イタリアの現代音楽家「Luciano Basso」。 三作目以降は現代音楽調になるそうだ。Roberto Cacciapaglia よりも親しみやすい感じです。
Luciano Basso | piano, organ, mellotron, electric piano, clavinet |
Luigi Campalani | violin |
Riccardo Da Par | drums |
Massimo Palma | cello |
Mauro Periotto | double bass, bass |
Michele Zorzi | guitar |
76 年発表の第一作「Voci」。
内容は、ピアノ中心のキーボード、ギターにヴァイオリンやチェロを交えたシンフォニックなインストゥルメンタル。
クラシカルなピアノのリフレインの上でヴァイオリンやギターが優美に歌うかと思えば、オルガンとクラヴィネットが無機的なタッチで忙しなくたたみかける。
ゆったりと優雅な表情と変拍子によるアグレッシヴな表現を織り交ぜた、エレガントなのに忙しく現代音楽調なのにあまり険しくない、というイタリアン・ロックらしい作風である。
さらに、GENESIS そのもののようなプレイやキース・エマーソン調のパーカッシヴなオルガンによるジャズ・タッチまで、いわゆるキーボード・ロックとしてのツボも怠りなく押さえていいる。
明快なアンサンブルによる表現は、サウンドそのもののややチープなテクスチャ以外は、現代の好事家キーボーディストの作品といっても通りそうだ。
爆発的な独創性を発揮しているというよりは、特定の音の再現を望むファン気質を臆せず出した内容といえるだろう。
80 年代あたりのインディ系フォロワーを思わせるところもある。
もちろん、だからといって、内容がおそまつというわけではない。
なめらかなテーマとクラシカルかつ純朴なアンサンブルには明朗な叙情性がつまっているし、攻撃的な場面の語り口もイタリアン・ロックらしい田園風味と暴力性がない交ぜになった独特のものだ。
そして、クラシカルといっても真面目過ぎず、愛らしいエチュードをそのままぶつけてきたり、ジャジーに外したり、やんちゃなところもある。
さらに、現代音楽専攻らしく反復表現やアブストラクトな表現が随所に盛り込まれている。
イタリアン・ロックの特徴である甘く切ないメロディ・ラインが見つからないが、ヴォーカルがないことから考えても、メロディアスであることよりもシンプルな音とその大胆な組み合わせであるアンサンブルの妙味を訴えたいということなのだろう。
そして、そのモダンなアンサンブルこそが自分の歌声「Voci」である、といいたいのかもしれない。
細かいわりに揺れの大きいドラムスも慣れればさほど辛くないし、なにより、クラシカルな器楽に鋭角的で衝動的なリズムを盛り込むことでユニークな効果は生まれている。
激しく舞うソロ・ピアノが、いつしか駆り立てるようなリズムとともに若干傾ぎながらも勇躍走り出すのだ。
全体に、決して LATTE E MIELE のような大掛かりな作風ではないが、小粒でピリっと芯の通った作品である。
各場面の説得力を頼るあまりか、場面展開があまりに大胆になってしまうというイタリアン・ロックならではの「悪癖」も、しっかり見せてくれる。
もっとも、作家が現代音楽家なので、こういうアヴァンギャルドなアプローチはお手のものなのだろう。
イタリアン・ロックらしい田舎風の濃い目の味付けが悪くない、センスのいいキーボード・ロックといえるだろう。
「Preludio」(7:36)
「Promenado I」(4:45)
「Promenado II」(6:19)
「Voci」(10:52)
「Echo」(9:17)
(ARISTON AR/LP 12228 / VM 043)
Luciano Basso | piano, synthesizer, vibraphone, clavinet |
Massimo Palma | cello, sitar |
Gilberto Giusto | soprano sax |
Franco Scoblan | guitar |
Oscar Dupre | contrabass |
Leonardo Dosso | bassoon |
Giorgo Baiocco | flute |
Uerea Tonetta Badelucco | soprano voice |
Rossane Szamko | violin |
Stefano Guardi | violin |
78 年発表の第二作「Cogli IL Giorno」。
内容は、ピアノを主人公にさまざまな音と交差させた、若々しく暖かみのある、ユニークな現代音楽。
管弦さまざまなドローンやヴォカリーズと無窮動のピアノのパッセージを重ねて、溌剌とした躍動感の果てに独特の神々しさとペーソスを生み出す作風である。
POPOL VUH などドイツの宗教系実験音響の作品とも共通する点がある。
サックスやヴァイブがあってもジャズっぽくならないのは、クラシカルな和声が主であることと、対位的な音の配置によるため思われる。
サイケデリックなギターが飛び込んでくるところもあるが、すでに悠然とした浄福の空気ができ上がってからなので、あくまでエッジの効いたアクセントとして機能している。
ピアノのタッチはラフなようでいて、音が豊かで明快であり力強い。
舞曲風のリズミカルな演奏が得意なようだ。
芸風はゴードン・ギルトラップのギター・プレイに通じるものがある。
現代音楽志向らしいノイズや電子音、エフェクトを使用した場面もあるが、ピアノによるリードがそれらをあたかもせせらぎに遊ぶ魚や虫たちの気まぐれな振る舞いのように愛らしく感じさせてくれる。
全体に、一口に何々風とはいえない(ブライアン・イーノや ECM の諸作と近しいようで、やや異なる)、個性にあふれるアコースティック・ミュージックの佳作である。
個人的には、オーヴァープロデュースにならない、宅録風の素朴でプライヴェートなタッチが好きです。
タイトルは「Seize The Day(この日をつかめ)」のイタリア語訳であり、元はラテン語の Carpe Diem (明日をあてにせず今日という日を生きよ)という警句である。
プロデュースは、グラハム・ジョンスン。
6 曲目(6:34)にライヴ録音によるボーナス・トラックあり。(クレジットなし)
「Cogli Il Giorno I」(2:06)
「Mattino?」(3:55)
「Ruotare」(9:51)
「Cogli Il Giorno II」(11:11)現代音楽的な緊張感と歌曲のような愛らしさが交差する力作。バスーン、シタールが印象的。
「Oliante」(7:35)
(ARISTON AR/LP 12333 / AMS 142 CD)