イギリスのサイケデリック・フォーク・グループ「THE INCREDIBLE STRING BAND」。 66 年結成。74 年解散。99 年再結成。作品は十三枚。 個性的(変な)なヴォーカルと民族(変な)楽器を駆使した元祖(変な)無国籍フォーク・グループ。 このグループが何より好き、という方はわたしと友達になれると思います。
Robin Williamson | flute, guitar, drums, vocals, oud mandolin, rattles, bass gimbri |
Mike Heron | guitar, harmonica, vocals |
John Hopkins | piano |
Licorice McKechnie | finger cymbals, vocals |
Soma | sitar, tamboura |
Danny Thompson | bass, contrabass |
67 年発表の第二作「The 5,000 Spirits or the Layers of The Onion」。
トリオの一角であったクライヴ・パーマーが脱退、ゲスト・ミュージシャンのサポートを得て発表した作品である。
内容は、英米トラッドを基調にサイケデリック・ムーヴメントの影響を反映した個性的なフォーク・ロック。
東西アジアの楽器の導入やアートワークに典型的なサイケ調が現れている。
アルバム・タイトルから分かるように歌詞も相当トリップしている。
自由奔放さと如何わしさ、乾いた無常感とユーモアが横溢する作風である。
なお、1967 年は THE BEATLES が「Sgt.Peppers Lonely Hearts Club Band」を、THE MOODY BLUES が「Days Of Future Passed」を、PINK FLOYD が「The Piper At The Gates Of Dawn」発表したポピュラー音楽の革命の年である。
プロデュースはジョー・ボイド。
「Chinese White」(3:34)
素朴な響きのアコースティック・ギターの和音のイントロからギンブリ(北アフリカのリュートのような撥弦楽器。
二、三本の弦でフレットレス。
ドラム型のボディ)のエキゾチックでにぎやかな演奏が始まる一方ヴォーカルは落ちついた詠唱風のスタイルである。
長閑な雰囲気。
繰り返し毎に絶え間ないギンブリの伴奏で次第に盛り上がってゆく。
やがてコーラスが加わりほんのりエキゾチックな表情が現れる。
そしてクライマックスであるサビはアカペラ・コーラス。
トリルのように語尾を波打たせる歌唱がとても不思議な味わいだ。
アコースティック・ギターによる古楽風の落ちつき、ギンブリのエキゾチックでにぎやかな音色、ヴォーカル・メロディの幻想的な雰囲気。
この三つが巧みに交差しお伽の国の音楽のようなサウンドを成している。
ヘロンのヴォーカル。
「No Sleep Blues」(3:48)カントリー風のアコースティック・ギターによるブルージーにして軽やかな演奏とフルートの枯れた響きで始まる。
ディラン風の語り口はクール。
ギターとヴォーカルのユニゾンと時おり入るフルートが古楽のイメージを強める。
さらにサビではしなやかなコーラスが加わりいかにもカントリーらしい調子よさが出る。
ファルセットやヴィブラートを用いた歌の表現にアメリカンなブルーズ感覚とアジアンなエキゾチズムがともに感じられる。
歌詞はほとんど冗談だ。
カントリーとブルーズのミックスにインド風の香辛料をふりかけた作品。
全体を通じてドライヴ感がありいい聴き心地だ。
ウィリアムソンのヴォーカル。
「Painting Box」(3:58)二つのアコースティック・ギターによるもつれ合うように巧みな重奏のイントロ。
ヴォーカルは優しくも落ちつきと芯がある。
低音でメロディを刻み高音で踊るようなフレーズを奏でるギター。
サビではマケックニーもコーラスで加わり素朴さと可愛らしさが強調される。
トラッド的なシャープなギター・プレイが冴えヴォーカルとのコンビネーションもみごとだ。
「心に絵の具箱が合ってどんな色でもあるけど最近は君色ばっかりさ」という歌詞も素敵なストレートかつロマンチックである。
ヘロンのヴォーカル。
名曲。
「The Mad Hatter's Song」(5:35)シタール、タブラの響きが印象的なイントロ。
続いてヴォーカルは揺らぐようなメロディ・ラインを歌いだす。
まるで異教の呪文のようだ。
ヴィヴラートしながら延々と音を伸ばすヴォーカルは眠りを誘うマジカルな響きを持っている。
シタールとユニゾンするところは完全にインド音楽風。
なかなかのトリップ具合だ。
再びシタールと美しいユニゾンしたかと思うといきなりヴォーカルのリードでカントリー・ウェスタン風のホンキートンク・ピアノが入ってくる。
ピアノとベースに合わせてブルーズが始まり雰囲気は一変する。
ブレイクを経て再びシタールとともに伸びやかなインド風の歌が始まる。
シタールがざわめく。
アコースティック・ギターがリズムを刻み始め歌メロはインド風からトラッドへと変化する。
ギター伴奏でソフトなフォーク・ソングが続くも歌の最後で不思議なヴィブラートがうねりだし再びシタールがインドの空気を持ち込んでそのまま終わり。
インド、カントリー、トラッドと様々なスタイルをヴォーカルがごく自然に紡いだ摩訶不思議なナンバーである。
このグループらしいプログレッシヴでサイケデリックな名曲だ。
ウィリアムソンのヴォーカルはこういう曲に本当によく合う。
Mad hatter はアリスのティー・パーティの「キチガイ帽子男」。
「Little Cloud」(3:52)アカペラ・コーラスがややクラシカルかつメランコリックな調子でひとくさり歌う。
一転調子のいいアコースティック・アンサンブルが始まりパーカッションのビートにのってヴォーカルも軽快に変化する。
サビの直前でコーラスとともに少し沈み込みサビでは童謡のような明朗なスキャットで決める。
単純な繰り返しだけの曲だが「可愛いちっちゃな雲」のお話が面白い。
セサミ・ストリートか東京キッズクラブ向けである。
このような愛らしい曲においてもアコースティック・ギターとヴォーカルのコンビネーションは抜群の切れ味をもつ。
ヘロンのヴォーカル。
「The Eyes Of Fate」(3:56)トラッド、古楽の香りのするエキゾチックなヴォーカル・メロディ。
自由に舞う歌を静かに支えるアコースティック・ギターの調べ。
リズムは生まれそうでなかなか生まれない。
ようやく「Ory Ory Ory」という呪文のようなコーラスとともにリズムが生まれるが、再びギターのミステリアスなトレモロを経てフリーな歌へと戻ってゆく。
気まぐれなヴォーカルとギターの交歓のようなアンサンブル。
密やかに美しい。
再び神秘的な浮遊感をもった「Ory」コーラスの響き。
つぶやくようなヴォーカル。
グレゴリオ聖歌や古楽、アジアの雰囲気などさまざまな音楽の影響が感じられるプログレッシヴなフォーク・ナンバー。
ウィリアムソンのヴォーカル。
「Blues For The Muse」(2:44)歯切れよいカッティングとハーモニカが鮮やかな躍動感あふれるカントリー風の演奏。
サビのコーラスもカッコよく決まる。
アメリカ風の陽気でeasy goingな雰囲気がうまく出ている。
よく通るヴォーカル、ノリノリのアコースティック・ギター、華麗なコーラス・ワークとハーモニカなどさまざまな要素がかみ合った完成度の高い小曲である。
ウィリアムソンのヴォーカル。
「The Hedgehog's Song」(3:26)アコースティック・ギターの叩きつけるようなコードワークのイントロを経て語り調のヴォーカルが始まる。
緩めの弦を響かせるギター伴奏とパーカッションによる素朴なビート。
ヴォーカルは奇妙な田舎訛のような響きのユーモラスな語り口で表情豊かに歌う。
ギターはとてもタイミングがよくヴォーカルに絡む。
やや沈み込んだときの柔らかなコーラスも素敵だ。
ヴォーカルの表情が面白い。
歌詞はおそらく小話のような内容だろう。
「Little Cloud」と同じくお話風のナンバーではヘロンのヴォーカルが活きる。
「First Girl I Loved」(4:51)アコースティック・ギターの軽やかなカッティングとコントラバスが豊かに鳴るイントロ。
歌は切ないメロディながらも泣き過ぎることはなく端正である。
ギターがビートを刻む。
鮮やかなギターのオブリガートそして鳴り続けるコントラバス。
ヴォーカルは高らかに歌いヴィブラートする。
哀しい初恋物語をさらりと歌ってのけてギターとベースが静かに響いて終わる。
リズミカルにしておセンチそして気品ある美しい作品だ。
ウィリアムソンの曲にしてはストレートなラヴ・ソングでありサイケデリックな空気はあまり感じられない。
ギターの手並みが際立つ。
ウィリアムソンのソロ・ヴォーカル。
「You Know What You Could Be」(2:44)遠くに鈍く響くマンドリンを伴奏にフルートがエキゾチックにさえずる。
一転ギターとマンドリンがかき鳴らされマンドリンのトレモロの丸みを帯びた響きとともに調子のいいリズムで歌が始まる。
疾走感のあるギターとマンドリンによるアンサンブル。
そしてサビはコーラス。
間奏はマンドリンとギターのデュオ。
スピーディな伴奏に乗ってヴォーカルも快調に飛ばす。
エンディングはパーカッションとアコースティック・ギターのコード・ストロークとともにフルートが舞い踊るエキゾチックな演奏。
オープニングとエンディングをエキゾチックに彩る工夫が施しマンドリンのトレモロの生むスピード感で一気に駆け抜けるフォーク・ソング。
風を巻いて軽やかに走る心地よさ。
ヘロンのヴォーカル。
「My Name Is Death」(2:42)意味深なタイトルである。
落ちついたアコースティック・ギターの伴奏でヴォーカルが気持ちの揺れるままに自由に歌う。
厳かに沈んだ調子のワンノート・メロディで問いかけると答はまるで祈りを捧げるように美しく歌われる。
メロディは古楽風。
くすんだ中世の空気の色が哀愁をかきたてる。
ヴォーカルがすばらしい表現力を見せるルネッサンス風の作品。
ウィリアムソンのソロ・ヴォーカル、ソロ・ギター。
メロディ・ラインにはグレゴリオ聖歌などの教会旋法の影響を感じる。
「Gently Tender」(4:45)フルートが鳴りアコースティック・ギターの軽やかなリフレインとややアフロなパーカッションが心地よく響くイントロダクション。
ヴォーカルも活気がある。
サビではギターは力強くコードをかき鳴らしメロディを響かせ、打ち鳴らされるパーカッションとともにアンサンブルをリードする。
歌メロはケルト・トラッド風。
ここでもギターとヴォーカルのコンビネーションは抜群だ。
フルートが鳴る。
パーカッションがフィル・イン。
フルートとギターの伴奏による歌そしてサビでは力強くギターがかき鳴らされる。
一転ヴォーカルがスキャットに変化しコーラスが加わる。
バス・ギンブリが響きハミングをバックに調子よく演奏は続いてゆく。
ブレイク。
「Ayeeee」というかけ声とともに全員が一斉に歌い出しスキャットがごちゃごちゃに絡みあってしまう。
再びブレイクを経てヴォーカルが抜け出しハミングをバックに張りのある声で歌ってゆく。
力強いヴォーカルにフルートとギターのリフレインが重なる。
コーラスが静かに着地すると終わり。
ポップなヴォーカル、巧みなコーラス、アコースティック・ギターのプレイ、パーカッションの伴奏などが十分に活かされたストーリー・テリングの妙のある作品だ。
シンプルな曲に後半のコーラスのようなさまざまな味つけをしプログレッシヴな面が強調されている。
このグループの作風を代表する作品である。
ヘロンのヴォーカル。
「Way Back In The 1960s」(3:08)アコースティック・ギターの弦のテンションが強烈に感じられるブルーズ・ナンバー。
ソフトな声質にもかかわらずラウドでこぶしの効いた歌いまわしで力強さを見せるヴォーカルがいい。
アコースティック・ギターのヘヴィなカッティングもズシッと心に響く。
サビのコーラスを経てシャウト、元に戻って再びフリーキーに歌いまくる姿は実にカッコいい。
60sには俺は若あかかあったーああああんああああんあ。
本作ではワイルドな部類に入る作品だが最後は何とも寂しげであり全体の雰囲気とよく合っている。
ウィリアムソンのヴォーカル
多彩な楽器と個性的なヴォーカル・ハーモニーによるサイケデリックなフォーク・ソング。
アコースティック・ギター弾き語りによるシンプルなフォーク・ソングをベースに多種多様な音楽をブレンドしたユニークな音だ。
ケルティック、スコティッシュなトラッド・フォークからルネッサンス調の古楽、アジアン/アフリカン・エスニックそしてアメリカ風のブルーズ・カントリーまで音楽の幅は果てしなく広い。
伝統と新奇、西洋と東洋がまざり合った音は枯れ枝に咲く蘭の花のような不思議なアンバランスの魅力を湛えている。
このミクスチャー感覚をプログレッシヴといわずしてどうしよう。
いわゆるトラッド・フォークにありがちな渋みや哀愁とはやや位相が異なり奇妙なクールネスと呪いめいたころ、ユーモアはむしろ VELVET UNDERGROUND あたりの感覚に近いようだ。
フォークのミュージシャンにもサイケデリック・ムーヴメントの影響が強くあったことを今更ながらに再認識した。
とはいえ基本はフォーク・ソングでありギターの音に耳を傾けているとホッと癒されるのもたしかである。
ボケッとしながら聴くと本当に気持ちよく脳へ直接響くような感じはやはりサイケデリック?なぞとあらぬ妄想も広がる。
ヴォーカルはウィリアムソンが古楽風のエキゾチックな雰囲気を漂わせヘロンにはユーモアをたたえた素朴さがある。
名盤。
(EUKS 7257 / HNCD 4438)
Robin Williamson | lead vocals, guitar, gimbri, whistle, percussion, pan pipe, piano, oud, mandolin, jew's harp, chahanai, water harp, harmonica |
Mike Heron | lead vocals, sitar, hammond organ, guitar, hammer dulcimer, harpsichord |
Dolly Collins | flute, organ, piano |
Licorice McKechnie | vocals, finger cymbals |
Rose Simpson | bass, percussion |
David Snell | harp |
68 年に発表された第三作「Hangman's Beautiful Daughter」。
内容は、ほろ酔い気味のヴォーカルを気まぐれでカラフルな音が彩るサイケデリック・フォーク。
夢の中でステップを踏むように不思議な躍動感やすっ頓狂でチャイルディッシュな奇矯さ、愛らしいユーモアを存分にふりまいた前作と比べると、ほんの少しだが落ちつき(いや、酔い覚めの空しさか?)があり、トラッド・フォークの侘び寂びや中世古楽風のクラシカルな構築性も明らかである。
多声のハーモニーやピアノ、オルガンら鍵盤楽器の存在、そしてもの哀しい短調の旋律が、奔放なアンサンブルを整える方向にはたらいているようだ。
ぶっ飛んだ抑揚のメロディが少ないためかやや地味になったように感じられるが、明るいお経のような個性的な歌唱と多彩な器楽の生むエスニック・テイストあふれるアシッド・フォークは、古楽を模した演奏の内からも、じわじわと毒気を放ち、気がつけば酔わされている。
ヘタクソなヴァイオリンやノイズのようなパイプの唐突さといったら!
そして、そういう飛び道具に頼らない穏やかに聴こえる作品では、リズムの変化、複雑なコーラス、タイムリーなオブリガートなど緻密なアレンジが前作以上に施されている。
そして、オルガンによるバッキング、弦の響きに重量感のあるアコースティック・ギターのプレイ、ユニークな管楽器、ハープシコードのテーマなど、音そのものの強い存在感を印象付ける場面も多い。
大作「A Very Cellular Song」はハープシコードのテーマを中心に様々なアンサンブルの小曲から成るオムニバス形式の作品。
「帰ってきたヨッパライ」に聴こえてしまうのは、ジュー・ハープのせいだけではないだろう。
プロデュースはジョー・ボイド。
「Koeeoaddi There」(4:41)ヨレながらもこのグループにしてはまともなエスノ・トラッド・ソング。自由すぎるテンポの変化。シタールがいい。ジューハープもアクセント。ウィリアムソン作。
「The Minotaur's Song」(3:18)ピアノの響きと混声合唱が印象的な宮廷音楽風の唱歌。歌詞は物語になっているようだ。ウィリアムソン作。
「Witches Hat」(2:30)暗い弾き語り。ハンマー・ダルシマー、パンパイプをフィーチュア。ウィリアムソン作。
「A Very Cellular Song」(12:55)四部構成の作品。クラシカルな和音進行によるハープシコードのテーマが印象的。
木管楽器、弦楽系はひたすらに乱調美。
アメーバがどうしたといっているので、セルラーというのは携帯電話ではなく「細胞」のことだろう。
序盤の一部は他のグループの作品の引用のようだ。
そういったいろいろのものが交じり合って生まれるにぎにぎしさが魅力である。
ヘロン作。
「Mercy I Cry City」(2:40)この曲では前作の路線(「The Hedgehog's Song」など)をキープ。無垢なるユーモアと調子ッ外れの美学。ヘロン作。
「Waltz Of The New Moon」(5:01)幻想的な雰囲気に力強い三拍子で珍しく決然とした表情を盛り込んだウィリアムソンの作品。ハープが効果的。ウィリアムソン作。
「The Water Song」(2:47)正調サイケ・トラッド・フォーク。後半のピチカートなどのノイズによるアドリヴは「水」を模しているようだ。
ウィリアムソン作。
「Three Is A Green Crown」(7:40)一曲目と同系統のエキゾティック・フォーク。シタールなどインドな楽器をフィーチュア。ウィリアムソン作。
「Swift As The Wind」(4:50)真面目なのかふざけているのか、はたまた酔っているのか、定かでない得意の芸風による無国籍フォーク。あくびのようなヴォカリーズや粗大ゴミを打ち鳴らすような音で脱力。しかし意外に鋭いアコースティック・ギターの調べ。ヘロン作。
「Nightfall」(2:29)シタールとハープ、ウィリアムソンの音痴なヴォーカルによる乱調詩。呑み過ぎで終に昇天するときはこういう感じかも知れぬ。
ウィリアムソン作。
(EUKS 7258 / HNCD 4421)
Robin Williamson | lead vocals, guitar, gimbri, bass, percussion, sarangi, violin, flute, piano, kazoo, sitar, drums, whistle, Irish harp |
Mike Heron | lead vocals, guitar, sitar, bass, organ, harpsichord, washboard, percussion, harmonica |
guest: | |
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Rose Simpson | vocals |
Licorice McKechnie | vocals |
68 年発表の第四作「Wee Tam & The Big Huge」。
内容は、毒気を愛らしさが上回ったほのぼの系無国籍フォーク。
雑然としてやや狂気じみた、いわば箍の外れたところが特徴だったが、本作では、素朴でおだやかでチャーミングな表情の楽曲が主である。
サイケデリックなトリップ感覚が減退したというべきか。
どの曲も、音の数も控えめに抑え、その一方特徴的な音を際立たせて、メロディをよく歌わせている。
弾ける弦楽器の音とまろやかなオルガンの音のコントラストがみごと。
「You Get Brighter」は「Painting Box」路線の佳作。
LP 二枚組。(米国では一枚づつ分割して発表された)
「Job's Tears」(6:40)
「Puppies」(5:30)
「Beyond The See」(2:16)クラシカルなハープシコードと草笛によるのどかなデュオ。インストゥルメンタル。
「The Yellow Snake」(2:04)
「Log Cabin Home In The Sky」(4:00)アメリカンなカントリー・フレイヴァーあふれる作品。
「You Get Brighter」(5:44)
「The Half-Remarkable Question」(5:01)
「Air」(3:12)
「Ducks On A Pond」(9:17)
「Maya」(9:24)
「Greatest Friend」(3:30)
「The Son Of Noah's Brother」(0:16)
「Lordly Nightshade」(5:54)
「The Mountain Of God」(1:51)
「Cousin Caterpillar」(5:15)
「The Iron Stone」(6:33)
「Douglas Traherne Harding」(6:15)
「The Circle Is Unbroken」(4:47)
(EKL 4036/37 / BGOCD1191)
Robin Williamson | lead vocals, washboard, piano, flute, sarang, chinese banjo, percussion, electric guitar, organ, gimbri, violin |
Mike Heron | lead vocals, electric guitar, piano, vibraphone, percussion, sitar, mandolin |
Rose Simpson | bass, vocals, percussion |
Licorice McKechnie | guitar, vocals, organ, kazoo, percussion |
guest: | |
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Ivan Pawle(Dr.STRANGELY STRANGE) | organ, piano on 6 |
Walter Gundy | harmonica on 1 |
69 年発表の第六作「Changing Horses」。
ウィリアムス、ヘロンにベース、オルガン及びコーラス担当で前作にも一部参加した女性二名(それぞれのガールフレンドらしい)を加えて四人編成となった。
内容は、多彩な楽器を用意しながらもきちんとは使いこなさないというサイケデリックでいい加減さが魅力のフォーク・ミュージック。
いきなり能天気さにもほどがあるアメリカン・オールディーズ調の 1 曲目が示すとおり、本作のアプローチは、こういった既成の音楽の枠組みにこのグループのユニークな器楽や歌唱スタイルをあてはめてゆく試みになっているようだ。
前々作くらいまではワールド・「ごった煮」・トラッドによる怪しさ満点の折衷路線をエキセントリックなまでに貫いていたが、次第に英国トラッド寄りになり、さらに本作では女声コーラスやエレクトリック楽器の使用にともなって、ロック・ファンにとっての「分かりやすさ」、「とっつきやすさ」が生まれてきたと思う。
サイケな毒気をやや取り払った本作のスタンスをメインストリームへの迎合と取るか新境地と取るかによって評価は分かれそうだが、個人的には、懐を広げてゆく姿勢には賛成である。
どちらかといえばルーズな雰囲気のヴォーカルとリズミカルな器楽アンサンブルの組み合わせが、よろよろとした危うさの果てに何ともいえない素敵なまろやかさを生んでいる。
サイケデリックな浮遊感とクールなアコースティック・サウンドが丁度良くバランスした佳作といってもいいだろう。
旧 A 面と B 面に一曲づつ配された、音数が少ないにもかかわらず悠然と進む二つの大作が光る。
さらにオリジナルとはにわかには信じられないルネッサンス調の歌曲の 4 曲目も圧巻。
なお、この時期、バンドのメンバーはドラッグを捨てて、サイエントロジーの影響下にあったそうです。ヒッピーだなあ。
プロデュースはジョー・ボイド。
「Big Ted」(4:24)オールディーズというかスキッフルというか一時代前のロック調フォーク。どこかアメリカンなニュアンス。ウィリアムソン作。
「White Bird」(14:47)眠気を誘う呪文のようなハーモニーに導かれる演奏が、8 分辺りで即興風の演奏ととともに突如表情を変えて緊張した展開になる。最終部は厳かな賛美歌調。こんなに地味で物静かな 15 分間なのに、不思議と飽きない。ヘロン作。
「Dust Be Diamonds」(6:19)ヴィヴラフォンがこだまするやや空ろなヴァースとコミカルなサビの対比が印象的な作品。へロン、ウィリアムソン合作。
「Sleeper, Awake!」(3:48)アカペラによる四重唱。ヘロン作。
「Mr. & Mrs.」(4:59)トラッド・リヴァイヴァル路線のフォークロックらしい作品。ヨレ感も王道であり、VELVET UNDERGROUND に通じる。ウィリアムソン作。
「Creation」(16:05)お経というかナレーションというか、つぶやきのようなメイン・ヴォーカルとスキャットによる、うねる波のようにヒプノティックな大作。元気すぎないのが特徴。
8 分くらいから物語風の歌唱がリードするテンションの高い展開で頑張るが、それも一瞬、再び澱みに沈んでゆく。
低血圧だが毎日それなりに楽しいです、といった感じ。
エンディングで再び 1 曲目と同様のノスタルジックな 30-50 年代テイストへと回帰。悪くない。
ウィリアムソン作。
(EKS 74057 / HNCD 4439)
Robin Williamson | vocals, guitar, fiddle, flute, keyboards, percussion, gimbri, clay drums, mandolin |
Mike Heron | vocals, guitar, horns, piano, harpsichord, organ, bass, sitar, fiddle, Jew's harp, washboard, shanai, mandolin, soondrilcas |
Rose Simpson | vocals, bass, violin, percussion, guitar, tabla |
Licorice McKechnie | vocals, drums, keyboards, guitars, dulcimer |
Dave Mattacks | drums |
Janet Shankman | vocals on 4, harpsichord on 5 |
Peter Grant | banjo on 4 |
70 年発表の第八作「U」。
内容は、舞踊集団「Stone Monkeys」と合流して製作したシュールなメディア・ミックス・ショウ「U」(その衣装を内ジャケの写真を見る限り、完全にアングラ系)の音楽パートである。
無国籍アシッド・フォークとしての音楽的な安定感はいや増し(稚気あふれるハープシコードのむちゃくちゃな演奏はあるが)、ウィリアムソンのヘロヘロなヴォイスはさておくとしても、全体に独特の気だるさの中に係り結びとメリハリがある。
ダラダラしていながら、そのダラダラさ加減に一本筋が通っている気がする。
おもしろいのは、音楽のニューロック的な面には今やノスタルジーばかりが香るが、このグループ本来の持ち味であるアシッド・カントリー・フォークには、時代遅れ感が一切感じられないこと。
おそらくこのなんともいえないユルさ、ダルさは、多少の意匠の変化には関係ない、ポピュラー・ミュージックの芯に近いところにある要素なのだろう。
思い切りインドなシタールが加わりながら、フルートやギターは変わらずアイリッシュ・フォークだったり、カントリー・フィドルは西部のサルーンのようだったり、それでいて全体としては日本の村祭りのお囃子のようだったりと、融通無碍にして自由闊達な「音楽のパラディソ」というべき空間ができている。
普通はピアノは秩序感、構築感をもたらす楽器のはずだが、フリージャズ的な飛び道具としてではなくオーソドックスなプレイであるにもかかわらず、どこか完全にネジが外れている。
そして、ヘタウマどころかヘタヘタなのに、この演奏は心に染みてくる。
厄介だ。
GONG に近い世界観をアコースティックな音から離れずに追求している、ともいえそうだ。
ヘタといったが二枚目の 3 曲目のような超絶的なプレイも散りばめられている。
LP、CD ともに二枚組。
プロデュースはジョー・ボイド。
(7559 62761-2)
Robin Williamson | |
Mike Heron | |
Malcolm Le Maister | |
Licorice McKechnie |
92 年発表のライヴ・アルバム「BBC Radio 1 Live In Concert」。
71 年から 72 年に収録された BBC スタジオ・ライヴ。
スタジオ盤と変わらない安定したヨレヨレ感がいい。
「Bright Morning Stars」()
「Worlds They Rise And Fall」()「Liquid Acrobat As Regards The Air」より。
「Spirit Beautiful」()
「Willow Pattern」()
「Turquoise Blue」()「No Ruinous Feud」より。
「Whistle Tune」()「The Incredible String Band」より。
「Darling Belle」()「Liquid Acrobat As Regards The Air」より。
「You've Been A Friend To Me」()
「I Know That Man」()
「The Old Buccaneer」()「No Ruinous Feud」より。
「Black Jack David」()「Earthspan」より。
「The Circle Is Unbroken」()「Wee Tam And The Big Huge」より。
(WINCD 029)