76 年発表のアルバム「Atlantis」。 それぞれに特徴のあるシンフォニック・ロック大作三つとブルージーな小品から構成される。 演奏は、ユッカ・グスタフソンによく似たリード・ヴォーカルを中心に、ブルージーなギター、リリカルなキーボード、ていねいなリズムが誠実なアンサンブルをドライヴしてゆくスタイルである。 全体像はアーシーでもったりとしているが、ローカル色と PINK FLOYD、初期 CAMEL などのアートロック色がいい感じでブレンドされている。 おそらく米スワンプの影響とともに WIGWAM の影響を直接強く受けた作風なのだろう。 説明調でいうならば、ブルーズ・ロック、スワンプ・ロックをベースに、ピアノやギターなどのフォーク・タッチのアコースティックな音を活かし、ほんのりソフト・サイケ調をまぶした叙情派ロック・サウンドである。 そして、ヴォーカル中心のミックスやきつすぎないリズム・セクション、ゆったりしたリヴァーブのおかげで全体に夢見るような柔らかさがある。 この、一歩あやまるとぼんやりしそうな音像を引き締めているのがピアノの音である。 1 曲目では、ジム・ペンブロークというかゲイリー・ブルッカーというか、はたまたリチャード・マニュエルというか、このピアノが全体の雰囲気を決めている。 また、ソロ・パートではオルガンやギターがきっちりシャープな見せ場を作っている。 特にオルガンは、意外性と爆発力のあるプレイで曲を引き締めている。 全体にどちらかといえば甘口の音だが、メロディに流されるばかりではなく整ったアンサンブルの面白さをしっかりと味わえる。 そして、本作が長い歴史を生き残ってきた一番の要因は、キレのあるフレーズ、印象に残るメロディ、鼻につかず納得感のある起伏が散りばめられているためだ。 クラシカルでフォーキーで哀愁あふれる曲運びには、思い切って KAIPA と同じ味わいがあるといってしまってもいいだろう。
  このメロディやハーモニーのノスタルジックな暖かみと優しさには個人の思い出を越えた普遍的な魅力があると信じている。 また、スワンプ風ながらも厭世感がなく憂鬱になり切らないのは、フィンランド語のおっとりとした響きによるのではないだろうか。
  2016 年再発 LP/CD では上記 E P曲とともに未発表曲「Lukiossa」を収録。
  
  「Se Vuosi（Its Year）」（15:00） 初期 WIGWAM、PROCOL HARUM をイメージさせる歌もの大作。 70 年代の音。 冒頭からアコースティック・ピアノの音が印象的。 終盤のインスト・パートでは、オルガンが目の醒めるような技巧的なソロを放つ。

  「Kaupungin Naiset（Women's City）」（3:14） ギター、オルガンをフィーチュアした英国流ブルーズ・ロック。 個人的には SPOOKY TOOTH を思い出しました。 音に温かみあり。

  「Atlantis」（9:17）テクニカルなオルガンがカッコいい、ジャジーな作品。 前半のアコースティック・ギターのソロがすばらしい。 終盤には渦を巻く CAMEL 風のストリングス・シンセサイザーもフィーチュア。 終盤のように 70 年代後半らしいジャジーでリラックスした音もある。（音楽的なセンスの良さはイタリアの IL VOLO を髣髴させる） プログレッシヴ・ロックらしい逸品です。

  「Vanha Surullinen Lautu（Old Sad Song）」（10:19） クラシカルでやや感傷的なテーマ（エリック・クラプトンの「Let It Grow」によく似ている）、厳かにゆったりと歌を支えるオルガン、ストリングス、オルガンによる絶妙に「外した」オブリガートなど、KAIPA に匹敵する音感覚を盛り込んだシンフォニック・バラード。 まっすぐ盛り上がるだけではない B メロのヒネリがいい。 後半、ジャジーで快調なシャフル・ビートの展開とともにオルガン奏者がキース・エマーソン（いやジョン・ロードか）ばりの爆発的なプレイを披露する。 終盤は感動的。
  
（LRLP 169 / Si-Wan SRMC-4050）