スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「CAI」。 スペイン南端カディス出身。 78 年俊才セバスチャン・ドミンゲスを中心に結成。 81 年解散。 作品は三枚。 ドミンゲスは現在ジャズ・ミュージシャン。
Sebastian "Chano" Dominguez | keyboards, strings |
Diego Fopiani | drums, vocals |
J.A. Fernandez | vocals |
Jose Velez | bass |
Paco Delgado | guitar |
79 年発表の第一作「Más Allá De Nuestras Mentes Diminutas」。
その内容は、神秘的でエネルギッシュなシンフォニック・ロック、ジャズロック。
エレクトリック・キーボードの生み出す幻想味豊かな音空間を、フラメンコのメロディとアンダルシア風のダイナミックなビートが切り裂いてゆく、スリリングでドラマチックな音楽だ。
濃厚なスパニッシュ風味をおりまぜて、ジャジーで躍動的な「動」と瞑想的、夢想的な「静」を行き交う。
ふと気がつけば、フュージョン・テイストも、そもそもジャズやロックにラテンの熱気と細やかなビートを持ち込んで仕上げたもの。
だから、本末転倒、つまりこちらが原点である。
本作の魅力としてまず上げられるのは、いわゆるスペイン、カスティーリャ風のエキゾチズムである。
しかし、その吸引力は、ジプシー・ダンス、アルハムブラ宮殿、朱色の塔をイメージさせる異国情趣だけに留まらない。
それは、各パートの勢いと技巧が生む明快な「色」である。
ラウドなリズム・セクション、ジャズロックからクラシックまで、またバッキングからソロまで、縦横無尽のスタイルとプレイを放つキーボード、ジャジーなまろやかさとシルクロードを介して撥弦楽器の故郷となったスペインの息吹をたっぷり吸ったエモーショナルなギター・プレイといった明快で主張のあるプレイによって、ダイナミックかつ雄渾なる筆致でキャンバスに自信たっぷりに物語を描いている。
本作の大いなる魅力はこれだ。
別の見方もある。
つまり、シンフォニック・ロックは、クラシカルなポリフォニーにジャズ的なソロの敏捷性とロックのパワーを叩き込んだ音楽の理想の一つと思うが、本作のたどりついた地平で、初めてその点睛を得たといえる。
それはフラメンコ、ラテンの「歌」である。
ギター、キーボードによるアンサンブルを中心とした情熱的でカラフルな作風は、ヘヴィなロックから流行りのジャズへの接近という意味で CAMEL に近い(ストリングス・シンセサイザーとフェイズシフタの音が「Moonmadness」、「Rain Dances」を思い出させる)。
違いはフラメンコ色。
ギターのプレイがやや安定を欠くなど、文句をつければいろいろあるのだろうが、未熟さと可能性は紙一重である、という気持ちの方が強くなる。
これだけカッコよく一つのイメージをまとめあげているのだから当然だ。
ジャズロック、シンフォニック・ロックをスパニッシュなメロディでまとめあげたインストゥルメンタル主体の傑作。
ストリングス・シンセサイザーを用いて SF 的幻想味と叙情性を生む A 面に対し、B 面では興に乗った EL&P ばりのファンキーなムーグ、ハモンド・オルガン・ソロからドラム・ソロまでが堪能できる。
全体にジャズロック系プログレ度合いは ICEBERG の第一作、中期 RETURN TO FOREVER といい勝負です。
2008 年ようやく CD 化。題名は「我らの小さき心を超えた先に」の意味。
「Alameda」(9:24)キーボードをフィーチュアしたファンタジックなスパニッシュ・ロック。
エレクトリックなサウンドを濃厚なフラメンコで貫いた力作。終盤はシンセサイザーとギターのリードで攻撃的でエネルギッシュな演奏になる。
「Más Allá De Nuestras Mentes Diminutas」(7:24)RETURN TO FOREVER を緩めにしたようなシンフォニックなジャズロック。エキゾチックな哀愁の味わいはほんもの。ソリーナらしきストリングスは水浸しになるほど活躍。
エレクトリック・ピアノをフィーチュアしたファンキーなノリのパートも。
「Solucion A Un Viejo Problema」(6:14)パストラルなイタリアン・ロック風の歌もの作品。アルペジオのバックでさりげなく流れるエレクトリック・キーボードの音がいい。終盤、唐突にリズム・セクション主導のアドリヴへ。
「Pasa Un Dia」(10:43)スペイシーで疾走感もある作品。気まぐれなアドリヴも交えつつ、宇宙旅行は続く。
(LC 001)
Diego Fopiani | drums, percussion, vocals |
Jose Fernandez Mariscal | guitar |
Francisco Delgado Gonzalez | guitar |
Sebastian Dominguez Lozano | keyboards, piano |
Jose Velez Gomez | bass, vocals |
80 年発表の第二作「Noche Abierta」。
内容は、ツイン・ギターとオルガン、ムーグ/ストリングス・シンセサイザーを多用した歌ものフラメンコ・ロック。
ギタリストはメンバー交代し、確実にレベル・アップ、小気味よいリズム・セクションを活かした躍動感とファンタジックな広がりやメロディアスな表現が結びついて、明快で心地よい演奏になっている。
スペイン情趣あふれるメロディや歌を軸にした演奏なので、当時のポピュラー音楽のメイン・ストリームの一つであった、RETURN TO FOREVER 風のスパニッシュ・テイストあるフュージョン・ミュージックとうまくオーヴァーラップしている。
ローカルなスペイン風味がかえって英国やアメリカの音とそん色ないポップスに聴こえさせているというところがおもしろい。
実際演奏は、民族臭さも演出に思えるほどに切れがあり安定している。
透明感あるヴォーカル・ハーモニーに象徴されるように、いわゆるスパニッシュな泥臭さをソフトで洗練されたタッチが凌駕しているのだ。
そして、クラシカルなキーボードがアクセントにきっちり入っており、シンフォニックに高まる場面も多い。
明晰かつカラフルなキーボード・ワークが CAMEL を思わせるところもある。
技巧あり曲よしのスペイン筆頭格といえるだろう。
次作では、さらにポップス感覚が横溢するそうだが、それもむべなるかなである。
このセンスならポップになっても変らずよいでしょう。
流れるようなフレージングのツイン・ギターとリリカルなピアノのコンビーネーションも冴えている。
息を呑むようなブレイクからすっと立ち上がるキーボードのプレイがチック・コリアに聴こえるところもあり。
7 曲目は CAMEL か GENESIS かといったファンタジックなインストゥルメンタル。
CD は第三作との 2in1。
「Sone Contigo」(3:45)シンセサイザー、チャーチ・オルガンによる荘厳なオープニングが印象的なスパニッシュ・ロック。
ツイン・リードがみごと。
典雅なアコースティック・ピアノもフィーチュアし、キーボードが充実。
「Despertar」(4:30)哀愁あふれるスパニッシュ・ロック。ムーグのオブリガートがいい。
そして、泣きのハーモニーとフラメンコ調ながらも暖かみあるギター。後半の光が差し込むようなメジャー・コードの響きが新鮮だ。
日本の昭和歌謡に近い。
「Alegrias De Cai」(5:00)キュートなフュージョン・タッチながらも軽やかでスペーシーなムーグ・シンセサイザーがプログレ心をくすぐるアップテンポのインストゥルメンタル。
「Noche Abierta」(4:02)ファズ・ギターと丸っこいオルガンによるスパニッシュなテーマ、濃厚なヴォーカルによるフランメンコ・ロック。タンボーラも鮮やかなスパニッシュ・ギター・ソロもあり。ドラムスはさりげない名手であり、アンディ・ウォードばりの手数がみごと。
「Extrana Seduccion」(6:29)官能的な歌ものフュージョン。
軽やかなギターと幻想的で耽美なキーボードの交錯がやがて情熱の国の夜のさざめきと悩ましき夢へと誘う。
エレピを主にキーボードがフィーチュアされる。なめらかさと小刻みな運動が心地よくとけあう。
「La Fabula」(3:47)哀愁のバラード。
アコースティック・ギター弾き語りのメイン・パートにギター、シンセサイザーによるメロディアスなソロ、デュオがはさまる。
間奏の後半のクラシカルなキーボードがフォーク・タッチから曲調をシンフォニックに変化させるところに注目。
「La Roca Del Diablo」(7:59)フルート/オーボエを思わせるムーグ、ざわめくように広がるストリングス、柔らかなギターのアルペジオがそれぞれに湧き上がり、やがて着実なビートとともにアンサンブルが前進し始める。
テンポの変化、メロディアスなトゥッティ、ソロを重ねながら、豊かな情感とイメージを紡ぎだす。
インストゥルメンタル。
コンパクトでリズムの効いたナンバーが多いなかでは、非常に叙景的な曲調は異色だが、あたかも GENESIS がスペイン風になったような、きわめて充実したシンフォニック・ロックである。
傑作。
(EPIC FR 1000 / SME SPAIN 480926 2)