エストニアのプログレッシヴ・ロック・グループ「IN SPE」。 79 年結成。 デリケートな表現が特徴的なクラシカル・シンフォニック・ロック。 キーボードを中心にした作品を二枚残す。 リーダーは作曲家の Erkki-Sven Tüür。
Peeter Brambat | flute, tenor recorder |
Toivo Kopli | bass |
Priit Kuulberg | digital normalizer, Roland vocoder |
Mart Metsala | Prophet 5, Roland Jupiter 8, Hammond organ, VLM |
Riho Sibul | guitars |
Anne Tüür | Fender Rhodes, Yamaha electric grando piano |
Erkki-Sven Tüür | Minimoog, Prophet 5, Roland Jupiter 8, flute, recorder, vocals |
Arvo Urb | drums |
82 年発表のアルバム「In Spe」。
Melodia からの LP 原題は「Ensemble」。
内容は、シンセサイザー、リコーダーを中心にしたアンサンブルによる優美でクラシカルなシンフォニック・ロック。
ジャズ、ロック的な即興パワーで押すのではなく、クラシックと同様の綿密な作曲を丹念に誠実に再現するスタイルのようだ。
サウンド面の特徴は、寒色系の音色で格調高く歌い上げるシンセサイザー(ムーグに触発されたロシア国産機だろうか、レゾナンスの重厚な響きが特徴的である)、ディレイを多用したメロディアスなギター、そして、電気楽器のクールさを和らげるように素朴な調べで均衡を保つフルート、リコーダーなど。
シンフォニックという言葉が表すような雄大な演奏も確かにあるが、キーボードとフルート、リコーダーが、まろやかな調べで空間を静かにうめてゆく演奏のほうが印象が強い。
リズム・セクションとともにギターがエンジンをかけてドライヴ感のある演奏へと進むことがあっても、いつしか、このフルート、リコーダー、シンセサイザーによるリリカルなアンサンブルへと戻っていく。
(管楽器やキーボードの凛としたプレイと比べると、ドラムスがややおっかなびっくりな感じがするところも面白い)
そして、フォーク・タッチの旋律をさえずるように歌い上げるフルート、リコーダーにシンセサイザーの調べが重なると、再び、アンサンブルはゆっくりとだが動きを取り戻してゆく。
全体に舞曲的な運動性よりも、歌曲風の懐の深い、重みあるシーンの演出が得意なようだ。
そして、その歌曲風の展開にはやや沈んだ面持ちもあるが、割合としては純朴でファンタジックな味わいが勝っていると思う。
ひんやりとした感触は SOLARIS から HR 調の演奏を除いた感じであり、ファンタジックな演奏は中後期の CAMEL のようなイメージ、といえばいいかもしれない。
また、整然とした表現がかえって辺境色をかもし出してしまうところが、ハンガリーの EAST 辺りと共通している。
シーケンス風のシンセサイザーがかなり時代を感じさせてしまう一方で、フルートやリコーダーの音がまったく古びていないところも興味深い。
4 曲目は、ギターがリードするシンフォニックなヴォーカル・ナンバー。
エキゾチックな言葉の響きが強烈なインパクトだ。
シンセサイザー、ハモンド・オルガン、ギターと連なる、いかにもプログレらしい演奏がうれしい。
最終曲は、シンセサイザーを活かしたボレロ風の作品。
マイク・オールドフィールドのようなミニマルで哀感ある演奏にへヴィなギターとオルガンがオーヴァーラップするなかなかキテレツな展開。
「惑星」を思わせる重厚な場面も。
「Ostium」(4:25)
「Illuminatio」(6:50)
「Mare Vitreum」(8:16)
「Antidolorosum」(4:47)
「Päikesevene / The Sunboat」(8:59)
「Sfääride Võitlus / The Fight Of The Spheres」(7:19)
(ERCD-028)
Alo Mattiisen | Fender Rhodes, Yamaha electric grando piano, Prophet 5, Roland Jupiter 8 |
Peeter Brambat | flute, tenor recorder |
Vello Annouk | bass |
Riho Sibul | guitars |
Arvo Urb | percussion |
Terje Terasmaa | vibes, xylophone |
Ivo Varts | typewriter on 1 |
Jüri Tamm | synthesizer |
A Lend | harmony horn |
83 年発表のアルバム「Typewriter Concerto In D」。
Erkki-Sven Tüür 氏がグループを脱退し、リーダー格の作曲家として Alo Mattiisen を迎える。
作曲ものである点は前作と変わらないが、メロディアスでジャジーなタッチから厳かな教会音楽調まで、作風は広がりを見せている。
旧 A 面のタイトル組曲では、ルロイ・アンダーソンからの影響か、タイプライターが演奏に使われていておもしろい効果をあげている。
そして、それ以上にアンサンブルとともに個人のプレイを大きく取り上げる作風が新鮮である。
前作よりもぐっと流麗になったプレイで演奏をリードするギター、テクニカルなべース、シロホン、ヴァイブなど奔放なソロを取るところも多い。
バンド演奏のダイナミズム、メロディアスさを生かした作品だ。
MUSEA の CD では曲想を一貫したいという Mattiisen 氏の配慮で「You Will Not Lie Buried in Obscurity」(作曲はギタリストとベーシスト)が「Departure」に差し替えられている。
全体にややこなれ切っておらず、前作ほどには個性的なイメージを突きつける作品にはなっていない。
タイトル組曲がかろうじて合格というところだろうか。
もっとも、作曲で締めつけていない分、ギターに代表されるように、一つ一つのプレイに余裕が感じられるという気もする。
「Typewriter Concerto in D」
「Allegro vivace e marcato」(5:44)
「Largo molto tranquillo」(6:10)
「Allegro agitato」(5:16)
「Finale」(0:50)
「Feeling of Eternity」(6:00)厳かな挽歌。
「Rondo of the Broken Arm」(4:45)
「Vallis Mariae」(3:40)
「Departure」(11:10)ECM の作品のような現代クラシック。
(FGBG-4118.AR)
Isabelle Van Keulen | violin | |
Paavo Järvi | conductor | |
City Of Birmingham Symphony Orchestra |
2003 年発表のアルバム「Concerto for violin and orchestra / Aditus / Exodus」。
Erkki-Sven Tüür 氏作曲のヴァイオリン協奏曲他二作品から構成される現代音楽作品である。
緊迫感と鋭さ、ダイナミックな力強さを示す作風であり、ロックバンドの経験が完全に反映されている。
ヴァイオリン協奏曲では、ヴァイオリニストが変拍子反復も含むスリリングな超絶技巧を見せ、また、第二楽章の幻想性も確か。
第三楽章はマリンバ、ヴァイブなど打楽器も現れて、きわめてジャズ、ロック的なビートのある演奏となる。
ライナー・ノーツでは、IN SPE への言及もあり。
プログレ・ファンにお薦めできる内容です。
「Concerto for violin and orchestra」(17:18+12:07+5:26)
「Aditus」(9:16)金管楽器も導入した神秘的かつ衝撃的なアンサンブル。
「Exodus」(16:59)シリアスな弦楽器セクション、不気味な管楽器セクションがスリリングに織り成すプログレ的興奮度満点の傑作。
後半ドラムスが現れると、完全にプログレ・ファン向きの展開となる。
初期 UNIVERS ZERO を破格にスケールアップしたイメージである。
(ECM New Series 1830)