ANGE

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ANGE」。 72 年アルバム・デビュー。離散、再集合を経て、現在第二世代として現役で活動中。 カリスマ、クリスチャン・デュキャン率いる芸術の国にふさわしい演劇ロックの立役者である。 2018年 新作は「Heureux !」。


 Moyen-Âge
 
Tristan Décamps keyboards, piano, vocals, chorus
Hassan Hajdi guitars
Thierry Sidhoum bass
Benoît Cazzulini drums, percussion
Christian Décamps vocals, guitars, keyboards

  2012 年発表の作品「Moyen-Âge」。 内容は、風格ある歌ものオールドウェーヴ・ロック。 粘っこい歌唱は、ハードにヘヴィにタイトにクランチに、ありとあらゆるロックのスタイルを難なく乗りこなし、絶頂期の THE ROLLING STONES と同じ種類のギラギラとした熱気を放つ。 そして同時に、ポップス、シャンソン、THE BEATLES、AOR、Virgin レーベルを軸に洗練と前衛の頂点に達したオーガニック・サウンド、といった要素もまんべんなく取り入れ、というか 70 年代後半くらいの最盛期で自らを語るスキルを完成させて、そこからは悠然すぎるほどゆったりと構えている。 オールドウェーヴという言葉はただのラベルであり、揶揄するニュアンスは微塵もない。 時の経過は大した意味を持たない、ここの音はそういっている。 そして、メロディの良さは格別であり、すべての曲に耳を惹きつける魅力がある。 人様に聴かせるには当たり前のはずなのに、はたしてこの水準に達しているバンドがいくつあるだろうかと思わず指を折ってしまう。 誰かも定かでない仮想敵を標的にして遠慮会釈のないアジテーションを叩きつける現代のドン・キホーテ、もはや怖いものなど何もないだろう。

(ART 6/1)

 Le Cimetiere Ces Arlequins
 
Gerad Jelsch drums, percussion
Francis Décamps keyboards, voice
Daniel Haas bass
Jean-Michel Brezovar guitar
Christian Décamps vocals, keyboards

  73 年発表の第二作「Le Cimetiere Ces Arlequins(道化師の墓所)」。 フランスでゴールド・ディスクに輝いた。 内容は、深く湿った霧に覆われたようなサイケデリック・サウンドとエキセントリックなアジテーション調の一人芝居ヴォーカルをフィーチュアしたシンフォニック・ロック。 重苦しく淡々と進むアンサンブルは、強烈なリフで目を覚ましたかと思えば再び眠るように落ち込んでゆく。 その起伏は魔術的だ。 ギターとオルガンのリフはドライヴ感を生むために熱い粘り気を振り解かなければならない。 そして、ハードロックのような直線的カタルシスやサイケデリック・ロックのような原色の酩酊感とは異なるものを生み出している。 エネルギッシュに走るシーンではヤケッパチ風の、というかパンキッシュなストリートノリも露わになる。 超個性派ヴォーカリストの歌唱とともに攻撃的な表情から神秘的なムードまでさまざまなシーンをリードするのは、入念にトーン・コントロールされたオルガンのプレイである。 ギタリストもオーソドックスなプレイを堅実に決められるテクニシャン。 低音の広がりを強調したような録音によるこもりがちの音がこのパフォーマンスには似合っている。 特に、2 曲目のような動と静が切りかわる曲で特徴が顕著に現れる。

  1 曲目「Ces Gens-La」(4:47) 湿り気がまとわりつく一人芝居風の歌もの。 蒸気機関のような古臭いオルガンとブルージーなギターのむせび泣き。 けたたましかったり打ち沈んだり躁鬱を巡るような激しい曲調変化。 ジャック・ブレルのカヴァー。 ("あにーはずらむ"さん、情報感謝です)

  2 曲目「Aujourd'hui C'est La Fete De L'Apprenti Sorcier」(3:25) ヘヴィなリフでアグレッシヴに攻めたてる調子が特徴的なシンフォニック・ロック。 スペイシーなオルガン。 GENESIS を思わせる幻想的なブリッジもいい。(小鳥のさえずりはトーン調整したオルガンだろう)

  3 曲目「Bivouac 1ere Partie」(5:32) ハイドン風のクラシカルなテーマで序盤を駆け抜け、サイケデリックな乱調と繊細な表情が交差する中間部を経て、テクニカルなアンサンブルへと収斂する劇的な力作。 終盤のインストゥルメンタルは手堅いリズム・セクションと DEEP PURPLE ばりの奔放なオルガンがリードする。

  4 曲目「L'Espionne Lesbienne」(2:52)弾き語りフォーク奇想曲。 初期の KING CRIMSONGENESIS を思わせる牧歌調に狂気とナンセンスが交じったイメージ。 フルート(あるいはメロトロン)、エレキギターらのこもった音がアコースティック・ギターの粒立つ音と好対照をなす。 小品ながら、凝った和声とクラシカルな構造でアヴァンギャルドな表情を的確に演出している。 名曲。タイトルが奇妙。

  5 曲目「Bivouac Final」(2:57)3 曲目の終曲。 3 曲目終盤を引き継ぐダークなアンサンブルがフェード・イン、荒々しい演奏がすべてを押し流すような不気味なスケールで迫る。 スティーヴ・ハケットの名品「The Tower Struck Down」を思い出す。

  6 曲目「De Temps En Temps」(4:08) キーボードをフィーチュアしたクラシカルでロマンティックなシンフォニック・ロック。 歌唱もノーブルといえるだろう。 メロディアスなテーマにポップでエレガントな調子が交じわるところはイタリアン・ロック的。 オルガンの暖かくも悠然とした響き、逞しいギター・ソロ。 ミドルテンポによるオーソドックスな作風であり、しかけはあまりない。

  7 曲目「La Route Aux Cypres」(3:18) ひんやりとしたタッチが特徴的な英国フォーク調弾き語り。 ここまでと違って音響がクリアーであり、アコースティックギターの響きが美しい。 ヴォーカリストは珍しく物静かでデリケートな表情を操る。 ヴォーカルをオブリガートするフルート(メロトロン?)は初々しい少女がふと見せた大人の表情のように冷ややかである。 素朴だが奥深いロマン。 ドラムレス。

  8 曲目「Le Cimetiere Des Arlequins」(8:46) ベースの刻むリフが辿り続ける薄暗く狂気に満ちたサイケデリック・ロック。 レクイエムにもならない弛緩したバッキングと不気味な童謡のような反復中心の歌唱、そして、重厚さ、深刻さと滑稽さ、倦怠感は表裏一体、くるくる入れ替わる。 テーマやオブリガートでベースがフィーチュアされているため、何物かが地底で蠢くような不気味さあり。 (ヴォーカルが谷底から助けを求める悲鳴のように聴こえる効果がある) モノローグからアジテーションまでヴォーカルのパフォーマンスは強烈なエネルギーを発散する。 強圧的で大胆不敵なエピローグもいい。 PINK FLOYD をフランス人が演るとこうなるのかもしれない。


(PHILIPS 842 238-2)


 Au-Dela Du Delire
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Gerad Jelsch drums, percussion
Daniel Haas bass

  74 年発表の第三作「Au-Dela Du Delire」。 邦題は「新ノア記」。 内容は、狂乱のヴォーカル・パフォーマンスが霧に巻かれたような薄明の世界を轟々と揺り動かすヘヴィ・シンフォニック・ロック。 初期 ANGE のスタイルが確立した作品である。 洞窟奥深くに反響するような暗くこもったような音ながらも、さまざまなシーンが緩急、硬軟、軽重自由自在に描かれて、不思議の物語を構成している。 一人芝居を繰り広げるヴォーカリストに寄り添うオルガン、メロトロンの熱い調べ、アコースティック・ギターのさざめき、ロックなアンサンブル・パートをリードする存在感抜群のギター・プレイが時にメロディアスに時に激しく音を紡いでゆく。 とりわけ勢いを感じるのは古びた巨大な歯車のように突き進む演奏だ。 また、ぼんやりと輪郭のぼやけた音像も、録音の悪さによるというよりは意識的な雰囲気作りの一環と思えてしまう。 管弦やチェンバロのプレイやペーソスとユーモアある小劇風のパフォーマンスの堂に入り方は、欧州ならではの古典的な芸術を継承するセンスによると思っていいだろう。 こういった伝統的な芸術性が現代のロックのヘヴィなエレクトリック・サウンドにブレンドされて、よりドラマチックな効果が生まれている。 オペラやミュージカルに近い充実したエンタテインメントという点では JETHRO TULL の緒作にも通じるものがある。 そして忘れてならないのが、歌メロの魅力。 芝居がかった歌唱スタイルが特徴として取り上げられることの多い ANGE だが、それ以前に、歌そのものの良さが完全に別格なのだ。 武骨でにじんだような音で描く心優し気なメロディがじつにいい。 2 曲目や 4 曲目のメロディ・ラインは一度耳にするだけでしっかりと印象に残る。
  アコースティックな弾き語りからクラシカルなシンフォニーまで、多彩なアンサンブルが楽しめる好アルバム。 精神の腫れ物のような怪しい熱気を全体に孕みつつも、初期 GENESISKING CRIMSON に匹敵する充実したシンフォニック・ロックとなっている。 テーマは、時空を超え神とまみえる農夫ゴドウィンの旅。 尤もコンセプト・アルバムというよりは「御伽噺」という表現が似合う音であり、フランス語で綴られた大人向けの絵本といった趣がある。 タイトルは「錯乱の向こうに」の意。 名作。

  「Godevin Le Vilain」(2:57)うらぶれた老楽士が奏でるようなヴァイオリンによって哀愁たっぷりの主題が提示される序曲。 ピアノ(オルゴールかチェンバロのように聴こえるのは安物のせい?)とアコースティック・ギターも哀しげな表情で伴奏する。 リズムが轟き、一気に盛り上がるとデュキャンの濃厚な歌が始まる。 ANGE オルガンが枯れ果てた音で高鳴り、荒っぽくもメロディアスなギターが唸りを上げる。 メロトロンはオブリガートや伴奏で歌に深い陰翳をつけている。 ペーソスあるドラマティックな導入である。

  「Les Longues Nuits D'Isaac」(4:10)力強くサスペンスフルなテーマとともに激しく浮き沈みしつつ反復するうちに狂乱の極へと登りつめてゆくヘヴィ・チューン。 力みかえり絶叫するヴォーカルの表情が危うい。 メロトロンを思わせるオルガンが印象的。

  「Si J'etais Le Messie」(3:00)食いつきそうなデュキャンの一人芝居による朗読劇のような作品。 モノローグは「もし僕がメシアだったなら」という表題を繰り返しながら次第に加熱し、激高し、狂気をふりまく。 この怪しいモノローグを取り巻くのはフルートや電子音、シンバル、ティンパニなど。 これらの音もストーリーに合わせているのか気紛れなのか判然としない。 中間のブリッジにフルートとオルガンによる厳かな演奏が朗々と鳴り響くも、結局はささやくような狂気のモノローグへと帰ってゆく。 厳粛なオルガンが苦悩するモノローグを強引に押し流してゆく。

  「Ballade Pour Une Orgie」(3:22) アコースティック・ギターとキーボードが伴奏するメロディアスな童謡風バラード。 タイトルはともかく、曲そのものは童謡のように親しみやすいメロディとカマトト風の弾き語りのアレンジがみごとな秀作。 サビでも卓越したメロディ・センスを見せつける。 丹念ながらも軽やかなアコースティック・ギターのプレイ、クラシカルだが親しみあるキーボード(伴奏のエレクトリック・ピアノ、後半のストリングスを背負ったハーモニウムのような音もいい)には素朴で心安らぐ味わいがある。 やさしげな JETHRO TULL といった感じ。 名曲。

  「Exode」(5:00)勇ましいシンセサイザーのファンファーレがリードする牧歌調シンフォニック・ロック。 ストリングスを模すオルガン、メロトロンをバックに金管調のシンセサイザーが朗々と歌う。 メイン・パートであるアコースティック・ギター伴奏のフォーク調への転換が鮮やかだ。 エチュードのような愛らしいメロディとクラシカルなメロトロンのオブリガート。 弾き語りでなおかつシンフォニックというスタイルはイタリアン・ロックに通じる。 しかし後半、シャープなリズムととともに力強い疾走が始まってうねるロック・ギターと勇壮なキーボードが滾るようにせめぎあう。 熱気は「Musical Box」後半のインストゥルメンタルのクライマックスに迫る。 金管シンセサイザーのテーマとともに幕が引かれる。

  「La Bataille Du Sucre(incl La Colere Des Dieux)」(6:30) 手回しオルガン、童子のささやきのような歌唱、クラシカルで怪しいキーボード、錯綜するヴォイスなどが綱渡りを繰り広げる異形の物語。 タイトなドラミングが再三動きをリードするも、苦悩するモノローグの毒気に負けて密やかな悪夢的世界に引き留められる。 サウンド・エフェクトやコラージュ風の展開は PULSAR の名作に通じる。 スペイシーなオルガンとギターによる燻るように燃え続ける重苦しいアンサンブルはエピローグなのか。 削ぎ落とした音で謎めいた世界を描く奇想曲である。

  「Fils De Lumiere」(3:52) ANGE オルガンのリードでセンチメンタルなテーマを従え、ぐいぐい直線的に駆け上がるマーチ風のハード・シンフォニック・チューン。 メイン・パートのヴォーカルも(やや酔い覚め気味ではあるものの)力強い。 空高く舞い上がっていくようにスケールを駆け上がるアンサンブルは「A Day In The Life」の終盤のようだ。 ポンコツの宇宙船が懸命にオーヴァードライヴで突進するようなイメージだ。

  「Au-dela Du Delire」(9:02) 雅歌のような序盤からシンフォニックなインストゥルメンタルへと大いに盛り上がってゆく終曲。 前曲のエンディングからクロス・フェードで始まる 12 弦アコースティック・ギターの調べ。 呪文のようなヴォーカル、さえずるリコーダ(メロトロン?)、太鼓が加わるとすっかり古楽風の演奏になる。 クルムホルンのような音さえする。 丹念なリズムによる繰り返しごとに力を蓄えて絶唱するヴォーカル。 4 分過ぎ辺りから鳥のさえずりや豚の鳴き声が聴こえる田園風の SE のブリッジを経て、ANGE オルガンが高鳴り厳かながらも華やいだ演奏が始まる。 うねるような泣きのギター・プレイを存分にフィーチュアし、交響曲的な高揚を抱えたまま力強い全体演奏が続いてゆく。 次第に獣の鳴き声や鳥のさえずりがオーヴァーラップし始めて、やがて演奏を乗り越えてゆく。 終に獣たちが生を謳歌する楽園、彼岸へへ辿りついたということを示すのだろうか。

(PHILIPS 842 239-2)

 Emile Jacotey
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Guenole Biger drums, percussion
Daniel Haas bass

  75 年発表の第四作「Emile Jacotey」。 ドラマーがメンバー交代。 本作は、エミイル・ジャコティなる老人の語る伝説をテーマにしたコンセプト・アルバムのようだ。 語り部である老人のモノローグを交えてアルバムは進んでゆく。 深く澱んだ幻想とねっとりとまとわりつくような重苦しさはそのままに、演奏はぐっと洗練された。 ヘヴィなサウンドのロックな主張だけに拘泥せずに、美しいもの、儚いもの、力強いものをそれぞれに合ったスタイルで率直に描いている。 録音技術そのもののグレード・アップもあるのかサウンドも明確さを増している。 聴きやすいメロディを配した楽曲の充実には目を見張るものあり。 表現方法もダークなシンフォニーからコミカルかつエキセントリックな端唄まで幅広い。 また童謡の一節を用いるなどのアレンジもおもしろい。 特に目立つのは、ムーグ・シンセサイザーを取り入れたキーボード・オーケストレーションの充実、そして多彩な歌い方を見せるギター・プレイ。 プログレというよりは「演劇ロック」という独自の様式を確立したみごとなエンタテインメントだと思う。 楽曲のバリエーションの豊かさと充実度という点で最高傑作といえるでしょう。

  「Bêle, Bêle Petite Chèvre」(3:50)グラマラスでパンチのあるロックンロール。 やけくそ気味に快調な演奏と素に戻ったようなトボケたヴァイブの応酬がおもしろい。 ダイナミクスの大きな変化やキレの良さは、初期の YESGONG が合体したようなイメージ。 「cherve」はヤギのことらしくデュキャンがメーメーと鳴く。 終盤はギター、金管風のムーグ・シンセサイザー、ヴァイブらによるクラシカルなアンサンブルからエミール・ジャコティのモノローグへ。 前作よりもさらに録音がよくなり、ギターやキーボードの輪郭がはっきりしている。

  「Sur La Trace Des Fées」(4:48)うってかわって叙情的なシンフォニック・ロック。 アコースティック・ギターのアルペジオとアナログ・シンセサイザーの調べによる寒空に枯木立が揺れるような哀愁のデュオから始まるバラードが、次第に力強くスケール大きく広がっていく。 背景に広がりヴォーカルを支えるのは、幻惑的な味わいが独特な ANGE オルガン。 メロトロンにイコライザで加工したような音だ。 華やいだオブリガートで彩をつけるピアノもいい。 ペーソスは波打ちつつも全編を貫く。

  「Le Nain De Stanislas」(5:45)快調ながらどことなく捻じれたイメージのシンフォニック・ロック。 その捻じれた感じを最初に与えるのはシンセサイザーによるなめらかな変拍子シンコペーションのテーマだろう。 そして複数の曲を合体させたような曲調とテンポの変化。 前半はそのテーマとツイン・ヴォーカルがぐねぐねとリードし、サビではゆったりとしたダイアローグが響き渡る。 得意の怪しすぎるハイテンションの一人芝居を挟んで、後半はシンセサイザーのスペイシーなテーマに導かれてアンサンブルはスピード・アップ、キレのいいリズムで突き進む。 軽快にして締まったリズムやシンセサイザーのテーマでファンタジーを描く手法には CAMEL の絶頂期のイメージも。 最後はギターが華やかに締める。 プログレらしさあふれる傑作。

  「Jour Après Jour」(3:09)アコースティック・ギターによる夢見るような弾き語り。 スペイシーなムーグ・シンセサイザー(トーン調節したオルガンか?)が静かに星を撒き、ギターが小粋にオブリガートする。 軽やかにして物憂くステップを踏む。

  「Ode À Émile」(3:45)ジャコティのモノローグに導かれるのは、切なさいっぱいのシャンソン・ロック。 スタンダードの名曲かと思わせる感傷的で美しいメロディと力強い歌唱。 穏やかにさざめくアコースティック・ギターとヴァイヴの点描、風の口笛のようなシンセサイザーが、オルゴールのように、あくまで控えめにバックを固める。 極上のイタリアン・ポップスに匹敵するみごとな歌ものである。

  「Ego Et Deus」(4:07)チェンバロ、オルガンが活躍し、シアトリカルなヴォイスが圧倒的な存在感を見せるオールド GENSIS 風(「Get'em out by Friday」辺りか)のアグレッシヴなクラシカル・ロック。 アジテーション風のヴォーカルとクラシカルでせわしない三連フレーズが緊迫感を高める。 攻め立てるメイン・パートに対してテンポを変えたコミカルな調子の「抜く」パートを配して、語り口にメリハリをつけている。

  「J'irai Dormir Plus Loin Que Ton Sommeil」(4:11)ピアノ、ギターがヴォーカルに寄り添うブルージーなバラード。 酒杯を前にした草臥れた男のモノローグを想像させるキャバレエ寸劇風の作品である。 けだるい 3 拍子。 表情豊かなギター・プレイがあたかもデュエットのようにヴォーカルを支えている。 侘し気なブリッジを経てギターの先導で一気に盛り上がり、ヴォーカルとギターによる力の入ったコテコテの掛け合いが始まる。 ウエストコーストのアメリカン・ロックや渡米後のクラプトンのアーシーなサウンドを思わせるところもあり。

  「Aurealia」(2:54)エレクトリックな効果を散りばめた幻想的なアコースティック・ギター弾き語り。 遠景でメロトロン(オルガン?)が妖しくも茫洋と混沌の渦を巻き、アコースティック・ギターはさざめき続ける。 サビでは歯切れよいドラミングとともにヴォーカルがメロディアスに、力強く切り返すのだが、すぐに憧れを見失ったような心もとなく打ち沈んだ調子へと戻っていく。 間奏部はシンセサイザーがフィーチュアされて、珍しくシティ・ポップ、AOR っぽさもほんのり。 演奏を彩るキーボードのサウンド・メイキングにも注目。

  「Les Noces」(6:28)演劇調のヴォーカル・パフォーマンスと小気味いいインストゥルメンタルが一つになったサイケデリック・ロック。 中盤からのアンサンブルでは軽快かつタイトな反復をリズム・セクションがキープしてギターやオルガンが気紛れに動き回る。 抜群の演奏力だ。 ピアノがリードするアンサンブルに切り換わってからも締まったグルーヴが続いてゆく。 効果音も散りばめられており全体としてはサイケデリックな浮遊感を感じさせる。

  「Le Marchand Des Planètes」(4:17)ピアノ、メロトロン、ギターが支える AOR 調のバラード。 エレクトリックなノイズが左右のチャネルを駆け抜ける。 幻想的な音がさまざまに散りばめられるが、メイン・ヴォーカル・パートはジャジーでポップな味わいだ。 ブルージーなギターが存在をアピールする。 エンディングは、厳かなムードでシンセサイザーが嘆きの調べをささやく。 ヴォリューム奏法のギターによる風に舞うようなメロディ、叩きつけるようなピアノの和音。 長いデクレシェンド。 神秘的なエンディングである。

(PHILIPS 842 240-2)

 Par Les Fils De Mandrin
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  76 年発表のアルバム「Par Les Fils De Mandrin」。 英語盤も発表された代表作。ドラマーは再びメンバー交代している。 きわめて演劇的なヴォーカル・パフォーマンス、効果音風の演奏が軸となっていて、その作風は GENESIS というよりは JETHRO TULL に近いスタンスが感じられる。 それはいかにも物語タッチであるコミカルな表情や、愛らしくもヘヴィな演奏から立ち上る現世肯定の貪欲さのせいであり、さらに驚くべきは、その執念をも笑い飛ばすしたたかさすら感じられるからだ。 ひょっとすると、かなりファンタジックな内容(ジャケットから想像するに、不思議の国を探訪する旅芸人のキャラヴァンといったところだろうか)なのかもしれないが、音の与える印象は夢想というにはあまりに逞しい。 それだけに、終曲の唱歌から立ち上るなんともいえぬほのぼのと暖かい余韻に、いっそう酔いしれることができるのだ。 言葉が分からないために物語を理解することはできないが、本作のすごみは、歌から想像されるイメージと音がみごとなまでに合っているところだろう。 個々の楽器云々はあまり意味がないかもしれないが、以下のような点に気がついた。 すなわち、メロトロンに似た独特の ANGE オルガンに加えて、ムーグ・シンセサイザーやチェンバロが効果的に使われていること。 そしてギターは、エレクトリックもアコースティックにおいても存在感抜群であること。 このアコースティック・ギターの波打つようなストロークや、フルートを思わせるオルガンが生む渋みも、TULL に通じるという印象を強めているのだろう。 おそらく芸術の国フランスのロックというイメージに最もあてはまる作品ではないだろうか。
   「Mandrin」は辞書によると、チャックのことのようです。チャックの息子たちって??

(PHILIPS 842 237-2)

 Tome VI
 
Francis Décamps organ, synthesizer, mellotron, vocals on 6
Jean-Pierre Guichard drums, percussion, harmonica, vocals
Daniel Haas bass, acoustic guitar, brassman on 3
Jean-Michel Brezovar guitar, flute, vocals
Christian Décamps vocals, piano, string ensemble, acoustic guitar

  77 年発表のアルバム「Tome VI」。 名曲オンパレードの必殺ライヴ・アルバム。 驚いたことに、ライヴにおいても独特の腫れぼったくこもった音が再現されている(一般には「録音が悪い」ともいう)。 ANGE といえば何をさておきデュキャンのお芝居ヴォーカルだが、拡大された「Dignite」の描く幻想世界を体験すると、きわめて映像的な演奏力も備えていることに気がつく。 未発表曲であるもう一つの大作「La Chien, La Poubelle Et La Rose」では、リード・ヴォーカルがフランシスに交代。 熱気と毒気をはらむ ANGE オルガン、ブレゾヴァルのブルージーにしてどこまでも流麗なギター・プレイも堪能できる。 なんというか、「大見得を切る」ことが非常に似合うのです、このグループは。

(PHILIPS 6641715 / FGBG4200-AR)

 Guet-Apens
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, vocals
Claude Demet guitars
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Gerald Renard bass

  78 年発表のアルバム「Guet-Apens」。 キーボードが苔むしたような幻想を描き、ヴォーカルが濃厚な情緒をたたえる腫れぼったい演劇調シンフォニック・ロックに、さらに磨きがかかった傑作。 驚くべきことに、その音は 70 年代後半にもかかわらずかえって古びてきており、風雪に晒されてこわばった古外套か蔦に蔽われた古城のようになっている。 音楽的な進化がサウンドの洗練に進まず、あたかも古酒のような熟成へと進んでいる、そして、憂鬱に古色蒼然としながらも、技巧はさりげなく冴え渡っている。 キーボードとは対照的に、ややモダナイズされたギターやドラムスらが、耽美で退廃的なイメージとは裏腹な鋭さを放つところも多い。 唯一無二のヴォーカル表現については多言を要しないが、その表情と音の感触のみごとなまでの合致には、改めて驚かされる。 名手ブレゾヴァルを欠きながらも、総合的な音楽面ではかなりの健闘、いや高潮に達しているといっていい。 ライヴ盤以前の世界、演劇性、耽美な幻想性、叙情性をがっちりと継承、充実させた内容である。 この充実ぶりは、GENESIS が「A Trick Of The Tail」を発表したときと同質のものなのかもしれない。 ただし、70 年代中盤の作品のようなユーモアやナチュラルなポップ・テイストがなく、主題とも絡むであろう切実さと深刻さが前面に出るため、息苦しく感じられるかもしれない。 最終曲のエンディングの悲劇的な力強さには誰もが圧倒されるはず。 邦題は「異次元への罠」。 本作品発表後、グループは一時解散状態となる。

(PHILIPS BT 8113)

 La Gare De Troyes
 
Christian Décamps vocals, pianoFrancis Décamps synthesizer
Serge Cuenot guitarsJean-Claude Potin drums, percussion
Laurent Sigrist bass
guest:
Guy Boley narrationTristan Gros vocals
Marc Fontana saxGuy Battarel programming
Anne Et Maria chorus

  83 年発表のアルバム「La Gare De Troyes」。 80 年代に入って再編成とともにポップ路線へと切り替えた ANGE であったが、その成果は如何? 果たしてサウンドは変化したのか? 確かにドラミングやデジタル・シンセサイザー、シーケンサー処理など 80 年代らしい音がフルに使われている、が、恐ろしいことに ANGEANGE のままである。 いかにクリアでモダンな音を使おうとも、卓越したメロディ・ラインと冴えたアレンジに支えられた濃密で腫れぼったい世界はほとんど変わらず、全盛期のままの魅力を放っている。 本来ならばガッカリさせられるばかりの 80 年代サウンドの取入れは、不思議なことにすぐに気にならなくなる。 それどころか、どんどん物語りに惹きこまれて、後半では情念の炎に身を焦がされ、最終曲の PINK FLOYD の名作ばりの盛り上がりに、下手をすれば涙を流しそうになる。 流行を超越した個性派アーティストといえば、特徴的過ぎてホトンド変化のない VAN DER GRAAF GENERATOR や基調をキープしたままみごとに流行を取り込む LE ORMECAMEL、ポップスとロックの調合法を最初から心得ていた KAYAK といった名グループがいるわけだが、ANGE はその最右翼の一つだろう。 もちろんクリスチャン・デュキャンのヴォーカルあってのこの内容だが、彼のリーダーシップの元、懸命に物語を綴るスタッフの能力もみごとなものである。
  タイトルは「Troyes の駅舎」という意味らしく、フランスの鉄道駅として有名なところらしい。 ペーソスあふれるジャケットのマンガもいい。 そういえば、マンガのことをフランスでは「バンドデシネ」というらしいが、この人たちはまさにバンドをやったまま死にそうである。(親父ギャグ)
  83 年作ということで避けている方には「ANGE は別格、心配御無用」とだけ伝えたい。

(PHILIPS 812139 / FGBG4206.AR)

 Sève Qui Peut
 
Christian Décamps vocals
Francis Décamps keyboards
Jean-Michel Brezovar guitar
Robert Defer guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  89 年発表のアルバム「Sève Qui Peut」。 80 年代的なサウンドがすでに魅力と特徴を失いかけ、機材の高度化と世の復古調に伴って 70 年代サウンドの再現が容易になってきた時代を感知したかのように、全盛期のメンバーが結集して製作された作品である。 まさに、輪郭の明確な現代的サウンドを得たオールド ANGE の復活である。 エレクトリック・キーボードの音やエフェクトはいかにもこの時代らしいもの。 しかし、うねるようなギターや多彩なアレンジ、そして存在感抜群のヴォーカルのおかげで、全盛期とそん色ない濃厚で豊かな広がりと深みのある音楽になっている。 独特の怪しさ、毒気もふつふつと立ち昇ってくるし、ディレイとリバーヴが深くなってくると、60 年代風のサイケデリックな味わいも現れてくる。 (当時全盛だった U2 への意識もありそうだ)
   スリーヴを見る限り、各曲はつながりをもっており一つの大きな物語を構成しているようだ。 残念ながらフランス語に不案内なので、どなたか詳細を解読して教えていただきたい。 Sève が「樹液」であり、ジャケットのイラストも世界が樹木にのっている(表ジャケットでは不気味な人物に取り囲まれた木の上の世界は「枯葉」色で、裏ジャケットのイラストでは人物は消え、世界は「新緑色」を取り戻している)ものなので、何かを訴える寓話的なものだろうと推測するばかりである。 そういえば、ゴダールの映画に「勝手に逃げろ/人生(Sauve Qui Peut)」というのがありましたが。

(CELLULOID 66863-2)

 Les Larmes Du Dalai Lama
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards
Jean-Michel Brezovar guitar
Robert Defer guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  92 年発表のアルバム「Les Larmes Du Dalai Lama」。 内容は、コンテンポラリーなひねりを加えたオールド・ウェーヴ・ロック・リヴァイヴァル。 パンキッシュなロックンロールから、大人のバラード、90 年代のプログレ復権を知ってか知らずかみごとなまでのシンフォニック・ロック王道復古調まで、堂々の推し出しで迫ってくる。 お涙頂戴のクサい演技もお手のもの、熱っぽく強引な節回しで引きずり回すうちに豊かなサウンドがいつの間にか世界を違った景色にかえてゆく。 前作で集結した全盛期メンバー + 新ギタリストという充実の布陣は揺いでいない。 THE FLOWER KINGS らと同じく 70 年代からのキャリアを活かしたポップなタッチ、AOR やワールド・ミュージック、ラウドなギターロック風の音も使いつつも、デュキャンの歌声が聴こえれば、そこはもう何もかもを呑み込む ANGE の幻想奇譚の世界である。 シンプルなリズム・パターンや明快な今風のサウンドを纏っていても、ヴォーカルに象徴される独特の「濃さ」は絶えることなく染み出して世界にうねりを与える。 デュキャンは、エモーショナルという言葉では言い尽くせない、シリアスな表情に湛えた情感の読み切らせない奥深さから軽妙さに浮かぶしたたかなまでの凄みまでを惜しげなく晒し出す、まさに孤高のリード・パフォーマーである。 そして、ブレゾヴァルの流れるようなギターの復活がうれしい。 この空に浮かび上がるようなギターに独特のブルーズ・フィーリングがあることで、卑俗で官能的なシャンソン・ポピュレールに一層の陰影ができていると改めて思う。 そう、エスプリもいいが、ANGE には、すべての古い男がそうであるように、ブルーズがよく似合う。
   タイトルは「ダライラマの嘆き」。 1 曲目タイトル曲の冒頭から、重厚荘厳にして肯定的な力強さにあふれる世界が一気に広がる。 そして、テーマとなるメロディ・ラインの冴えもかわらない。 どの曲もひとたび耳にすればいとも簡単に口をついて出てくるのだ。 ジャケットの船はヒエロニムス・ボスの「愚者の船」だろう。 本作品で ANGE は再び解散し、"ヌーヴェル ANGE" から "第二世代 ANGE" へと引き継がれる。 でっぷり太ったクリスチャン・デュキャンは、まるでカラマゾフ兄弟を悩ませた父フョードルのようだ。

(PHILIPS 512 934-2)

 Culinaire Lingus
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards
Hassan Hajdi guitars
Caroline Crozat vocals, chorus
Herve Rouyer drums, percussion
Thierry Sidhoum bass

  2001 年発表の作品「Culinaire Lingus」。 "第二世代" ANGE の第一作。 内容は、酸いも甘いも知り尽くした大人向けのシンフォニック・ロックである。 インダストリアル調やワールド・ミュージック、ヴォードヴィル調など多彩なサウンド・スタイルを駆使しつつも、基調にある重苦しく腫れぼったいタッチはまったく変わらない。 本作では、そこにさらに無常感が加わっている。 イコライジングされたデュキャンのヴォーカル、つぶやき、アジテーション、呪詛の表情を音楽の中心に配し、さまざまなスタイルのバッキングが自由自在にその歌を彩って運んでゆく。 U2 あたりと変わらないアダルトなロックの王道だ。 往年のような一回で耳に残るようなメロディはないが、演奏の安定感とサウンドの充実感はハンパではない。 特に冒頭 2 曲のへヴィネスと陰鬱さ、そこらのプログレ・メタルが尻尾を丸めて逃げ出しそうな迫力と貫禄である。
  全編を貫く主題は、人、肉体と精神、を食と性愛という観点から解釈することのようだ。 性感帯やら半陰陽やら G スポットなど、とんでもないキーワードが次々と出てくる。そして、一つの SEX から死へ ... なんとフランス人らしい、そもそもフレンチ・スタイルとは...と黄泉の木村尚三郎先生が喜んで解説しそうである。 ANGE の復活作にはふさわしい、洒脱で風刺の効いた主題だと思う。 タイトルは、"cxxxxlingus" と引っかけたスケベなダブルミーニングか。 ちなみに Lingus はラテン語で「舌」であり、直訳すると「料理を愛でる舌」。 タイトルとともにバンドデシネ・タッチのジャケットも冴えている。 最終曲は、直前の曲のテーマを引き継いで、ジャン・パスカル・ボフォやヤン・アッカーマン(!)ら十二人のギタリストが次々に登場するスペイシーなボーナス・インストゥルメンタル。すてきなオマケだ。 ミキシング・エンジニアにスティーヴ・ウィルソンの名前があるが、あの人?

(322012)

 ?
 
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards, vocals
Hassan Hajdi guitars
Caroline Crozat vocals, chorus
Benoît Cazzulini drums, percussion
Thierry Sidhoum bass

  2005 年発表の作品「?」。 "第二世代" ANGE の第二作。 一見地味な印象を与えるが、複数の作曲者と複数のヴォーカリストを存分に生かした多彩な作風は、謎めいたトーンをその下地にしてじわじわとしみてくるみごとなものだと思う。 冒頭、苔むしたメロトロン・ストリングスとモダンなシンセサイザー・ストリングスの交歓に打ち込みリズムをオーヴァーラップさせて、怪しいメロディを奏でるところで、あっさりと ANGE の術中にはまるはずだ。 その後も、緩急自在に出番を心得たアンサンブルがヴォーカルを守り立てて、多彩な音楽表現を抑制を効かせつつも惜しげなくふるまう。 特にみごとなのは、アタックの強さやスピードやヘヴィネスではないロックのよさをうまく引き出していること。 アコギ一本でぶつぶつつぶやいても、やる人がやればちゃんとロックする、アレである。 練られたジャズ・タッチやスペイシーなポスト・ロック調などスタイリッシュな演奏面の充実もすばらしいものがあるが、あえて「演奏」と「音のドラマ」のいずれかといえば、後者だと思うし、何より、艶っぽい「歌」がたっぷり盛り込まれている。 ソウル、ゴスペル・タッチはかなり新鮮だし、バラードの説得力と神秘的な陰影もいい。 デュキャン親子のみならず、メンバーひとりひとりが作曲にも携わり、そこから生れたヴァラエティを得意の「腫れぼったく怪しげでオシャレ」な雰囲気にうまくまとめている。 キャッチーなメロディもたっぷり入った極上のエンタテインメントであり、稀代のポップ・アルバムである。 ギターはブレゾヴァルの芸風をよく会得している。 個人的には、近作では一推し。 おっさん向けということですね、きっと。

  「Le Couteau Suisse」(3:58)ストリングスの響きと怪しすぎる歌唱、それだけでもう完全に ANGE
  「Ricochets」(5:55)現代と古代を行き交うように一気に時空を越える味のある歌もの。傑作。
  「Histoire D'outre Rêve」(9:39)ジャジーな異色の展開からクールなデジタル・ロック調、そして大人のシンフォニック・ロックへと広がるオムニバス風の力作。序盤だけ聴いたらこのバンドとは分からないはず。
  「J'aurais Aimé Ne Pas T'aimer」(4:17)重苦しさを抱えたまま漂流する。人生そのもの。間奏のジャズもいい。
  「Le Coeurs À Corps」(5:34)クラシカルなピアノとキャッチーなリフレインが耳に残るグルーヴィなロック。
  「Les Eaux Du Gange」(5:15)デュオによる相聞歌風のバラード。
  「Naufragé Du Zodiaque (inclus"Thème astral")」(9:12)ギタリスト主導の作品。 PORCUPINE TREE のようにヘヴィなパワーコードも現れ、クールでニヒリスティックな空気が場を占めるが、ジャジーなソフトネスとなめらかさもキープされる。
  「Entre Foutre Et Foot」(2:16)女性ヴォーカルによるシャンソン。もちろんアコーディオンも。
  「Ombre Chinoises」(6:00)後半、貫禄のゴスペル調に頬が緩む。
  「Sous Hypnose」(4:58)PINK FLOYD 的ブレイクビーツ。今を取り込む技の冴え。
  「Passeport Pour Nulle Part (Reflux d'aubes TempéRées)」(4:54)ブラスも飛び出す痛快作。デヴィッド・アレン、桑田圭佑、フランク・ザッパに通じる音楽的祝祭感。一押し。
  「Quand Est-ce Qu'on Viendra D'ailleurs ?」(6:27)開放的にはっちゃける一曲。もちろんそれだけではなく、緩急硬軟自在弾力に富み、クライマックスらしくぶち上げる。やっぱりメロトロンは使うんだ。
  「Jazzouillis」(3:46)「Je Taim'e Moi Non Plus」そのものな相聞歌。音楽は前戯か。ちなみにバルドーよりもバーキンの方が演奏がニューロックしていて好きです。

(3103832)

 Souffleurs De Vers
 
Christian Décamps vocals, narration, guitar, keyboards, accordion
Tristan Décamps keyboards, guitar, sequences, vocals, chorus, lead vocals on 4
Caroline Crozat vocals, chorus, narration, lead vocals on 7
Hassan Hajdi guitars
Thierry Sidhoum bass
Benoît Cazzulini drums, percussion, sequences

  2007 年発表の作品「Souffleurs De Vers」。 "第二世代" ANGE の第三作。 へヴィでシャープで瑞々しいロック・アルバム。 ワイルドなサウンドと弾けるようなビートとともに苦み走ったヴォーカルが意外なほどにキャッチーで味わいのあるメロディを歌い上げている。 そういえば、胸を揺さぶるメロディのよさは往年の ANGE の特徴だった。 粋すぎるギタリストのプレイ、重く弾力に富むリズム・セクション、さらにはアコーディオンやストリングスらが、雄々しく猛々しく歌を彩り、しなやかなメロディに幅広い肩を貸している。 したがって、ナレーションこそあるものの、シアトリカル、プログレッシヴ・ロック、といった言葉は本作にはあまりあてはまらない。 管弦がオーヴァーラップするような物語の高まる場面ですらも、ハードでダイナミックなバンド演奏が気を抜かずに硬派なテンションをキープする。 スタイリッシュなベテランロッカーとして U2 に近い世界にいると思う。 ちなみに、トリスタンのヴォーカルは(当たり前だが)親父によく似ている。 吐息がかかりそうな女性ヴォーカリストも一曲リードを任されている。 9 曲目は女性のナレーションによるタイトル曲の「シノプシス」になっており、本編は 10 曲目になっている。 この 10 曲目は、「le film(映画)」と銘打った 16 分にわたる大作。 深く雄大なサウンド・スケープがシネマティックな感動を呼ぶ新時代の総合芸術ロックである。 声色パフォーマンスもようやく現れる。
   タイトルは「詩のプロンプター」という意味。 何のメタファーなのだろう。 それにしても、味のあるメロディ・ラインといいアルバム構成といい、70 年代の ANGE そのものである。

(3128532)

 Le Bois Travaille, Même Le Dimanche
 
Caroline Crozat vocals, chorus
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards, voice
Hassan Hajdi guitars
Benoît Cazzulini drums, percussion, sequences
Thierry Sidhoum bass

  2010 年発表の作品「Le Bois Travaille, Même Le Dimanche」。 "第二世代" ANGE の第四作。 愛らしいジャケットとは裏腹にへヴィ・エレクトロニカはたまたトリップホップというべきコンテンポラリーなサウンドをフィーチュア。 ぎざぎざのドラム・ループとともに全編に吹き荒れるハードボイルドな空気と、その中でもかき消されぬ幻想ロマンの香りに酔える傑作である。 独特の「濃さ」は現代的なサウンドからもエネルギーを吸い取って卑俗で肉感的なパワーをみなぎらせている。 また、ヘヴィでデジタルなサウンドの選択に 90 年代以降の KING CRIMSON と共通する姿勢を感じる。 邦題は「森は日曜日も働いている」。 「Sève Qui Peut」を思い出させる「木」というキーワード、何やら現代文明批判、アジテーションが織り込まれているに違いない。 結成 40 周年を記念する 40 作目だそうだ。 ヘヴィなプログレとしての大傑作。

  「Des Papillons, Des Cerfs Volants」(7:28)薄暗い夢のように広がるキーボード・サウンドの残響と人力デジタル・ビートが印象的なアンビエント・ロック。霧の中を蝶が舞うイメージ?
  「Hors-La-Loi」(4:46)センチメンタリズムと凶暴さを行き交うカッコよすぎるハード・チューン。「無法者」のダンディズム。
  「Le Bois Travaille, Même Le Dimanche」(12:39)童謡の底深くに埋められた怨念を呼び覚ますような、危険な幻想曲。 ロック・テアトルらしい「語り」もたっぷり。中盤からの音楽的殴打のように凶暴なインストはプログレ全開、むちゃくちゃカッコいいです。デジタル・シンフォニック・ロックの傑作。
  「Sous Le Nez De Pinocchio」(4:22)「ピノキオの鼻の下」。
  「Voyage En Autarcie」(6:54)濃すぎる親父シャンソン。「閉ざされた場所を旅す」。ヘヴィで硬質なバッキングは CRIMSON 風。
  「Jamais Seul」(3:34)
  「L'oeil Et L'ouïe」(5:55)
  「Clown Blanc」(3:32)
  「Dames Et Dominos」(3:48)
  「Le Collines Roses」(3:52)
  「Ultime Atome (Anatomie D'un Conte À Rebours)」(6:38)
  「A L'ombre Des Pictogrammes」(6:40)

(ART 401661)


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