イタリアのプログレッシヴ・ロック・ユニット「PAOLO RUSTICHELLI & CARLO BORDINI」。 弱冠 16 歳のキーボーディストとドラマーによるデュオ。 ルスティチェリは、後にセッション・ミュージシャンとして多くの作品に参加。 ボルディーニは、CHERRY FIVE へ加入。 唯一作は、冷徹な技巧の嵐がやがて端正なロマンを生んでゆくキーボード・ロック。
Paolo Rustichelli | Hammond C.3 organ, Mellotron, ARP V.C.S 3, Piano, Vocals |
Carlo Bordini | Percussions |
73 年発表のアルバム「Opera Prima」。
内容は、シャープにしてアグレッシヴ、オーケストラの如きスケールもあるキーボード・シンフォニック・ロック。
全体に音にはデュオとは思えぬ厚みがあり、華麗、そして演奏は一貫してハイ・テンションである。
ただし、すべてを音で埋め尽くすようなエネルギーにあふれる演奏にもかかわらず、音色への配慮が行き届いている上にプレイがきめ細かく丹念に積み上げられているためにクラシカルな気品がある。
オルガンを主に、シンセサイザー、メロトロンが、あるときは対位的に、あるときは豊かな伴奏として配されて、オーケストラのように音が鳴り響くアンサンブルになっている。
ベースレスをシンセサイザーで補っているようだが、そもロック・バンドというよりはエレクトリック・オーケストラというニュアンスが強いので、ほとんど問題にならない。
特徴は、旋律よりも和音の積み上げが生む構築的な美感と音数で押す迫力だろう。
逆に、和音のオスティナートが進行の中心になっている分、いわゆるアドリヴ風の奔放さ、人間くささや自由に暴れ回るようなイメージはやや引っ込んでいる。
ただし、ぶ厚い音の壁とコントラストする、アコースティック・ピアノがロマンティックに歌い上げるシーンの美しさは格別だ。
おそらく、ルスティチェリ氏は、ジャズや R&B よりもクラシック・プレイヤーであり、映画音楽を思わせる優美なプレイなどもこのクラシックの素養によるのだろう。
ドラムスはけたたましさが安定感を上回るタイプだが、クラシカルなキーボードと交わることによって、興奮の火に油を注ぐことに成功している。
悪声型のヴォーカルがやや興を殺ぐものの、キーボード・ロック、シンフォニック・ロックとして第一級品であることに間違いはない。
特に、メロトロン含めストリングス系の音とアコースティック・ピアノの美しさはやはりイタリアン・ロックのものだ。
たとえるならば、地中海の空気を胸一杯に吸い込んた、ロマンチシズム溢れるイタリア型 EL&P (ただしメロトロンあり、ミニムーグなし) だろう。
オープニング・ナンバー「Nativita」は、ロック・キーボードのテクニックと曲想がすべてつめ込まれ圧倒的なパワーで迫る大傑作。
ヴォーカルには、いかにもイタリアらしい濃密で素朴な情感が浮かび上がっている。
意外なくらいフォーク・タッチのメロディ・ラインがそこここで現れ、シンセサイザーのメタリックな響きと好対照を成している。
昨今のアメリカ産キーボード・ロックのように決してエンターテインメント一辺倒ではなく、アグレッシヴな中に正統的で大時代なロマンと人生の哀愁があるのだ。
この 1 曲目のみが取り上げられがちだが、他の曲もスリリングなキーボード演奏をフィーチュアした歌ものの佳曲揃いである。
3 曲目の歌など、とてもしみじみとしたいい味わいをもっている。
最終曲も、1 曲目を変奏するようなスリリングな作品である。
キーボード・ロックの最高傑作の一つであり、絶対お薦めの一品。
まずはオルガン、ピアノ、シンセサイザーそしてメロトロンを駆使してクラシック、ジャズ、ロックと嵐のように弾き倒すルスティチェリのテクニックに耽溺するべし。
プロデュースは、パオロ・ロッセナ。
各曲も鑑賞予定。
「Nativita」イタリアン・ロックの代表曲の 1 つ。
「Icaro」ヘタウマ気味のヴォーカル、AREA にも通じる R&B のイタリア流解釈に驚かされるが、インスト・パートの演奏そのものは、きわめてスリリング。チャーチ・オルガンとジャズ・ピアノが並立する大胆な世界である。
「Dolce Sorella」慈愛にあふれる讃美歌風の歌もの。厳かなチャーチ・オルガンの調べ。バロック・ブラスを思わせるシンセサイザーの響き。絞り出すような歌唱から流れる慈しみの気持ち。本アルバムのリリシズムを一手に引き受けた名作だ。
「Un Cane」やや近現代クラシック風のピアノ重奏を伴奏にした重厚なバラード。シンセサイザーによる重低音が渦巻く。
イタリアの EL&P というイメージです。長調への転調にイタリア魂が見える。
「E Svegliarsi Un Giorno」ドラムスがやたらにうるさいが、基調はパストラルでポップな歌もの。シンセサイザーとオルガンの組み合わせはハーモニウムのような愛らしい響きがあり、そこへメロトロン・フルート、ストリングスが重なる。R&B やジャズにも流し目をくれながら小粋に展開する。いわゆるイタリアン・ロックらしい曲。
「Cammellandia」内省的なピアノ・ソロ、アグレッシヴなオルガンのオスティナート、挑戦的なシンセサイザー・リフ、これらが 1 つの流れになって、変拍子反復による緊張感ある演奏が展開される。
底無しのメロトロン・ストリングスと電子ノイズの交錯など、サイケデリックな音響もあり。抽象的で不気味なパワーを孕むところが、「Tarkus」を思わせる。
(RCA DPSL 10594 / BMG 74321-98510-2)