イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「GOBLIN」。 74 年前身グループ「CHERRY FIVE」を結成。 翌年、ETNA よりドラムスのアゴスティノ・マランゴロが加入、同年アルバム・デビュー。 サウンド・トラックを手懸けるという方法で嵐のようなイタリアン・ロック隆盛期を乗り切った、誇り高き職人にして才覚あるプロフェッショナルたち。 特に、クラウディオ・シモネッティは超一流のキーボード・プレイヤーと思います。
Federico Amorosi | bass |
Claudio Simonetti | keyboards |
Nicola Di Staso | guitars |
Titta Tani | drums |
2000 年発表のアルバム「Dario Argento Tributo」。
キーボードの魔術師クラウディオ・シモネッティ(ジャケット写真左から二人目の良家のお坊ちゃま風の人)の新ユニット「DAEMONIA」によるデビュー作。
内容は、タイトル通り、GOBLIN を世に出した映画監督ダリオ・アルジェント(ジャケット写真右から二人目の一番貫禄ある人)の名作のサウンド・トラックを再レコーディングしたもの。
GOBLIN のみならず、キース・エマーソンやエンニオ・モリコーネの作品も取り上げている。
オーケストラも駆使して現代的なサウンド/アレンジで甦った名曲たちは、あくまでコワく、過剰な浪漫と怖ましき冷気に満ち、その上すさまじくカッコいい。
リメイクが元曲に追いつかずイメージを損なうケースが多いなか、楽曲から新たな魅力まで引き出してしまうとは、やはりシモネッティ氏はただものではない。
「Suspiria」は圧巻。
管弦楽/ソプラノ/合唱を従えた作品も当然あり。
再録モノとしては破格の内容であり、クラシカル・ロックのファンにはお薦めです。
ギタリスト、ニコラ・ディ・スタソ(ジャケット写真真ん中の一番コワい人)は、GOBLIN とメンバーが重なるグループ LIBRA の元メンバー。
「L'alba Dei Morci Viventi」(4:34)映画「Zombie / Dawn Of The Dead」より。
「Demon」(5:15)「ペールギュント/山の魔王の宮殿」の引用あり。コンテンポラリーな解釈が新鮮。
「Inferno」(1:46)キース・エマーソン作。
「Mater Tenebraum」(3:09)キース・エマーソン作。HR/HM 風オペラ。
「Opera」(4:30)イタリアン・ロック・ファンの胸を打つ管弦バンド絵巻。
「Suspiria」(5:01)名曲。へヴィ・メタル、ミニマル・ミュージック、クラシック、ジャズロックといった多面性が眩くとけあう。
「Phenomena」(4:58)大仰系ネオ・クラ系の佳作。劇的。
「La Sindrome Di Stendhal Theme」(4:02)エンニオ・モリコーネ作。
「Tenebre」(5:51)
「School Of Night」(0:50)ジョルジオ・ガスリーニ作。
「Mad Puppet」(3:18)映画「Profondo Rosso」より。
「Profondo Rosso」(5:23)「Profondo Rosso」より。
「Sospiri & Sospiri」(2:21)映画「オペラ座の怪人」より。エンニオ・モリコーネ作。
(4961702)
Carlo Bordini | percussion, durms |
Fabio Pignatelli | bass |
Massimo Morante | guitars |
Claudio Simonetti | keyboards |
Tony Tartarini | vocals |
74 年発表のアルバム「Cherry Five」。
前身グループ「CHERRY FIVE」の唯一作。
渡英の経験を活かし、曲タイトルから歌詞まですべて英語である。
作曲は、クラウディオ・シモネッティとマッシモ・モランテ。
作詞は、ジャンカルロ・ソルベロ。
ドラムスには、あの「Opera Prima」のカルロ・ボルディーニが参加している。さらに、ヴォーカリストは、変名で L'UOVO DI COLOMBO のリード・ヴォーカリストを務めていた。
ロマンチックなグループ名とは裏腹に、アルバムの内容は 「Relayer」期 YES、GENTLE GIANT の強い影響が感じられるきわめてテクニカルなものだ。
GOBLIN の「精密な演奏を繰り広げる技巧集団」というイメージはこの段階ですでに確立されている。
そして、技巧的な演奏のみならずメロディアスな曲づくりにもセンスを発揮している。
そのスタイルは、英国プログレ王道に初期クロス・オーヴァーを加味した、といえばいいだろう。
音楽的なアプローチは、YES によるロックンロールの複雑/高度化と類似しており、ロックンロールのシンプルな躍動感をキープしたまま、スコアを複雑化し、ジャズやクラシックといったスパイスを施したものである。
演奏を引っ張るのは、複雑なリズム/ビートをすさまじい速度と音数で繰り出すリズム・セクションであり、その上で YES や EL&P 調のアグレッシヴなキーボードとしなやかなギターのアンサンブルが華やかに展開する。
また、ソウルフルなヴォーカルとアコースティック・ギターは、メロディを強調して叙景的な演出を施し、ひた走るアンサンブルに弾力ある若干のメリハリをつける。
ただし、基本はくるくると変転しつつもテンション高く走りっ放しの演奏である。
英語のヴォーカル・ハーモニーはかなり健闘しているが、それでも若干ユーモラスで垢抜けない感じがある。
この点も、演奏の切れが凄いだけに特徴的だ。
ただし、そのおかげで、馬鹿テクながらもテクニック一辺倒の冷徹なイメージはない。
期せずして音楽的な懐の深さを見せているということだ。
それにしても、ドラムス、ギターらの器楽演奏のテクニックは本当にすさまじい。
演奏力という点では、本家を除けばフレンチ・ロックのエース ATOLL に近い感じだ。
また、キーボーディストは、クラシカルなスタイルを中心に、ジャズ風、ジャズロック風とさまざまなスタイルを多彩なサウンドとともに弾き分けている。
リック・ウェイクマンと同じく見せ場を心得たプレイヤーのようであり、なおかつテクニックも相当なものである。
ハモンド・オルガンとムーグ・シンセサイザーの快調な引き倒しが飛び出すと、やはりプログレッシヴ・ロック以外の何ものでもないスリリングな世界が現出するのだ。
ほとばしるメロトロンも、もちろんあり。
全体に曲調の変化はかなり唐突だが、ありあまるテクニックのおかげで、極端に折れ曲がる展開をさほど不自然に感じさせない。
また、演奏の運動神経のよさ、俊敏さが、各人のソロのみならず、アンサンブルやインタープレイにもはっきりと感じられるところがすごい。
他の楽器への反応がすばらしくいいのだ。
ハイテク・ユニゾンの決めばかりか、かけあいやハーモニーまでもがきわめてスリリングな対話になっている。
テクニカルでスピード感溢れるプログレッシヴ・ロック。
3 曲目のような英国ポップ調が前面に出るところでは、なぜかヴォーカルが FRUUPP に似る。
「Country Grave-Yard(田舎の墓地にて)」(8:18)
「The Picture Of Dorian Gray(ドリアン・グレイの肖像)」(8:28)
「The Swan Is A Murderer Part 1(白鳥の殺意パート 1)」(3:53)
「The Swan Is A Murderer Part 2(白鳥の殺意パート 2)」(5:07)
「Oliver(オリヴァー)」(9:30)
「My Little Cloud Land(雲の王国)」(7:46)英国プログレ直系の傑作。
(CINEVOX SC 33/27 / KICP 2709)
Walter Martino | durms |
Fabio Pignatelli | bass |
Massimo Morante | electric & acoustic guitar |
Claudio Simonetti | keyboards |
75 年発表のアルバム「Profondo Rosso」。
GOBLIN として初めての作品は、ダリオ・アルジェントの同名映画のサウンド・トラック集。
前身グループそのものなテクニカルなジャズロックから、映画「Exocist」のテーマ曲である Tubular Bells 風の作品、オーケストラを用いた叙景的作品まで、サウンド・トラック本来の曲バリエーションをうまく活かした上でアルバムとしてのまとまりもある充実した内容だ。
2001 年現在、映画版/リミックス版などを含んだコンプリート・エディション(CD MDF 301)が入手可能。
当然 BGM 的な小曲が多いが、管絃を交えた小品(ジョルジオ・ガスリーニ作編曲)を散りばめることで全体を通した起伏がある。
そのおかげで、ロック的なインストゥルメンタルとの共存が不思議なコントラストを成す、未発表ヴァージョンのアレンジ違いがおもしろい、などの聴き応えが生まれた。
ここのジャケットは KING レコードからの CD。
「Profondo Rosso」(3:45)チェレスタによる Tubular Bells 風のリフレインとクラシカルなオルガンを組み合わせた、重厚なるメイン・テーマ。名曲。
「Death Dies」(4:38)ビートを強調した緊迫感あるジャズロック。
わりとアコースティックなサウンド。
このグループらしく、主役はリズム・セクション。
本曲のドラムスは、前任のカルロ・ボルディーニが演奏しているらしい。
「Mad Puppet」(6:30)再び、あまりに Tubular Bells(第二テーマ)な反復を使った作品。
「Wild Session」(5:04+1:51)同様なピアノのオステイナートを導入にした鋭角的なジャズロック。
ムーグ・シンセサイザーのサウンドが新鮮。
ベース、ドラムスの存在感も圧倒的。
特にベースはほとんどギター並のプレイ。
珍しく、わりとベタにジャズなサックスを使っている。
「Deep Shadows」(5:45)
シンセサイザーが冴えわたる現代音楽風のジャズロック。
これだけうねってもファンキーにならないというのも天晴れである。
MAHAVISHNU ORCHESTRA、FERMATA 流の快作。
ジョルジオ・ガスリーニ作曲。
「School At Night」(2:05)
管弦楽による演奏。
ジョルジオ・ガスリーニ作曲。
「Gianna」(1:47)フルート、ピアノによる演奏。ジョルジオ・ガスリーニ作曲。GOBLIN の演奏は、おそらくシモネッティ氏のピアノのみでしょう。
(CINEBOX MDG 85 / KICP 2862)
Agostino Marangolo | percussion, durms |
Fabio Pignatelli | electric & ripper bass |
Massimo Morante | electric & acoustic guitar |
Claudio Simonetti | clavinet, organ, piano, minimoog, logan string machine |
Maurizio Guarini | Fender rhodes piano, Honer pianet, moog, clarinet, piano |
76 年発表の第二作「Roller」。
前作がサウンド・トラックだったので、グループとしての初めてのオリジナル・アルバムとなった。
内容は、安定したリズム・セクションと華麗なるシンセサイザー、メロディアスにしてヘヴィなギターとすべてがハイ・クオリティのテクニカル・ロック。
ツイン・キーボードを活かたシンフォニックな音づくりとジャジーで流麗な演奏がマッチした好作品だ。
これだけ演奏がうまいと音楽的な効果があるのかどうか定かでない超絶テクニックのオン・パレードになって辟易することが多いが、OST で鍛えたセンスでもって、ストーリーと情景をいかに聴かせるかを重視した音作りになっており、ドラマチックで想像力を刺激する作品になっている。
前身グループの作品で顕著だった「いかにも英国プログレのコピー」風な作風はすでに卒業しており、ジャズロックのイディオムを用いつつも、スペイシーな音響と情感豊かなメロディとファンキーなグルーヴがバランスよく配されたインテリジェントな作風になっている。
演奏に余裕があるだけに、ハードな場面もリリカルな場面の描き分けも自由自在。
すべてが一体となって疾走し始める、息を呑むような瞬間も幾度も訪れる。
イタリアン・ロックがすでにプログレ全盛期を過ぎていたにもかかわらず、全く独自の路線からテクニカル・プログレッシヴ・ロックを極めた、例外的作品といえるだろう。
5 曲目「Goblin」は、ハイテクのなかに音楽的成長を誇示するサスペンスフルで一編のドラマを見るような名曲。
3 曲目は、小品ながらクラヴィネットとギターが小気味よくリズムを刻み、ムーグ、エレクトリック・ピアノが駆け巡るジャズロック。
ドラムスにも注目。
全曲インストゥルメンタル。
「Roller」(4:38)シンプルながらもスリリングな変拍子テーマを、ジャジーなギターとクラシカルなキーボードで守り立てる、ダイナミックかつタイトに締まった名曲。
けれん味あふれるリズム・セクションにも注目。
「Aquaman」(5:22)アコースティック・ギターとシンセサイザー、エフェクトされたベースが織り成すファンタジック・ロック。
ファンタジックといっても、次第に悪夢であることが分かってくる。
特徴的な反復は、Mike =EXORCIST= Oldfield の影響下だろう。
前半は、ギターのアルペジオがリズムをキープし、リズム・セクションは自由な表現を見せる。
中盤からは、前曲同様テクニカルかつ弾力あるリズムの上でギターがしなやかに歌うジャズロック調に。
終盤は夢想的な演奏へ回帰。
「Snip-Snap」(3:37)クラヴィネットが小気味よいファンキー・ジャズロック。
跳ねるリズム・セクション、特にドラムスのキレは抜群。
メイン・テーマはスペイシーなシンセサイザー。
ソロはエレクトリック・ピアノ。
「Il Risveglio Del Serperte」(3:27)謎めいたイントロダクションに導かれる、ピアノ、アコースティック・ギターによるクラシカルで気品のある作品。
ピアノが描く牧歌調のロマンティシズムと都会風のエレガンス。
ここでもドラムスが、パーカッション的に多彩な小技を見せる。
中盤にクラリネットがテーマをなぞる。
ライヴ録音か。
「Goblin」(11:10)疾走と停滞、緩急の機微を心得てドラマを成した佳曲。
しなやかなシンセサイザーと弾け粘るドラムスがすばらしい。
テーマは意外にポップ。
「Dr Frankestein」(6:00)ギターとエレクトリック・ピアノのユニゾン、ハーモニーが波乱を予感させ、4:00 の仕切り直しの後、キーボードのリードでテクニカルでスリリングなクライマックスを迎える。
(CINEVOX MDG 85 / CD MDF 307)
Claudio Simonetti | Mellotron, organ, string machine, celesta, electric & acoustic piano, Minimoog, Moog system 55 |
Massimo Morante | electric & acoustic guitar, buzuki, voices |
Fabio Pignatelli | bass, tabla, acoustic guitar, voices |
Agostino Marangolo | drums, percussion, voices |
77 年発表の第三作「Suspiria」。
ダリオ・アルジェント監督による同名映画のサウンド・トラック集。
内容は、キーボードを中心にしたテクニカルなジャズロックであり、ホラー作品らしい冷気の迸る禍禍しさとクールな技巧が絶妙の取り合わせになっている。
劇伴という性格上、効果音的な作品もあるが、全体としては、音楽だけ取り出しても立派にプログレッシヴ・ロックといえる内容になっている。
また、パーカッシヴな反復を用いて独特の怖気のたつような効果を上げることにも成功している。
タイトル・ナンバーは、またもや Tubular Bells 風ではあるが、童謡のようなテーマと不気味な咆哮の如きヴォカリーズが遠い記憶の彼方にある悪夢を甦らせ血を凍らせる名曲。
タブラやブズーギなど、エキゾチックな音も巧みに使われている。
中盤の迸るような演奏は、テクニカルなシンフォニック・ロックのお手本である。
前作に参加したキーボーディスト、マウリツィオ・グアリニが本作にも参加しているが、クレジットからもれたという顛末もあるそうだ。
「Suspiria」(5:57)GOBLIN の代表作。
童謡のようなテーマが致死の劇薬へと変転する、ゴシック・ホラー調の冷気漂う名曲。
「Witch」(3:10)地獄の釜が煮えるようなパーカッション、ティンパニをよぎって不気味なメロトロン・コーラスがうなりシンセサイザーが軋む。
「Opening To The Sighs」(0:32)フェード・インから一気にクレシェンドする前曲のリプライズ。
「Sighs」(5:15)冷気を迸らせる叫喚とタブラ、ブズーキ、チェレステらが交錯し邪悪なエネルギーで膨れ上がる名曲。
エキゾチズムはやがてカタコンベの重い扉を押し開く。
「Markos」(4:03)駆け巡るシンセサイザー・シーケンスとドラムス、エフェクト・ベースによる即興風の演奏。
眩暈と衝撃。
メロトロンが間隙を縫いカタストロフィックかつノイジー。
「Black Forest」(6:06)ギター、ベース、シンセサイザーらによるおだやかなテーマを経て中盤からスリリングな演奏が続くシンフォニック・ジャズロック名品。
際立つサックスはゲストだろうか。
「Blind Concert」(6:11)冒頭「Suspiria」がリプライズするもすぐさま BRAND X 風のヘヴィでファンキーなジャズロックへと突入する。
うねるリズムを横切ってシンセサイザーによるさまざまな電子音やパーカッションが飛び去る。
「Death Valzer」(1:51)古いヨーロッパ映画で見られるカーニバルのカルーセルを思わせるピアノのワルツ。
(CINEVOX MDF 33.108 / KICP 2721)
Agostino Marangolo | percussion, durms |
Fabio Pignatelli | bass |
Massimo Morante | guitar, vocals |
Claudio Simonetti | keyboards |
guest: | |
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Antonio Marangolo | sax |
78 年発表の第四作「Il Fantastico Viaggio Del Bagarozzo Mark(マークの幻想の旅)」。
ヴォーカル(イタリア語)を初めて取り入れた、ファンタジックなイメージのコンセプト・アルバム。
副主人公が主人公の「僕」を誘って旅に出るという「藤子不二夫的」シチュエーションは、GOBLIN というハイテク職人バンドのイメージとは全然重ならないが、そこがまたおもしろい。
重厚かつ華麗な演奏はここでも冴え渡り、ヴォーカルがやや垢抜けないことをさえ除けば、内容はほぼ完璧なテクニカル・シンフォニック・ロックである。
ジャズロック的な切れ味のあるリズム・セクション、あまりに多彩なシンセサイザー、抜群の表現力をもつギターまで、演奏は一流である。
ややメタリックな音色や後半のシンセサイザー・ビートなど、同時代の音にも敏感であり、70 年代後半のメイン・ストリームと田園風のイタリアン・プログレのブレンドという捉え方もできる。
スリラー映画の OST らしいミステリアスな反復もあるが、それをあまり意識させないほど溌剌とした、シンフォニックで華のある演奏である。
他の OST を押しのけて「Roller」に並ぶ出来映えといえるだろう。
「Mark Il Bagarozzo(マークの幻想の旅)」(5:00)
インド風のエキゾチックなイントロに驚くが、そこを越えれば、いかにも GOBLIN らしいテクニカルで重量感のある演奏が続く。
キーボード、ギター中心のダイナミックな間奏は、テクニカル・ロックの名に相応しいものだ。
ベース、ドラムスによるグルーヴィなリズム、レスリーの効いたキース・エマーソンばりのハモンド・オルガン・ソロ、メロディアスにしてドライヴ感たっぷりのギターらが、きっちりとまとまり、さほど大作でもないのにドラマができている。
特に、ギターのプレイは、いわゆるイタリアン・ロックのジミヘン亜流ではなく、ATOLL を思わせる格調がある。
また、ヘタウマ風のヴォーカルは、意外性を放つ新機軸である。
華やかです。
「Le Cascate Di Viridiana(ヴィリディアナの滝)」(5:45)
フュージョン風のサウンド・メイキングで、緩やかにクレシェンドして雄大な高まりを生み出す SEBASTIAN HARDIE ばりのシンフォニック・チューン。
前半は、シンセサイザーが巧みなピッチ・ベンドさばきで光沢を放ち、フレットレス・ベースが緩やかに響き、ギターがキラキラとアルペジオを刻むファンタジーにあふれる演奏。
アンサンブルは、呼吸よく、ていねいにフレーズをつないでゆく。
細かな塵が渦巻きながら、次第に規則的なパターンを作り上げてゆくようなイメージだ。
ストリングスが夢を吹き上げ、サックスがメローに歌い、やがて、シンバルのざわめきが波乱を予感させる。
高まりを抑え切れないように、ロマンティックなピアノが歌い出し、リズム・セクションに追い立てられるように、メロトロン・ストリングスが高鳴るシンフォニックなクライマックスへと登りつめてゆく。
繰り返しごとに、優雅に泰然と舞い上がってゆく。
そして満を持してギターが登場、エモーショナルかつ緊張感のあるすばらしいプレイで、力強くカラフルな流れを成してアンサンブルへ歌を刻み込む。
入念な音作りが胸のすくような感動を呼ぶ作品だ。
インストゥルメンタル。
「Terra Di Goblin(ゴブリンの世界)」(4:35)
ブルージーな哀感とミステリアスで官能的なタッチが混じりあった歌もの。
ヴォーカルの声質が曲の雰囲気と合わないような気もするが、キーボードを中心とした演奏から、やや感傷的で悲劇的なムードは伝わる。
キーボードは、シンセサイザー、ストリングス、チェンバロなどがヴォーカルを取り巻き、ソロではシンセサイザーが哀愁の旋律を朗々と歌う。
パーカッションによる細かな音も散りばめられている。
後半、泣きのギター・ソロの説得力もみごと。
マーチング・スネア、シンセサイザーのファンファーレは、あたかも葬送の曲のようだ。
ミドル・テンポのアンサンブルが、これだけタイトに締まっているというのも大したものである。
「Un Ragazzo D'Argento(ダルジェントの息子)」(4:43)
この時代らしいシンプルなビートとシンセサイザー・シーケンスをフィーチュアしたリズミカルなポップ・チューン。
ややチープな感じはぬぐえないが、ディスコ調の単調なシーケンスを駆動力にしながらも、音数多くたたみ込むドラムスやかなり超絶なマイクオールド・フィールド風のアコースティック・ギター、ELO ばりのオブリガートなど、聴きどころは多い。
エンディングには、カントリー調のフィドルも聴こえる。
「La Danza(舞踏)」(5:17)
キーボードをフィーチュアしたファンタジックかつスリリングな作品。
序盤は、TANGERINE DREAM を思わせるシンセサイザー・ビートが刻まれ、そしてリズム・セクションが加わると、一気に演奏はダイナミックに変貌する。
シンセ・ビートとタイトなバンド・アンサンブルが丁々発止を繰り広げ、やがて鮮やかなムーグ・シンセサイザーとギターのバトルへと引き継がれてゆく。
後半は、ひたすらタイトな演奏が続く。
「Opera Magnifica(華麗なオペラ)」(3:55)
シンフォニックかつ華美なポップ・ナンバー。
エレクトリック・ピアノが刻む和音がきらびやかだ。
初めはピアノ伴奏のヴォーカルに野暮ったさがあるが、伸びやかなサビとシンセサイザーの伴奏を得てからは一気に洗練される。
楽器はすべてバッキング徹している。
「Selling England By The Pound」GENESIS に通じるものもあり。
「Notte(夜)」(2:45)
サティ風のゆがんだピアノが印象的ないかにもホラー映画の OST 風の作品。
あいかわらずエレクトリック・ピアノのリフレインが Tubular Bells である。
不気味なモノローグ、ストリングスがエキセントリックなムードを盛り上げる。
「...E Suono Rock(そしてロック)」(4:33)
スピード感と強烈なビートに追い立てられっ放しの痛快なインスト・ナンバー。
オープニングのシンセサイザーの縦揺れビートが布石になりその後の疾走感が余計に強調される。
なかなか計算されている。
剛球一直線。
しかしエンディング・ナンバーにしてはストレートに終ってしまい物足りなさも少しある。
(CINEVOX SC 33 37 / KICP 2836)