イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「PANNA FREDDA」。 60 年代から活動し、アルバム一枚とシングル二枚を残す。VEDETTE レーベル。
Angelo Giardinelli | guitar, vocals |
Lino Stopponi | keyboards |
Filippo Carnevale | guitar, drums |
Pasquale Cavallo | bass |
Roberto Balocco | drums |
71 年発表のアルバム「Uno」。
内容は、男性的で存在感のあるヴォーカルをフィーチュアし、クラシック風のアレンジを盛り込んだ実験精神旺盛なハードロック。
荒々しくもクラシカルなフレーズを用いるギターとオルガンのリードする演奏は、ハードロックとプログレの区別がまださほど固まっていなかった頃のものである。
ギターのアドリヴやシンプルなリフに全体が乗っかるところは明らかにハードロックだが、ギターとオルガンがユニゾンやハーモニーするテーマ演奏に整ったクラシック調が現れると途端にプログレっぽくなる。
テンポや調子の過激な変化や大胆な音響、調性をあいまいにしたアブストラクトな表現なども、単なるハードロックの枠をはるかに超えていると思う。
情熱を開放し切らない独特の閉塞感は、英国ロックの影響の下、ロックらしいダンサブルなグルーヴやフィジカルなカタルシスにいったん背を向けて新しい芸術を追求する姿勢から生まれるのだろう。
プログレに欠かせぬ要素であるキーボードについては、音質を工夫したオルガンを中心に初期のシンセサイザーやチェンバロなども駆使して、バンド・サウンド全体に広がりと深みを加えている。
また、ヴォーカリストはだみ声気味だが豊かな声量があり、意外なほどメロディアスな表現力もある。
やはり、ルーツにオペラ的な、クラシカルなものが感じられ、雄渾な歌唱で音楽を引き締めている。
特に、悲劇的な表情つけがみごとだ。
こういったクラシカルな要素がハードでワイルドな演奏のそこここに現れてドラマチックな演出をしていると思う。
おそらくは、DEEP PURPLE、URIAH HEEP 辺りのクラシカルなハードロックが影響元なのだろうが、前者のようなヒステリックなまでのスピード感はないし、クラシックの適用もキワモノっぽくなく真正の重厚な響きがある。
そういう点では、初期の URIAH HEEP やオルガン・トリオの QUATERMASS に近い。
また、電子音や騒音を意図的に音楽に適用するなど、往時らしい前衛的なアートセンスもある。
全体としては、ワイルドな音によるクラシカルなアンサンブルを模したロックであり、そこにさらにモダン・ミュージック風の過激なアレンジを施した佳作といえるだろう。
アルバム製作はメンバー交代が激しかったため苦労したようだ。そのあたりの事情はジョルディネリのインタビューにくわしい。
作詞作曲はすべてヴォーカリストのアンジェロ・ジョルディネリ。
プロデュースは、フランチェスコ・アンセルモ。
ツーバス・ロールのサポート・ドラマー、ロベルト・バロッコは、後に CAPSICUM RED に加入。
再発レーベルの老舗 VM による CD 再発第一号。 2007 年の最新盤では、ボーナストラック 6 曲付き。
「La Paura」(6:00)ひきずるような調子が独特な呪術的ヘヴィ・チューン。オペラティックなハードロックということでイタリアらしさ満点。けたたましいギター・リフやシャフル・ビートにバカっぽさが感じられないのも大陸の力か。
「Un Re Senza Reame」(5:05)GRACIOUS の作品を換骨奪胎。八方破れ。
「Un Uomo」(4:55)ヘヴィでクラシカルなオルガン・ハードロック。
雄々しきオペラの興趣、そして英国ロック影響下のブルーズ・ロック・テイスト。
「Scacco Al Re Lot」(4:30)唸りを上げるファズギターとひげ面のヴォーカルがクラシックのエチュードのように愛らしい表現を盛り込みつつ急激な展開を見せる佳作。
アンバランスの妙が主だが、牧歌調メイン・ヴォーカルの安定感はさすが。
「Il Vento, La Luna E Pulcini Blu」(10:25)クラシックを大幅に取り込み、さらにそれを変容させる試みに挑んだ実験作。アコースティック・ギター、チェンバロ、オルガンによるバロック風のアンサンブルをフィーチュアし、不気味なノイズを積極的に絡めてゆく。崩壊寸前でヴォーカルが世界を救う作戦は当たり。
「Waiting」(3:10)アブストラクトでミステリアスなインストゥルメンタル。混沌に馬鹿シャフルのパートが浮かび上がる。最後まで大混乱。
(VEDETTE VPA 8134 / VM 001)