イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「RICORDI D'INFANZIA」。 長らく謎のグループだったが、GLI ASPIDI として 66 年に結成されて途中でグループ名を変更したようだ。 76 年解散。作品は一枚。 唯一作はミステリアスなハードロック。
Emilio Mondelli | vocals |
Franco Cassina | guitars, vocals |
Maurizio Vergani | keyboards, vocals |
Tino Fontanella | bass |
Antonio Sartori | drums, percussion |
73 年発表のアルバム「Io Uomo」。
内容は、ハモンド・オルガン、ピアノを用いたハードロック。
野蛮にして詩的なヴォーカル(感極まるとシャウトではなくオペラチックになる)表現とワイルドなギター・プレイがリードするハードロックに、クラシカルなオルガンやピアノが神秘的な陰影を加える 70 年代ロックの一典型である。
そこに英国ものにはない味わい、すなわち、ブルージーな「泣き」にすら甘美なロマンチシズムが響くというイタリアン・ロックの個性が加味されている。
演奏はパワフルで強引だが確実な推進力を誇る。
これは、ドラムスが的確なプレイをキープしていることに負うと思う。(プログレ路線に切り替えたのもこの腕のいいドラマーの加入によるようだ)
そして、強引であまりに唐突でツギハギにしか思えない展開が、ハッタリではなく、こらえ切れない激情のほとばしりによるものだと感じさせる。
芸術性というやつだ。
アヴァンギャルドとは普通を壊したのではなく体裁を壊して普通をさらけ出した、と開き直るような姿勢が感じられる。
作曲は、すべて Sica-Budano のコンビによる。
「一人の男」を描くコンセプト・アルバムらしい。
オープニングは「Caos(混沌)」(3:04)。
長い長いクレシェンドでギターのアルペジオが刻まれ、オルガンらしきノイズがざわめくイントロダクション。
エコーに浸る不気味なモノローグとともに密やかに演奏が始まる。
遠く微かなオルガンの調べ。
オルガンがテーマを提示するとギターのリフの一撃が轟いて、ワイルドなドラム・ビートが暴れ出す。
衝撃。
怪しいモノローグとともに演奏はフェード・アウト。
怪しく謎めいたムードをギターとドラムスが激しく切り裂く衝撃的なオープニング・チューン。
アートロック的なハードロックである。
2 曲目「Creazione」(2:58)。
前曲のエンディングがフェード・インで回想されるも、重苦しさの名残を拭い去るように、伸びやかな美声の歌唱が始まる。
ヴォーカルに応じるドラムスは抗うように激しい打撃を放つ。
豊かな響きのオルガンが支える胸熱いバラードだ。
激しくもロマンティック、深いエコーににじむオルガン・ソロがいい。
切ない歌メロとハードな演奏がマッチしたノスタルジックなバラード。
ヴォーカリストは歌唱の巧みさではなく、感情の出し方、抑揚に共感を覚えさせる自然なデフォルメがいいというべきだろう。
3 曲目「L'Eden(エデン)」(2:55)
ギターとオルガンのユニゾンがパガニーニ風の性急なリフを叩きつける。
受けて立つのはドラマの幕開けにふさわしいギターとオルガンの絶叫と地鳴りのようなドラミング。
一転、たなびくオルガンをバックに甘やかだが空ろな表情のヴォーカルが彷徨う。ドラムスは天の警告の雷鳴のように荒々しく轟いてヴォーカルを励ます。
サビは伸びやかな歌唱となり堂々と勇ましい。
オペラチックといえそうなほどにクラシカルで重厚なバラードである。
へヴィなギターとオルガンのオブリガートは URIAH HEEP 風。
これがカッコいい。
苦悩するヴォーカル、厳かなスキャット、沈痛なオルガンの調べ、熱く燃え上がるリフを激しく叩きつけるオブリガート。
ブレイク、そしてテンポをリセット、荒れ狂うドラミングとともにDEEP PURPLE 風のジャジーなオルガン・リフが叩きつけられてすべてを断ち切る。
へヴィなサウンドで序破急を締める三部作の終章。
音量やテンポを変化させ、決めのフレーズでがっちりと曲をまとめ上げる。
ラウドに盛り上がるハードロックと雄々しく気高く厳かなヴォーカル表現が絶妙にマッチする。
すべてを支えるのは重厚なオルガンの響きである。
4 曲目「2000 Anni Prima(2000年 第一部)」(4:12)。
決然としつつも溢れる情熱を抑えきれぬピアノ・ソロによるオープニング。
若々しく切ない。
突如オルガンとギターが衝撃的なリフを叩きつけ、ユーモラスなピアノのテーマが呼応する。
しかしそれをかき消さんとばかりに繰り返し怒りのリフがぶつけられる。
密やかにすべり込む男のモノローグ、遠くこだまする歌、ピアノの和音が次第に力を増す。
ドラムスも加わって、いつしかロマンティックな男のドラマが幕を開けている。
メロディアスで情熱的な歌唱とグリッサンドでざわめくクラシカルなオルガンの調べ。
このグループが得意とするらしき PROCOL HARUM 風のバラードだ。
またも叩きつけられるギターとピアノのリフ、先ほどのユーモラスなテーマを今度はピアノとファズ・ギターのデュオが再現する。
このテーマに沿った歌唱が繰り広げられる。
無調風の奇妙な味わいが何とも落ちつかない雰囲気をかき立てる。
こういう奇天烈な変化がイタリアンプログレの味わいの一つである。
悠然たるタム回しからミドル・テンポを取り戻すと、再びクラシカルなバラードへ。
オープニングのピアノの調べが回想され、熱唱の果て、諦念の如きおだやかな心持が帰ってくる。
ムードの極端に異なる複数のテーマを盛り込んで強引にドラマを構成したプログレッシヴ・ロック。
アヴァンギャルドな奇矯さと正統浪漫を大胆に一つにするという音楽的工夫なのだろうが、なお芸術性を感じさせるところがすごい。
つまり、素っ頓狂で破綻すれすれであるとは、あふれんばかりの情熱があることとイコールなのだ。
熱ければ、突っ走ってしまうし、ときに理解不能な行動に出ることもあるだろう。
いかにもイタリアン・ロックらしい。
5 曲目「Preghiera(祈り)」(4:00)。
ギターとオルガンによるハーモニーがレイド・バックした緩やかなテーマを示す。
オルガンとギターのかけ合いはルーズにしてどことなく気高く高尚。
メイン・パートは、やはりオルガンに支えられた情熱のバラードである。
ヴィヴラートの効いたギターのオブリガートもいい感じだ。
ヴォーカルは雄々しく、しなやかである。
このヴォーカルがあるからこそ、独特の緩い演奏に熱いエモーションが加わる。
サビを受けるギター・ソロは、クラシカルで厳かである。
迸るオルガン、たたみかけるドラムス、悩ましげにしかし悠然と歌うギター。
力みのないテーマ、泣きのギターとクラシカルなるオルガン、切なくも情熱的な歌と三拍子揃ったブリティッシュ・ロック風の作品。
雄々しくも気品があり、かみ締めるような哀感があるところは、PROCOL HARUM と LED ZEPPELIN が合わさったような雰囲気といえばいいだろう。
うっすらとした色合いながらもヴォーカルを支えるオルガンの響き、ナチュラル・ディストーションの効いた情感豊かなギターのオブリガートがいい。
名曲。
6 曲目「Morire O Non Morire(死か生か)」(4:56)。
フロアタムを打ち鳴らして重量感たっぷりに行進曲のリズムが刻まれる。
リズムに蹴散らされないようにギターが慎重な歩みを見せ、オルガンが遠く近く轟く。
タム回しをきっかけに荒々しい絶叫が飛び込み、ヘヴィな演奏の口火が切られる。
言葉をたたきつけるヴォーカルとオルガンの轟き、追いかける凶暴なギター。
ヴォーカルは問いかけとかけ声のような応答を一人で繰り返す。
野蛮すぎる演奏である。
ファルセットヴォイスのスキャットをきっかけに勇ましい二拍のリズムが刻まれ、オルガンも勇ましく響く。
一瞬かけ声の応答を器楽が再現するも、そちらには向かわず、ヴォーカルともに演奏もややおだやかな牧歌調に変化する。
再び荒々しいヴォーカルとヘヴィな器楽の応酬(BLACK SABBATH と気づいた)、問いかけと応答、ファルセットのスキャットとともに、冒頭のマーチがよみがえる。
ここから演奏をリードするのは、険しく歪んだオルガンによるサイケデリックなカデンツァだ。
直線的なビートで突き進むドラムス。
けたたましい演奏から、おだやかな牧歌調を回顧し、クラシカルなオルガンの調べとともに終わる。
大きく落差のある展開で攻めまくるハードなオルガン・ロック。
おちつきない怪作である。
マーチ風のドラムスや民謡風のかけ声によるキメなど曲調とテンポが強引に変化する。
ここがクライマックス。
和やかな牧歌調とヘヴィでも伸びやかでメロディアスなヴォーカルがイタリアンロックの真骨頂と気づかされる。
7 曲目「2000 Anni Dopo(2000年 その後)」(4:04)。
序盤は男性的なヴォーカルがリードするフォークロック。
アコースティック・ギターのストロークが心地よい。
ところが、ヘヴィなギターのパワーコード炸裂で一気にハードロック化、オルガンもクラシカルなリフレインで攻め始め、ヴォーカルも力強いビートともにパワフルにがなりたて始める。
重厚だが忙しなく、どこか不安をあおるようだ。
パワーコードと轟くオルガンのユニゾンによるキメでダイナミックに減速、ここからはオルガン、ギター、ドラムスが一体となったコール・レスポンス風のねじれたアンサンブルが繰り返される。
荒々しいオルガンの和音が響き渡ると、ヴォーカルが呪文のように歌う。
オルガンによるクラシカルなリフレインと縦揺れビートも再現するが、そのシャープな演奏はスロー・テンポのヘヴィな演奏へとすり替わっていく。
オルガンもこもった音にトーンを変えて、呪文のように重苦しく引きずる演奏に交じってゆく。
叙情性とアグレッシヴな無機性をひとつにつなげたへヴィ・プログレッシヴ・ロック。
イタリアン・ロックらしい素朴な牧歌調が、無調性のアヴァンギャルドなトゥッティとともにヘヴィ・ロックに塗り変えられてゆく。
クラシカルなオルガンのリフレインが印象的。
男性的なヴォーカルも朗唱から呪文風の怪しい表情まで多彩である。
何より濃い。
唐突に現れる鋭く直線的なビートと調子の変化の落差は、いわば、へヴィ・メタルの原点かもしれない。
逸品。
「2000 Anni Prima」とは演奏上の関係はないようだ。
8 曲目「Uomo Mangia Uomo」(6:18)。
冒頭の野暮ったくも妙にこなれたギター・リフは、FORMULA TRE のパクリではないだろうか。
リード・ヴォーカルの歌唱はやや素っ頓狂でワイルド、息急くように忙しない。
バンドが一体となったハードなバッキングで支える。
ギターのフレーズをきっかけに夢見がちなアルペジオが浮かび上がる。
そしてノイジーなギターのパワーコードを呼び覚ます。
ギターとオルガンが蜘蛛の巣のように文様を成しつつ絡み合う。
轟くパワーコード・リフがかろうじて秩序を促す。
これだけうるさいのに、いつしか目蓋は重くなる。
催眠効果があるようだ。
長い長い間奏は一度フェード・アウト。
シンコペーションのテーマを奏でるオルガンに導かれ、ヘヴィだが単調なヴォーカル・パートへと突入。
オルガン、ギター、ヴォーカルがユニゾンで攻めたてる。
けたたましいヴォーカルがフェード・アウトした後は、ギター・リフに支えられてオルガンがアグレッシヴなソロを繰り広げる。
ノイズが渦を巻き終り。
ギター・リフの徹底した反復を軸にハイテンションを貫くハードロック。
決して名手ではないが声質が「向き」なヴォーカリストの噛みつくように野卑だがオペラチックな歌唱、そしてバッキングのヘヴィなトゥッティが特徴的。
中間部の魔術的なギター、オルガンのアンサンブルが面白い。
エンディングのオルガン・ソロは、ジャジーな音も加味したすばらしいプレイだ。
て
アヴァンギャルドなオルガン・ハードロック。
イタリア風の濃いメロディをラウドな演奏が支える、理想的なパターンである。
荒々しいディストーション・ギターと伸びやかなヴォーカル、そして太いリズムのコンビネーションは、英国ものの翻案というには、あまりにみごとな存在感である。
シャープなリフや泣きのフレーズも取り揃えており、ハードロックとしての英国水準を軽くクリアしているのではないだろうか。
感情移入はイタリア人らしいナチュラルな感性にまかせる一方、アヴァンギャルドな演奏には明確な意思をもって突き進むところなど、英国ロックよりも芸術としての計算がしっかりしている気がする。
ハードロック・ファン、オルガン・ロック・ファンにはお薦め。
(LPP227 / CDLP 426)