アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「HANDS」。 72 年結成。管弦を多用したリズミックなアンサンブルが特徴。作品は五枚。 2015 年新譜「Caviar Bobsled」発表。
Skip Dubin | flutes, saxes, oboe, clarinet, woodwinds, keyboards, percussion, backup vocals, composer |
Steve Parker | bass, guitar, keyboards, drums, percussion, trombone, vocals, composer |
Ernie Myers | guitar, mandolin, drums, percussion, vocals, composer |
Paul Bunker | viola, violin, sitar, quarto, keyboards, percussion, backup vocals, composer |
Michael Clay | keyboards, piano, tubular bells, guitar |
John Rousseau | drums, tuned percussion, percussion, backup vocals, composer |
96 年発表のアルバム「Hands」。
77 年に録音されたものを発掘した作品のようだ。
その内容は、CRESSIDA のような王道クラシカル英国ロックに GENTLE GIANT、JETHRO TULL 風のトリッキーな変拍子アンサンブルの要素を加味してカンタベリー風のジャズ・タッチをブレンドしたスーパー・プログレ。
特に GENTLE GIANT の影響は強く、木管楽器と弦楽器をフィーチュアしたクラシカルで均整の取れたアンサンブルに抽象的な変拍子パターンの執拗な反復を無造作に放り込むところが特徴の一つである。
また、複数のリード・ヴォーカリスト(一方のヴォーカリストの英国ロック王道風のノーブルでややぎこちない歌唱法が印象的)がいて、ハーモニーも操るところも特徴だ。(ただし、本家のようなマドリガルはない)
一般に技巧で押し捲る傾向にあるアメリカン・プログレだが、この作品においてはどちらかといえば重心をヴァイオリンやフルートらによるファンタジックなアコースティック・サウンドとメロディアスなヴォーカル・ハーモニーによる風景画のように穏やかなシーンにおいている。
変拍子によるキリキリ舞いするようなアンサンブル(クラヴィネットが跳ね捲くる)やヘヴィなハードロック調は、過激なアクセントとして機能している。
それらの総和が、自然な語り口とキレのよさに昇華して CAMEL のように全体にポップスとしても十分聴くにたえる内容になっている。
一つの曲の中でも、メロディアスであることに力点を置いたパートとリズミックであることを重視したパートを巧みに配置してドラマを成立させ、アコースティックな音に象徴されるクラシカルな叙情味と機械のような技巧が矛盾なく一つになっている。
ただし、アクセントそのもののインパクトはかなりのものであり、反復の度を越えたしつこさやテンションの高低の落差と急激さ、極端なダイナミクスなど、聴き通すのにはなかなかの体力が必要になる。
それでも、まろやかさを主眼としたらしきサウンド・メイキング(フルートらアコースティックな音だけではなく、ムーグ系シンセサイザーやストリングスも含めて)によるしっとりとした叙情的な表現がうまくバランスをとって、いいリスニング体験を提供してくれると思う。
全体として、通常の発掘ものの水準を超えた驚異のテクニカル・シンフォニック・ロックといえるだろう。
ハリウッド映画やウォルト・ディズニーを生んだ国だけあって、ツボをおさえたときのエンタテインメントの品質にはすさまじいものがある。
本作品のようなアメリカの発掘ものに出会うといつもそう思う。
HAPPY THE MAN のファンにはお薦め。
メインの作曲担当が二名おり、一人はリズミカルで技巧的な作品、もう一人は叙情的でメロディアスな作品と分担ができているようだ。
プロデュースは、リチャード・パッツ。
「Zombieroch」(4:19)
「Prelude #2」(1:35)
「Triangle Of New Flight」(6:50)
「Mutineer's Panorama」(3:12)小品ながら初期 KING CRIMSON の叙情性を抽出した佳品。
「Worlds Apart」(4:08)英国ロック的な虚ろさがいい歌もの。
「Dreamsearch」(9:49)硬軟ともに充実したドラマある傑作。序盤のトラッド風弾き語りからキーボードが飛び込む辺りは JETHRO TULL の芸風そのまま。
後半はクラヴィネットがリードする捻じれ過ぎていない GENTLE GIANT というべき痛快なアンサンブルでスタート。初期 KING CRIMSON 的な抒情味を醸し出しつつ弾き語りで幕を引く。
「Left Behind」(6:02)フォーキーでジャジーな芸風の広いしなやかな歌ものロック。アコースティックな音から一転ヘヴィなギターがうなりを上げてフルートが狂乱するところはやや薄めの JETHRO TULL。
「Mindgrind」(5:40)GENTLE GIANT を BANCO 風に昇華したプログレ。
「Greansoap」(2:27)管弦とシンセサイザーらによる英国トラッド風アンサンブル。バグパイプ風の音が印象的。
「I Want One Of Those」(3:16)
「Antarctica」(10:32)
「The Tiburon Treasure」(2:25)
「Hands In The Fire」(7:16)ボーナス・トラック。GENTLE GIANT への意識が並々ならぬものであったことをうかがわせる。
「Castle Keep」(3:36)ボーナス・トラック。
(SP-96001)