MAELSTROM

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「MAELSTROM」。 72 年結成。 73 年シングル「Below the Line/Law and Crime」とアルバム「On The Gulf」を録音するも、シングルのみの発表にとどまったようだ。 75 年第二作「Paradigms」を録音。2013 年「On The Gulf」が CD 化。

 Maelstrom
 
Roberts Owen acoustic guitar, sax, piano, mellotron, vocals, flute on 9,10, synthesizers on 9,10
James Larner flute, vibraphone, marimbas, piano, harmonica
Paul Klotzbier bass
Mark Knox hammond organ, mellotron, harsichord
Jim Miller percussives
Jeff McMullen lead vocals, electric guitar
Rollin Wood (9,10) percussives
D. Kent Overholser (9,10) hammond organ, mellotron, synthesizers

  97 年発表のアルバム「Maelstrom」。 BLACK MOON PRODUCTION からの CD 再発であり、内容は、73 年の第一作「On The Gulf」からの抜粋曲と、80 年 Ft. Wayne におけるライヴ録音曲から構成される。 これだけ味わいある作品を聴いてしまうと、第二作やロバート・オーウェンのソロ作にも興味が出る。 ぜひ CD 化してもらいたいものだ。 ジャケットは「On The Gulf」のもの。
  第一作から抜粋された前半 8 曲は、70 年代前半のブリティッシュ・ロック(THE MOODY BLUES、初期 KING CRIMSONGENTLE GIANT、初期 VERTIGO のオルガン・ロック、特に教会っぽくなると GRACIOUS、など)影響下の音である。 オルガン、メロトロンがフィーチュアされるオルガン・ロック調の曲から、管楽器やヴァイブの入るカンタベリー風のジャジーなインストゥルメンタルまで、作風は多彩だ。 音数の多いドラムスや技巧的なギター、オルガン、ピアノなどアンサンブルもソロも充実した、いわゆるテクニカルなプログレ的プレイにあふれた内容である。 全体的に見ると、キーボードが演奏の主導権をもっている。 そして、ヴォーカル・パートは、古めかしいエコーと声質こそ地味ながらも、メロディ・ラインがしっかりとしていて上品な叙情性がある。 曲想は、主としてヴォーカルとキーボードによるしっとりした詩情性と、インストゥルメンタルによるドライでメカニカルな空気感が交じり合う、独特のものだ。 ビートの流れを汲む 70 年代初期英国ロックが基調なのは、間違いない。 しかし、英国ロックと比べると、メロディと和声に流されてもウェットな情感が過度には強まらず、どちらかといえば、きっちりとしたビートに音を詰め込む、一種厳格さのあるスタイルだと思う。 かように技巧面の充実が前面に出るところが、アメリカのグループらしい。 一つ一つの楽器のプレイはもとより、アンサンブルも緻密かつスリリングであり、ぞくっとするシーンも多い。
  録音時期の異なる最終 2 曲は、オルガン、メロトロンに加えてシンセサイザーが大幅に導入された技巧的インストゥルメンタル。 録音はかなりチープだが、EL&P ばりのせわしないキーボード・オーケストレーションをフィーチュアした作風である。 EGG のような現代音楽的でアカデミックな面も見られるが、基本はロックらしいかっ飛ばし感が強い。 アメリカン・ロックらしい潔さといえるだろう。 こういった音楽性の変化から、70 年代を通じてさまざまな音楽に影響を受けつつ地道に活動を続けていたことがうかがわれる。
   本作品が生き残った理由の一つとして、メロトロンの多用があったのは間違いないが、豊かで味わい深い楽曲そのものの魅力を 忘れてはならない。 いわゆる発掘ものの中では、白眉と思う。 録音はかなり古めかしいですが、お薦めです。

  「Cares」(5:45)オーウェン作曲。 「On The Gulf」より。
  「In Memory」(4:43)ノックス作曲。 「On The Gulf」より。
  「The Balloonist」(5:31)オーウェン作曲。 「On The Gulf」より。
  「Alien」(2:59)マクミラン作曲。 「On The Gulf」より。
  「Chronicles」(4:16)レイナー作曲。 「On The Gulf」より。
  「Law And Crime」(3:26)オーウェン作曲。 「On The Gulf」より。
  「Nature Abounds」(4:23)レイナー作曲。 「On The Gulf」より。
  「Below The Line」(5:33)オーウェン作曲。 「On The Gulf」より。
  「Opus None」(5:37)オーウェン作曲。 ライヴ録音。
  「Genesis To Geneva」(7:26)オーヴァーホルサ作曲。 ライヴ録音。

(BMP002)

 Paradigms
 
Bruce Weingardt bass, acoustic guitar
James Larner flute, vibraphone, percussion
Chris Cravens drums
Robert Williams alto & soprano saxophone, oboe, alto recorder, cello, voice, maracas, bells, piano, synthesiser

  75 年発表のアルバム「Paradigms」。 内容は、スペイシーで神秘的なフリージャズ、ニューミュージック。 ストロング・スタイルの即興に加えて、残響や反復、ノイズといった音響効果も取り入れている。 前作の中心だったロバート・ウィリアムス(オーウェン)の志向の変化がそのまま全体の変化につながっているようだ。 ラーナーのフルートやヴァイヴのプレイに前作と通じるアヴァンギャルドな志向が見える一方で、ウィリアムスのサックスのプレイは典型的なフリージャズのパワープレイである。 ライヴ録音らしき作品でも演奏中に楽器の持ち替え(ベースからアコースティック・ギター、サックスからピアノなど)が行われているところがおもしろい。

  「Phylum」(3:17)
  「Morning Song」(1:21)
  「Asterism」(7:40)
  「The Picture Changes」(4:30)
  
  「Virago」(0:57)
  「The Herron」(9:52)
  「Vapor Marsh」(6:21)
  「The Clowns Perform」(1:32)
  「Seldom If Ever」(4:54)

(750725)


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