アイルランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「FRUUPP」。 71 年結成。 76 年解散。作品は四枚。 サウンドはファンタジックなテーマをもつフォーク・ロック。 クラシカルな音もあるが、全体に垢抜けず力み勝ち。 センチメンタルでドラマチックな 70 年代的魅力にあふれている。 アコースティックな音とコード進行は「かぐや姫」を思い出させます。 DAWN レーベル。
Peter Farrelly | bass, lead vocals |
Stephen Houston | keyboards, oboe, vocals, strings arrangement |
Vincent McCusker | guitar, vocals |
Martin Foye | drums, percussion |
73 年発表の第一作「Future Legends」。
内容は、4 ピースによる土臭いフォーク・ロックに弦楽などクラシカルなアレンジを施したもの。
内ジャケットに書かれた「The Tramp And The Priest」なる物語に導かれて始まる、一種のトータル・アルバムのようだ。
(文章は、サンクス・クレジットもある、ポール・チャールズなる人物による)
しかし、演奏そのものは、ファンタジックというにはあまりにワイルドであり、どの曲も武骨な印象が強い。
リズム・セクションとギターは、昔語りの素朴さというレベルを越えた恐るべきプレイであり、ヴォーカルは野太い声で垢抜けない。
そして、オーヴァー・ダビングによる泣きのツイン・ギターがこれでもかと迫るほどに、フォーク・ロックという一種繊細さを期待できるようなニュアンスからは離れてゆく。
ラウドに突っ込む演奏に、一瞬 DEEP PURPLE が目の前をよぎる。
しかし、作曲を手がけるギタリストは、プレイはともかく作曲センスはあるようで、ワイルドな演奏にオルガン、ストリングスを利用したシンフォニックなアレンジやめまぐるしい変転を施して、きっちりとストーリーにして訴えかけている。
したがって、楽曲は荒っぽくもリリカルという微妙なバランスの上に立ち、際どくファンタジーの位置を保っている。
結論をいえば、ごくシンプルなテーマをギターやオルガンのユニゾンやアンサンブルで彩り、リズムやテンポ/調子の変化をつけておもしろく聴かせる手腕は、なかなかのものである。
ストリングス、キーボードによるクラシカル・フレイヴァーの他にも、ジャズ、教会音楽、ブルーズ、ホンキートンクなど、さまざまなスパイスを効かせている。
全体に、「とんでもない荒っぽさ」を「飾り気のない素朴さ」と解釈できれば、この変化に富む内容を楽しめると思う。
唯一キーボーディストが奏でるオーボエの音色にデリカシーがあり、ホっとする。
プロデュースはデニス・テイラー。
初期プレス盤に収録された「On a Clear Day」は版権の関係で長らくベスト盤を除く CD には入らなかったが、最新の ESOTERIC からの単体再発 CD にはボーナス・トラックとして収録されている。
「Future Legends」(1:27)
ストリングスとシンセサイザーによる古色蒼然にして愛らしい序曲。インストゥルメンタル。
「Decision」(6:21)ヘヴィなサウンドで彩ったセンチメンタルなバラード風のポップ・チューン。
食いつくようなリフやヘヴィなトゥッティ、ストリングスのオブリガートが OSANNA あたりのイタリアン・ロックを思わせる。
一転してメイン・ヴォーカル・パートは、60 年代から継承した英国ポップスらしいメランコリックでソフトなバラード調。
THE BEATLES の 「Michelle」や「Elenor Rigby」である。
哀愁をまとって舞うピアノとオブリガートでも間奏でも存在をアピールするベース、そしてシンバルさばきも鮮やかなドラムス。
そして、重厚なストリングスを背負ったギター・ソロは豪快そのもの。
マイナー調の泣きの節回しがクサくていい。
決めの 3 連フレーズもなかなかショッキングだが、後半は覚悟を決めて凶暴なギター・リフのリードするラウドな演奏につき合うべし。
「As Day Breaks With Dawn」(4:58)白昼夢的なパートとハードロックが交錯する幻想的な作品。
さざ波のようなアルペジオと風のささやきのようなヴォーカルによる、空ろで夢想的な演奏が、いきなり DEEP PURPLE 風のクラシカルなハードロックへと節操なく様変わりする。
オーボエとピアノのアンサンブルの抑制された淡い色合いがいい。
トーン制御をしたオルガンはまるでピアニカだ。
強弱、濃淡のアクセントが強烈な作品だ。アルペジオがさざめく静かなところには初期 GENESIS の面影も。
尻切れトンボな演出がイタリアン・ロックのよう。
「Graveyard Epistle」(6:14)変化の振れ幅の大きいクラシカル・ロック。
クラシカルにしてヘヴィなアンサンブルがたたみかけるオープニング。
バロック調のアンサンブルをかみつくようなギターがドライヴする。
一転、メイン・パートでは深くエコーににじむヴォーカル、エレピ、アコースティック・ギターによる空しさを嘆くような演奏に味がある。
茫漠としつつも情熱が行き場なくさまようので、サビでは突発的に激しく熱っぽい演奏へと高まる。
間奏は、シンセサイザーによるスパニッシュ、アラベスクなソロ。
ここでも伴奏のベースとドラムスが荒っぽいの何の。
オルガン、ギター、ベース、ドラムス横一線のクラシカルなユニゾンが凄まじい。
再びメイン・パートから激しいトゥッティへ。
BEGGARS OPERA や GRACIOUS をもっとワイルドにしたような感じといえばいいか。
キーボードが安っぽいために「なり切り」がやや不足しその分独特のムードになっている。スピード感はある。
「Lord Of The Incubus」(6:20)クラシカルなアレンジを効かせたけたたましい間奏パートをもつフォーキーなハードロック。
泣きのギターによるテーマからシャフル・ビートでの自信あふれるメイン・パートへ。
このシャフルでの突進が一番このグループに似合っている。
中盤にブギーのブリッジをはさみながら、ひたすら喧しいギターのリードで演奏の操縦桿を振り回す。
オルガンの響きが湧き上がるとともにギターも分を弁えてアンサンブルへと徹していく。
「Old Tyme Future」(5:53)哀愁のメロディアス・ロック。
ペーソスあふれるテーマを、珍しくやや抑制されたタッチで奏でるギター、そして厳かなオルガンの響き、そぼふる雨のようなシンバルのざわめき。
歌が入ると一気に歌謡曲に。
「豪」ばかり強調される本作では、デリケートな面を代表する作品だろう。
トーン制御されたオルガンは悪くない。
「Song For A Thought」(7:25)若さを燃やした後の虚無感に重なるバラード。
オープニングのようなけたたましい 3 連シャフルが大好きなようだ。
テレ東午後の時代劇再放送のテーマ音楽に通じる。
直球勝負のオーセンティックな力作。
「Future Legends」(0:47)第一曲を四声の頌歌風にアレンジした小品。
(DNLS 3053 / TECP-25472)
Peter Farrelly | bass, lead vocals |
Martin Foye | drums, percussion |
Stephen Houston | keyboards, oboe, vocals |
Vincent McCusker | guitar, vocals |
74 年発表の第二作「Seven Secrets」。
アコースティックで牧歌的な音を基本に、ロックらしいギター・プレイと大向こう受けするクラシカルなアレンジを盛り込み、インストゥルメンタルを充実させた佳作である。
素朴な語り口は、ロックよりもフォークに近く、弦楽がゆったりと響く夢見心地の雰囲気の中に独特の土臭さがある。
こういう音とともに聴こえてくる弦の調べは、いわゆる音楽鑑賞的なクラシックではなく、もっとノスタルジックで人間臭いもの、いわば、さまざまな思い出や心情をとかし込んだ人生の B.G.M なのだ。
宮廷よりも農村や街場のイメージである。
おそらく、ファンタジックという意味ではディスコグラフィ中もっとも秀でた作品だろう。
前作よりは、サウンドやプレイが整理されて音の角が取れており、無常感ある幻想性という方向に音楽がまとまっている。
洗練され切らないところも残るが、そういうところや 60 年代ビートの名残も英国の伝統遵守という意味合いでポジティヴに感じられる。
全体のイメージは、思い切ってエレクトリックでやや技巧の劣る GRYPHON といってしまってもいいかもしれない。
白昼夢的な茫洋とした雰囲気が特徴である。
クラシカル・ロックの逸品。
プロデュースはデヴィッド・ルイス。
(ANDWELLA のリーダーと同一人物?)
2004 年 DISK UNION (Arcangelo) 盤がお薦め。
「Faced With Shekinah」(8:23)パーセルやヘンデルも現れるクラシカルなヘヴィ・ロック。
オーボエ、チェンバロをフィーチュアしたバロック音楽調(ギターはハープやバグパイプなど多彩な役を演じている。
ハモンド・オルガンのトーンを調節したパイプ風の音もいい)の序盤を経て、得意の強めのビートとワイルドなサウンドで突き進むハードロッキンな演奏へ。
ただし前作よりはすべてがモデストでまろやかである。
荒っぽくなりすぎないように、サウンドへの配慮があるようだ。
ヴォーカルは歌唱というよりはモノローグ調。
ブリッジ部では、ヴォリューム奏法のギターやスキャットで神秘的な雰囲気を作って改めて後半を導く。
後半はギターのリードで "テクニカル" なアンサンブルが走り、ふと気づけばパーセルが現れる。
「Wise As Wisdom」(7:07)弦楽奏を盛り込み、ギター、オルガンによる 3 連テーマが印象的な古典舞曲風の作品。
ピチカート・アンサンブルによるイントロダクションを経た、弦楽奏とオーボエの哀愁あるテーマが導くのは、さざなみのようなアコースティック・ギターのアルペジオとオルガンによるメランコリックながらも性急な、あたかも若さゆえの抑えきれぬ思いのような演奏である。
空しさを胸にしたヴォーカル・ハーモニーを支えるのは 3 連シャフルのオルガンとギターのアンサンブル。
クラシカルにしてジャジーな響きもあり。
テンポも改まった 8 分の 6 拍子のアンサンブルをブリッジに、再び 3 連の跳ねるような調子とメロディアスなハーモニー、朗々たるオルガンがオーヴァーラップして、エンディングを迎える。
エレクトリック・サウンドを調整してアコースティックな楽器の音に似せる手法が生きている。
視界の効かない、うっすらと白くぼやけた世界で繰り広げられる自然の営みをイメージさせる幻想的な作品である。
初期 GENESIS のイメージあり。
「White Eyes」(7:16)弦楽をフィーチュアした穏やかで愛らしいフォーク・ロック・チューン。
序奏は、湧き出す泉のようなギターのアルペジオとオカリナのようなオルガンによる密やかで優しいアンサンブル。
メイン・パートは、THE MOODY BLUES を思わせる弦楽奏とピアノ、そしてメロディアスで優しいヴォーカル・ハーモニー。
しかし、メイン・ヴォーカルが加わるとやはり力強きビートロック調になり、シャフル・ビートも強まってぐんぐん進む。
このロックな骨太さと典雅な宮廷調とのミスマッチが魅力である。
中盤からは、トーンを抑えたオルガンの管楽器を思わせる調べ、滴るようで小洒落たジャジーな展開も見せるピアノ、いつの間にか 4 ビートを刻むドラムスなど、抑制を効かせつつも巧みなアレンジで自由に遊ぶ。
あえて主役を迎えないままのようなジャジーで淡々としたアンサンブルが何とも微笑ましくていい。
最後に演奏をリードするか細いオルガンがイントロ部分で奏でていたテーマは、ヴィラ・ロボスのギター前奏曲に似る。
あえて BGM 風に迫った個性的な作品である。
「Garden Lady」(9:00)
エネルギッシュにして骨太、どこか長閑なアコースティック・ロック。
演奏とヴォーカルが一体となって調子よく走る序盤、スピーディなユニゾンも決まりなかなかテクニカルなイメージである。
急停止から、一転、オルガンがせせらぎのようにほとばしり、ギターのハーモニクスがつぶやき、ピアノが湧き立つ幻想的なブリッジ。
ミドル・テンポでリズムが復活するとともに、武骨な存在感抜群のギター・ソロ、バッキングはおだやかなアンサンブルであり、やや哀しげな表情でそれでも坦々と続く。
けたたましさと静けさが同居するミスマッチの妙。
前曲同様、強い主張のないまま延々と続いてゆく。
しかし、ゆっくりとしたベース下降を経て、活気のあるリズミカルなギター・リフが奏でられて、アンサンブルは緩やかに飛翔し始める。
力を増す演奏、アグレッシヴなピアノのストロークとともにヴォーカルが戻り序盤のスピーディな演奏が復活、最後はもつれるようにすべてが一つに収束して、アコーディオンのような音に吸い込まれてゆく。
緩急と騒静を大きく揺れ動く作品であり、P.F.M 辺りにもありそうだ。
「Three Spires」(5:00)
クラシカルなストリングス、アコースティック・ギターをフィーチュアした繊細にして神秘的なフォーク・ロック。
上ずり気味のヴォーカルがかえって純朴な魅力を放つ。
後半ピアノが加わるとポップス的に洗練されてくる。
メロディはシンプルだが味わい深い。BARCLAY JAMES HARVEST と同質の魅力だと思う。
プロデューサーのルイスがピアノを担当。
「Elizabeth」(7:45)
ストリングスとピアノを活かしたクラシカル・ロック。
序奏は、ストリングスをフィーチュアした祝祭的クラシック・ロック、ただし村祭り風、そして軽やかに駆け巡るピアノ、どこまでもなめらかな弦楽の響き。
メインパートは、ストリングスとピアノが支える賛美歌調の慎ましやかなフォーク・ロック。
表題である「Seven Secret」という歌詞が現れる。
ピアノの爪弾きにベースが応じてゆくと、ストリングスの上でピアノとベースが密やかなやり取りを始める。
愛らしいストリングスの導きでワルツへと化し、ピアノの音のしずくがきらめきながら滴ってゆく。
うっすらと哀しき色合いはいつしか優しい夢のような響きへと移ってゆく。
ピアノのトリルが静に幕を引く。
「The Seven Secrets」(1:08)アコースティック・ギターが伴奏する演劇的なモノローグ。御伽噺の語り手か。
(DNLS 3058 / ARC 7071)
Peter Farrelly | bass, flute, lead vocals |
Stephen Houston | keyboards, oboe, vocals |
Vincent McCusker | guitar, vocals |
Martin Foye | drums, percussion |
74 年発表の第三作「The Prince Of Heaven's Eyes」。
ポール・チャールズ作の物語「天国の眼をもつ王子」(昔の東映のアニメーション映画のタイトルのようだ)のオデッセイアをテーマにしたトータル・アルバム。
(オリジナル LP には、この物語のブックレットが付いていたらしい)
本作の表現もまた、リリカルなメロディを織り交ぜながらも、野太く力強く、リズミカルなものである。
その魅力は、ワイルドなリズム・セクション、ハードなギターとクラシカルなキーボード・ワークが生むドラマチックな展開、そして甘くユーモラスな歌メロ、などだ。
ややチープな音質/製作は、親しみやすさと解釈すべきだろう。
実際、作風そのものが村祭りを思わせる陽気で素朴で賑々しいからだ。
土臭さ行き果て、カントリーそのもののようなナンバーもある。
音を立てて注ぎ込むような大仰なストリングスは、オーケストラのクレジットがないので、おそらくシンセサイザーなのだろう(にしては音がよすぎる気もする)。
この遠慮なく吹き上がるストリングスと元気なリズム・セクション、ワイルドなギターの組み合わせから、演奏全体がいわゆるプログレらしさにあふれている。
YES や GENESIS などに、かなり意識があったに違いない。
意識ほどには追いついていないところが微笑ましいばかりか、鈍臭く野暮ったい分、YES など比べると、ハッタリのない誠実なファンタジーという趣も生まれている。
トータル・アルバムらしく、随所に活劇風のアレンジもあり、英国らしさあふれる佳品である。
前作のクラシカルなアレンジをよりメロウでロマンティックな方向に傾けた作品。
プロデュースはグループ。
「It's All Up Now」(7:20)バラード調のメロディアスなメイン・ヴォーカル・パートとリズミカルな中間部が華やかに対比する名曲。
わくわくするようなフェード・インのオープニングから、流れるようにナチュラルなドラマを見せる。
ヴォーカルをオブリガートするベース、丸っこいピアノがいい。
間奏終盤のアンサンブルは YES に匹敵。
ヴォードヴィル調のアレンジである。
「Prince Of Darkness」(3:48)
こういう 4 拍すべて(後拍がやや強い)にアクセントがある行進曲のようなスタイルはなんというのだろう。
THE BEATLES のよう、というか、「アビーロードの街」のようです。
60 年代風であることは間違いない。
声色を使うヴォーカルのせいか GENESIS 風であり、また垢抜けないファズ・ギターのテーマなどイタリアン・ロック的でもある。
「Jaunting Car」(2:23)ギターとキーボードによるカントリー風のインストゥルメンタル。
「Annie Austere」(5:14)アップ・テンポで疾走するギター・ロック。
軽快なギターと歌い飛ばすようなリード・ヴォーカル。
中間部に教会風のオルガン伴奏によるクラシカルでパストラルなブリッジあり。
高鳴るハモンド・オルガン、元気なドラムス、そして唸りを上げるベースなど、最初期の YES に通じる音である。
こんな歌謡曲もありました。
名作。
「Knowing You」(2:46)A 面の最後をリプライズして始まる、アコースティック・ギター、ピアノ伴奏のクラシカルなバラード。
間奏にオーボエ・ソロあり。
小さいが心休まるいい曲だ。
「Crystal Brook」(7:58)THE BAND、PROCOL HARUM 系のロマンティックで厳かなバラード。
コンプレッサをかけたようなオルガンと小気味いいリズム・セクションをフィーチュアした間奏部がカッコいい。
「Seaward Sunset」(3:08)ピアノとフルート、ファルセット・ヴォイスによる幻想曲。
「The Perfect Wish」(9:49)ポップス・オーケストラ調のメロディアスかつシンフォニックな終曲。
ロマンティックなピアノがフィーチュアされる。
ベース・ラインも印象的だ。
中盤にジャジーな 8 分の 6 拍子のブリッジをはさむ。
エンディング近く第一曲のテーマが再現し、感動のダメ押し。
「Prince Of Heaven」(3:31)シングル盤。伸びやかなヴォーカルに B.J.H の ジョン・リーズ風のメロディアスなサイケ・ギターがいい感じでからむ佳曲。
B 面は「Jaunting Car」。ここに配置されてもカーテン・コール風にごく自然に聴こえるので、オリジナル LP にも収録されていたのではと想像をたくましくする。
(DNLH 2 / SRMC1033)
Peter Farrelly | bass, flute, lead vocals, guitar |
John Mason | keyboards |
Vincent McCusker | guitar, vocals |
Martin Foye | drums, percussion |
75 年発表の第四作「Modern Masquerades」。
キーボーディストが交代。
押し捲る演奏や濃い目のリリシズムと THE BEATLES 風ポップ・テイストは相変わらずだが、ややジャジーなニュアンスも加わったのは、新キーボーディストの力量だろうか。
かなりすっきりとした作品もある。
また、さりげなく使われているエレピやメロトロンが、とても効果的だ。
ギターのクサいメロディは相変わらず耳につくものの、疾走感あふれるアンサンブルは、前作を越える迫力をもつ。
野太い力強さをうまくコントロールし、曲毎の特徴がはっきりと浮かび上がるような明解なプロデュースがなされており、ポップな洗練度という意味では、一番の作品だろう。
シンフォニックな高揚感も楽しめる。
叙情とパッションが交錯する「Mystery Might」は、ジャジーなブリティッシュ・テイストたっぷりのグループの最高傑作。
本作を最後に 76 年、グループは解散する。
新加入のキーボーディスト、ジョン・メイソンはフュージョン・グループ VISIOTR 2035 を結成。
ストリングスで荒っぽさを和らげようというイアン・マクドナルドのプロデュース(という事実ばかりが脚光を浴びてしまった)は的確である。
「Misty Morning Way」(6:55)幻想的なエレピの響きが、洗練とともに新キーボーディストの嗜好を感じさせるオープニング・ナンバー。
シンバルからベースがたたみかけると、ギターがなんともお涙頂戴なメロディを奏で始める。
ここでオープニングの洗練具合は吹っ飛び、一気に FRUUPP 節健在をアピールだ。
トラッドで癖のある臭さから、一転してアンサンブルは走り出す。
キーボードの響きが、荒っぽいギターのエッジを和らげている。
そして始まるは、軽妙な 4 ビートのジャズ・ヴォーカル・アンサンブル。
ランニング・ベースがいい音だ。
トラッドなリード・メロディのボトムだけジャズにすげ替える、というなかなか面白いアレンジだ。
コーラスやヴァイオリン奏法で歌うギター、スリリングなシンバル・ワークを見せるドラムス、エレピなどを間奏にヴォーカルは続く。
最後は、再びギターが目一杯が歌い上げ、ストリングス・キーボードが厚く音を塗り込めてゆく。
シンフォニックな高揚が見事に抜けるエンディングである。
濃い目の演歌ギター、そして意表を突くジャジーなヴォーカル・パートと、盛りだくさんのオープニングである。
「Masquerading With Dawn」(7:15)
ギターが強烈なビート・ポップ風のイントロから、ピアノの鋭いコード・ストロークが続きギター、ベースのメロディと絡む。
そしてヴォーカルが軽やかに歌い出す。
ポップでリズミカルなナンバーだ。
しかし、ドラムスがパワフル過ぎ軽快さを欠く。
もっともこの押し捲るリズム・セクションが、このグループの特徴なのだが。
鮮やかなピアノ演奏。
そして、再びイントロと同じセンチメンタルなビート・ポップ風に戻り、愛らしいスキャットが続く。
次第にテンポが落ち、演奏はよく歌うベースとエレピ伴奏のみとなる。
シンバルの響きとともに、ヴォーカルは密やかに歌い続ける。
クロス・フェードで入ってくるのは、重厚なストリングス・アンサンブル。
ギターも大仰なフレーズを轟かせ、一気にシンフォニックに盛り上がる。
「Mystery Might」に似たテーマが、ギターによって奏でられる。
そして三度ビート・ポップ風の演奏に戻り、ギターが切なく歌う。
エレピの 3 連リフレイン、そしてストリングスが大きく鳴り響く。
ギターも強烈に応え、重厚な轟きとともにすっと音は引き、泡立つようなエレピとギターのストロークが柔らかく交歓する。
すべては夢といっているようなファンタジックな雰囲気だ。
再びギターが叫び、ピアノが踊り、エンディングを迎える。
センチメンタルでポップなヴォーカル・ナンバーにシンフォニックなインストを押し込んだナンバー。
ヴォーカル・パートでのピアノ、ベース、ドラムスのリズムは力強いが、やや歯切れが悪い。
「Gormenghast」(10:46)かなり洗練された印象を与えるジャジーなナンバー。
エレピのソロや控えめのリズム、ギターなど、まるで別のグループである。
ヴィブラフォン、イアン・マクドナルドによるサックス、ムーグ・ソロ等、初めて使われた音も多い。
AOR というには余りにカラフルだが、いい意味で落ちつきと抑制を活かしている。
緩急自在のスリムなアンサンブルが冴える、メロディアスで大人の幻想美に満ちたナンバーだ。
エンディングへ向けてゆっくりと降りてゆくアンサンブル。
ピアノ、そして夕暮れの空に届くようなサックスがすばらしい。
「Mystery Might」(8:20)スリリングなストリングスのイントロから始まるドラマチックなナンバー。
大仰で劇的なギターのテーマ、オルガンの響き、パワフルなドラムスが繰り広げるシャフルの演奏が印象的だ。
ギターの「泣き」のメロディに呼ばれて演奏が穏やかさを取り戻すと、ピアノ伴奏で哀愁たっぷりのヴォーカルが歌う。
ダイナミクスの大きなアレンジだ。
2 コーラス目からのメロトロンもいいが、やはりここは歌メロがすばらしい。
ギターの強烈なオブリガートに煽られる様にアンサンブルは走りだし、ヴォーカルの頂点でドラムスが烈しい連打で炸裂し、ピアノが舞い踊りストリングスが響き渡る。
すばらしい高揚感だ。
再び、戦車のようなドラムスにのって疾走するアンサンブル、そして響き渡るストリングス。
しかしオルガンのソロが始まる辺りからリズムは細かくジャジーに変化し始め、ワウ・ギターがうねりベースがスピーディなリフで駆け抜けてゆく。
パーカッションも小気味いいジャズロック的な演奏だ。
なんと面白いアレンジだろう。
さらに、前半までの過剰なメロドラマ風のテイストを、このクールなジャズロック・アンサンブルが洗い流してしまうのかと思ったが、ベースの奏でるテーマがゆっくりとかぶさってくる。
なかなか憎い演出だ。
シンフォニックなヴォーカル・ナンバーとジャズロックを合体させた名曲。
グループの成長の証。
「Why」(4:08)ピアノの演奏が美しいバラード。
ピアノ伴奏で歌われるヴォーカルのメロディには、何気なくも哀感が込められている。
次第に諦念が哀しみを超え、無常な、宗教的な色合いが強くなる。
スキャットとピアノの響きが重なりあい、幻想的な雰囲気を生み出している。
「Janet Planet」(2:54)軽快な序曲のようなシンフォニックなイントロから始まるポップ・ナンバー。
ピアノの刻むリズムに支えられて、楽しげなコーラスが歌う。
いかにもブリティッシュな小品。
ラッパは誰が吹いてるんだろう。
「Shiba's Song」(8:26)
ソフトなエレピの響きとともに歌われる、まるでアメリカのグループのようなジャジーなナンバー。
ギターのプレイやドラムスに FRUUPP らしさが溢れているが、全体を包み込むエレピの響きが雰囲気を支配している。
さらに、ストリングス・アンサンブルの神秘的な響きから一転して始まる、ランニング・ベースとエレピをフィーチュアしたジャズ・アンサンブルは新たな境地である。
ギターとドラムスが次第に力を蓄えてゆき、あたかも爆発する頃合いを見計らっている様だが、結局、ヴォーカル・パートに戻ってきて、再びジャジーでムーディな演奏が続く。
ブラスが加わると 70 年代後半らしさはさらに強まる。
本グループの作品にとては、やや異色作というべきだろう。
ストリングスのバッキングで高らかに歌い上げるギターに、このグループらしい素朴さが感じられて微笑ましい。
(DNLS 3070 / VICPー60928)