラマティック。
4 曲目の大作ではかなりコワれるが、全体のイメージはチンドン屋系や絶叫フリー系だけでは決してない、レコメン・シンフォニック・ロックの傑作である。
思い切りメロトロンもあり。
ハードなシンフォニック・タッチは 5UU'S と共通するが、ここでのサウンドは 5UU'S の音塊を解きほぐして、より明快にした感じである。
「Dead Silence」(4:00)
「Behold The Man」(4:23)
「This Weird Wind」(8:02)
「Les Etudes D'organizm」(14:00)
「Maelstrom」(3:32)
「The Aesthete」(4:35)
「Kingdom Come」(13:46)
(CUNEIFORM RUNE 113)
Mike Johnson | guitar & such | Deborah Perry | singing |
Dave Willey | bass, accordion | Dave Shamrock | drum, percussion |
Mark Harris | sax, clarinet, flute | Matt Mitchel | piano, harmonium, synths |
guest: | |||
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Kent McLagan | acoustic bass on 1,2,3,4 | Jean Harrison | fiddle on 4 |
Ron Miles | trumpet on 2 | Dave Kerman | percussion on 4,11 |
Leslie Jordan | voice on 4 | Mark Fuller | telephonic jibberings on 1 |
Mark McCoin | sample, various exotica on 6,8 |
2003 年発表のアルバム「A History Of Madness」。
内容は、挑戦的な音楽的姿勢で緊張と不安をかきたてるチェンバー・ロック。
不協和音、無調、変則リズムなどなど現代音楽のアプローチを駆使した、前衛的、アヴァンギャルドな音楽である。
コケティッシュな祈祷のようなヴォイス、無機質なハイテク・ギター、フリー・ジャズ風のパワフルな管楽器、暴発的な打楽器といった要素による、きわめて込み入った演奏であり、狷介さ、凶暴さ、 神経質さが強く印象づけられる。
そのままでは不快なだけになりそうな音を知的なアートとしてとらえられるものにまとめている。
要は、聴いていて確かにおもしろい、ということだ。
各プレイヤーの力量は並々ならぬものがある。
複雑怪奇なスコアを再現する力と、爆発的な即興に興じる力を兼ね備えたツワモノどもが、揃っている。
マイク・ジョンソンは、あまり語られないが、現代ロックにおける優れたギタリストの一人だと思う。
デイヴ・カーマンの参加やデボラ・ペリーという歌い手を共有することから、5UU'S と通じるイメージもあるが、どちらかといえば、かのグループのような破壊的なダイナミズムよりも、複雑なアンサンブルや音響効果によるクラシカルな構築性が特徴的である。
アコーディオンやハーモニウム、管楽器、ピアノによる重厚さ、ペーソスの演出も、破壊的な展開の中で、みごとに効果をあげている。
製作においても、きわめて綿密な編集作業が行われているようだ。
捻じれ、折れ曲がり、膨れ上がるかと思えば、瞬く間に霞の如く掻き消え、降り注ぎ、干上がり、歌うかと思えば、血を吐いて絶叫する。
そして、これだけ音楽的な挑戦をしながらも、ギター、ベース、ドラムスがガッツのある音を叩きつけることでロックのシンプルなカッコよさから一歩も退いていない、そこがまたいい。
気味が悪く、ややこしく、エキセントリックだが、ロックの芯は屹立している。
1 曲目は、ポリリズミックな変拍子反復パターンで迫る、美しくも緊張感あふれる傑作。
ジョンソンのギターが冴え、往年の KING CRIMSON にコケットな女声が加わったような内容だ。
4 曲目は、超絶的なギターとアコーディオンが印象的な民族音楽風の作品。
6 曲目のような作風は、レコメンやシンフォニックといったキーワードにはとどまらない音楽性を示している。
超絶的なギター・プレイやハードに攻める場面以上に、抽象的なピアノ/管楽器のソロや神秘的な場面が印象的。
8 曲目は、ライヴによる無伴奏サックス・ソナタと思いきや、ノイズが渦巻く PINK FLOYD 的な世界へ。
拍手はせせらぎに変わり、群れなす怨霊のうめきやら電子のささやきやらが、宇宙を埋め尽くす。
ある意味古典的な作風だが、力作であることは確か。
一方 11 曲目の大作は、いかにもこのグループらしい強圧的で攻撃的なチェンバー・シンフォニック・ロックの傑作。
現代音楽ファンにはお薦め。
ドラムスのデイヴ・シャムロックは、SLEEPY TIME GORILLAMUSEUM のメンバーでもある。
「Blown Apart」(8:33)
「Consolamentum」(3:57)
「Rapture Of The Deep (For Leslie)」(5:59)
「Gúdamy Le Máyagot (An Phocainn Theard Deig)」(2:51)
「Marching AsTo War, No. 1 (Featuring The Ladies Senior Piano Crusade)」(1:20)
「Our "Way Of Life" And "War On Terra"」(5:21)
「Marching, No. 2」(0:38)
「Least Aether For Saxophone & Le Gouffre」(8:52)
「The Underground Stream」(5:57)
「Marching, No. 3」(0:45)
「Lux Lucet」(9:31)
「Marching, No. 4 - Reverie For The Children」(1:00)
(CUNEIFORM RUNE 180)
Mike Johnson | guitars | Elaine Di Falco | voice |
Mark Harris | sax, clarinet | Kimara Sajn | drums, & keyboards |
Dave Willey | bass | ||
guest: | |||
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Robin Chestnut | drums on 5 | Kaven Rastegar | bass on 1 |
Dexter Ford | bass on 5 |
2011 年発表のアルバム「Decline And Fall」。
ヴォーカリストが元 CAVEMAN SHOESTORE/HUGHSCORE の魅惑のアルト、エレイン・ディ・ファルコに交代。
内容は、スリムな編成による、アトーナルで、不協和音、機械的反復、変拍子/ポリリズムを生かしたレコメン・シンフォニック・ロック。
デリケートなのに鳥肌を立たせるような木管楽器の調べをギターのヒステリックなリフと凶暴極まるベースの轟音が支え、気まぐれな殴打のようなドラム・ビートとピアノのストロークがダイナミックなアクセントをつける。
そして、ギターと管楽器による目の回りそうなポリフォニー。
即興演奏も一部あるとは思うが、基本的にはスコアが存在し、アンサンブルを重視した作風になっていると想像する。
演奏面での特徴は、リフにせよコードワークにせよギターのフレージングのキレがよく管楽器といい呼吸で絡む(文字通り絡みあう)こと。
また、折れ線グラフが高速でカクカクと折れ曲がってゆくようにギクシャクしたレコメン調で唯一きっぱりと真っ直ぐ進むのが、ヴォーカルと白黒映画のサウンドトラックのようなメロトロン・ストリングスの迸りである。
特に、ストリングス系キーボードの何もかもを押し流すような響きには音楽としての説得力がある。
そして、ピアノの重量感ある音がアンサンブルの重心を取るかのようにうまく機能している。
緩やかなのに運動神経がよく、少し変態的なアンサンブルは、レコメン GENTLE GIANT といってもいいかもしれない。(唐突なエコーや定位の変化もそれっぽい)
個人的にこの手の音楽に大分慣れてしまっていて気づきにくくなっているが、初めての方には、ロック・バンドなのに木管楽器がウネウネととぐろをまくところはかなり新鮮なはず。
突っかかるような独特のタイム/リズムでフレーズの断片をばらばらとふりまき続ける演奏は、壊れた機械の発するモールス信号か発狂したラジオ放送のようで初めはかなり衝撃的だが、ディ・ファルコ嬢のクールなヴォイスを足がかりに、このグループの音楽の奇妙な居心地の良さを知ってほしい。
5 曲目「The Gyre」は、緊張感あふれるエレクトリック・チェンバー・ロックの傑作。
「パンク気味のカンタベリー」または「不協和音のみの YES」と思って聴くといろいろと発見があると思う。
タイトルはイヴリン・ウォーの小説から?
「Mathubian Dances」(6:36)
「I Cannot Fly」(8:34)
「Sleeper Cell Anthem」(6:10)
「A Virtuous Man」(11:45)
「The Gyre」(4:42)HENRY COW 直系の佳作。
「Climbing The Mountain」(8:38)ロックな力強さのある佳作。
(CUNEIFORM RUNE 320)