PENTACLE

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「PENTACLE」。 73 年結成。 作品は一枚。 ARCANE レーベルに所属し、ANGE のツアー・サポートを行う。 75 年解散。

La Clef Des Songes
 
Claude Menetrier organ, Moog, Elka string ensemble, piano
Michel Roy drums, backing vocals
Gerald Reuz electric & acoustic guitars, lead vocals
Richard Treiber bass, acoustic guitar

  75 年発表のアルバム「La Clef Des Songes」。 内容は、哀しげなフランス語ヴォーカルとその歌を押し上げる力強くも緩やかな演奏が特徴的なシンフォニック・ロック。 75 年にしてはやや音が古めかしく、ヴォーカル・パートにはフランスらしい甘目のアンニュイなムードはあるものの、演奏の雰囲気は初期 KING CRIMSON や英国オルガン・ロックに近い。
  演奏は、ストリングス系のキーボードによる音の壁を、意外に表情豊かにうねるハードロック・ギターと存在感あるリズム・セクションが貫いてゆく。 ヴォーカルは ANGE のような演劇調ではなく、フォーク・ソング弾き語り風の細身な感じであり、さほどクセもない。 それでも、フランス語独特のにじむような発声が独特の太く腫れぼったい存在感を示している。 シンフォニックで厚みのある音にもかかわらず、ぽっかりと穴が開いたような喪失感があるのは、このヴォーカルのせいだろう。 そして、他の多くのシンフォニック・ロックの作品と同じく、ここでもキーボードのプレイが曲調を決め、ドラマのステージを提供する大きな役割を担っている。 メロトロン、オルガン(これらのコンビネーションと思われる "ANGE" 風のオルガン)、ストリングスをバッキングや間奏部で「ロックな弦楽奏」として弾きこなし、ソロやギターとのかけあいではムーグやピアノが印象的な音でフレーズを刻む。 一方ギターは、ヴィヴラートとベンディングでフレーズを強調する、わりとオーソドックスな「ロック・ギター」である。 どちらかといえば、ソロよりもアルペジオやテーマ演奏などキーボードとのアンサンブルでの反応のよさが印象的だ。 キーボードとともにたたみかける迫力のユニゾンは、作品のクライマックスや重要な場面転換に使われている。 70 年代らしさ、無軌道な青春の黄昏感はこのギターに負うところが大きい。 そして、分厚くもっさりとした音でもイメージがボケないのは、手数の多いドラムスと和音のライン以外にギターと同様のフレーズを弾きこなすベーシストのおかげだろう。
  ミドル・テンポの曲が主であり、ゆったりとした叙情性が感じられるが、それ以上に粘りつく空気の中でもがいているような息苦しさがある。 ドロドロと濃い霧のようなサウンドスケープ、ギターとキーボードの豊かな表情などは、ANGE にダイレクトに通じる。 ただし、印象に残るようなメロディやフレーズはない(というか、全部同じような感じである)。 しかし、メロディ・ラインよりも、丹念に織り込まれたアンサンブルによるシンフォニックな雰囲気と音の迫力で聴くべき作品なのだろう。 全体としては、きわめて正統的なシンフォニック・ロック作品といっていい。 地味ですが、繰り返し聴いているうちに秘められたドラマが次第に見えてきます。 「Clef」というのは鍵のことらしく、確かに、ジャケット中央下部に「浮いている」修行僧らしき人物は大きな鍵を持っています。
   プロデュースは ANGE のクリチャン・デキャン。 MUSEA からの CD 再発盤では、74 年ライヴ録音のボーナス・トラック付き。 重苦しい音ながら、どこか小洒落てポップなところがユニークである。

  「La Clef Des Songes」(4:06)堂々としたテーマとロマンティックな表情のヴォーカルの対比がドラマを生む佳作。
  「Naufrage」(4:27)ギター弾き語りによる哀愁のバラード。終盤、突如リズム・チェンジを繰り返してひっくり返る。
  「L'âme Du Guerrier」(6:06)メランコリックなヴァースから次々と変化する充実した間奏へと向かう佳作。いまさらながらプログレとは「間奏」が「サビ」なロックなのだと認識させられる。ギターが突如キレて爆発的なプレイを放つ。
  「Les Pauvres」(3:25)アコースティック・ギターのアルペジオ、物寂しいシンセサイザーの調べ、密やかなヴォーカルがぴったりの展開だ。弾き語りフォーク。間奏では再びけたたましいギター・ソロが。わりと日本人の感性に近そうだ。
  「Complot」(5:01)正調オルガン・ロック。70 年代初期の空気が充満。
  「Le Raconteur」(10:42)静々と進む叙情的な演奏がいつしか昂揚し、ギターとムーグが交互にソロを取りつつ盛り上がってゆく感動的な作品。 ギターのアルペジオの凝ったコード進行が GENESIS 的。

  「La Clef Des Songes」(6:00)ボーナス・トラック。
  「Complot」(8:43)ボーナス・トラック。
  「Le Raconteur」(7:23)ボーナス・トラック。

(FGBG 4131.AR)


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