オーストラリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「CHETARCA」。72 年結成。 作品は一枚。ベーシストは MEN AT WORK に参加。
John Rees | bass, violin |
Jeff Gallent | drums, percussion |
Andrew Vance | keyboards, vocals |
Paul Leaver | lead vocals, harmonica, tambourine |
Bruce Bryan | synthesizer |
75 年発表のアルバム「Chetarca」。
内容は、キーボードとヴォーカルを軸にドラマティックなアレンジをふんだんに散りばめたブギー/ロックンロール。
ギターレスの編成をリードするキーボードは、ワイルドなオルガン、奔放だが下品にならないキース・エマーソン直系型ピアノ、意外なまでにスペイシーな演出が映えるシンセサイザーなど。
それらを用いて、クラシックからジャズ、ホンキートンクにわたる幅広いセンスを目まぐるしく駆け巡っている。
一方、ブルースハープも駆使する暑苦しくもプロっぽいヴォーカルは、プレスリーなど 50 年代のロカビリーのスタイルからの影響が大きそうだ。
また、しなやかで饒舌なベース・ライン、手数の多いドラムスは、テクニカルなイメージをもたらしている。
ノリノリのロックンロール調と AOR 調になったときのチャートインも夢ではないメロディ・ラインから、オールディーズやチャート・ポップスといったニュアンスが強く感じられるが、演奏そのものと曲の展開はふつうのポップスの範囲をかなり逸脱している。
オブリガートや間奏部で自由かつスケールの大きなキーボード・プレイを誇示して楽曲の枠組みを揺るがせたり、正統クラシックどころか唐突に現代音楽的で難解な雰囲気を漂わせるなど、大胆なアレンジが幅を利かせている。
ぶっ飛んだ即興や頑迷で怪しいオスティナートもたくさんある。
これは、ギタリストのようなリードの対抗馬が不在のためにキーボーディストの演奏スペースが拡大し、暴走を止められないことによる。
また、独特のせわしなさは、キーボードのレガートに流れるフレーズにエッジとビート感を盛り込むためにドラムスが必要以上に音を入れ込むことによる。
EL&P をはじめ、トリオで音数に限界がありそうなイメージを払拭するためにあえて音数勝負に出るという、キーボード・トリオ編成にありがちな現象だ。
しかし、そういったキーボード・プログレのエキセントリックな面と、ヴォーカルやメロディ・ラインのロケンローな人懐こさ、頭悪さ、AOR 的なメローさとが、いいバランスを取っている。
こういうキーボード・ロックはかなり新鮮だ。
75 年辺りのメインストリームで洗練されつつあったロックに無理矢理三年ほど前のプログレ・ノリをぶち込んだといってもいいだろう。
オルガンやピアノの表現には、キース・エマーソン的な豪腕近現代クラシック・スタイルに加えて、ARGENT や PROCOL HARUM のようなストレートなブルーズ・フィーリングやポップス・テイストもある。
そういう点からも、基本的な立ち位置はブルージーなロックンロールなのだと分かる。
プロデュースはイアン・ミラーとブルース・ブライアン。
「Death Of Rock & Roll Singer」(6:58)ロックンロールだが、よく聴くとあちらこちらでキーボードが弾けまくっている。
「Another Day」(8:28)シャフル・ビートのロケンロー。
「Diary」(7:16)やや AOR っぽいが、弾き倒しピアノで圧倒する。
「Chetarca」(7:46)疾走するジャジーで男臭いロックにクラシカルなキーボードが盛り込まれた佳品。ブルースハープはサックスばりの熱いプレイを見せる。
「The Ocean Suite」ピアノのオスティナートなど、かなり EL&P を意識か。
やたらと荒ぶるドラムス、リード・ベースによる忙しない演奏とエコーが深いメロディアスなメイン・ヴォーカルの組み合わせがまた独特である。
70 年位の英国折衷ロックに通じるやや古めかしいイメージも。
「The Sea」(8:32)リズミカルな東洋風のリフとドリーミーなヴォーカルが交差し、ピアノが無茶苦茶なインプロで暴れる。
EL&P なら「未開人」。
基本はピアノ・ロックンロール。
「Wet Suit」(9:42)オルガン、シンセサイザーと饒舌なベースで攻め続けるジャジーなインストゥルメンタルとけだるく夢見がちな歌ものから構成される組曲。
キーボードがスケール練習っぽい。イタリアン・ロック的な遠慮会釈のなさ。疲れ知らずの一本調子のテンション。
「Fisherman's Nightmare」(5:52)倍速「軽騎兵序曲」のように忙しない作品。中期 RETURN TO FOREVER や MAHAVISHNU ORCHESTRA と共通する極度の忙しなさが生み出すスリル。
ヴォーカル・パートでテンポを落とすが、オブリガートや間奏で間髪いれずにギアを上げる。
「Crystal Rainbow Logo」(1:10)
(600020 / PP111)