GORDIAN KNOT

  アメリカのインストゥルメンタル・プロジェクト「GORDIAN KNOT」。 ショーン・マローンをリーダーに KING CRIMSONDREAM THEATERCYNICWATCHTOWER からメンバーが集まったプロジェクト。2002 年新作発表。2020 年ショーン・マローン逝去。

 Gordian Knot
 
Sean Malone bass, stick, keys
Sean Reinert drums
Trey Gunn touch guitar
Ron Jarzombek guiatr
Glenn Snelwar guitar
John Myung stick

  99 年発表のデビュー作「Gordian Knot」。 ヘヴィにして幻惑的なサウンド、いわば、インダストリアル・ミュージックとヘヴィ・メタル、さらにはスペース・ロックとミニマル・ミュージックをまぜあわせたような新規なサウンドによって、甘美でアナーキーな世界が拓かれる。 ノイジーであくまで陰鬱な音には、様式に堕すことを潔しとしない決意、生まれながらのエキセントリシティ、危険な躍動感、さらにはエロティシズムすら感じられる。 オープニングは、あたかも地底深く地軸を廻す巨大な機械室への扉の開く軋みと、機械の唸りが幾重にもなり可聴域を上下する轟音の層。 ギターの響きは、鉄の花弁を開きガソリンを吸う彼岸に咲く花の美感と、巨大な蒸気エンジンのシャフトにぬめるグリースの光沢をもつ。 暴力的に上下するシリンダが刻むようなビートは、識下で蠢き、未来永劫絶えることはない。 そして、エレジーの旋律の群れ。 甘やかな死へと誘うバッハのみならず、業火に身を焼くようなナンバーでも、ほとばしる旋律には剥き出しの美しさと哀しみがある。 しなやかに時間軸をすべりおりてゆく空気の振動は、青きサウンド・ホライゾンへ向けて軌跡を描き広がってゆく。 70 年代の音を鋼鉄の扉の向うへ封じ込め、再び地軸を廻し始めると、隙間もないはずの扉を越えてこの音楽があふれ出て止まらないのだ。 果てしない多重螺旋のようにもつれあうギターの音は、何を呼び寄せようというのだろう。 KING CRIMSON の美学に通じる究極の世界であり、最果ての無常、そして慈愛。 21 世紀のプログレッシヴ・ロックの一つの方向を感じさせる傑作である。
  スティック、タッチ・ギター独特の蠢くようなプレイにテクニカルなギター、メタリックなキーボードが絡みつく凶暴にして叙情的なインストゥルメンタル・ロック。 轟音を鳴り響かせるだけでなく、弦楽器本来の味わいを十分に引き出したアンサンブルになっている。 そして、メタル出身にも関わらず感性が画一化、マンガ化されておらず、モダンな英国ロックを思わせる美学とデリケートな表現がある。 いわゆるアヴァンギャルド・ミュージックというよりは、あくまでヘヴィなロックであり、複数のギターが綾なす演奏など後期 KING CRIMSON の影響が強い。 幻想性や内省的な姿勢など SIGUR ROSMOGWAI のファンへもお薦め。

  「galois」軋むような音をたてるキーボード・ソロ。 衝撃的なオープニングだ。

  「code/anticodes

  「reflectionsLED ZEPPELIN の四作目や PENTANGLE の面影がちらつく美しいアコースティック・ギター・アンサンブルとヘヴィなサウンドによる名曲。

  「megrez

  「singularity」ヘヴィ・メタリックな轟音の層がいつしか厳かな終末へと辿りつく。

  「redemption's way」スティックとタッチ・ギターによる特異なアンサンブル。 パーカッションのような音はスティックの打弦奏法と思われる。 エスニックなリズム感とうねうねとのたくるタッチ・ギターのアンバランスなところが面白い。 「DisciplineCRIMSON 以降の音なのは間違いないが、終末的/神秘的なムードが独特。

  「komm süsser Tod, komm sel'ge」スティック・ソロによる厳粛にして美しい鎮魂歌。 バッハの作品。

  「rivers dancing」ロマンティックかつシンフォニックな名曲。 緩急/硬軟の呼吸が抜群。 CRIMSON とパット・メセニーの中間くらい。 タッチ・ギター、アコースティックを含め、数多くのギターがそれぞれに鮮烈なプレイを見せる。 本作のクライマックス。

  「srikara tal」スティックによる陰鬱なドラムンベース。 長いリフの反復がやがて不気味な凶暴さを帯び始め、同時にきらめくような和音も奏でられる。

(SR 3005)

 Emergent
 
Sean Malone bass, stick, keys, guitar, loops, ebow, echoplex
Sean Reinert drums, V-drums
Jason Gobel guitar
Steve Hackett guitar
Bill Bruford drums
Jim Matheos nylon & steel string guitar
Sonia Lynn vocals

  2002 年の第二作「Emergent」。 80' KING CRIMSON 調をベースに、HM/HR、ジャズ/フュージョンなど多彩な音楽性を独特のダークなサウンドと意外なほど聴きやすいメロディでまとめたテクニカル・メタル/ジャズロックの佳作。 キーボードとギターの中間をゆくような、スティック独特の表現を見直すことができる作品でもある。 一番の特徴は、ヘヴィでアブストラクトなサウンドにおいて語り口があくまでロマンティックなところだろう。 超絶的なスティック・プレイよりもメロディアスな場面で見せる優美なまでのポップ・センスこそが、マローン氏の真の才気ではないだろうか。 たとえば、スティーヴ・ハケット参加の 2 曲目にはそういう面が強く出ていると思う。 また、新世代のアカデミックなミュージシャンらしく、たとえ凶暴なサウンドが吹き荒れても、ポリフォニーや緩急、ビート感といったロック・アンサンブルの基本的な語法は遵守されている。 当然ながらジャズ、フュージョンといった音楽も勉強済みであり、その語法を表現にフルに生かしている。
  ハケット、ブルフォードもいいステージで存在感あるプレイを放っている。(特に後半、ブルさんはジャズメンらしからぬエゲツないプレイを披露) そういえば、ドラムスは全体にかなりジャジーである。
  一部パット・メセニー風味まであるあたりは、メタルだがやや大人向けということだろうか。 とても聴きやすい作品だが、多芸多才で柔軟すぎるほど柔軟なところが弱点でもあると思う。 もっとヘンクツでいいから、ドキッとさせてくれる瞬間(コワレル瞬間といいますか)があれば、とも思います。 どこまでも悪趣味なまでに多彩なのがプログレですので。
  
  「Arsis」(1:59)ベース独奏による序曲。

  「Muttersprache」(6:26)スティーヴ・ハケット参加。聴けば直ぐ分かります。

  「A Shaman's Whisper」(6:33)ビル・ブルフォード参加。こちらも聴けば直ぐ分かります。 ジェイソン・ゲパルのエキゾティックなギターが冴える。 テクニカル・フュージョン・タッチもあり。

  「Fischer's Gambit」(5:43)アトモスフェリックな作品。2 曲目に続きマローンはピアノも弾いている。アコースティック・ギターのプレイが意外にラヴリー。

  「Grace」(8:27)スティックとエフェクト。ライヴ録音。美しい。

  「Some Brighter Thing」(7:34)スティーヴ・ハケット、ビル・ブルフォード参加。リリカルなテクニカル・メタル。

  「The Brook The Ocean」(4:06)ビル・ブルフォードとマローンのデュオ。 ジャコ・パストリアス・フリークぶりを発揮するが、所詮単なるコピーである。

  「Singing Deep Mountain」(9:00)スティーヴ・ハケット、ビル・ブルフォード参加。エキゾティックなジャズ・メタル。

  「Surround Me」(4:06)ボーナス・トラック。

(MICP-10343)

 Cortlandt
 
Sean Malone bass, stick, programming
Sean Reinert drums
Bob Bunin guitar
Reeves Cabrels guitar
Adam Levy guitar
Trey Gunn Warr guitar

  1996 年のソロ第一作「Cortlandt」。 内容は、変拍子やポリリズムを駆使した音響系テクニカル・フュージョン。 スティックを多用した、メロディアスだが薄暗いスペイシーな曲調が主である。 BRUFORD やアラン・ホールズワースのソロ作から、TRIBAL TECHVITAL INFORMATION といったコンテンポラリー・フュージョンなどもイメージさせながら、そこにとどまらない多彩な音楽性を披露している。 ジャズだけではなく、教会音楽、バロック音楽的なセンスや第三世界の音への希求なども感じられる。 当然だが、この地点から、より個性を研ぎ澄まして GORDIAN KNOT へとつながっていったのだろう。(GORDIAN KNOT で再録される作品もあり) 自作の他に、バッハ、パット・メセニー、ジョン・コルトレーン(「Giant Steps」!)の作品もあり。
   腕に覚えのテクニシャンがアカデミズムも見せながらそつなくまとめた、というと語弊がありますが、出てきた音が真面目でロマンティックなものになっているので好感が持てます。 もっとも、やや「軽め」ではありますが。 元 KING CRIMSON のトレイ・ガンがゲスト、またメイン・ギタリストは GORDIAN KNOT の第二作で復帰する。
  全編インストゥルメンタル。 本 CD は 2007 年の再発版。 オリジナル CD には「Sinfona」の拡大版が収録されている。
  
  「Controversy」(4:16)
  「Splinter」(3:20)
  「Fischer's Gambit」(5:13)
  「Hand Full Of Earth」(6:17)
  「Sinfonia」(2:48)バッハ作。マローンによるスティック独奏。
  「Giant Steps」(2:54)ジョン・コルトレーン作。
  「At Taliesin」(4:06)
  「Big Sky Wanting」(5:58)
  「The Big Idea」(6:12)
  「Unquity Road」(3:40)ボーナス・トラック。パット・メセニー作。

(FES4007)


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