MARYSON

  オランダのプログレッシヴ・ロック・ユニット「MARYSON」。 ファンタジー作家であるウイム・ストルク(2011 年逝去)を中心としたグループ。二枚の作品は 90 年代ネオプログレッシヴ・ロックの作風を象徴する佳品。

 Master Magician I
 no image
Hein Van Den Breck lead vocals
Chris Van Hoogdalem guitars, backing vocals
W.J Maryson (Wim Stolk) keyboards
Henny Van Mourik bass
Rob Boshuijzen drums, percusson

  96 年発表のアルバム「Master Magician I」。 メロディアスでシンフォニックなロック・サウンドでオリジナルのファンタジー作品を描いたアルバムである。 CAMEL に通じる作風であり、バンドの音に加えて効果音も交えて誠実に丹念にストーリーを綴っているイメージだ。 ミドル・テンポによるじっくりとした語り口、ライトな音色でよく歌うギター、重厚にして「引き」のツボも心得たストリングス系キーボード、情熱的なヴォーカル、といった要素がストーリー・テリングを主眼としたアレンジの下にバランスよくまとまっており、映画や小説を味わうスタンスで付き合っていける。 素朴さの演出には、弾き語りフォークのようなアコースティックな音(ギター、ピアノ、アコーディオンなどなど)も使われている。 どの曲も表現に自然な抑揚から生まれる深みがあり、そういったさまざまな表情をもった曲が集まって一つの大きな流れを作り上げるという理想的な構成になっている。 また、作者は、直接間接さまざまなスタイルの引用から判断するに、プログレ好きであろう。(PROCOL HARUM も好きかも) 極端な HM/HR テイストはなし。 HM に限らずどの方向にもデフォルメされた極端さというものがないところが、上品さ、典雅さ、優美さを醸し出しているのだと思う。 つい言わずもがなの下品な冗談が口をついてしまうアメリカ人とは違う。(それはそれで好きだけど。脱線) 要は、メロディアスだがまったりしてばかりではなく重さや尖った勢いもあって、ドラマに必須の適切な対比があり、なおかつそれらが行き過ぎていないということだ。 力作といわずしてなんといおう。 随所に顔を出すポップなタッチのルーツは、おおよそ 70 年代終盤から 80 年代中盤くらいまでのポップ・ミュージックであろう。(全米トップ 40 にてまだロックが主流だった頃だ) おそらく純正 70 年代プログレ・ファンだけでなく、アメプロハードや 80 年代のヨーロッパ HM が好きな方もいけると思う。 軟弱なところ、ステレオタイプなところがあるかもしれないが、その一方で上質のバロック音楽を思わせるシーンもあり、心落ちつかせる妙薬としての機能性は高い。
  ヴォーカルは英語。

(WMMS 092)

 On Goes The Quest (Master Magician II)
 no image
Hein Van Den Breck lead vocals, backing vocals
Chris Van Hoogdalem guitars, backing vocals
W.J Maryson (Wim Stolk) keyboards
Henny Van Mourik bass
guest:
Thijs Van Leer flute
Rosemarije Laurens vocals

  98 年発表のアルバム「On Goes The Quest (Master Magician II) 」。 あまやかなファンタジー・テイストをやや強めた続編である。 冒頭、ブルッカーからガブリエル? ヴォーカリストのやや道化師風の歌唱スタイルと「もう少しポップにしようや」的メロディ・ライン、泣き過ぎのギター、ロリ声らにちょっとひっかかるが、その後はピアノやストリングスを中心に醸し出す気品、雅さも油断なく配されており、90 年代らしいメロディアスなシンフォニック・ロックとしては十分な内容だと思う。 (男性ヴォーカリストも 12 曲目でブルッカーに戻る) ギターの歌い方やアコースティック・ギターの伴奏、アンサンブルのモデストなバランスと自然なグルーヴなど、底流には素朴な民謡、フォーク・ソングがあるように感じる。 冒頭から現われるフルートは、FOCUS のタイス・ファン・レールの客演。 要所でフィーチュアされて、場面にぴったり合った表情に個性も交え、さすがの味わいを出している。 個人的には、バロック調の文脈におけるヘンデルやテレマンの作品のような表現が一番の好み。 そして、クラシカルな場面や歌ものの素朴な味わいに加えて、エレクトリックなサウンドを使いこなしたバンドとしてこなれた演奏もある。 キャッチーなテーマを据えることも忘れられていない。 どこかが飛びぬけているのではなく総合点で水準を大きく上回るタイプということだ。 往年のシンフォニックな時期の KAYAK と同じである。 全体としては、柔和で愛らしい表情が印象に残るファンタジックな作品である。
  ヴォーカルは英語。
  
(WMMS 200)


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