ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「PROSPER」。 73 年結成。作品は二枚。(二枚目は後年の発掘もの)魔性のクラウト・ジャズロック。
Evert Brettschneider | guitars |
Matthias Geisen | bass |
Friedhelm.M Misiejuk | drums, percussion |
Fritz A. Fey | guitars, vocals |
Ernst Müller | Fender Rhodes, Mellotron, Mini moog, electronics |
75 年発表のアルバム「Broken Door」。
内容は、サイケデリックで瞑想的なジャズロック。
原色乱舞の酩酊感、朴訥フォーク調、無限のスペース感覚といったクラウト・ロック的な属性と電化マイルス直系クロスオーヴァー、ジャズロックの取り合わせというなかなかユニークな音楽性である。
英米や東欧のテクニカル・ジャズロックと弩級サイケの合体というのはありそうでなかなかない。
険しい技巧と半覚醒状態のような狭間からやるせなく行き場のないセンチメンタリズムがにじみでている。
穴倉のように暗いクラブに烟る紫煙を貫いたステージ・ライトが一瞬映す、世故に長けているはずの不良少女のナイーヴな横顔のような音である。
結果として、70 年代初頭の英国ロックと同質の「無二の個性」がにじみ出ており、英国ロック・ファン、英国プログレ・ファンにお薦めできる作品になっている。
露骨な変拍子パターンでリスナーの足元と視界を揺るがせる演出は GENTILE GIANT によく似ている。
(そういえば、エレキギターをクランチなサウンドで器用に弾き倒すギタリストは、芸風がゲイリー・グリーン風だ)
また、ピッチ・ベンドを多用する太い音色のムーグ・シンセサイザーによる奔放なアドリヴには、東欧圏のジャズロック・グループに通じるゴツい手応えがある。
アコースティックで叙情的な作品は、初期 KING CRIMSON の芸風やジャズロック・グループ(RETURN TO FOREVER)の演奏するファンタジックな作品に通じ、完成された独自の雰囲気がある。
それが非常にいい。
幻想的にして寂寥感にあふれ、耽美な色気がある。
インストゥルメンタルが主。
おそらくは曲想がとっ散らかり気味(ほぼ全員がそれぞれ作曲している)なために名盤の評価をされていない作品なのだろう。
音は悪くないし演奏も安定感抜群で、英語のヴォーカルもドイツ訛りが気にならない。
ジャズロック・ファンにお薦め。
「Beginning」(7:10)爪弾かれるギターとベース、メロトロン・クワイヤの喚き、KING CRIMSON 的な、というよりユーロジャズ特有の神秘的過ぎる幕開けから、3 分過ぎ辺りからは怪しさはそのままにテクニカルなジャズロックと化す。
悠然たるギターと技巧を尽くすリズム・セクション。
「Burning In The Sun」(2:10)アコースティック・ギター弾き語り。声は野太いが表現は繊細。夢見るような和声の響き。
「Broken Door」(3:20)奇妙な変則リズムによるミニマルなテクニカル小品。GENTLE GIANT 影響下か。
「Dance Of An Angel」(6:45)轟音ギターとエレクトリック・ピアノが交錯するアシッドなヘヴィ・ジャズロック。カッコよし。
ピッチベンドを駆使する典型的なシンセサイザーのソロもあり。酔ってます。
「Your Country」(5:30)序盤、いきなりウエストコースト風でズッこける。しかしそれはタイトル通りかも。そこから GENTLE GIANT になる。まるでアメリカのプログレ・バンドの発掘曲である。
「Birds Of Passage」(5:10)アコースティック・ギターのデュオに鍵盤パーカッションやエレクトリック・ヴァイオリン、ベース、エレクトリック・ピアノらがエフェクトに揺らぎつつ睦みあう、フォーキーで静かだが幻想的、官能的インストゥルメンタル作品。
ドラムレス。
イメージは MAHAVISHNU ORCHESTRA。
傑作。
「Master's Inspiration」(1:30)ドラムスをフィーチュア。
「Where The Sun Touches The Water」(7:30)マジカルな変拍子シーケンスで導くジャズロック。
たたみかけるギターと抑えにまわるエレクトリック・ピアノ、パーカッションもおもしろい。
やはり MAHAVINUS ORCHESTRA や RETURN TO FOREVER を思わせるシーンが多いが、ハードロック的なストレートな調子への変化もある。融通無碍。
(BTS 7511 / CD 085)