PIERROT LUNAIRE

  イタリアのアヴァンギャルド・ロック・グループ「PIERROT LUNAIRE」。 アルテュロ・スタルテリを中心に 74 年に結成。 グループ名は、シェーンベルグの傑作「月につかれたピエロ」より。 クラシックとフォーク、ロックを結びつけた作品を二枚残す。 キーボーディストのスタルテリは、ソロ・アーティストとして現役。

 Pierrot Lunaire
 
Arturo Stalteri piano, organ, vocals, spinet, eminent string ensemble, celesta, percussion
Vincenzo Caporaletti  acoustic & classical & electric & 12 string guitars, bass, drums, flute
Gaio Chiocchio sitar, mandolin, vocals, guitar, Hammond organ, cymbal, timpani
guest:
Laura Buffa vocal on 10

  74 年発表のアルバム「Pierrot Lunaire」。 キーボード、ギター中心の変則的なトリオ編成であり、作品の大半はドラムレスである。 内容は、ピアノとギター、ヴォーカルが繊細で素朴なアンサンブルをなす室内楽風のサイケデリック・フォーク。 キーボードによる音の広がりとピアノ、ベースによるビート感を活かして素朴な田園風味と内省的な孤独感を交錯させ、さらにほのかな異国情緒も漂わせる作風である。 アコースティック・ギターの心地よいコード・ストロークと深く響くアルペジオ、エレキ・ギターのドリーミーな旋律、キーボードによるクラシカルで雅な雰囲気が、的確にヴォーカルを彩ってゆく。 そのヴォーカルは、線の細いソフトな声ながらも、アラン・ソレンティの「Aria」を思わせる青白い狂気とナルシズムを漂わせ、素朴なフォーク・ソングに置かれた強いアクセントになっている。 メロディ・ラインは、イタリアン・ロック特有の情熱的で主張の強いものではなく、行き場なく漂うようなものであり、夢見がちでやるせない響きがある。 曲調はさまざまであり、穏やかな作品の次には息せき切るような圧迫感ある作品を配して、奇妙な物語を思わせる流れができている。 アルバム全体の印象は、アコースティックな透明感とサイケデリックな色彩が交じり合った一種のファンタジー、夢想といった感じだ。 そして、フォークにもロックにも、ましてや、クラシックにもおさまらない不思議な位置を占める音にもかかわらず、アルバムを貫く一つのトーンがある。 それは、肉体の発する微熱とアコースティックな音に満ちる潔癖さ、インテリジェンスがない交ぜになった「若々しさ」である。 自然な流れに身を委ねながらも、最後まで完全には緊張を解くことができないというタイプの音であり、次作に比べると、先鋭性と切れ味で一歩譲るものの、やはり傑作といえるだろう。 シタールやフルートによるトラッド風味やエキゾチズムも特徴的だ。 のどかなフォーク・タッチはイタリアン・ロックの特徴の一つだが、そこを焦点にして芸術性を高めた作品ともいえる。 ギタリスト参加後のドイツの POPOL VUH と共通するものあり。
  作品は、チョッチョが 6 曲、スタルテリが 2 曲、カポラレッティが 2 曲、グループ名義で 2 曲。 最後の作品は、キーボード、ギターがぶつかり合う過激な小品。

  「Ouverture XV」(3:19)
  「Raipure」(4:45)若々しく暖かみのあるフォーク・ソングの傑作。
  「Invasore」(4:21)シタールとチェレステが印象的な INCREDIBLE STRING BAND 風の作品。
  「Lady Ligeia」(2:39)ベース、ピアノ、ストリングス・アンサンブルが奏でる悪夢的な小品。タイトルはポーの短編の女性のことでしょうか。
  「Narciso」(5:13)浮遊感あふれる作品。
  「Ganzheit」(2:33)アコースティック・ギター・ソロ作品。
  「Verso Il Lago」(00:53)
  「Il Re Di Raipure」(3:47)
  「Sotto I Ponti」(7:22)バンドとしてバランスの取れた演奏を見せる佳曲。
  「Arlecchinata」(3:25)タイトルは道化師のこと。バンド名を拝借したアルベール・ジローまたはシェーンベルグの作品への言及でしょうか。「月に憑かれた...」そのもののようにソプラノも入る。キーボードの使い方がユニーク。
  「La Saga Della Primavera」(3:38)アンバランスな器楽と頼りなげな歌唱に味がある作品。
  「Mandrangola」(2:15)一転してプログレらしい強迫的な調子で急進。おだやかなエピローグがいい。

(MPRCD 007)

 Gudrun
 
Arturo Stalteri piano, organ, spinet, cembalo, synth, glockenspiel, acoustic guitar, recorder, tambourine, violin
Gaio Chiocchio electric & acoustic guitar, mandoline, harpsicord, synth, shaj baja, zither tirolese, sitar, bell
Jacqueline Darby voice
guest:
Massimo Buzz drums on 5,7,8

  77 年発表のアルバム「Gudrun」。 ギター担当のカポラレッティの脱退、そして英国人女性ヴォーカリストのジャクリーン・ダービーを迎えた第ニ作。 ドイツ神話の登場人物(Gudrun は「ニーベルンゲンの歌」では主人公ジークフリートの妻クリームヒルトを指す)をタイトルにしているところから、神話をテーマにしたトータル・アルバムと思われる。 前作同様クラシック、民族色を要素としつつ、より音楽的バラエティに富んだ作品になっている。
  内容は、ピアノ、オルガンなど種々のキーボード、ファズ・ギター、シャーマン風の女性ヴォーカル(吐息!)が構成するサイケデリックかつ現代音楽調の実験的なもの。 執拗な反復、エレクトリックなノイズ、無調に近い平板なメロディ(シャーマニックなヴォーカルに顕著)、不協和音のハーモニー、サウンド・エフェクトやコラージュ的な手法など、きわめて前衛的な要素を揃えた演奏である。 キーボードのフレージングやメロディなど細部を見れば古典的な部分もあるが、そういう要素すらコラージュの一効果に思えてしまうほど通常の脈絡をすっ飛ばした大胆な展開を見せる。 特に、タイトル・ナンバーの大作は、アヴァンギャルドにしてスピード感もある前衛インストゥルメンタルの快作。 また 3 曲目中盤では、マルティーニの「愛の喜び(プレスリーの Can't help falling in love with you の元曲だ)」を過激にアレンジし、塹壕の中で雑音だらけのラジオにかじりついているような気分にさせる。 独特のチープさ、呪術的な SE やパーカッションなど、OSANNA に迫る神懸り的な演出だ。 5 曲目は、シャープなドラミングも加わった快速チューンだが、不安げなオルガンのテーマや享楽的なヴォイスのおかげで、やはり尋常でないムードが漂う。 プログレ的なツボは大いに突いており、オープニングとともに本作も代表作といえる。 チェンバロとリコーダによる一瞬の間奏の挿入が鮮やかだ。 7 曲目は、琴とピアノによるエキゾチックなデュオと、ソプラノ・ヴォイスをフィーチュアしたシンフォニックなパートをゆき交うきわめて劇的な内容。 高らかな笑いにピアノがオーヴァーラップするシーンが強烈だ。 終曲は、さまざまな音、声、演奏を叩きつけた果てに、力強い歌唱へと突き進む。 狂人の夢のように、断片が無意味に折り重なりあい、最も強烈なインパクトを放つ。
  破天荒な面があるだけに、ピアノ・ソロやオルガンとアコースティック・ギターによるトラッドなアンサンブルなど、普通の演奏の部分が一層美しく映え輝く。 全体としては、まさしくその名の通り、美と狂気を孕んだ現代音楽といえるだろう。 ドラマ性にも富み、イタリアン・ロック史に燦然と輝く傑作である。

  「Gudrun」(11:29)
  「Dietro Il Silenzio」(2:35)
  「Plaisir D'amour」(4:43)
  「Gallia」(2:05)
  「Giovane Madre」(3:53)
  「Sonde In Profondita」(3:31)
  「Morella」(5:03)
  「Mein In Armen Italiener」(5:15)
  「Gudrun」(6:48)ボーナス・トラック。未発表ヴァージョン。
  「Giovane Madre」(3:48)ボーナス・トラック。未発表ヴァージョン。

(MPRCD 008)

 L'Eliogbalo
 
Emilio Locurcio monologue. vocals

  79 年発表の作品「L'Eliogbalo」。 シシリー出身のタレント、エミリオ・ルクレチオを主役に、多くのゲストを迎えたポップス・オペラ作品。 フル・タイトルは「L'Eliogabalo: Operetta POP A Piu Usi: Come Manuale Di Ingenua Rivolta, Come Biglietto D'Andata Per Nessunluogo」。 PIERROT LUNAIRE は、アコースティック・パートの演奏担当としてクレジットされている。 ルクレチオのパフォーマンスは歌唱というよりはモノローグであり、それを多彩な器楽が取り巻き、懊悩と怒りを基調に躁鬱がくるくると入れ代わる不気味なエネルギーをはらんだ作品に仕上げている。 この手の作品は、ノれるまでがたいへんだが、いったんノれるとかなり楽しめる。 MP RECORDS からの再発 CD には、八ツ折両面のコンセプト・イラスト/歌詞カード付き。 イタリア語の勉強を始めるにはいい素材かもしれません。

(ZPLU 34023 / MPRCD 010)


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