イギリスのフォーク・グループ「FOREST」。66 年結成。 作品は二枚。 眩く妖しくきらめくアコースティック・サウンドとメランコリックな抑揚のあるメロディ・ラインが特徴。 HARVEST レーベル。
Martin Welham | 12 string guitar, organ, harmonium piano, pipes, percussion |
Derek Allenby | mandolin, harmonica, pipes, harmonium, percussion |
Hadrian Welham | guitar, harmonica, pipes, cello, electric harpsichord |
harmonium, percussion, organ, mandolin |
69 年発表の第一作「Forest」。
内容は、踊るようなメロディ・ラインと溌剌と弾ける演奏がおりなすマジカルな抑揚が特徴のトラッド+エキゾチズム折衷様フォークソング。
中世の牧歌調、宮廷音楽、教会音楽などをよみがえらせて、当代のサイケデリック・タッチで仕上げている。
止むことなくかき鳴らされるアコースティック・ギターの素朴なきらめきの中で、ユーモラスな脱力系ヴォーカルと透明感あるハーモニーが、気まぐれな風にゆれる草花のようにふわふわと優雅に舞う。
テンポは酔っ払いの歩みのように揺らぎ、アンサンブルはキレはあるのにメロディ・ラインのおかげでどこか調子っぱずれ。
それでいて音楽にはユーモアを超えた、あたかも春のそよ風のような暖かみとデリカシーがある。
残響はあるのに奥行きが無い録音もこの作品には合っている。
クレジットされていないが、メンバー三人がそれぞれヴォーカルやコーラスを取り、独特のヘタウマ・ハーモニーを構成する。
頼りないリード・ヴォーカルとハーモニーはいつしか魔術的、呪術的な響きを生んでいく。
ヴォーカリストの一人(第二作のヴォーカル・クレジットから判断するに、マーティン・ウェルハム)は、そのヨレた歌唱からしてロビン・ウィリアムソンを研究しているようだ。
というか、このグループはそもそも THE INCREDIBLE STRING BAND の強い影響を受けている。
ただし彼のグループのキツ目のユーモア感覚や型破りなスケールよりも、主としてマジカルで気怠い白昼夢的な雰囲気を参考にしている。
そして、そういう雰囲気と自然な品のよさ、ピュアさが意外なほどに技巧的な器楽演奏と混じりあって、いい味わいを醸し出していると思う。
トラッド風味もあるが、自然主義文学的なペーソスよりも田舎のお祭り風の陽気さと草むらでの転寝の呑気さが表現されている。
花粉症の果てにラリってしまうとこういう境地に達するのかもしれない。
また、時おり マイナー 7th のようなモダンな響きが現れてドキッとさせられる。
この辺の意外なしかけ、アレンジもうまいと思う。
そして、器楽はじつに多彩だ。
オルガン、パイプ、チェロ、ハーモニカ、パーカッションらが、ハーモニーとアコースティック・ギターの弦を弾く音のテクスチャから自らを際立たせ、生地を巧みに補いまた引き立てている。
しみるような爽やかさとぽってりした微熱のアンビバレントなブレンドが魅力の一枚である。
荒削りの輝きがあります。
ちなみにグループの出身地、リンカーンシャーのウェールズビーという町は「森」が有名なんだそうです。
プロデュースはグループとアンドリュー・キング。
「Bad Penny」(2:38)
「A Glade Somewhere」(3:08)
「Lovemaker's Ways」(3:23)
「While You're Gone」(2:30)
「Sylvie(We'd Better Not Pretend)」(3:49)
「A Fantasy You」(2:46)
「Fading Light」(4:27)
「Do You Want Some Smoke?」(2:55)
「Don't Want To Go」(6:50)
「Nothing Else Will Matter」(4:10)
「Mirror Of Life」(4:43)
「Rains Is On My Balcony」(4:24)
(HARVEST SHVL 760 / BGOCD236)
Martin Welham | 12 string guitar, guitar, vocals, piano, violin, whitsle |
percussion, harmonium, electric harpsichord | |
Derek Allenby | vocals, harmonica, mandoline, whitsle, percussion, harmonica, |
Hadrian Welham | violin, bass, vocals, guitar, cello, percussion, whitsle |
Gordon Huntley | steel guitar |
70 年発表の第二作「Full Circle」。
本作では、ヴァイオリン、エレクトリック・ベース、スチール・ギターなど、さらに多彩な楽器が導入されている。
1 曲目、2 曲目(リード・ヴォーカルはアドリアン)を通して感じるのは、音楽が時代を大きく下って現代に近づいたこと。
中世風の長閑さ、能天気、夢語りが特徴だった作風から、より現実、今に近いリアルな憂鬱さや夢の描写へと表現が変化していると思う。
ファンタジーというのは郷愁を必ずはらむものなので、8 曲目のようなファンタジーの手触りも、時代を下って振り返ったからこそ浮かび出ているのだろう。
(とすると、前作で感じられたサイケデリック・テイストの「サイケデリック」とは、薬物の力を借りつつ時代を遡って郷愁と同質の味わいを人工的に生むための一種の魔術なのかもしれない)
3 曲目、マーティンの歌う作品でも、その歌唱は、前作のようなロビン・ウィリアムソンばりの「変な歌」ではない。
伸びのある声質を活かして、素直なメロディを歌い上げている。
サイケデリックな衒いや揺らぎを抑えて、まとまりのあるアンサンブルとメロディアスな歌唱でもってポップスのフィールドでのトラッド・フォークの存在意義を堅実に訴えているのだ。
アコースティック・ギターのオーセンティックなプレイや鍵盤楽器やヴァイオリンによるクラシカル・テイストも真っ直ぐに提示されている。
一方、器楽全体はまとまっていて小気味いいが、突き抜けたきらめきというか冴えがないように感じてしまうのがまた不思議である。
前作では、「変な歌」だったからこそ「テキトーな器楽」と結合して神秘的な作用の果てに妖しい魅力が出ていたのかもしれない。
ごちゃごちゃでサイケデリックなアクの強さが薄れて音が整理され、耳にやさしくなった分だけ、本作では輝きがやや曇ってしまったとすれば、なんとも皮肉な、残念なことである。
もちろん、そういう思いをリセットして慎重に耳をすませば、素朴でほのかにユーモラスなフォーク・ソングたちの味わいはじわじわとしみてくる。
逆に、怪しいアレンジがマトモさの中に散らされた分、初対面で気づかなかった魅力に次第に惹かれてくるということもありそうだ。
インパクトの強烈さから奥深く入り込むのに苦労する前作と比べると、繰り返しのリスニングによってドンドンしみこんでくるタイプの作品なのだ。
全編通じて、アドリアンの進境が著しい。
1 曲目でスチール・ギターを奏でるゴードン・ハントレイは MATTHEWS SOUTHERN CONFORT のメンバー。
このプロフェッショナルなスチール・ギターのおかげで 1 曲目は西海岸風のモダンなイメージが出ているが、それを思い切り打ち消すのが、ヴァイオリン・デュオのあまりの危なっかしさである。
こういうヴァイオリンでも加えてしまおうと考えるあたりの大胆さは、第一作とかわらない。
7 曲目のようなテンポに気まぐれな揺れがあるところが、このグループの作風の魅力の一つである。厳かさと不真面目さが表裏一体となっている。
8 曲目、9 曲目では、リコーダーのアンサンブルがえもいわれぬ侘しさを醸しだしている。
プロデュースはグループとマルコム・ジョーンズ。
「Hawk The Hawker」
「Bluebell Dance」 マンドリンのトレモロが印象的。
「The Midnight Hanging of A Runaway Serf」
「To Julie」12 弦ギターと 6 弦ギターのデュオによるインストゥルメンタル。苦味のある 2 度の響きが独特。
「Gypsy Girl & Rambleaway」弾けるようにリズミカルなバッキングとうねる歌唱によるトラッドらしい作品。
「Do Not Walk In The Rain」ピアノとアコースティック・ギターが伴奏するビート感のある作品。ロックの原石。終盤の不良っぽいインストもカッコいい。
「Much Ado About Nothing」マンドリン伴奏による昔語り風の作品。
タイトルはシェークスピアの有名な「から騒ぎ」より。
「Graveyard」リコーダーとチェロが支えるクラシカル・タッチのトラッド作品。
スタカートで跳ねる伴奏とレガートな間奏の対比が冴える。ギターもクラシカルに迫る。
「Famine Song」
「Autumn Childhood」
(HARVEST SHVL 784 / BGOCD236)