イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「THE MOODY BLUES」。 1963 年結成。作品多数。60 年代末から 70 年代初頭に活躍、しばらくの休止を経た後の 80 年代初頭にも No.1 ヒットを飛ばす。 THE BEATLES や WHO とともに英国を代表するロック・グループの一つ。
Justin Hayward | guitar, vocals |
John Lodge | bass, guitar, vocals |
Michael Pinder | keyboards, vocals |
Ray Thomas | flute, vocals |
Graeme Edge | drums |
Peter Knight | conductor |
London Festival Orchestra |
67 年発表の第二作「Days Of Future Passed」。
デニー・レインからジャスティン・ヘイワードへとフロントマン交代を経て、新しい音楽性に挑戦した再デビュー作。
管弦楽とロック・バンドの共演、ナレーションも交えてアルバムを通して「人の一日」を綴るトータル・コンセプト性といった「新しい」要素を大胆に取り入れている。
勢いのいいビート・サウンドを随所に見せつつも、優美でメロディアスな音楽に盛り込んだ強い幻想、白昼夢テイストが特徴である。
R&B バンドとしての経験、メロトロン奏者に加えてフルーティストがメンバーにいること、リード・ヴォーカリストが複数いること、メンバー全員が高い作曲力をもつなど、ロック・グループとしては画期的な存在だったのだろう。(THE BEATLES もそうですね)
ヘイワードの歌うソフト・サイケ調の「Nights In White Satin」は代表曲となった。
クールで熱いビート・サウンドにメロトロンや管弦楽の音が重なると、サイケデリックな風景に再び英国の田園が甦ってくる。
カラフルな幻視への耽溺と胸に迫る郷愁をゆき交うという最上級の幻覚を提示し、快哉の喝采とともに時代に迎えられたに違いない。
管弦楽がやや唐突に聴こえるところもなくもないが、クラブに集まる R&B/ビートのファンにも夕べにクラシックのレコードを楽しむ家族にも受けいれられるという卓抜したアイデアには敬服するばかりである。
本アルバムをもってプログレッシヴ・ロックの時代が幕を開けたといってもいいだろう。
ちなみに 1967 年は THE BEATLES が「Sgt.Peppers Lonely Hearts Club Band」を発表した年である。
「THE DAY BEGINS」
「DAWN: Dawn Is A Feeling」
「THE MORNING: Another Morning」
「LUNCH BREAK: Peak Hour」
「THE AFTERNOON: Forever Afternoon(Tuesday?)- Time To Get Away」
「EVENING: The Sun Set - Twilight Time」
「THE NIGHT: Nights In White Satin」
曲のクレジットはオリジナル LP のものを参考にしている。
(DERAM SML 707)
Justin Hayward | vocals, acoustic guitar, electric guitar, 12-string guitar, sitar, harpsichord, piano, mellotron, bass guitar, percussion, tablas |
John Lodge | vocals, bass guitar, acoustic guitar, cello, tambourine, snare drum |
Graeme Edge | vocals, drums, piano, timpani, tambourine, tablas, spoken vocals |
Ray Thomas | vocals, C flute, alto flute, soprano saxophone, oboe, french horn, tambourine |
Michael Pinder | vocals, mellotron, piano, harpsichord, acoustic guitar, cello, autoharp, bass guitar, tambura |
68 年発表の第三作「In Search of the Lost Chord」。
「クエスト=探索」をテーマとしたコンセプト・アルバムらしい。
ビート・サウンドをベースにしたキャッチーな作品に管楽器、鍵盤楽器でクラシカルな厚みを与え民俗楽器やメロトロンによる神秘的な陰影をつける作風である。
アルバム冒頭のタブラなど、当時の大流行らしきインド音楽からの影響をあらわにしている。
そして、何より本作は、メンバーそれぞれの個性とアイデアが活かされた名曲の宝庫である。
ヴォーカルやコーラスには THE BEATLES に共通する素朴なポップ・テイストと背伸びするように「トッポイ」感じが相まっており、その若々しい感じがいい。
プログレ・バンドに関して「若々しい」というのは非常に珍しい属性である。
クレジットにあるように多数の楽器を使い倒して気に入った音を選び出すあたりも THE BEATLES 的である。
(オーケストラの不在を補うために多様な音を追い求めたというのもあるだろう。録音中にメンバーが楽器を持ちかえることもあったようだ)
個人的には最高傑作の一つ。
ジョン・ロッジによる「Ride My See-Saw」はライヴでも盛り上がるキャッチーな快速チューン。
レイ・トーマスによる「Legend Of A Mind」はエキゾティックな響きが印象的なサイケデリック・ロックの大傑作。
THE BEATLES と同じ時代を生きていることがよく分かる。
ジャスティン・ヘイワードによる「Voice In The Sky」は英国フォークの伝統を感じさせる佳曲。エキゾティックなテイストが強めの本作において、牧歌調とノーブルなヴォイスが一層映える。
パニングの音響効果を使った「The Best Way To Travel」は、マイク・ピンダーのけだるげなヴォーカルにジョン・レノンの真似をするリンゴ・スターを思い出してしまう。(そうか?)
「Visions Of Paradise」はヘイワードとトーマスの共作であり、ほぼヘイワードのアコースティック・ギター/ヴォーカルとトーマスのフルートのデュオである。素朴なようでいてどうも足元が覚束なく、フルートの音がグルグルと回っているような感じがしてくる。タイトルもイっている。そこがいい。
ヘイワードによる「The Actor」は、英国らしいセンチメンタリズムと幻想的なサウンドがブレンドした佳曲。暖かい雨のそぼ降る港町を彷徨う。
ピンダーによる「OM」は、ほとんど「Within You Without You」である。インド楽器もいいが、ロッジによるチェロの音が不思議な上品さを加味していると思う。
「Departure」グレアム・エッジ作。
「Ride My See-Saw」ジョン・ロッジ作。
「Dr.Livingstone, I Presume」レイ・トーマス作。
「House Of Four Doors」ジョン・ロッジ作。
「Legend Of A Mind 」レイ・トーマス作。
「House Of Four Doors(Part.2)」ジョン・ロッジ作。
「Voice In The Sky」ジャスティン・ヘイワード作。
「The Best Way To Travel」マイク・ピンダー作。
「Visions Of Paradise」ヘイワード/トーマス作。
「The Actor」ジャスティン・ヘイワード作。
「The Word」グレアム・エッジ作。
「OM」マイク・ピンダー作。
(DERAM SML 711)
Justin Hayward | electric & acoustic guitar, vocals |
John Lodge | bass, cello, vocals |
Ray Thomas | flute, harmonica, tambourine, vocals |
Graeme Edge | drums, percussion, vocals |
Michael Pinder | vocals, Mellotron, Hammond organ, piano, cello |
69 年発表の第四作「On the Threshold of a Dream」。
「夢」をテーマにした作品。
映画「2001 年宇宙の旅」に触発されたか、宇宙空間をイメージさせる謎めいた電子音(宇宙は基本無音なので矛盾ではあるが)から始まり、ノイジーな効果音やナレーション、リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラかく語りき」も巻き込んで、アルバムの終わりは冒頭の電子音がエンドレスで続く。
SF 的、未来的なイメージの提示としてはいい出来のオープニングである。
ドイツ・ロックへの影響もあったに違いない。
基本的な作風は変わらずも、時代に合わせてビート・ロック調をやや洗練している。
アップビートものはハードネスを強め、バラードはよりクールに、ポップ・チューンでは二曲目のヘイワードのように 70 年代を見据えたようなキャッチーさ(ポール・マッカートニー調である!)を強調している。
持ち味であるメロトロン・ストリングスの幻想味に加えて、アコースティックな音を多彩に散りばめてファンタジックな空気で満たすフォーク・ソングあり、けだるいサイケデリック・チューンあり、オルガン、ピアノを使った重厚な組曲ありと表現も多彩である。
全英第一位。
ジョン・ロッジがもう一曲ピリッとした曲を提供していたら、さらにいいアルバムになったと思う。
トーマスによる「Dear Diary」は、ドロップアウトを描くジャジーなバラード。
お腹に響くウッド・ベースとクールに舞うフルート、メロトロン・ストリングスが印象的だ。下降ベースのこのスタイルも一世を風靡した。60 年代の英国ロックらしい名曲である。
ロッジによる「To Share Our Love」は、アップテンポでパンチの効いた MOODYS 風ハードロック。
厳かなメロトロン・ストリングスを鳴り響かせながら走り続けるというミスマッチがおもしろい。
コーラスはやはり BEACH BOYS 風。
ピンダーによる「So Deep Within You」は珍しく THE ROLLING STONES ばりの不良っぽくハードなタッチのラヴ・ソング。
オーケストラを巻き込んだアレンジが意外な効果を上げる。
ヘイワードによる「Never Comes the Day」だけは二年前の作風そのままであり、変わらぬ味わいとほめたいところだがやや古めかしく感じられてしまう。シングル・カットされたが不調だったというのも分かる気がする。リスナーは新奇なものに弱い。
一方、A 面「Lovely To See You」は、神秘的な序曲とのコントラストやポップな中のクールな表情(ポールだけでなく BEACH BOYS も入っている)のおかげで佳曲となっている。
ヘイワード/トーマス共作の「Are You Sitting Comfortably?」は、純朴なるフォーク・ソング。前作の「Visions Of Paradise」を素面にしてさらに優しくした感じ。
ピンダーによる組曲「Have You Heard」は、「A Day In The Life」に迫る劇的で重厚な作品。厳かなピアノ、チェロも入って完全に「プログレ」です。
「In The Beginning」グレアム・エッジ作。
「Lovely To See You」ジャスティン・ヘイワード作。
「Dear Diary」レイ・トーマス作。
「Send Me No Wine」ジョン・ロッジ作。
「To Share Our Love」ジョン・ロッジ作。
「So Deep Within You」マイク・ピンダー作。
「Never Comes The Day」ジャスティン・ヘイワード作。
「Lazy Day」レイ・トーマス作。
「Are You Sitting Comfortably?」ジャスティン・ヘイワード/レイ・トーマス共作。
このタイトルは、BBC の有名な幼児番組のオープニング・フレーズらしい。IQ のアルバムにもありましたよね。
「The Dream」グレアム・エッジ作。
「Have You Heard (Part 1)」マイク・ピンダー作。
「The Voyage」マイク・ピンダー作。インストゥルメンタル。
「Have You Heard (Part 2)」マイク・ピンダー作。
(DERAM SML 1035)
Justin Hayward | electric & acoustic guitar, vocals |
Michael Pinder | vocals, Mellotron, EMS VCS 3 |
John Lodge | bass, cello, vocals |
Ray Thomas | flute, tambourine, vocals |
Graeme Edge | drums, percussion |
69 年発表の第五作「To Our Children's Children's Children」。
スレッショルド・レーベル立ち上げ後の初作品。
アポロ 11 号の月面着陸から着想したアルバムらしく、サウンドは神秘的かつ幻想的にして幽玄。
そして、瞑想的な静けさを深々と描くのみならず、神秘性が危うさやスリルへと昇華する場面も多い。
やはり、宇宙や冒険、挑戦といったイメージから構成されたサウンドなのだろう。
オーケストラ・サウンドが潤沢に使われている上に、ピンダーのシンセサイザーを初めとする音響加工も大いにほどこされている。
キャッチーなメロディの歌ものでも、演奏部分が奥行き深く濃密にミックスされており、メロトロン・ストリングスの重厚さ、神秘的なエコーの効果は際立っている。
この眠りに誘うようなサウンドにサイケデリック・エラの最後のきらめきを感じる。
ふわっと広がったエコーを切り裂くアコースティック・ギターの切れ味もすばらしい。
曲間をわざとあいまいににごして次につなげてゆく手法も白昼夢のような効果を上げている。
ここまでナレーションの作詞のみを手がけていたグレアム・エッジが初めて作曲を行い、歌ものにもインストゥルメンタルにも優れたセンスを発揮した。
その作風は意外や最もプログレッシヴなものであり、後のソロ・アルバムへとつながってゆく。
ヘイワードの作品に関していえば、シングルカットはされたがアルバム色に染まり過ぎた終曲よりも、 A/B 面に散らされた小曲と B 面の一曲目がいい。
個人的には第二作に続くフェイバリット。
近年、これってプログレなの?と物議を醸しがちなグループではあるが、本作には PINK FLOYD のような真正的なプログレ(笑)特有の危うさがある。
「Higher And Higher」グレアム・エッジ作。神秘的にしてアグレッシヴな爆発力ある傑作。
「Eyes Of A Child I」ジョン・ロッジ作。印象派風のハープや木管の響きが美しいサイケ・フォーク。
「Floating」レイ・トーマス作。電子音のポルタメントが印象的な甘ったるいポップ・フォーク。
「Eyes Of A Child II」 ジョン・ロッジ作。アップ・テンポのロック・チューン。
「I Never Thought I'd Live To Be A Hundred」 ジャスティン・ヘイワード作。幻想的な弾き語り。
「Beyond」グレアム・エッジ作。スペイシーでスリリングなインストゥルメンタル。メロトロンもいい感じだ。
「Out And In」ピンダー/ロッジ作。メロトロン・ストリングスがギンギンに伴奏するわりと普通の作品。
「Gypsy (Of A Strange And Distant Time)」ジャスティン・ヘイワード作。60 年代色濃いスリリングなフォークロック。エモーショナルなサビが印象的。GS です。
「Eternity Road」 レイ・トーマス作。管弦入りの悠然としたポップ・チューン。
「Candle Of Life」 ジョン・ロッジ作。ストリングス、ピアノが付き随うシンフォニックでメランコリックなバラード。ベース・ラインが生き生きしている。
「Sun Is Still Shining」マイク・ピンダー作。眠りを誘うようなインド風ロック。
「I Never Thought I'd Live To Be A Million」 ジャスティン・ヘイワード作。
「Watching And Waiting」 ヘイワード/トーマス作。はかなく哀しく美しいスロー・バラード。
(Threshold THS 1)
Justin Hayward | electric & acoustic guitar, vocals |
Michael Pinder | keyboards |
John Lodge | bass, cello, vocals |
Ray Thomas | flute, sax, vocals |
Graeme Edge | drums |
70 年発表の第六作「A Question Of Balance」。
幻想的なキーボード・サウンドやハーモニーなど音の基調はほぼそのままに、ギターを中心としたアップ・テンポのソリッドな演奏が特徴的な作品となっている。
これはライヴを意識した音作りの結果らしい。
フルートやメロトロンはこのアプローチの中でより一層独特の存在感をアピールしていると思う。
「牧歌調フォーク」や「センチメンタルなポップス」を越えて「クールでコンテンポラリーな音」を目指しているイメージであり、まさに 70 年代の幕開けを象徴するような作風である。
ヘイワードが進取の気性を見せて果敢に新時代に挑むのとは対照的に、ロッジは 60 年代の延長上のサイケデリックな物語調のブリット・ポップを志向している。
全体としてバランスのいい聴きやすいポップ・アルバムだと思う。
実際ヒットしたようだ。
日本の歌謡曲シーンへの影響も大きそうだ。
「Question」(5:48)ジャスティン・ヘイワード作。元祖オーケストラ・ヒットのようなオープニングがカッコいい。
「How Is It (We Are Here)」(2:45)マイク・ピンダー作。
「And The Tide Rushes In」(2:56)レイ・トーマス作。
「Don't You Feel Small」(2:37)グレアム・エッジ作。
「Tortoise And The Hare」(3:17)ジョン・ロッジ作。英国ロックらしいクールネスのある好作品。
「It's Up To You」(3:10) ジャスティン・ヘイワード作。ギターなど米国西海岸ロックも意識した作品。
「Minstrel's Song」(4:27)ジョン・ロッジ作。
「Dawning Is The Day」(4:21)ジャスティン・ヘイワード作。
フォーク・ロックというこれまでの得意の作風を維持しつつも随所でエッジを効かせている。
「Melancholy Man」(5:45)マイク・ピンダー作。タイトルのままに憂鬱な、哀愁あふれるバラード。
かつてのメロトロンの文脈で轟々と唸りを上げ、またキラキラとさえずるのは VCS3 シンセサイザーだろうか。
「The Balance」(3:33)グレアム・エッジ/レイ・トーマス作。ナレーションをパワフルな演奏が支える。
CHICAGO の作品に通じるものあり。
(Threshold THS 3)
Justin Hayward | electric & acoustic guitar, vocals |
Michael Pinder | keyboards |
John Lodge | bass, cello, vocals |
Ray Thomas | flute, sax, vocals |
Graeme Edge | drums |
71 年発表の第七作「Every Good Boy Deserves Favour」。
内容は、サイケデリックなロックンロール。
他のバンドが革新的な試みを次々と打ち出す時代が到来し、すでに長く革新の位置にいたこのグループが相対的にやや遅れをとっているようにすら感じられる。
フォークやビートポップに大胆なサウンド・アレンジを盛り込んだ作風が目立たなくなるほどに激しい動きのあった時代だったのだ。
こうなると、新しさよりも、メロディアスで優しげな風情のほうが際立つ個性になりかけている。
それは、ポップスとしては上質ということを意味するのだろうし、このグループの最初からも持ち味であるのは確かだ。
本アルバムも繰り返し耳になじませればしみじみとした暖かなものが、うっすらとした無常感(60 年代の狂騒を経た賢者タイムといってもいい)とともにではあるが、湧き上がってくるところは変わらない。
ただし、安定感という得がたい長所が目立ちにくいこともあるのだ。
この後も管楽器やキーボードなどの多彩な音質を生かした、フォーキーで優しくメロディアスな作風を貫くのか、それともまったく異なる方向性を打ち出すのか。
「Procession」(4:40)
「The Story In Your Eyes」(2:57)
「Our Guessing Game」(3:34)
「Emily's Song」(3:41)
「After You Came」(4:37)
「One More Time To Live」(5:41)
「Nice To Be Here」(4:24)
「You Can Never Go Home」(4:14)
「My Song」(6:20)
(Threshold THS 5 / L20P1022)
Justin Hayward | electric & acoustic guitar, vocals |
John Lodge | bass, guitar, vocals |
Michael Pinder | keyboards, vocals |
Ray Thomas | flute, vocals, tambourine |
Graeme Edge | drums |
72 年発表の第八作「Seventh Sojourn」。
内容は、おちついた穏やかなトーンにほのかな哀感のある歌ものロック。
サイケデリックなサウンドによる緊張感と刺激や、シンフォニックな勇壮さはあまり意図されていないようで、ふくらみはあるがメロディアスで緩やかな調子で貫かれている。
管弦も動員されているが 2 曲目「New Horizons」に代表されるように、スケール感の演出よりも内省的な表現に寄り添って彩りを与える役割である。
そして 60 年代ポップスを根っこにもったリズミックでノリのいいポップ・テイストも健在だが、甘ったくなりすぎていない。
ヘイワードの作品でさえ、甘味よりもおちつきや透徹な意識のベクトルを感じる。(ちなみに 2 曲目や 7 曲目で聴けるようにヘイワードのエレキギターの腕はかなり向上している)
全編でバッキングに現れるメロトロン・ストリングスの調べはチェロのように暖かく穏やかで広がりがあり、包容力に満ちている。
全体に、タイトルにいう安息日にふさわしく優しげで心休まる音楽であり、英国ロックの叙情面を代表する作風だと思う。
ジョン・ロッジによれば、本アルバムはチョーサーの「カンタベリー物語」をモチーフの一つにしているそうだ。
本アルバムをもってバンドとしての活動が休止状態に入り、70 年代終盤の再集合までメンバーはソロ活動に専念する。
「Lost In A Lost World」(4:42)マイク・ピンダー作。
「New Horizons」(5:11)ジャスティン・ヘイワード作。
「For My Lady」(3:58)フルート、アコースティック・ギターによる牧歌調の愛らしい作品。60 年代末の意識改革はいずこへ。日本でも少女趣味のフォークソングが流行りました。アコーディオンのような音がフィーチュアされている。レイ・トーマス作。
「Isn't Life Strange」(6:09)あらゆるものが迎える「夕べ」を湛えるような、静かな諦観を感じさせるバラード。
メロトロンによるノスタルジックで夢想的な伴奏。ヴォーカルのトレモロ処理が面白い。リズムが入ってからのファズ・ギターのプレイがカッコいい。
ジョン・ロッジ作。
「You And Me」(4:21)ポジティヴでエネルギッシュなテーマと幻想的なサウンドが不思議にとけあう佳作。
いかにもヘイワードらしいメイン・テーマ、風を切って走るようなサビ、ほのかに哀愁をしたためる B メロと受け止めるギターなどこのグループらしさも満点。
ドラムスもいろいろと工夫している。
ジャスティン・ヘイワード/ジョン・ロッジ作。
「The Land Of Make-Believe」(4:52)ジャスティン・ヘイワード作。
「When You're A Free Man」(6:06)古い映画音楽のようなメロトロン・ストリングスと弦楽奏が響き渡る。
メランコリックでメロディアスな展開のうまいピンダーらしい作品だ。
マイク・ピンダー作。
「I'm Just A Singer (In A Rock And Roll Band)」(4:18)ジョン・ロッジのセンスがよく分かる同時代性の高いポップ・チューン。
ジェフ・リンやアラン・パーソンズなどにも共通するセンスである。 ジョン・ロッジ作。
(Threshold THS 7 / UICY-2380)
60 年代の作品には、サイケデリック・ロック、ビート・ロックを越えて、プログレの域にさしかかっているものも少なくない。 「二人のシーズン」で有名な THE ZOMBIES の「Odessey And Oracle」ではロッド・アージェントの奏でるメロトロン・ストリングスが大きくフィーチュアされて、68 年の時点で KING CRIMSON や GENESIS につながる雰囲気を醸し出している。