BRAINCHILD

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BRAINCHILD」。A&M からの唯一作で知られる。ブライアン・ウィルショーのみがデヴィッド・ボウイの作品で見かける名前である。

 Healing Of The Lunatic Owl
 
Harvey Coles bass, vocals
Bill Edwards guitars, vocals
Dave Muller drums
Chris Jennings organ, piano
Brian Wilshaw sax, flute
Lloyd Williams trumpet
Ian Goss trombone
Pat Strachan trombone

  70 年発表のアルバム「Healing Of The Lunatic Owl」。 内容は、トランペット、トロンボーン、フルートら管楽器セクションをフィーチュアしたブラス・ロック。 ソウルフルで熱苦しいヴォーカルによるきわめてセンスのいい歌メロと器楽のおりなす凝った展開をともに活かした力作である。 ブラスのアレンジや目まぐるしくも詩情豊かな曲展開など、明らかに CHICAGO を意識しているようだ。 しかし、製作のせいか、はたまたサイケな 60 年代タッチのせいか、全体にやや B 級感がある。
  リズム・セクションはストレートなビートを安定して打ち出しており、ジャズ、ロックを融通無碍に行き交えるセンスの持ち主。 そして、クリス・スペディングばりの才気煥発ギタリストとオルガンで渋くアンサンブルを締める鍵盤奏者は、ワイルドな音で押し切りながらもテクニシャンであることがよく分かる。 ブラス・セクションはさすがに第一の特徴だけあって、本家に劣らないダイナミックかつしなやかなプレイを見せる。 硬派でアヴァンギャルドな攻めの音とロマンティックなタッチがいい感じでブレンドしているのだ。 このブラスに加えて、妙に玄人風のリード・ヴォーカルが冒険の果てに疲れてダウナーに弛緩しそうになる瞬間をとらえて、演奏の息を吹き返させている。 そして、いわゆるプログレッシヴ・ロック・グループに欠かせない特徴である、個性的なリズム・セクションの存在。 ベース、ドラムスともに音数が多く多彩なプレイを見せる。 しかしながら、テクニック主義といった感触は皆無であり、同時期の英国ジャズロックものと比べると、ぐっとポップでこなれたイメージが強い。 晦渋で偏屈な展開を忘れさせるほど、爽快なイメージがある。 つまり、初期 CHICAGO の作品がかなりアヴァンギャルドな内容をもつにもかかわらず、メロディがいいために聴きやすいのと、よく似た状況である。 ヴォーカル・ハーモニーもなかなかいい。 個人的には、CHICAGO と同じく、ブラス・セクションがあたかも次の大波を待ち受けるかのように、水平線をイメージさせるなめらかなユニゾンでおだやかに歌うシーンがとても気に入っている。 大時代なエコーによるサイケデリック・チューン、前衛的なブラス・ジャズロック、繊細過ぎるフルートを活かしたバラードなど、曲調はきわめて多彩だ。
  プロデュースはレニー・ライト。同じ管楽器をフィーチュアした WEBSAMURAI のプロデューサーでもあるが、本作は SAMURAI と比べると格段にポップであり、屈折したイメージは少ない。個性的過ぎないヴォーカリストに負うところは大である。

  「Autobiography」(3:35)オープニングは、マカロニ・ウェスタンかカンフー映画のサントラのように強烈なエコー。 ソウルをベースにフォーキーなメロディ、ジャズやブルーズ・ロックのニュアンスまでも交えたブラス・ロック。
  「Healing Of The Lunatic Owl」(5:05)タイトルチューンは、キャッチーかつドラマティックなブラス・ロック。 CHICAGO ばりのスタイルでリリカルに熱くチャレンジングに迫る。 ブラス・セクションのプレイは大胆にしてポップの練達。 ソフトにして切れもあるメロディ・ライン、ヴァースのバラード風とコーラスのクールな TV ドラマの OP 風の鮮やかな対比、間奏部の大胆な展開もイイ。
  「Hide From The Dawn」(6:50)60 年代の埋み火のようにブルージーで怪しいジャズロック。 けだるいミドル・テンポが運ぶ虚脱したムードは英国ならではのもの。 存在感を放つギターのオブリガート。 GENTLE GIANT ばりのマドリガル風ハーモニー表現や大胆なアドリヴにスペースを取っている。
  「She's Learning」(4:13)

  「A Time A Place」(8:55)トーレ・ヨハンソンも随喜の涙を流す歌謡曲ビッグバンド・ジャズロック。 ソフト・ロック、ラウンジ・ファンにも訴える。 終盤の腰の入ったソロつなぎもカッコいい。
  「Two Bad Days」(3:55)
  「Sadness Of A Moment」(4:08)アコースティック・ギターの響きとフルートの調べが乾いた秋風に舞う哀愁の歌もの。 こういう作品が R&B を生地にするアルバムにすっと収まっているところが英国ロックの懐の深さである。
  「To "B"」(3:52)ライヴでの暴れっぷりが想像できる、アヴァンギャルドかつ痛快な作品。
  
(AMLS 979)


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