VAN DER GRAAF GENERATOR のフロントマンにして現代の吟遊詩人「Peter Hammill」。 VdGG の延長上にあるサウンドからアコースティック・ギター一本の弾き語りまで、多彩な音楽と傑出した詩が生み出す迷宮のような世界が、今でもコアなファンを生み続ける、ロック界のカリスマ。 中毒患者は、おそらく世界中にいるに違いない。 そして、待ちつづけるファンに向けて、止むことなくアルバムが届けられる。 暗黒世界のプリンスは、今や人生の達人として世界を語り、ささやかな灯火で後続者の足元を照らす。 2016 年長年の盟友スチュアート・ゴードン氏が逝去されたそうです。R.I.P
Guy Evans | drums, percussion | Martin Pottinger | drums |
Hugh Banton | piano, organ | Rod Clements | bass, violin |
Nic Potter | bass | Ray Jackson | harp, mandolin |
Bob Fripp | guitar | Paul Whitehead | tam-tam |
Dave Jackson | alto & tenor sax, flute | Peter Hammill | lead vocals, acoustic guitar, piano |
71 年の第一作「Fools Mate」。
VdGG の「Pawn Hearts」に先立って録音された。
「Pawn Hearts」が、強烈なストーリーを前衛的な演奏で支えた濃密な作品であるのに対し、本作には、ごく初期、すなわちファースト・アルバム辺りの VdGG の空気がある。
それはバロック風のオルガンだったり、フォーク・タッチのアコースティック・ギターのストロークだったりするが、主として、後に際立つことになるエキセントリシティとは異なる、ほのかな緩さと甘さの勝ったヴォーカルによるのだろう。
切々とした語り口は、この時点ですでに深い味わいをもっているが、同時に、若々しいポップ・センスと表情をも躊躇なく披露している。
ビート・サウンドの尻尾を引きずったような曲は、ルーツの見直し(旧作である可能性もある)であるとともに、壮絶な緊張感をもつ VdGG を維持するための、一種の息抜きなのかもしれない。
とはいえ、いくつかの曲で図らずも飛び出すように、基本的には、ハミル独特の艶々と光沢ある高雅な暗黒世界がベースにあるのだろう。
それでも、どちらかといえば、ヒリヒリするような切迫感よりも THE BEATLES にも通じるような楽曲の多彩さに、目を奪われる内容である。
加工に手をかけず、材料を現れたまま並べていったような手応えもある。
奔放な才能を見せつけるとともに、弾き語りの歌の魅力にあふれた傑作であり、英国ポップスの王道にある作品である。
VdGG 全員と旧友ロバート・フリップが参加。
「Imperial Zeppelin」(3:38)
ノリのいいアップテンポのロックンロール。
不良じゃないルー・リードのようです。
意外な面を見た気がする。
もっとも中盤のテンポの落ちるパートでは、VdGG 風のエキセントリックで重苦しい姿も見せる。
ナンセンスに徹しようとするところがなんとも若い。
「Candle」(4:17)
若々しい弾き語りフォーク・ソング。
優しげにして視線を高く保ってまっすぐ歩むようにきっぱりした歌声に惚れ直す。
マンドリンが愛らしい。ピアノ伴奏に代わる辺りからは変わらぬハミル節に。
「Happy」(2:36)
ヴォードヴィルの一場面を切り取ったように劇的な小品。
荒々しいピアノのストロークに女性的なファルセットとフルートが応じる。
クラシカルなオルガンも印象的。同じ物語タッチでもポール・マッカートニーよりも高雅である。
「Solitude」(4:58)
アコースティック・ギター弾き語りのバラード。
うつむき加減の暗い表情から不気味に力を蓄えてゆく歌唱、そして狂おしいブルースハープ。
過激な表現は今とほとんど変わらない。
「Vision」(3:15)
ピアノ弾き語り。後年まで演奏される慈愛に満ちた名曲。
「Re-Awakening」(3:57)
ジャジーに弾け捲くるパートとシンフォニックなバラードが交錯する怪曲、というか VdGG らしいハイ・テンションのアヴァンギャルドなタッチが冴える。
幕引きのオルガンがいい。
「Sunshine」(4:00)
サックスが付き従うノスタルジックでキュートな英国ポップ・ソング。
過剰でノリもいい一方で、DOORS 風の捨て鉢な厭世感も漂う。
何にせよ若々しい。
こういう作風はこの時代だけ。
「Child」(4:25)
アコースティック・ギターのストロークで送り出すデリケートな歌唱のバラード。
このなよっとした感じが好みだが、嫌な人もいるらしい。
大胆なコード進行、唐突に叫ぶ尺八フルート、エレクトリック・ピアノの暖かさ、切り込むピアノ。
ソフトなジャズ風のバラードのようでいて、油断ができない。
「Summer Song(In The Autumn)」(2:13)
ピアノ、オルガン伴奏による力強い歌もの。
メロディも魅力的。小品だが大作のクライマックスのような重みあり。
「Viking」(4:43)
潮騒をバックに語られるヴァイキングの物語。
男性で骨太にして幻想的でもある。
サックスとともにフリップのレガートなギターも鳴り響く。この間奏部の緊張感はいい。
「The Birds」(3:36)
ピアノ伴奏、虚脱した表情でつぶやく私小説的バラード。
梶井基次郎の短編の世界です。
間奏部ではリズム・セクションがやおら元気になり、おとなしめではあるが華麗にギターが爪弾かれる。
ギターは最後までヴォーカルとピアノに寄り添う。
「I Once Wrote Some Poems」(2:45)魅惑のささやき。
(CASCD 1037)
Peter Hammill | vocals, guitars, keyboards |
David Jackson | tenor & alto saxophones, flute |
Nic Potter | bass |
Guy Evans | drums |
Hugh Banton | organ, piano, foot & hand bass |
73 年の第二作「Cameleon In The Shadow Of The Night」。
前作に比して楽曲は長大となり一人芝居風の歌唱パフォーマンスを縦横無尽に駆使してドラマチックな展開を繰り広げる。
一曲ごとに配置されたアコースティック・ギター弾き語りとピアノの弾き語りで全体の構成を整えつつも、サイケデリックなエフェクトを大胆に取り入れて予定調和を破断する
オープニングの大作が示すとおり、ヴォーカル表現のベースには強烈なナルシズムがある。
独特の声質と歌唱が、ささやき、叫び、自在に言葉を操ることによって「詩」は「歌」となって一層妖しい光を放ち始める。
大作ほど重厚にして深刻であり、最終曲では VdGG そのものなアヴァンギャルドな世界が堰を切ったように噴き出す。
歌に磨きをかけ、VdGG の分のエネルギーとアイデアも突っ込んだ名作といえるだろう。
「弾き語り」という表現スタイルながらいわゆるフォークの弾き語りというイメージとは異なる。
もっと狂的でエキセントリックで自己陶酔的である。
空前絶後な孤高の詩人の「詠唱」としかいいようのない内容だ。傑作。
「German Overall」(7:05)アコースティック・ギターを使った狂的な弾き語り。
ダイナミクス大きく変化する歌唱表現が人知の果ての異形のエネルギーをまき散らす。
サイケデリックな破綻に落ち込む寸前の緊迫感。
厳かなオルガンの響きや自身のシャウトを重ねた効果音やざらざらとしたノイズがはち切れそうなリード・ヴォーカルのテンションを取り巻いてかろうじてドラマに導く。
ドイツ・ツアーに疲弊した姿が描かれているようだ。
「Slender Threads」(5:01)静かなるモノクロームの弾き語りバラード。
前曲との対比で脱力気味にすら感じられる。。
ハミルらしい節回しはあるものの、声に諦念や無常感がにじみ出ていて、メランコリックで時に暖かいフォークソングとしてのイメージの方が強い。
前曲は攻めてよし、本曲は抑えてよし。
わたしはハミルのファルセットは好き。(嫌いという人もいるので)
「Rock And Role」(6:41)エレキギターのストロークに肉感的なサックスが絡むダークなロックンロール。
73 年なのでパンクというよりはグラムなのだろうが何にせよ一風変わっている。
粘りのあるロックンロールにも関わらず、ヴォーカルのエキセントリックな色気が強まるとルーズともタイトともつかぬ即興とともに独特の世界になってゆく。
メイン・パートにおける地に足のついた歌唱と演奏にはルー・リードのバンドを思わせるところも。
デッドな音に臨場感漂うエレキギターが印象的。
VdGG 風のモチーフもあちこちにあるのでバンド作品にしてもよかったと思う。
「In The End」(7:24)
アコースティック・ピアノ弾き語り。
切々とした語りは次第に高揚し、興奮し、狂的なハイ状態へ。
ヴォーカル表現を堪能。
この作品の「暗さ」と「激しさ」と「ナルシステイックな芝居っ気」に挫けた方には、これ以上彼の世界をお薦めできない。
「What's It Worth」(4:00)
アコースティック・ギターの弾き語り。
前半はフルートが絶え間なく絡みつき、後半はワウワウらしき妙な音をたてるエレキギターが加わる。
ライトなフォーク・タッチだが、2 曲目よりもメロディ、表情ともにエキセントリックである。
「Easy To Slip Away」(5:21)
絶望と高揚が同時に訪れる重厚なシンフォニック・チューン。
序章、沈痛なるヴォーカルを支えて力を与えるのはバロック調の厳かなピアノとサックス。
その響きは悲劇的であり、残酷なまでに鮮明だ。
ピアノとサックスのデュオに力強く先導されてヴォーカルは一気に高みへと登りつめる。
何ものもかなぐり捨てたか、あるいは、壮絶な決意表明のような圧倒的な訴えである。
メロトロン・ブラスの迸りとともにヴォーカルとアコースティック・ピアノが重厚極まるハーモニーを響かせる。
サックスのつぶやくようなオブリガートもつややかに輝く。
沈痛なアンサンブルは KING CRIMSON のような重々しい詩情を湛え始める。
圧倒的なヴォーカルの存在感。
クライマックスがそのままエンディング。
「去るもの日々に疎し」を嘆くのか。
「Dropping The Torch」(4:11)
アコースティック・ギターによるロマンティックな弾き語り。
内省的な歌詞を抜きにしても、歌唱そのものが、心を揺さぶる作品である。
2 曲目よりもさらにシンプルで美しく、いかにも英国フォークらしい作品だ。
「(In The) Black Room I」(10:56)
アグレッシヴな演奏をしたがえて強烈なヴォーカリストがひた走る VdGG 風のヘヴィ・シンフォニック・ロック。
序章ではフルートが取り巻き、歌唱の高まりとともにサックス、ピアノ、オルガンがアクセントの強い変則りズムで跳ね、渦を巻いて暴れる。
文学性、クレイジーなまで高揚感、興奮は VdGG そのもの。
「The Tower」
フリーな間奏曲。
リズムなき空間で神秘的なフルートとピアノがミステリアスが響き合って憂鬱な歌唱と干渉する。
深い反響と残響。
強烈な決めが放たれてサックスとヴォーカルが絶叫で交錯するパートへと雪崩れ込む。
轟音、そしてダイナミック・レンジを大きく取って囁くかと思えば喚きたて、呪いの言葉を吐きかけるヴォーカル。
邪悪な狂気。
「(In The) Black Room II」
ピアノに導かれる繊細な弾き語りへと収束するもアグレッシヴなアンサンブルが台頭、叫喚するヴォーカルとともにすべてが過熱し沸き立つ。
幕を引くのは重厚なピアノ。
三部構成の本作品、歌詞の表現は抽象的ながらも底無しの苦悩が描かれている。
バンドのアルバムにあっても違和感ない作品だが、モチーフが類似する曲があるのでここに収めたのだろう。
(CASCD 1067)
Peter Hammill | vocals, guitars, keyboards |
David Jackson | tenor & alto saxophones, flute |
Nic Potter | bass |
Guy Evans | drums |
Hugh Banton | organ, piano, foot & hand bass |
Randy California | guitars |
74 年の第三作「The Silent Corner And The Empty Stage」。
前作に続き、VdGG のメンバーがフル参加。
アコースティック・ギター、ピアノ伴奏による弾き語り風の内省的な作品とともに、ファズ・ギターを用いたノイジーにしてデンジャラスな作品もあり。
オルガン、ストリングス(メロトロン?)、サックスらは、控えめながらも全編でいいサポートを見せている。
こういった音が聴こえてくると、どうしてもバンドとの区別は難しくなる。
最終曲など、あたかも我慢しきれぬかのように VdGG になり切ってしまうのだ。
それでも主役はヴォーカリストと彼の描くドラマであり、その表情ニュアンスには無垢にして達人の風格もある。
荒々しく言葉を叩きつけるかと思えば祈りのように繊細にして厳かに語る。
激情と沈思を激しく揺れ動く。
知的にして直情を貫く姿には心動かされる。
本作品では、そのヴォーカルと演奏があいまったときの緩急、疎密、動静の呼吸の絶妙さも堪能できる。
ギタリストは、フリップの代役のような感じもします。
名作。
「Modern」(7:28)アグレッシヴでアシッドな傑作。
プリペアド・ギターやベース、キーボードをアシッドなエフェクトで取り囲んだサイケデリックなサウンドがノイジーで刺々しい。
そこを貫くのが、ハミルの朗唱である。
サイケ・ガレージ、アシッド・フォーク、グラム、パンク、これらすべてのど真ん中を貫く作風だ。
「Wilhelmina」(5:17)ピアノ弾き語りによる美しくも気高いバラード。
教え諭すようなテーマが印象的な貴公子ハミルらしさあふれる作品だ。
曲調は、ストリングスとともに悠然とたゆたうかと思えばピアノと歌がユニゾンでたたみかけ緊張感を高めるなどきわめて劇的。
シンフォニックな盛り上がりもある。
代表作の一つ。
「The Lie(Bernini's Saint Theresa」(5:40)ピアノ弾き語りの暗鬱なバラード。
ピアノの研ぎ澄まされた和音の響きと厳かに希望を唱えるオルガンのオブリガート、深いエコーとともに悲劇的な空気感が神秘の色合いを帯びてくる。
ヴォーカルがすべてを引っ張って混沌へと導く。
「Forsaken Gardens」(6:15)VdGG そのものといっていい崇高なる名作。
ピアノ弾き語りにアグレッシヴな器楽を持ち込み、その相互作用が大波になって打ち寄せる。
エコーとディレイでにじむフルートの響きが炎のように舞う。
リズム・セクション、サックス、オルガンが一体となって歌に寄り添ったときのエネルギーがすごい。
ペダル・ベースの独特な音も印象的。
ハミルのソロの中でも屈指のバンド演奏作品。
イタリアン・ロックへの影響は大きかったに違いない。
「Red Shift」(8:11)茫洋と沈んだ調子ながら意外とキャッチ―なロック。
サックスのオブリガートやアドリヴがジャズっぽさを演出するがダイナミックなリズム・セクションは呪術めいたロックビートを主張する。
位相系エフェクトで水浸しになったギターの音が不気味。
中盤、オーヴァー・ダブされたロングトーン・ギターは明らかにロバート・フリップを意識している。
サックスが重なると器楽のイメージが初期 KING CRIMSON に直結する。
ただし、キレではなく素面の乱調を追及しているような気がする。
ドラムスは終始手数が多く凝った打撃を続ける。
マラカスのようなエフェクトが奇妙。
まとまり切らなかったのが残念。
「Rubicon」(4:41)アコースティック・ギター弾き語り。
訥々としたベースがフィーチュアされている。
賢者モードというか、からからに乾いて虚脱したような感じがいい。
ヘヴィでアグレッシヴな作品の狭間にあって異彩を放つ。
「A Louse Is Not A Home」(12:13)再び VdGG そのものな強烈な作品。
力強くも目まぐるしく、天高く舞うかと思えば地の底で蠢き、どこまでもスリリングな展開。
甲高く叫ぶサックス、渦を巻く変拍子トゥッティ、ブラックホールを思わせる大胆な即興空間。
悲痛なシャウト、中性的なファルセット、だみ声の唸り、などヴォーカルの声色、表情の変化は圧巻。
デヴィッド・ボウイに迫る、というか凌駕するカリスマあり。
この知性と感傷に彩られた乱調美こそが VdGG の魅力である。
三年前と比べるとやや軽いというかグラマラスなイメージだ。
(CASCD 1083)
Peter Hammill | vocals, guitars, bass, piano, harmonium, mellotron |
Chris Judge Smith | percussion |
Guy Evans | drums |
Paul Whitehead | cymbal, cello, percussion |
David Hentschel | ARP synthesizer |
74 年の作品「In Camera」。
内容は、オルガンこそほとんどない(ハーモニウムのクレジットあり)ものの、完全にもう一つの VdGG といえるものである。
特に、B 面の大作は、VdGG としてクレジットしても何の不思議もない作品である。
全編を通して、刺々しい演奏をセクシーな死神のようなヴォーカルが強烈に彩る。
エンジニア、シンセサイザー奏者としてデヴィッド・ヘンチェルが参加。
また、初期メンバーのクリス・ジャッジ・スミスも参加している。
虚空に放り出された音達を拾い集めるヴォーカルが感動を呼ぶ「Ferret And Featherbird」(3:42)。
最初期 VdGG の作品の再演。
絶望に彩られた物語が、ダークなエネルギーの迸りとともにノイジーな電気の海に沈んでゆく「(No More) Sub-Mariner」(5:46)。
呪いの言葉を吐き続ける凶暴なヴォーカルと、共演メンバーの演奏が壮絶に絡みあう「Tapeworm」(4:19)。
ストレートなハードロックを前後に、中間部には奇妙なマドリガルを配した前衛的作品である。
けたたましいギター(サックスにも聴こえる)が狂気に拍車をかける。
「Again」(3:36)は、70 年代的感傷にあふれるクラシカルなバラード。
アコースティック・ギター伴奏による静かな歌唱が印象的。
朴訥としたベース、ピアノもハミルの演奏だろう。
つややかなヴォーカル・ユニゾンが再び VdGG を彷彿させる「Faint-Heart And The Sermon」(6:42)は、重厚なメロトロンの響きが生むシンフォニー。
力強いアコースティック・ギターが耳に残る「The Comet, The Course, The Tail」(6:02)。
そして、最後までエネルギーは尽きることなく、あたかも闇夜に渦巻くメールストロームのように圧倒的なパワーで何もかも飲み込んでゆく「Gog/Magog」(17:27)。
黙示録の神の国への最後の反逆者を表題とする、賛否両論尽きぬアヴァンギャルドな作品である。
傲慢なまでに強烈な存在感をもつヴォーカル・パフォーマンス。
表情は悪鬼と化し、演奏は狂乱し続ける。
精神の深淵を一瞬の稲光が照らし出すが、再び訪れた闇は前にも増して暗い。
「Pawn Heart」の延長上にある力作だ。
(CAROL 1629-2)
Peter Hammill | vocals, guitars, guitars, piano on 7,9, bass on 11 |
David Jackson | sax |
Hugh Banton | bass on 1-10, piano on 2,6,11, organ on 3,9 |
Guy Evans | drums |
75 年の作品「Nadir's Big Chance」。
VDGG 再結成と同時期に製作された作品であり、収録メンバーもグループそのものである。
ただし、音楽的には VDGG 的な重厚で骨太な作風とデリケートなバラード、そして衝動的で凶暴なロックンロールなどが混沌としている。
ハミル本人は、この後者の作風を「punk」と表現しており、これが世を席巻する「パンク・ロック」へとつながっていったらしい。
(斯界のカリスマ、ジョン・ライドンが「ハミルの音楽を賞賛している」と述べたとか述べないとか)
また、「『リキ・ナディアという永遠の 16 歳の少年』という別人格による作品」という設定があるらしい。
この辺りは、ナルシスト仲間のデヴィッド・ボウイやルー・リードの趣味嗜好と共通する気がする。
タイトル曲「Nadir's Big Chance」(3:33)はすがすがしいまでにチープでジャンクなロックンロール。「若気の至り」の極北。
「The Institute Of Mental Health, Burning」(3:32)は「Revolver」辺りの THE BEATLES を思い出すサイケな怪作。
「Open Your Eyes」(5:11)はオルガンの響きとサックスの力強いブロウが印象的なバンド作品。「Killer」をモダンにアレンジしたようなイメージだが、押し切るパワーを感じる。
「Nobody's Business」(4:09)は再びグラマラスでパンクな作品。
「Been Alone So Long」(4:11)はバラードの名品。
「People You Were Going To」(5:05)は VDGG の過去のシングルの再録。
「Birthday Special」(3:34)もキッチュでグラマラスな英国ロックらしさが詰まった佳作だと思う。
「Two Or Three Spectres」(6:21)は強烈なアジテーションとフリージャズの肉感的パワーの合体した豪快な作品。
全体として、テンションの高いハミルのヴォーカルとともに、バンド演奏の充実がうれしい。
特に、オルガンとベース・ギターの音が力強く聴こえるところがいい。
(CASCD 1099)
Peter Hammill | vocals, all instruments |
David Jackson | saxophones on 1,2 |
Graham Smith | violin on 5,6 |
78 年の作品「Future Now」。
VdGG 最末期の難しい時期に録音された作品。
パンクを超えた「安っぽいバンド」ノリとシリアスで内省的な表現が混在し、真摯な歌唱をチープなキーボード・サウンドが取り巻くなど、逆境を越えたパフォーマンスの説得力と矛盾や不均衡、居心地の悪さが特徴だ。
ニューウェーヴ・サウンドによるサイケデリック・フォークといっていいだろう。
(ミュージシャンとして当然だろうが、新しい音で積極的に遊び、取り入れようとする姿勢は強く感じる)
楽曲は最長でも 4 分半であり、小曲集というイメージは強い。
ただし、思いの丈は満載であり次々と生み出されるヴォーカルを中心とした表現はきわめてヴァラエティに富む。
そしてパワフルだ。
深く沈んだところに何かを見つけたような「If I Could」は佳曲。ヴィオリンが美しい。
タイトル曲では、珍しくロジャー・ウォーターズのように人間を取り巻く状況に対する明確なメッセージを打ち出している。
「Mediaeval」はグレゴリオ聖歌を模したような一人聖歌隊。
「A Motor-Bike In Afrika」は打ち込みの遊びから生まれたような刺激的な作品。むしろ今の時代にぴったりだ。
「The Cut」は不安なノイズが取り巻くレコメン系の歌もののような作品。
そして、やはり「Palinurus (Castaway)」のような一人シンフォニック・ロックが真骨頂。
今回も「自分が好き過ぎてキライになった」ようなナルシスト全開のジャケット写真である。
「Pushing Thirty」(4:21)
「The Second Hand」(3:29)
「Trappings」(3:31)
「The Mousetrap (Caught In)」(4:05)
「Energy Vampires」(2:57)
「If I Could」(4:37)
「The Future Now」(4:11)
「Still In The Dark」(3:39)
「Mediaevil」(3:07)
「A Motor-Bike In Afrika」(3:11)
「The Cut」(4:21)
「Palinurus (Castaway)」(3:48)
以下 リマスター CD ボーナス・トラック。78 年のライヴ録音。
「If I Cloud」(4:36)
「The Mousetrap (Caught In)」(4:05)
(CASCDR 1137)
Peter Hammill | vocals, guitars, piano, percussion |
David Jackson | saxophones |
Graham Smith | violin |
79 年の作品「PH7」。
凶暴で棘のある曲と、敬虔なバラード、ノイジーでナンセンスな作品、VdGG 的な作品が混在し、全体としては、ニューウェーブっぽさが強まった。
荒々しいタッチの作品では、従来の青白く狂気を帯びたナルシスティックな歌唱から、パンキッシュに毒を吐き散らすチンピラ・スタイルへの変化が顕著である。
バッキングに新たに採用されたシンセサイザーのせいか、暗く耽美なサウンドに不気味ながらもつややかな光沢が現れてきたようだ。
オーセンティックな歌唱とチープで尖ったビートの組み合わせもユニークである。
それでも、アコースティック・ギターとピアノを伴奏に伸びやかに歌うさまには、不変の力強さと自己陶酔の美しさがある。
タイトルはソロ七作目と pH7 つまり「中性」を引っかけているのだろうか?
本作が PH7 なら、これまでは酸性だったのか、アルカリ性だったのか?
1 曲目「My Favorite」(2:49)素朴な響きのストリングスに包まれた穏かな弾き語り作品。
オブリガートしポルタメントするベースのような音が耳に残る。
2 曲目「Careering」(4:05)アグレッシヴながらも奇妙にアブストラクトでナンセンスなニューウェーヴ・チューン。
かき鳴らすギターはチューニングがおかしい。
ベースの音も変である。
サックスは珍しく思いきりフリージャズ風に狂おしく悶える。
コーラスが加わるとテクノ・ポップっぽくすらなる。
3 曲目「Porton Down」(3:38)荒々しさと苛立ち、怒りを露にするパンク・ロック。
電子音とノイジーなギター。
前曲同様、尖ったバカっぽいリズムの上で声色を駆使してアジリ捲くる。
不安定でシンプルなドラミングはハミル自身?
一転 4 曲目「Mirror Images」(3:48)オルガン、ピアノ風のキーボードが支える厳かなバラード。
切々たる歌声には変わらぬ説得力がある。
しかし、キーボードの薄っぺらいサウンドが歌声の生む切実さや真摯な姿勢を裏切り、パロディのようなニュアンスにしている。
5 曲目「Handicap And Equality」(3:54)アコースティック・ギター弾き語り。
6 曲目「Not For Keith」(2:24)ピアノ弾き語り。急逝した友キース・エリスへの惜別の歌だそうだ。
7 曲目「The Old School Tie」(5:05)興奮して高ぶるように叫びテンション高し。VdGG を彷彿させる。
8 曲目「Time For A Change」(3:13)フォーク的なヴォーカル・ナンバーだが、どこか異常な迫力を感じる。
9 曲目「Imperial Walls」(4:18)再びテンション高くアジる。
エレクトリックなノイズが突き刺さる。
10 曲目「Mr.X(gets tense)」(5:13)再びエレクトリックなノイズの嵐が吹き荒れるイントロから、ヘヴィ・ロック風のダークなヴォーカルが歌いだす。
嵐をものともしない力強さがすばらしい。
ヴァイオリンが聴こえる。
VdGG 風にたたみかけるエンディング。
11 曲目「Faculty X」(4:58)
立体的なアンサンブルと演奏とヴォーカルの密なやり取りが再び VdGG を髣髴させる作品。
ヘヴィ・メタリックなノイズが渦を巻く恐るべきイントロから、フルートが舞い踊り、ピアノのビート、サックスとともにヴォーカルが訪れる。
声色を使いデフォルメされた表情のヴォーカルが、疾走感たっぷりに突き進む。
ピアノ、ヴァイオリンのバッキングも、狂気に満ち走り続ける。
もつれにもつれたまま、すべてが消えてゆく。
VdGG をさらにデフォルメし切迫感を高めたようなエンディングの 2 曲がすばらしい。
(CAROL 1696-2)
Peter Hammill | vocals, guitars, keyboards |
David Jackson | sax, flute |
David Ferguson | synth, tambourine |
80 年の作品「A Black Box」。
苛ついたノイズが蠢く、凶暴で暗い作品。
ノイズの嵐が巻き上げた微粒子でギタギタに切り刻まれてしまったような(Rush of blood to the head みたいなさ)、実験的で痛い作品が並ぶ。
ゲスト以外の器楽はほぼ本人によるようだ。
デリカシーの欠片も見当たらないドラム・マシンとワイルドなギターの和音が荒んだ雰囲気を生み、衝動的でぶち切れ気味のヴォーカルがそれに拍車をかける。
エレクトリック・キーボードの奥行きのない音と挑戦的なノイズからにじむのは、乾いて荒れ果てた心情であり、救いはどこにもない。
しかし、これだけペラペラな音なのに、血のにじむ切実さに満ちているところがすごい。
同様な極みにいるデヴィッド・ボウイとの違いは、この時点では、卓越した声質と歌唱力だけだろう。
ノイズに囲まれて懊悩する姿やアヴァンギャルドな表現がざらざらしたサウンドとマッチして、一種異様な迫力を放っている。
機材も音も人間関係もいろいろと過渡的とはいえ、それすらも、詩人は求道の糧として歩み続けるのだ。
演奏だけにとどまらない、存在としてのロックなカッコよさという点で際立っており、傑作の一つ。
本作品以後、さまざまなトライアルを繰り返して現在に至っている。
そういう意味で現在のハミルの出発点といっていい作品だ。
超大作にして名曲「Flight」収録。
1 曲目「Golden Promises」(2:55)同時代性ある尖った歌ものロック。ガレージ調のアレンジがぴったり合っている。
2 曲目「Losing Faith In Words」(3:37)絶唱の調子から判断して、おそらく VdGG であったはずの作品。メロトロン・フルートのような音はオルガンか。編曲しなおしてバンドでやってもよさそう、というか最近オフィシャルで出た K-GOURP の Rockpalast ライヴでやってますね。
3 曲目「Jargon King」(2:40)電子音のチクチクするような刺激が伝わってくる実験作。処理されたモノローグと雑音。
4 曲目「Fogwalking」(4:05)単調な歩みの果てに抑え切れずに爆発する苦悩。暗いです。
5 曲目「The Spirit」(2:35)得意の「過激な弾き語り」であり、ごく初期のイメージをそのままキープした佳作。
八方破れなギターがカッコいい。
6 曲目「In Slow Time」(3:23)厳粛なるレクイエム。こんな音でも重厚になり得るという発見。
7 曲目「The Wipe」(1:41)ノイズ小品。
最終曲「Flight」(19:38)ピアノなどアコースティックな音も用いたシリアスな大作。15 分からの展開にしびれる。この時代らしい音も入っているが、過激な変拍子やアジテーションなど基本は二人 VdGG である。七部構成であり、最終部がアルバム・タイトルになっているらしい。ライヴ、再結成後の VdGG でも重要なレパートリー。
(CAROL 1690-2)
Guy Evans | drums, percussion |
David Jackson | sax |
David Coulter | didjeridu |
Stuart Gordon | violin |
Hugh Banton | perfect mad cello |
David Luckhurst | alternative vox |
Paul Ridout | manipulation |
Peter Hammill | vocals, keyboards, guitars |
86 年の作品「Skin」。
ポップなニューウェーヴ調と詩人の弾き語り調が、打ち込みのチープシックでデジタルな手触りと肉感的なアコースティック・テイストの中でブレンドされた不思議な味わいの作品である。
いくつかの作品では迎合気味とすら取られてしまいかねないポップ・タッチがあり、もともと歌のうまい人がていねいに明瞭なメロディを歌うと自然とそうなるのはしょうがないのだろうが、そういった「アクセスしやすさのための工夫へのアプローチ」に過剰な生真面目さが感じられてしまい、結果、さらに微妙な居心地になってしまう。
(本人は、新しいさまざまなガジェットに無邪気に取り組んでいるのだとは思うが。ジャケットもそれを象徴しているのだろう)
タイトル・チューンや 3 曲目でぶっ飛んでしまった人も多いのだろう。
シングル・ヒット路線と思われても仕方がない。
しかし、思い入れの強さとオーセンティックな歌唱による歌そのものの「重さ」があるため、デジタルビートでステップを踏むのをためらってしまうし、そもそもいわゆるところのヒット曲のグルーヴとは縁遠いことばかりが際立ってくる。
こういったいろいろなアンビバレンスが不思議な味わいを生んでいるのだと思う。
この人はやはり筋金入りの反骨の芸術家であり、そういう人がやるロックンロールはどうしたって「プログレ」なのだ。
問題作なのだろうが、さまざまな意匠の中における「歌」を味わうにはいいアルバムだと思う。(あらゆる 80 年代の音にそういうことがいえたのだと思うが、当時はそれに気づかなかった)
6 曲目「A Perfect Date」はかなりカッコいい。
久々のヒュー・バントンのゲスト参加もうれしい。メンバー・クレジット的には VdGG 全員集合である。
「Skin」(4:12)
「After The Show」(4:18)
「Painting By Numbers」(3:58)
「Shell」(4:14)
「All Said And Done」(3:36)
「A Perfect Date」(4:12)
「Four Pails」(4:28)
「Now Lover」(9:50)
(VICP-2536)
Peter Hammill | vocals, keyboards, guitars |
86 年の作品「And Close As This」。
ピアノ駆動の MIDI を伴奏に使った弾き語り作品。
打楽器の音もピアノ・トリガの MIDI 駆動のようだ。
ピアノの音は影のようにほぼぴったりと歌唱に寄り添い、交差し、時に主従、表裏を入れ替え、文字通り一体となって進んでゆく。
影は詠唱をなぞり、そして詠唱もその影に導かれて活路を見出している。
したがって、無闇なアナーキズムや狂おしいアジテーションだけではない、足元を確かめるように安定した調子、世界の秘密を出来の悪い弟子たちに伝える修験僧のようにもの静かな調子、が特徴である。
狂的な高揚、厳しさや苦悩のにじむ表情もあるが、思いを一過の勢いや激情のまま流さずに、後を追うもののために胸の分厚い岩板に刻み込んでいる。
エレクトリック・ギターを使う場合の歌唱とのインタラクションとは、ピアノの場合は、大きくその質が異なるといってもいい。
穏やかな歌には、最初の一声で風景を瞬時に描きかえて、現実というどうにも腑に落ちない世界に芝生に広げたピクニック・シートのようにささやかな居場所を確保してくれる力がある。
今思えば、MIDI はデジタルな音をアナログ、人力のニュアンスで奏でるというおもしろいインターフェイスであったが、一時期の隆盛はどこへやら。
「しかけ」というのは飽きられるのが早い。
ここでは、ハミルの歌唱のエネルギーによって、デジタルな「しかけ」にも本来あり得ないはずの熱がこもってゆく、という MIDI 本来の機能が果たされていることを確認できる。
それにしても、ピアノ弾き語りだけでこれだけ聴かせられるというのもすごいことだ。
「Too Many Of My Yesterdays」(4:39)
「Faith」(4:20)
「Empire Of Delight」(4:35)
「Silver」(5:22)
「Beside The One You Love」(5:05)
「Other Old Clichés」(3:59)
「Confidence」(6:30)
「Sleep Now」(4:39)
(VJD-28078)
Peter Hammill | vocals, keyboards, pads, strings, winds, guitars, percussion |
David Lord | strings, percussion, keyboards, bass, orchestral arrangement, winds |
Stuart Gordon | violin |
Nic Potter | bass |
David Jackson | soprano sax, flute, alto sax |
John Ellis | guitars |
91 年の作品「Fireships」。
透徹な弦の調べに抱かれた静謐にして深遠なる作品集。
ささやくようなヴォーカルを中心にゆったりと余白を取った作風である。
重厚な弦楽によるクラシカルで宗教的な厳かさもある。
アグレッシヴなアジテーションは控えられ、ミドルまたはスローテンポによるデリケートなタッチの歌唱が主だ。
ハミルの場合、バラードでも怒りや狂気を演出できるが、ここでは、終始おだやかな、達観したとすらいえそうな面持ちで、坦々と歌を綴る。
したがって、時として楽曲から神秘的な空気すら湧き上がってくる。
それでも、全体としては慈愛のまなざしがあり、悲哀の響きにすら優しさとゆとりが感じられる。
管弦のドローンがほのかな色彩とともに緩やかに広がりを見せる中、ソプラノ・サックスの響きが鮮やかなアクセントになっている。
スチュアート・ゴードンのヴァイオリンが魔術のように美しい。
ハーモニーのように歌に寄り添うピアノ伴奏、ドラムレスの抑え目なバンド・テイストもいい。
エレクトリックなノイズをクラシカルなサウンドと絡ませて生み出す効果も独特だ。
タイトル曲は、旧世紀の英国海洋小説をイメージさせる人生のメタファーか。
劇的なアレンジと声がマッチして独特の謎めいたムードになっている。
そう思うとジャケットもターナーに見えてくる。
最終曲は、ベストセラー本に触発されたかカオス理論の「バタフライ効果」とラブロックの「ガイア理論」にメタファーの素材を求めた作品。
詩の内容はともかく、繊細で美しく無常感のある音楽としては一級品である。
オーケストラ・アレンジはピーター・ガブリエルも手がけた奇人デヴィッド・ロード。
「I Will Find You」(4:47)
「Curtains」(5:50)
「His Best Girl」(5:06)
「Oasis」(5:45)
「Incomplete Surrender」(6:39)
「Fireships」(7:20)
「Given Time」(6:39)
「Reprise」(4:19)
「Gaia」(5:33)
(FIE 9119)
Peter Hammill | vox, guitars, keyboards |
Manny Elias | drums |
Nic Potter | bass |
John Ellis | guitars |
David Jackson | sax, flute |
92 年の作品「The Noise」。
内容は、TEARS FOR FEARS 出身のドラムスもメンバーに迎えたフル・バンド構成によるハイテンションでアグレッシヴなロック・アルバムである。
インテリなはずなのになぜか独特のチンピラっぽさのあるヴォーカリストを中心に、ギターもシンセサイザーもリズム・セクションも金属的でけたたましくささくれ立った音でこれでもかとばかりに切りつけてくる。
あたかも向精神薬の呑み過ぎで不眠状態になってイライラしっ放しのままステージをうろついているような演奏である。
とにかくひたすらアップテンポでノイジーなロック・ビートで攻め立てるパフォーマンスなのだ。
ハミル氏の音楽は「危なさ」が特徴の一つだが、ここで見せている苛烈さはそれではなく、主義主張のために採用したパンクでグラマラスなスタイルからくるものだと思う。
そういう意味ではリキ・ナディアを思い出すのも正解だろう。
ヴォーカルに寄り添うギターの噛みつくようなオブリガートや気まぐれなシャウトといったロックのイディオムがなかなか新鮮だ。
ニューウェーヴも行き詰まりを見せて、懐古趣味に拍車がかかり始めたこの時期にチープシックで尖がった音で攻め捲くるところがブリティッシュ・ロッカーの「粋」であるとも思う。
そういうスピリットも気高いが、何よりひたすらこのテンションでたたみかけるそのエネルギーにも脱帽である。
これだけラウドにガシガシ迫るハミルも珍しいのでは。そして最終曲で鮮やかに幕を引く、その手際にも感心。
ここに集まったメンバーを核に THE NOISE BAND が結成されてツアーが行われ、次作のライヴ・アルバムを製作した。
「A Kick To Kill The Kiss」(4:07)
「Like A Shot, The Entertainer」(5:08)
「The Noise」(6:09)
「Celebrity Kissing」(4:30)
「Where The Mouth Is」(5:29)
「The Great European Department Store」(4:54)
「Planet Coventry」(4:01)
「Primo On The Parapet」(8:53)ドラマティックなヘヴィ・チューン。グラマラスでメタリックな VdGG である。
ミステリアスな演劇調の声色になぜかホッとする。傑作。
(FIE 9104)
Peter Hammill | guitar, keyboards, vox |
Manny Elias | drums |
Nick Potter | bass |
Stuart Gordon | violin |
David Jackson | sax, flute |
Simon Clark | Hammond organ |
94 年発表の作品「Roaring Forties」。
アグレッシヴで挑発的な歌唱パフォーマンスをコンパクトながら辛味の利いた演奏が支える THE NOISE BAND 路線の好作品。
ギターやキーボードのささくれ立った音に饒舌なサックスのブロウが重なる、グラマラスでブルージーな独特の世界である。
あらゆる安定を拒否するように破断が設けられた展開が緊張感を生んでいる。
このチープシックでヒステリックなタッチはハミル独特のものだ。
ニューウェーヴだプログレだというのはリスナーの勝手なレッテル貼りであり、本人にとっては同一線上にあるに違いない。
大作が多く、現代に甦った VdGG という趣もある。
全体としては、流行もさらりと取り入れつつ「核」もしっかりとキープした、ベテラン・ブリティッシュ・ロッカーの安定のソロ・アルバム、というべき作品だろう。
タイトルは、南緯 40 度付近の暴風海域を現すらしい。
「吠える四十路親父」と思ってました。(ハミルは 48 年生まれなのでこの頃四十代半ば)
「Sharply Unclear」(5:40)ジョン・レノン風味もあるヘヴィ・チューン。
「The Gift of Fire」(8:30)グラム、ニューウェーヴ的でここまで内容を膨らませるのがすごい。インストゥルメンタルによる序章あり。
「You Can't Want What You Always Get」(9:32)引きずるような重さと粘り、ギトギト感がいい大作。インストゥルメンタルによるエピローグあり。
「A Headlong Stretch」(19:24)バラードから始まり、変拍子とロバート・フリップ風のギターがうねる狂乱パフォーマンス、カンタゥトーレ調のシンフォニックな歌もの、そして弾き語りへと連なる PINK FLOYD ばりの超大作。
「Your Tall Ship」(5:00)感涙の終曲。オルガン、ピアノの響き、そして空しさをこらえる慰謝と激励の歌。「Roaring Forties」という言葉がここで現れる。「Sail your tall ship home...」
(FIE 9107)
Peter Hammill | guitar, bass, keyboards, vox |
Stuart Gordon | violin, viola |
Manny Elias | drums, percussion |
David Jackson | sax, flute |
96 年発表の作品「X My Heart」。
バンドを活かしながらも喜怒哀楽のレンジをあまり広げず、薄暗めのトーンで統一された作品である。
それでも、シリアスなバラードだけではなく、素朴なラヴソングやデヴィッド・ボウイばりのケバい作品、トラッド風のアレンジ、レイドバック調など作風は多彩だ。
ヴォーカル処理はさまざまに工夫されているが、いつものような振り絞るような素の力強さがあまり感じられない。
破天荒なのは 6 曲目ぐらいだろうか。
やや気だるげなイメージもある。
それに合わせるかのようにバッキングも即興気味であり、集中よりも分散することで独特の「静かなアナーキー」的なムードを醸し出している。
ただし、力みのなさが、そのまま呪文のような言霊の不気味なパワーにつながっているのも確かだ。
達人はすでにフォースの発揮のしかたすら制御できるような域へと入っているのかもしれない。
物静かながら歌詞には力強い現実肯定に満ちているアカペラの第一曲「A Better Time」は、最終曲として弦楽奏とともに再演される。
ドラマーのマニー・エリアスは元 TEARS FOR FEARS のメンバー。リズムマシンの愛称ではありません。
6 曲目のようにアレゴリーに満ちた歌詞もあるようだが、それを味わうだけの力がわたしにない。
残念だ。
「A Better Time (Acapella)」(5:14)
「Amnesiac」(5:36)
「Ram Origami」(5:28)
「A Forest of Pronouns」(5:18)
「Earthbound」(5:23)
「Narcissus (Bar & Grill)」(6:45)
「Material Possession」(6:09)
「Come Clean」(5:02)
「A Better Time」(5:33)
(DGM 9111)
Peter Hammill | all voices & instruments |
Manny Elias | drums, percussion on 2,5,8,9 |
Stuart Gordon | violin on 3,5 |
Hugh Banton | organ on 2,7 |
David Lord | keyboards on 1 |
Holly & Beatrice Hammill | soprano vox |
97 年発表の作品「Everyone You Hold」。
人生の悲愁を懸命に受容しようとする人々の高邁な姿勢を讃える賛美歌集のような、厳粛な内容のアルバムである。
ハミルの詠唱を中心に、けだるいロックやエレクトリックなノイズすらその世界にとけ込み、真摯な物語に寄り添っている。
本作の特徴は、サウンド・スケープがその色調や深み、呼吸がヴォーカルと完全に適合しており、音楽として高度な調和が取れていることである。
リード・ヴォーカルをなぞり、支えようとするソプラノのバッキング・ヴォイスもいい。
ただ、90 年代以降こういう落ちついた作風が主となっているため、時おり、往年のグラマラスなロック・チューンが懐かしくなる。
曲間は明確には設けられておらず(エピローグがそのまま次曲のプロローグとなる)、ムードも一貫しているため、一つの大作に聴こえる。
「Everyone You Hold」(5:59)
「Personality」(6:04)
「Nothing Comes」(3:56)ヴァイオリンとヴォーカルのやりとりがみごと。
「From the Safe House」(6:13)
「Phosphorescence」(5:12)オーガニックな広がりのある佳作。ニューエイジ以降の一つの到達点である。
「Falling Open」(6:14)
「Bubble」(6:30)朗読のような詠唱とバッキングが融合した、本アルバムを象徴する逸品。
「Can Do」(6:49)再びファズ・ギターが吠える、ジャーマン・ロック調のデカダンスが特徴的な作品。
CD クレジットではヒュー・バントンのオルガンが 7 曲目に入っていることになっているが、この曲の誤りでは?
「Tenderness」(4:51)慈愛に満ちた慰謝と激励の歌。
(DGM 9117)
Peter Hammill | guitar, bass, keyboards, vox |
Stuart Gordon | violin, viola on 2,5,6,7,8,9,10 |
Manny Elias | drums, percussion on 2,3,6,8 |
David Jackson | sax, flute on 2,3,5,8,10 |
98 年発表の作品「This」。
前々作と同じ編成(THE PH QUARTET)による録音である。
作風は一言でいうと、なかなかに「晦渋」。
サックス主導の渦巻くようなリフや抗うように暴れるギター・サウンドなどバンドらしい演奏を決然とした表情が貫くかと思えば、けだるく呆けた調子もあり、ファルセットのバッキング・ヴォーカルが寄り添う内省的過ぎるささやきもある。
さらには、西アジア圏のようなエキゾティックな響きもある。
気負うことのない孤高の穏やかさから狂気じみた表情が飛び出すこともあり、常にどこかに幻惑的でミステリアスな「含み」がある。
個人的にはバンドとしての演奏になっている部分もそれなりにあると思うが、ハミルによれば、本作はバンドの作品ではなく「曲と声」を融合した何ものか、なのだそうだ。
確かに、要所をクローズアップすると、歌唱とヴァイオリン、歌唱とアコースティック・ギター、そして歌唱とピアノといった「歌唱+主伴奏」という図式になっている。
また、ブリッジのようなインストゥルメンタル小品が全体を一つにまとめ上げる役割を果たしているともいっている。
最終曲「The Light Continent」は 14 分にわたる映像的な大作。
魅惑のバラードをインダストリアルな低音ドローンと遠吠えのようなヴァイオリンが重厚に取り巻き、ヴァンゲリスの「Blade Runner」を思わせるタッチでさらに暗い世界を描いている。
全体を通して、けだるさや厳粛さの中に、暗い絶望感とともに人生を見渡すような姿勢が感じられる。
こういう姿勢が、個人の経験を超えて、戦乱にさらされ続けた欧州大陸や英国の人々に通底するのだとすると、改めてずっしりと重い。
もう一点、落ちつきもアグレッシヴに牙を剥くところも表現者としての矜持が感じられて、いかにもブリティッシュ・ロッカーらしい作品であることも言い添えたい。
「Frozen In Place」(0:46)
「Unrehearsed」(7:05)VdGG 的なハードなグルーヴのあるロック・チューン。
「Stupid」(4:26)
「Since The Kids」(5:56)
「Nightman」(6:17)
「Fallen (The City Of Night)」(5:37)
「Unready」(0:42)
「Always Is Next」(3:58)
「Unsteady」(0:58)
「The Light Continent」(14:02)
(FIE 9118)
Peter Hammill | vocals, piano, guitar |
Graham Smith | violin |
99 年の作品「The Peel Sessions」。
1974 年から 1988 年にかけて収録された 4 回のジョン・ピール・セッション集。
VdGG の作品や初期作品など、オリジナル・スタジオ盤を上回る、迫真のパフォーマンスを見せる。
ハミルは、77 年の演奏でグラハム・スミスのヴァイオリンを伴奏に迎える以外は、すべて独演。
オーソドックスなピアノ伴奏とエネルギッシュにして蒼褪めたヴォーカルの取り合わせが、なんともカッコいい。
VdGG ファンは、ピアノ伴奏のみで歌われる 2 曲目「The Emperor In His War Room」に感激間違いなし。
「Mr.X(Gets Tense)」から「Faculty X」への流れなど、79 年収録作のテンションも半端でない。
88 年収録作には、すでに風格が。
ソロ・キャリアを手早く味わうためのベスト盤としてもお薦めできる好作品です。
「Faint Heart And The Sermon」 74 年 8 月 19 日収録。ピアノ弾き語り。「In Camera」より。
「The Emperor In His War Room」 74 年 8 月 19 日収録。ピアノ弾き語り。魅惑のアジテーションと終末観。「H To He Who Am The Only One」より。
「(No More) Sub-Mariner」 74 年 8 月 19 日収録。ピアノ弾き語り。「In Camera」より。
「Betrayed」 77 年 4 月 13 日収録。アコースティック・ギター弾き語りにヴァイオリン伴奏。「Over」より。
「Afterwards」 77 年 4 月 13 日収録。アコースティック・ギター弾き語りにヴァイオリン伴奏。「The Aerozol Grey Machine」より。
「Autumn」 77 年 4 月 13 日収録。アコースティック・ギター弾き語りにヴァイオリン伴奏。悲劇のイメージ。「Over」より。
「Mr.X(Gets Tense)」 79 年 9 月 12 日収録。ピアノ伴奏。ヴォーカルは多重録音か。「PH7」より。
「Faculty X」 79 年 9 月 12 日収録。ピアノ伴奏。「PH7」より。
「Mediaevil」 79 年 9 月 12 日収録。聖歌のようなバッキング・ヴォーカルは多重録音か。 「Future Now」より。
「Time For A Change」 79 年 9 月 12 日収録。一人芝居風のアコースティック・ギター弾き語り。「PH7」より。
「The Plays The Thing」 88 年 12 月 4 日収録。各種キーボード(MIDI コントロール?)、エレアコ・ギター伴奏。「In A Foreign Town」より。
「Auto」 88 年 12 月 4 日収録。打ち込み、シーケンサによるニューウェーヴな作品。それでもカッコいい。「In A Foreign Town」より。
「Invisible Ink」 88 年 12 月 4 日収録。「In A Foreign Town」より。
「Time To Burn」 88 年 12 月 4 日収録。「In A Foreign Town」より。
(SFCRD136)
Peter Hammill | vocals, piano, guitar |
99 年の作品「Typical」。
1992 年の欧州ソロ・ツアーの各所で収録された楽曲を素材に、一つの「典型的な」ショーを構成したライヴ盤である。
(大量の録音テープをコンパイルするには非常に優れたアイデアだと思う。本人は苦し紛れといってはいるが)
選曲は、当時の新譜と近作を中心に新旧さまざま。
ほぼ完全ソロ・パフォーマンスだが、ツアー時の最新アルバムであった「Fireship」からの作品の演奏にはデヴィッド・ロード、スチュアート・ゴードン、ニック・ポッターらのサポートを得ている。
全体に、ピアノ、ギター(エレクトリックが主)の弾き語りというには、あまりに濃密で詩的、情熱的でスタイリッシュなロックのパフォーマンスである。
いきなり激熱の「My Room」(「Still Life」収録の名作)から始まる。
この選曲には、古くからのレパートリーをオープニングにすることでその日のパフォーマンスの方向性が見えてくる、という意図があるようだ。
新曲を経た後の「Vision」で一気に感動の波が押し寄せると思う。
一枚目の最後を飾るのは MIDI ギターとともに熱狂するエキセントリックな名曲「Modern」。
何にせよ、ハミルの歌声に魅せられた方々には最高の贈り物になると思う。必携。
CD 二枚組。
CD 一枚目の 6 曲目までは、ピアノ弾き語り、以降はエレクトリック・ギター弾き語り。「Given Time」では個性的なギター・プレイとともみごとに歌い上げている。
CD 二枚目の 2 曲目までギター弾き語りが続き(ギターパートの終曲「Patient」は VdGG ファン必聴のパフォーマンス)、3 曲目からピアノに戻る。二枚目のテンションはすさまじいです。
そして、アンコールの「Future Now」(ピアノを叩き壊しそうな力演)に続くノン・クレジットのアンコールは(ネタバレ反則かもしれないが、これを知らずに入手しそびれている方がいるかもしれないのでお許しを)、希望と終末感が交錯する名作「Afterwards」、「Darkness (11/11)」、そして心ギザギザの「Central Hotel」。
「My Room」(7:30)「Still Life」より。
「Curtains」(6:06)「Fireships」より。
「Just Good Friends」(4:55)「Patience」より。
「Too Many Of My Yesterdays」(4:23) 「And Close As This」より。
「Vision」(4:32)「Fools Mate」より。
「Time To Burn」(5:08)「In A Foreign Town」より。
「The Comet, The Course, The Tail」(9:12)「In Camera」より。
「I Will Find You」(3:55)「Fireships」より。
「Ophelia」(4:14)「Sitting Targets」より。
「Given Time」(4:46)「Fireships」より。
「Modern」(9:30)「The Silent Corner And The Empty Stage」より。
「Time For A Change」(4:14)「PH7」より。
「Patient」(8:43)「Patience」より。
「Stranger Still」(5:51)「Sitting Targets」より。
「Our Oyster」(5:46)「Out Of Water」より。
「Shell」(4:44)「Skin」より。
「A Way Out」(9:06)「Out Of Water」より。
「Traintime」(6:10)「Patience」より。
「The Future Now」(4:03)「The Future Now」より。
以下ノン・クレジット。
(「Afterwards」(6:00)「The Aerozol Grey Machine」より)
(「Darkness (11/11)」(5:13)「The Least We Can Do Is Wave To Each Other」より)
(「Central Hotel」(6:12)「Sitting Targets」より)
(FIE 9119)
Peter Hammill | all instruments, voices |
Stuart Gordon | violin, viola on 1,3,5,7 |
David Jackson | saxes, flute, whistles on 3,6 |
Manny Elias | drums on 1,5,6,7 |
2001 年発表の作品「What, Now」。
ややリラックスした感あるアルバムである。
ふと外の世界に目を向けてコンテンポラリーな音に触れてみたような、ほのかなブリット・ポップ風味(ニューウェーヴか?)がいい感じだ。
マイナーのサックスの響きにもソニー・ロリンズのような開放感がある。
寓意をこめた作品も多く、穏やかな諦観のまなざしもしくは沈んだ表情が主であり、トラジックな重厚さとアグレッシヴな姿勢は、全体としてみると直接的にはあまり感じられない。
ハミル氏はギターでもピアノでも弾き語りで激烈にロックできる稀有の人だが、今回は血を吐くようなモノローグよりも曲を丹念に描くことに重点を置いており、弾き語りの独善性を抑えた、バンドが感じられる音楽になっていると思う。
タイトなバンド・サウンドというと陳腐だが、5 曲目あたりはそういう表現があっていると思うし、才知を支える無類のエネルギーもサイケデリックな 6 曲目のブラックホール的混沌へと注ぎ込まれているようだ。
モノクロの(歌の上手い)デヴィッド・ボウイといってもいい。
音響的にもなかなか刺激的である。
最終曲の歪な賛美歌を聴いていると、この穏やかさは「あちら側」に行きかけているせいでは、と少し心配になる。
「Here Comes The Talkies」(9:41)トーキー出現時の映画俳優の戸惑いを寓意として描いた作品のようだ。
「Far - Flung(Across The Sky)」(3:21)
「The American Girl」(3:06)
「Wendy & The Lost Boy」(3:26)親父には切ないピーター・パンとウェンディのお話。クラシカルなアレンジがしみる。
「Lunatic In Knots」(8:04)
「Edge Of The Road」(10:03)MARILLION を思わせる新時代の叙情派プログレ。
「Fed To The Wolves」(6:22)
「Enouh」(4:53)
(FIE 9123)
Peter Hammill | vox, acoustic guitar, lute |
Stuart Gordon | violin, viola, FX on 1,3,6,7,9 |
David Jackson | saxes, flute on 2,5,6 |
2002 年発表の作品「Clutch」。
内容は、鮮烈なるアコースティック・ギター弾き語り。
いつものサポートは得ているが、バンド演奏ではなく純然たる独唱作品である。
近年の来日公演で見られた迫真のパフォーマンスがそのまま記録されている。
一人多重唱も用いた烈しい主張がオープン・チューニングも用いた明快なサウンドでとらえられており、90 年代の作品との差がはっきりと出ている。
ブチキレのアジテーションではない、確信に満ちた静かなる絶唱のイメージだ。
かき鳴らしたギターの和音とヴォーカルが余韻するブレイクを自らかみしめるように、毅然と呼吸を保ちつつ手ごたえのある言葉を送り込んでいる。
往年の PINK FLOYD にも近い、無常感あふれるブルーズ・フィーリング、初期 KING CRIMSON のような絶望感も感じられる。
盟友のバックアップも的確かつ効果的に歌唱を支え、音楽を形作る。
スチュアートのヴァイオリンがギターを抱えて内宇宙へダイヴするハミルの天の羽衣であるとすれば、ジャクソンのサックスは外の世界との虹の架け橋である。
製作の質も格段に向上しているのだろう。
21 世紀に入って新たな絶頂期に向かっていると思う。傑作。
スリーヴのイラストはギターのネックであり、赤い印は各作品のキーを示しているようだ。ギターが手元にあったら押さえてみよう。
6 曲目は確信に満ちた力強い祈りを思わせる、クライマックスというべき力作。
最終曲はたいへんドラマティックな傑作。
「We Area Written」(3:55)
「Crossed Wires」(3:42)
「Driven」(3:55)
「Once You Called Me」(4:40)
「The Ice Hotel」(5:15)
「This Is The Fall」(6:44)
「Just A Child」(4:04)
「Skinny」(4:42)
「Bareknuckle Trade」(8:01)
(FIE 9127)
Peter Hammill | vox, keyboards, guitar |
Stuart Gordon | violin |
David Jackson | saxes, flute |
2004 年発表の作品「Incoherence」。
内容は、ハミルのヴォーカル表現を中心とする崇高なバラードである。
メンバーは前作と同じ三人。
前作はギター弾き語りだったが、ここではキーボード演奏も復活し、シーケンスや効果音、オーヴァーダビングを積極的に使用している。
竪琴のような響きのエレクトリック・ピアノ、寒風のように吹きすさぶフルート、コーラスのようにヴォーカルに寄り添うサックス、荒々しいファズ・ギターなど、人工的なタッチのサウンドによって、時にワールド・ミュージック風の神秘性を強調し、時にアグレッシヴに噛みつき、そして切実に訴えかけてくる。
また、リズム・セクションはパーカッション・キーボードによるビートに限られているが、バンド的なニュアンスも確実にある。
演奏には、存在感抜群のヴォーカルに負けない、混沌をも血肉にしたような力強い流れがある。
そして、アルバムを通して、不可思議な序章(雅楽を思わせる神秘的なオープニングからヴォーカルへの入りがすばらしい!)から問題提起、熱いクライマックスを経て厳かな結章へと向かうというシリアスなドラマが感じられる。
トータル・アルバムの傑作だと思うし、この作品の充実のままに、VdGG 再結成へと向かったと考えて間違いなさそうだ。
スリーヴには、14 曲に分かれてはいるものの、一つの曲としてとらえてもらいたいとある。
確かに曲間にポーズはほとんどなく、延々と物語りが続いてゆく。
歌詞内容は、逆説的ながらも、言語の不可能性に関するものだそうだ。
曲にもある通り、All Greek というわけである。
(FIE 9129)
Peter Hammill | written, recorded, sung, produced |
2009 年発表の作品「Thin Air」。
落ちついた歌唱が主のアルバムだが、バラードというよりは、思いを自然な喜怒哀楽の抑揚の範囲で、ごくマイペースにつぶやく弾き語りである。
そして、そこに無比の厳かさがある。
積年の果てに霞がかかって見通しのきかなくなった日常という空間に音楽がこだまのように響き、小さな裂け目を作って、かつて思いをはせた、そして手が届きかけた向こう側を垣間見せてくれる。
真摯な詩を淡々と歌い上げていて、穏やかな説得力をもつメッセージとともに鋭く胸を刺すメッセージもある。
そして、粘りつくような妖気、瘴気を発して、底無しの陥穽が、大きくは表情を変えないままに、パックリと口をあける瞬間がある。
そこがすごい。
アナーキーさ、ニヒリスティックな姿勢というのは若いエネルギーを要する姿勢らしく、年降るとともにそういうところはなくなっていくようだ。
ただ、そういった姿勢の代わりに、祈りとか呪詛といった言霊的な不気味なものが膨らんでいくと思う。
ハミルもそうかもしれない。
そして、稀代の詩人だけに、その言霊は民草の記憶にくっきりとした爪あとを残すだろう。
虚空を漂う宇宙飛行士にも歌は届く。
ハーモニー・ヴォーカル、鍵盤楽器、打楽器、ギターなどすべて独演である。
長年のファンには当たり前だと思うが、何度か聴いて呼吸が合ってくると、音がからだにしみわたってくるのが分かる。
4 曲目「Wrong Way Around」はファズ・ギターがざわめくインストゥルメンタル。
5 曲目「Ghosts of Planes」は虚無のプリンスらしいスタイリッシュにして暗黒な力作。
7 曲目「Undone」は箴言であり胸に響く激励歌であり賛歌。
8 曲目「Diminished」は後半からのインストゥルメンタル・パートにプログレ魂を見る。
「The Mercy」(6:21)ストリングスのざわめきとピアノのオスティナートが取り巻く毛羽立ったアジテーション。
「Your Face on the Street」(5:21)
「Stumbled」(4:48)
「Wrong Way Round」(2:40)
「Ghosts of Planes」(5:23)
「If We Must Part Like This」(4:38)
「Undone」(4:25)
「Diminished」(6:11)
「The Top of the World Club」(7:03)
(FIE 9132)