イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「IL TEMPIO DELLE CLESSIDRE」。2006 年結成。作品は三枚。イタリアン・ヘヴィ・シンフォニック・ロックの後継者日本支部。BLACK WIDOW レーベル起死回生の一発。
Stefano "LUPO" Galfi | vocals |
Elisa Montaldo | piano, keyboards, organ, concertina, vocals |
Fabio Gremo | bass |
Giulio Canepa | guitars |
Paolo Tixi | drums |
2013 年発表の第一作「Il Tempio Delle Clessidre」。
内容は、クラシカルな佇まいにほの暗くもたぎるような情熱が湧き上る、中世王朝絵巻風の重厚華麗なヘヴィ・シンフォニック・ロック。
MUSEO ROSENBACH のリード・ヴォーカリストを擁するという時点で、多言を弄する必要はない。
その抜群の存在感を堪能し、絢爛な古典美とストイックなダンディズムの交わりに生まれる美しくも気高いファンタジーに酔うだけである。
太く男性的な筆致のメロディ・ラインと、キーボードを中心に怪力神の如く荒ぶるかと思えば恋に酔う乙女のように繊細な表情を見せる振れ幅大きいアンサンブルによる荘厳なるサウンドは、初期 GENESIS や王道イタリアン・ロックを越えて、ヴェルディやパガニーニにも通じるものである。
底知れぬ神秘の泉からあふれでる艶かしき華やぎと気高き情熱に満ちているのだ。
栄枯の呪いが溶岩のようにとぐろを巻く灼熱の地鳴りハモンド・オルガン、柔肌を切り苛む霧氷のようなシンセサイザー、貴婦人の真珠の涙の如きピアノ・フォルテ、荘厳絢爛なるチャーチ・オルガンの説得力たるや、近年まれに見る衝撃です。
雄々しくも抑制の効いたヴォーカルに象徴されるように、基調に大人の落ちつきがあり、暴れ馬のように複雑なリズムで跳ね回るトゥッティも決して浮つかず腰のすわった迫力がある。
手数は多いがビートを強調しすぎないドラムスのおかげで、ヴォーカル、ギター、キーボードらのアンサンブルが際立ち、ポリフォニックでクラシカルな演出が生きてくる。
そして、いい意味での大袈裟さ、広げた大風呂敷に、自然と胸が熱くなる。
北欧の地縛霊 ANGLAGARD、いやナポリの異端 IL BALLETTO DI BRONZO に匹敵する、古色蒼然にしてアヴァンギャルドな豪力シンフォニック・ロックの逸品。
近年のイタリアン・ロックの中では屈指の作品でしょう。
ヴォーカルはイタリア語。
「Verso L'Alba」(2:52)邪悪なるカノンによる序曲。位相系エフェクトの残響が追いつ追われつのテーマをミステリアスに彩り、進軍ラッパを思わせるシンセサイザーの雄叫びが静寂を貫く。インストゥルメンタル。怒張の如きオルガンの轟き。
「Insolita Parte Di Me」(7:21)MUSEO 復活の狼煙のような厳かで哀愁あるシンフォニック・ロック。ジャジーな懐も深い。力作。
ここでも猛るオルガンに思わず眩暈が。
「Boccadasse」(5:21)
過激なフレーズが交錯するにもかかわらず牧歌調を湛える正統イタリアン・ロック。クラシカルなハードロックと草原を走る風のようなフォークロックが一つになっている。
「Le Due Metà Di Una Notte」(5:19)ネオプログレ・スタイルの変拍子リフが目立つ作品。
「La Stanza Nascosta」(5:10)ピアノ、アコースティック・ギター伴奏によるクラシカルなバラード。真っ直ぐなヴォーカルが突き刺さる。苦悩はチェロの調べとも分け合う。終盤の深い救済感。
往年の名品たちと並置しうる佳作。
「Danza Esoterica Di Datura」(6:13)邪悪な輪舞の中にさまざまなイメージを描き込んだ悪夢的幻想曲。傑作。鮮烈にして幻惑的なピアノ・ソロ、沸騰するハードロック。疾風のような変拍子アンサンブルを断ち切るのは激情に身悶えるヘヴィ・ロックだが、その正体は、忘れられたオルゴールの調べであった。インストゥルメンタル。
「Faldistorum」(6:02)HM 的なセンスを活かした邪神崇拝的ヘヴィ・オペラティック・チューン。メロトロン轟く。初期 KING CRIMSON を耳にしたときと同質の感動が。
「L'attesa」(4:36)GENTLE GIANT ばりのオペラ風快速変拍子ハードロック。
「Il Centro Sottile」(10:40)スケールの大きなドラマを綴るファンタジーの力作。ド演歌な哀愁。エンディングの余韻がいい。
「Antidoto Mentale」(3:29)ボーナス・トラック。おだやかなエピローグ。
(BWRCD123-2)
Elisa Montaldo | keyboards, voice, chorus, ethnic instruments |
Fabio Gremo | bass, classical guitar, chorus |
Giulio Canepa | electric guitar, acoustic guitar, classical guitar, chorus |
Paolo Tixi | drums, chorus |
Francesco Ciapica | voice, chorus |
2013 年発表の第二作「AlieNatura」。
内容は、重厚かつ情熱のたぎるヘヴィ・プログレッシヴ・ロック。
シャウトもこなすバリトンというべきか低音のテノールというべきか、野卑ではあるが男性的な魅力にあふれる本格的なヴォーカルと音数に頼らない重みのある演奏がセンスのいいアレンジと絶妙のテンポで繰り広げる、感傷と雄々しさが混然となった音楽の「勲」である。
帯のタタキは正しく、まさしく MUSEO ROSENBACH の再来。
その音楽は、ハードロックやクラシカル・ロックとも微妙な差異を感じさせる独自性の高いものであり、唯一無二の世界観の音楽としての巧妙な敷衍である。
強いていえば、それは原罪、畏怖、厳粛、敬虔、贖罪といった宗教的なものの属性に近い現れ方をしている。
ナチュラルな起伏を成しつつ流れてゆく演奏は悠然とした安定感があり、胸に秘めたロマンを必要十分に表現し切っている。
性急さのあまり傾いだまま転がり落ちるようなスタイル、奇を衒い切ったバロック極まるスタイルは、芸術性を第一に掲げるイタリアン・ロックの顕著な特徴であるが、ここの作風はあえてそれを抑えてオーセンティックなスタイルに依拠して音楽を枠にはめた結果ではないだろうか。
ぶっ飛びながらも結果的に王道を歩む、ではなく、まず王道を定めてそこを堂々と歩むために研鑽を積みその結果がこの高尚でなおかつ胸躍るエンタテインメントになった、ということだ。
ごちゃごちゃいったが、結局は芯の通ったメロディがあり、それを誠実にたどり思いをそこに寄せていっているということだろう。
とにかく腰の据わった語り口がいい。
オルガンとギターは古代戦士のように勇壮にして気高く、なおかつ狂熱の攻撃性を備える。
ともに、音吐朗々と哀愁を歌うのも怒りに猛り狂うのも牙を研ぎながら凶暴なリズムを刻むのも自在である。
この両輪が駆動する熱気あふれる世界に、典雅なアコースティック・ピアノとクラシック・ギターとメロトロン・ストリングスが古典の彩を添え、預言者の如きヴォーカリストが物語を綴る。
それにしても、 MUSEO に似すぎだが、第一作でリード・ヴォーカルをつとめた本家のステファノ・ガルフィは脱退し、現ヴォーカリストはオーディションで募った模様。
第一曲、タイトルを見て「おやっ?」となり、序盤の日本語モノローグにびっくりし、その後は王道プログレな展開に一気に引きずり込まれる。
PINK FLOYD、若干あり。
JETHRO TULL、かなりあり。
しなやかなソロとセンスあふれるリフを刻むギターはほんとうにカッコいいです。
そして鍵盤奏者は、ピアノがうまいすてきな美人。
ヘヴィ・シンフォニック・ロックの覇王道に久々に現れた傑作。
ヴォーカルはイタリア語。
「Kaze(風)」(4:21)吹きすさぶ風、ギターの調べ、鈴の音。葬列のイメージに琴の音と日本語のモノローグが重なるエキゾティックなイントロダクション。本編は、クラシカルでフォーキーながらもハードロックである。謎めいたブレイクを経て、JETHRO TULL ばりのヘヴィ・ロックが火を噴く。この意味ありげで怪しく、侘しさとヘヴィネスが矛盾なく同居するところはイタリアン・ロックならでは。
「Senza Colori(色なき世界)」(8:34)重厚なるミドル・テンポのヘヴィ・シンフォニック・チューン。
無類の存在感を放つ、不器用でむくつけき男性ヴォーカル。
テクニカルなのにバタバタしたドラミング。中盤からの浄福感ある展開もいい。
「Il Passo(足あと)」(9:28)イタリアものらしいクラシカルな余韻のある歌ものロック。運動と静止の絶妙な対比。後半のインスト・パートもギター中心にメロディアスな歌心を活かす。
「Fino Alla Vetta(頂へ)」(7:42)GENESIS ルーツのネオ・プログレッシヴ・ロック的な作品。
「Onirica Possessione(夢の囚われびと)」(9:18)終盤の女性ヴォーカル(鍵盤奏者)が圧巻。
「Notturna(月の女神)」(2:46)ファンタジックなピアノ弾き語り。リード・ヴォーカルはキーボーディスト。
「Il Cacciatore(狩人の物語)」(14:55)卓越したストーリーテリングを見せる大傑作。プロローグからエピローグまで筋が通る。
「La Stanza Nascsta(隠れ部屋)」(5:55)ボーナス・トラック。第一作収録曲の 2013 年のライヴ録音。新ヴォーカリストが「アルバムでは歌っていないけどここで歌います」とコメントしている。
(ARC-1163)
Francesco Ciapica | main vocals |
Giulio Canepa | electric guitar, classical guitar, backing vocals |
Elisa Montaldo | keyboards, backing vocals |
Fabio Gremo | bass, classical guitar, backing vocals |
Mattias Olsson | drums, percussion, keyboards, processed sounds |
guest: | |
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Andrea Montaldo | percussion on 10 |
2017 年発表の第三作「Il Ludere」。
内容は、わりとヌケのいいハードロック系シンフォニック・ロック。
声量ある男性的なヴォーカリスト(イアン・ギランのカヴァーがうまそう)がキビキビとした演奏をリードし、マジソン・スクエア・ガーデン辺りでも受けそうな作風である。
ロック古典という意味でのクラシカル・ロックとしても最上級の内容だろう。
ジャジーなアクセントも適宜あり。
しかし、本領は、5 曲目のようなアコースティックな弾き語りにあると思う。
こういう曲から立ち昇るロマンチシズムは英米圏ハードロックにはありえない。
6 曲目の変拍子メロディアス・シンフォニック・チューンは力作。
ドラマーは各国で活躍する元 ANGLAGARD のマティアス・オルスン。
ボーナス・トラック「Graffe」はイタリアン・ロックの精髄を極めた名品。
ヴォーカルはイタリア語。
(BWRCD 201-2)