オーストラリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「SEBASTIAN HARDIE」。 67 年ピーター・プラヴシクを中心に母体となるグループを結成。 73 年ギタリスト、マリオ・ミーロ加入。 二枚の作品を残し、76 年解散。 その後 WINDCHASE として作品を一枚残し、マリオ・ミーロはソロ活動へ。 94 年再結成。 シンフォニック・ロックという言葉を体現するサウンドから、時代を経るごとにフュージョン、ポップス的なサウンドへと変化した。 2003 年来日。
Mario Millo | guitar, mandolin, vocals |
Peter Plavsic | bass |
Alex Plavsic | drums, percussions |
Toivo Pilt | Moog, Mellotron, piano, organ |
75 年のデビュー作「Four Moments」。
夢幻の彼方へといざなうメロトロンとシンセサイザーと、ドリーミーなトーンを駆使しアルペジオ、ソロ、ヴァイオリン奏法で酔わせるギターによる、必殺のロック・シンフォニー。
包み込むように暖かく、風のように爽やかな音の流れに身をゆだねれば、無限の幻想は郷愁ととけあって、新たなヴィジョンへと深化する。
ちなみにマリオ・ミーロは、この時弱冠二十歳。
1 曲目「Glories shall be released」(6:40)
オープニング、迫力満点のメロトロンの響きにガーンと脳震盪を起こし、巧みにたゆとうアンサンブルに抱き上げられ、気がつけばスケールの大きな主題にすっかり惹きつけられている。
すぐに、魅力的なムーグのリフがリズミカルに音程を変えつつ示されて、あたかも、解き放たれるのを待つようなギターのフレーズとの応酬を経て、期待はいやがうえにも膨らんでゆく。
テーマを受け止めるギターのオブリガートも、何気なくカッコいい。
小さなクライマックスを迎えてギターとムーグが軽やかなユニゾンを決めると、ムーグによるテーマ演奏をギターが軽やかなコード・ストロークで支え、ドライヴ感にあふれる演奏になってゆく。
螺旋を描くように高まる演奏、そして再び、華麗なるユニゾン。
今度は、愛らしい音をまき散らしながら、ムーグのテーマがヴォーカルによって歌われる。
ごくシンプルなバッキングが、軽めのヴォーカル・ハーモニーを取り巻いて、いい感じのポップ・テイストが出てくる。
ギターのヴァイオリン奏法がヴォーカルを導く辺りは、YES 風といっていいだろう。
しかし、激しいリズム・チェンジや決めはなく、テク偏重という感じは微塵もない。
メロディアスでライトな感覚の演奏だ。
テーマを刻み込むように、ヴォーカルとともにドラマティックなメロトロン・ストリングスが高鳴る。
二つ目のクライマックスだ。
ヴォーカルが息を巻いて見得を切ると、おだやかな空気が広がってゆく。
メロトロンが奏でる壮大な第一主題と、ムーグからギター、ヴォーカルへと引き継がれてゆく第二主題が提示される第一楽章。
荘厳さに胸震える第一主題で耳を奪い、そのまま、メロディアスで親しみやすい第二主題で風に吹かれるような爽やかさを演出する、みごとなオープニングである。
第一主題は、初期の KING CRIMSON、第二主題以降の演奏は、YES の大作から過度の緊張感を取り除いたようなイメージである。
息つくまもなく2 曲目「Dawn Of Our Sun」(5:06)へ。
フェイズ・シフタを効かせたギターによる甘目のアルペジオが静々と流れ、シンバルのざわめきが、メロトロン・フルートのメランコリックな旋律を呼び覚ます。
PULSAR の名作を健康的にしたような、おだやかなファンタジーがゆったりと綴られてゆく。
ざわめくシンバル、メランコリックながらも優美なメロトロン・フルートの調べ。
うっすらとヴォカリーズ、そして、ミーロのヴォーカルは、再び、メロトロン・フルートの旋律をゆったりとなぞってゆく。
若くみずみずしい歌唱がとてもいい。
シンセサイザーのまろやかな響きがヴォーカルを取り巻いている。
スローとミドルの間くらいの微妙なテンポであり、ドラムスはなかなかリズム・キープがたいへんそうだ。
アルペジオの支える叙情的な演奏の響きは、KAIPA にもよく似ている。
ヴォーカルを受けて、高まるアルペジオを伴奏に、ギターとメロトロンが切ないまでに叙情的な 5 度ハーモニー、ユニゾンを成し、朗々たる演奏を続けてゆく。
メランコリックなテーマが貫く、緩徐楽章的な、ゆったりとした歌ものによる第二楽章。
ドリーミーななかに、密やかな息吹と無常感のようなほのかな哀感とを漂わせている。
静けさに満ちながらも、テーマは芯が通った力強さがある。
人間の存在とは離れた、自然そのものの振る舞いを描くと、このような哀愁が漂うのかもしれない。
3 曲目「Journey Through Our Dreams」(6:43)
アコースティック・ギターのアルペジオとともに、ヴォーカルによる「Four Moment」第一テーマの回帰。
そして、しなやかなギターとメロトロンによる重厚なテーマ演奏、力強いドラミング。
ややハードなギターの高まりをきっかけに、ドラムスとギターが一気に力を増し、パンチのあるパワーコードを刻みつつさらに力を蓄え、オーソドックスながらも普遍的な魅力を放つギター・ソロへと進む。
ムーグも加わって、ギターとせめぎあうように高まってゆく。
しなやかなギターが繰り返し泣き叫び、狂おしいようなギターの演奏が続く。
キーボードによる多彩にして抑えたバッキングもいい。
パワーコードとオルガンの高鳴り、ギターのトレモロを経て演奏はぐいぐいと上り詰める。
一転して、テンポアップとともになめらかなシンセサイザー・ソロが始まる。
小気味のいいギターのカッティングとポルタメントの効いたスピーディなシンセサイザーのコンビネーションは、ラティマー/バーデンスそのものである。
そして、メロトロン・ストリングスが第一主題を復活し、ヴォーカルとともに悠然と、しかし力強く歌い上げてゆく。
第一主題を軸に、変化をつけたダイナミックなアンサンブルと朗々たるソロをフィーチュアした「転」の第三楽章。
パワフルなドラムスのプレイをきっかけに、全体にロック的な力強さをみなぎらせている。
後半のムーグ・ソロは圧巻。
ピーター・バーデンスを思わせるプレイだ。
最後に第一主題へと回帰し、終章へと流れ込む。
タイトでドライヴ感のある演奏を楽しめる。
メロトロンの余韻とクロスフェードでハイハットの軽やかな連打が湧き上がると、4 曲目「Everything Is Real」(2:09)へ。
軽快なリズムに支えられて、ヴォーカルは、あたかもカーテン・コールのように、シングルトーンで跳ねるように歌い、演奏を導く。
ここで、ムーグによる第二主題の華やかな再現だ。
リラックスした演奏だ。
スピーディなユニゾンによるテーマが音程を駆け下り、リタルダンドすると、メロトロンがわっと一声高鳴る。
ゆったりと応じるヴァイオリン奏法ギター。
再びメロトロンが響き、柔らかなギターのトーンが静かに消えてゆく。
エピローグ、もしくはカーテン・コール風の最終章。
第二主題をリプライズした躍動感あふれる演奏は、すでに回想にすぎない。
前楽章で事実上のエンディングを迎えている(第一楽章の回想と終り)と考えると、本章は、やはりエピローグ的な色合いになるのだろう。
しかし、エネルギッシュなテーマで組曲を締めくくることにより、ロック・シンフォニーとしての完成度はさらに高くなっているような気がする。
さらに、エンディングが次曲への橋渡しにもなっているなど、予想以上に凝った構成のようだ。
1 曲目から 4 曲目までは、四つの楽章から構成される組曲(おそらく、アルバム・タイトル「Four Moments」は、組曲の総称でもあるのだろう)。
二つの主題を軸にギター、キーボードとリズム・セクションをフル回転させた、感動的なシンフォニーである。
特に、ギターとキーボードによるめくるめくようなアンサンブルには、これぞシンフォニック・ロックと快哉の声が上がりそうだ。
各楽章が明快な展開をもち、なおかつ全体を通じたドラマもある。
みごとな構成力だ。
シンセサイザー、ムーグ、メロトロンと総動員されるキーボードとギターによる演奏は、壮大にして幻想的、なおかつ優しさあふれるものであり、メロディアスにしてドライヴ感もたっぷり。
テンポやさまざまなアイデアで変化とアクセントもつけており、とにかく、みごとなまでに完成されたロック・シンフォニーなのだ。
テーマ以外のパートでも、情感あふれる美しいメロディがあるのだから、文句のいいようがありません。
5 曲目「Rosanna」(5:59)
前曲のエンディングのヴァイオリン奏法ギターがそのまま復活し、イントロダクションとなる、凝った趣向のオープニング。
(旧 LP B 面開始にあたり、A 面の終わりを再現して連続したイメージを保つというこのやり方は、いくつかの作品で見られる)
ミドルテンポで、ギターが短調による哀愁のテーマを奏でる。
A 面の組曲のメジャーのテーマをそのままマイナーに置き換えたような旋律である。
CAMEL に通じるシンプルにして情感豊かなフレーズである。
ややジャジーな表情も見せつつ、丹念に、しかし軽やかに歌い込むギター。
ヴォリューム・コントロールも細かく使っている。
次々と親しみやすいフレーズを繰り出してくる。
最初の哀愁テーマに戻って、さまざまなフレーズを回想し、力強く和音を轟かせ、ティンパニのようにロールするドラムスとともに大団円を迎える。
泣きのギターのテーマをフィーチュアしたインストゥルメンタル。
ギターの独壇場ではあるが、ドラムスやキーボードが巧みに流れに起伏をつけ、ドラマチックな展開を支えている。
ギターのテーマは穏やかにしてじわりじわりとしみ込み、気がつくと空気か潮のようにまわりに満ちている。
かなり演歌調だが、説得力のある名曲でしょう。インストゥルメンタル。
6 曲目「Openings」(13:01)
オルガンによる神秘的なリフレイン、そしてシンバルがざわめく。
ギターが示すテーマは、コンプレッサの効いた、ややエキゾティックで神秘的なものだ。
オルガンの響きが静かにギターを支えている。
ギターは、テーマを少しづつずらしながら変奏し、オルガンとともに切なく高まってゆく。
クラシカルなオルガンのリフレイン、ピアノによるアクセント、そしてピアノ伴奏でオルガン・ソロが始まる。
オルガンのプレイは、俊敏にしてブルージーにひきずるタッチもある。
激しく動くオルガンを、堅実なベースが支えている。
ギターが再登場、テーマを繰り返す。
再び、ギター・ソロ。
ごくシンプルだが切なさに身悶えるような説得力のあるフレージングである。
ベースとの呼吸もいい。
ややエッジを効かせたハードな表情も見せ始めるギター、そして、最後はゆるやかなヴォリューム奏法で退いてゆく。
今度の主役は、メロトロン・ストリングス。
トニー・バンクス調のプレイもある。
これだけの長さをメロトロンを主役に突き進むのも珍しい。
もちろん、シンセサイザーもメロトロンにしっかり寄り添っている。
受け止めるしなやかなギター、そしてもう一度ソロへ。
伴奏は、メロトロン、ピアノ。
エコーも強まり、泣きじゃくるギターに深い余韻が加わる。
突如、クロスフェードで立ち上がるハードなストローク、そして高まるギターとともに一気にテンポアップ、ギターのテーマもスピード・アップして奏でられる。
最後は、リタルダンド、深い余韻を放つも、小気味よいエンディング。
ギターのテーマを中心に、シンプルかつ自由なイメージでぐいぐいと進むインストゥルメンタル・スペクタクル。
安定したテンポで、ギターとオルガン、メロトロンがそれぞれにテーマを取り合いながら、メロディアスなタッチで演奏は進んでゆく。
ギターは圧倒的な存在感を示し、キーボードもオルガン、ピアノ、メロトロンなど多彩な色で演奏を支えてゆく。
この色彩感、過剰なまでのドラマ性は、KAIPA や、今でいうなら THE FLOWER KINGS に近い世界だ。
ハモンド・オルガンのソロは、本作中屈指の名プレイ。
ロック・シンフォニーの名曲である。インストゥルメンタル。
歌心あるギターのプレイとメロトロンを中心にした雄大なキーボード・オーケストレーションに圧倒される、シンフォニック・ロックの真骨頂。
こんこんとあふれでるメロディの泉のようなギターと、管弦楽も驚くスケール感をもつキーボード・ワークには、もろ手を上げて降参するしかない。
ギターのプレイには、丹念に音色を弾き分けてなめらかなフレージングで歌いあげる技巧だけでなく、えもいわれぬ呼吸のよさがある。
そして、次々と繰り出されるメロディを、澱みなくドライヴし運んでゆくリズム・セクションもみごと。
前半の組曲と最終曲はかなりの長さだが、リスナーの集中を途切れさすことなく、道のりの最後まで運んでくれる。
これは、明朗なテーマを中心に、明快な展開でグイグイと推し進めてゆく演奏スタイルのなせる技だろう。
まさしく、グレート・バリア・リーフに沈む夕日を眺めるようなリゾート的爽快感と、厳粛な宗教的感動を矛盾なく呼び覚ますスーパーなサウンドである。
シンフォニック・ロック・ファンには無条件で大推薦です。
もう百点としかいいようがありません。。
(MERCURY PHCR-4207)
Mario Millo | guitar, vocals |
Peter Plavsic | bass |
Alex Plavsic | drums, percussions |
Toivo Pilt | Moog, piano, Mellotron, Solina, organ |
76 年の第二作「Windchase」。
前作の音楽をほぼ継承した作品であり、まさに理想的な続編である。
その内容は、朗々たる主題をギターが歌い上げ、キーボードが淡く染め上げる雄大なシンフォニック・ロックである。
前作よりも、テーマにおけるギターの存在感がややアップしている。
また、ミックスの関係か、腕を上げたのか、ベーシストの刻むラインが前作よりも鋭くギターと交わっている。
キーボードの演奏がややアトモスフェリックなスタイルに変化し、主題が非常にメロディアスなだけに、このベースの音があるおかげで、演奏にいい意味でのテンションが生まれている。
1 曲目は、20 分にわたる超大作。テーマを携えてどんどん盛り上げてゆく作風に加えて、ニューエイジ風のフワフワ感のあるサウンドも示されている。
4 曲目では、新たな展開を予感させる演奏も。
メロトロンが前作ほどは鳴り響かないため、全体に、やや薄味に感じられるかもしれない。
1 曲目「Windchase」(20:39)。
あくまでメロディアスなギター、そして静かに流れるかと思えば機を見ては雄大な旋律で前面に出るメロトロン。
アコースティック・ギターも効果的に使われている。
雄大なアンサンブルがヴォーカルを支え全体にシンフォニックな息吹を満ち渡らせている。
オープニングは親しみやすい穏やかなテーマが時にメロディを強調し時にリズミカルにと微妙に味付けされながらゆったりと繰り返される。
。
柔らかな光の粒子のように周囲に満ちるシンセサイザーの響き。
テーマの変奏はシンセサイザーの刻む和音に乗ってトレモロやややブルージーなソロへも発展しつつ繰返される。
そして改めてオクターヴ高くテーマを響かせると静かにギターが消えてゆく。
続いてアコースティック・ギターの伴奏で静かにコーラス調のメロトロンが響き出す。
落ちついたリズムとともにコーラスの響きが厚味を増す。
再びギターがゆっくりとメロディを刻み始め次第に高らかなテーマの変奏になってゆく。
ベースとともに決めてテンポが少し上がってくる。
透き通るようなメロトロンとエフェクトされた歯切れよいギターのカッティングがゆったりと進む曲に見事なアクセントをつける。
そして東洋風のメロディ・ラインのヴォーカルを支える。
エフェクトされたギターに導かれるようにムーグが艶やかに入ってくる。
再びテンポは落ちてアクセントをつけながらもゆったりとしたアンサンブルが進んでゆく。
再び小気味よいドラミングとギターのカッティングに乗ってヴォーカルとアンサンブルが走り出す。
ギターのカッティングがドラムスのロールをきっかけに柔らかなメロディに変化。
透き通るようなムーグのメロディが響きアンサンブルはゆったりとする。
メロトロンの響きを残してアンサンブルが去ってゆく。
そしてギターは静かに新たなテーマを奏で始める。
ほんのりエフェクトされたまろやかな音色。
ヴォーカルがギターのメロディをなぞりギターはヴァイオリン奏法でゆらゆらと伴奏する。
柔らかく夢見心地のヴォーカル・アンサンブル。
リズムも加わりメロトロンも鳴り出す。
ヴォーカルが 2 コーラス目に入るとギターははっきりとテーマでヴォーカルをリードする。
メロトロンのヴォリュームも上がってきた。
ギターは転調しつつゆったりとテーマを繰り返す。
ドラムスのリードでアンサンブルが足音高く駆け出そうとする。
そして表情豊かなギターのゆったりしたリフレイン。
やがてベースの創るリズミカルなリフにリードされるアンサンブルへと流れ込む。
リズムに乗ってギターがスピーディなリフを刻み続ける。
そしてメロトロンの伴奏でシャープなフレーズを奏でる。
うねるようなギターからオルガンが加わる。
そしてオルガンとギターがドライヴ感たっぷりにアンサンブルをリードしてゆく。
再びギターが艶やかな音色でゆったりとメロディを決める。
シンセサイザーも鮮やかに応える。
シンセサイザーとギターによるスリリングな応酬。
ドラムスにリードされて決めが入り再びギターがオープニング・テーマを奏でる。
爽やか。
輝かしいシンセサイザーの音。
そしてドラムスが巧みに盛り上げギターはスピーディにリフを刻んで駆け上がってゆく。
クライマックスはテーマの再現。
ドラマチックなドラムスと鮮やかな音色のキーボードに彩られテーマをリタルダンドして大団円を迎える。
感動。
緩やかにして波のうねりのような起伏と力強さそして優しさで心に訴える大作。
ギターが柔らかく穏やかな表情で刻み込むテーマそしてその変奏は耳に残りいつまでも心に鳴り響く。
メロトロンとシンセサイザーによる触れなば落ちん風の繊細な響きもいうことなし。
メロディにはあたかも光の粒を散りばめたような暖かみがある。
テーマを発展させテンポの変化やアコースティック・ギターによる音色のアクセントをつけながらシンフォニックなアンサンブルを動かしてゆく構成力もみごと。
シンフォニック・ロックの名作の一つである。
2 曲目「At The End」(4:08)潮騒のようなシンバルの響き、そして力強い打撃音。
やがてベースの心地よいリフレインに導かれて柔らかなギターがささやき始める。
オルガンの和音が静かに響く。
鳴き声のようなギターのフィード・バック。
ギターが決然とメロディを歌い出すとドラムスにも力が入る。
熱のこもったアンサンブルだ。
再びおちついたベース・リフに戻りムーグ・ソロ。
ピッチ・ベンドによる鳴き声のようなフレーズ。
キット・ワトキンスを思い出す。
そして力強いギターのメロディ。
力強く決めて終る。
長いクレシェンドによる直線的な盛り上がりを繰り返すシンフォニックなインストゥルメンタル小品。
ベースを核にギター、オルガン、ムーグがデリケートなプレイを重ねてゆく。
自然の営みのような周期を持った運動をイメージさせる。
鳴き声のようなギターとムーグの交歓が切ない。
3 曲目「Life, Love And Music」(4:26)静かに湧き出るオルガン、そしてベースが調子よくリフを刻むオープニング。
リズムとともにヴァイオリン奏法のギターが穏やかに鳴る。
そしてストリングス・シンセサイザーの透き通るような音をバックにギターのテーマ。
エレピも軽やかにコードを叩く。
サビだけのようなコーラス。
伴奏は柔らかなギター、きらめくエレピ。
ギターはオブリガートから繊細な音色でテーマを繰り返す。
再びコーラス。
リラックスした演奏だ。
そしてヴォーカル。
バックにはメロトロンも加わったようだ。
軽快なリズムでアンサンブルが走る。
軽やかなギターのテーマとメロトロンによる古式ゆかしいストリングスがいっしょに走る。
ファルセットによるスキャットから吸い込まれるような静かなエンディング。
ギターのテーマが明るく爽やかなヴォーカル・ナンバー。
リズミカルなインストとゆったりとシンフォニックな響きを持ったヴォーカル・パートを初めは対比させ最後に合流し感動を呼ぶという構成が効果的。
キーボードはエレピ、ストリングス・シンセサイザーそして最後にメロトロン。
4 曲目「Hello Phimistar」(3:41)ハイハットがせわしなく刻まれるイントロダクション。
敏捷なロールからギターはベンディングを響かせる。
ギターがスピーディにコードを決め、すぐにしなやかなフレーズで走り始める。
攻めたてるようなドライヴ感のあるプレイだ。
パワフルなドラムスと対峙し決めを繰返しながら疾走する。
続いてギターを追いかけるようなムーグ・ソロ。
小気味よいピッチ・ベンド。
ギターは鋭いカッティング。
再びギターは狂おしいフレーズを決める。
決めの連続でビシッと終る。
ハードなジャズロック風インストゥルメンタル。
切れ味よいリズムでギターが走り、ムーグが追いかける、非常にスリリングな演奏だ。
ゆったりした曲調が主なだけに異色である。
ギターはまるでジェフ・ベックのよう。
5 曲目「Peaceful」(4:13)オルガンによるクラシカルで祝祭的なオープニング。
ヴァイオリン奏法のギターによる柔らかな響きが応える。
そしてピアノを伴いギターがゆったりと歌いはじめる。
ロマンと慈しみに満ちたメロディ。
優しさと同時に説得力もある。
再びピアノが低音を強調するイントロダクション。
繰り返しはオーヴァー・ダブされた二つのギターのハーモニーである。
ゆったりと密やかに歌うギター。
背景ではフェイザー系のエフェクトによるストリングス・シンセサイザーが星を吹く。
ピアノが感極まったかのように高音を響かせる。
登りつめ高らかに響くギター。
すべてが一つになって吸い込まれるように消えてゆく。
爽快感を越え、しみじみした心の平安が訪れる、文字通りピースフルな曲。
オーヴァー・ダビングされたツイン・ギターによるテーマでは、思わず涙ぐみそうだ。
ブレイクしては繰り返して盛り上げるという問答無用の展開に、ふと気づけば感動の遥かな頂に登りつめている。
シンフォニック・ロックの佳品。
柔らかく存在感あるギターが紡ぎ出すテーマと、神秘的なメロトロンを中心とした伴奏は、力にあふれるリズム・セクションとともに雄大なアンサンブルを成し、悠然たるサウンドでリスナーのハートを揺さぶる。
迫力に圧倒されても爽快さがあるストレートな音であり、分厚い音にも暑苦しさとは無縁の涼風や潮騒のような瑞々しさがある。
地球や自然といったキーワードから喚起されるさまざまなイメージをそのままサウンドに取り込み、次々と変ってゆく空のように変化に富んだ、包容力のある音楽へと移しかえた作品といえる。
全編圧倒的なロック・シンフォニーであり雄大さ、夢幻の境地に遊ぶ心地よさ、そして爽やかな優しさが満ち溢れている。
第一作に続いてシンフォニック・ロック・ファンへの真の贈り物である。
(MERCURY PHCR-4208)
Mario Millo | vocals, Gibson S1, Gibson L5-S, mandolin, acoustic guitars, tubular bells |
Toivo Pilt | Hammond C3 L111, grand piano, Mini Moog, Fender Rhodes, Mellotron |
Arp 2600, Solina, Omni string synth, Clavinet D6, handcrap, vocals | |
Doug Bligh | drums, percussions, backing vocals, handcrap |
Duncan McGuire | bass |
guest: | |
---|---|
Doug Nethercote | bass on 3,5 |
新グループ「WINDCHASE」による 77 年発表のアルバム「Symphinity」。
リズム・セクションがメンバー交代するも、音楽的には SEBASTIAN HARDIE を継承するものであり、実質的な第三作といえるだろう。
ただし、前作までの雄大なシンフォニック・サウンドを本筋にしつつもより軽快なノリのよさも目指した演奏になっており、メインストリーム・フュージョン的な表現法の生む CAMEL 風のジャジーなポップ・フィーリングが顕著である。
ギターのプレイは、いわゆる「泣き」のメロディアスなフレーズにリズミカルなプレイも交えて変化をつける、みごとなものだ。
キーボードは、シンフォニックなサウンドに欠かせない雄大な広がりとあたかも光による風景の変化のようななめらかで肌理細かい色調でステージを支えている。
主としてキーボードが生み出すスケールの大きなファンタジー空間をギターが自然なブルーズ・フィーリングを携えて疾走することによって、このグループの音楽ができあがっている。
その点は前グループと変わらない。
一方新しいリズム・セクションは、本作で導入されたフュージョン/ポップ・フィーリングの軸となっている。
クリアーなベースと歯切れいいドラムスによる溌剌として洗練されたリズム、ビート感が、ハードロックや往年のプログレッシヴ・ロックでは味わえなかったグルーヴを生み出している。
この心地よさに抗うのは頭の固いロック・ファンでも難しいだろう。
結論。
SANTANA、CAMEL のブルーズ、ラテン・ロックに RETURN TO FOREVER が創設したブラジリアン・テイストのフュージョン・ミュージックを取り込んだ、爽快にして心震わせるワイドスクリーン・シンフォニック・ロックの傑作である。
「Forward We Ride」(1:39)エレガントなピアノによる小序曲。
「Horsemen To Symphinity」(8:33)SEBASTIAN HARDIE を継承し、心地よい疾走感を加味したシンフォニック・ロック大作。
ナチュラル・ディストーションによるサスティンが心地よいギターのリードで、エモーショナルながらも小粋で涼しげな演奏が走り出す。
前作、前々作のファンには応えられません。
リズムこそ軽快で典型的なフュージョン風だが、エレキギターによるロック・テイストあふれ(ある意味、ラフさ加減、緩さがキーである)、多彩にして優美さを一貫する表現とキーボードによる控えめながらも叙情的な筆致は、まさしくシンフォニック・ロックの醍醐味である。
キーボードは抑え目ながらも、透き通るようなストリングス、潮騒のようなハモンド・オルガン、エレクトリック・ピアノまでさまざまな音色をふんだんに使っている。
CAMEL の「Echoes」に匹敵する世界を提示する、本作品の目玉である。
「Glad To Be Alive」(8:06)
映画音楽のようなストリングスが盛り上がるメロディアスなバラード。
キャッチーな歌メロをワルツ風のインストゥルメンタルが悠然と支える。
前作のイメージにも近い。
ラヴラヴなヴォーカル・パートと間奏部の充実度合いの対比など、ELO に通じる 70 年代終盤らしい作品である。
一歩間違えるとイージー・リスニングだが、そこはそれ、リスニングに耐えるための変化をしっかりとつけている。
ゲストのベーシストも活躍。
国内リゾート、プライベート・ビーチで迎える真夏の夕べって感じでしょうか。
「Gypsy」(4:47)
泣きのナチュラル・トーン・ギターとオルガン、ピアノ、ストリングスによるインストゥルメンタル。
アラビア風味もちらりちらりと混じるので、強いていえば、SANTANA、CAMEL、はたまた GS 歌謡、加山雄三路線。
「No Scruples」(6:29)
疾走感あふれるポップなシンフォニック・チューン。
ハードロック、ジャズロックなどの要素を持ちつつも、仕上げはメインストリーム・ポップス風に決めた逸品だ。
小刻みなフレーズをたたみかけて要所で弾ける、つまり、YES と同じテイストである。
メイン・パートのヴォーカル・ハーモニーやリズムは、アメリカの YES のコピーバンドのようにきわめて能天気だが、間奏部のファンタジックなエフェクトを品よく効かせたプレイや、鋭いリズム変化、弾け飛ぶムーグ・シンセサイザー、たたみかけるようなオルガンなどは、シンフォニック・プログレ王道のものである。
伸びやかな表現が多いため、こういった転がるように忙しない調子も悪くない。
「Lamb's Fry」(9:39)
ラテン・フュージョンの傑作。
エレクトリック・ピアノによる幻想的な序章、力強いキメ、ピアノ・ソロ
RETURN TO FOREVER を思わせる神秘的なスペイン風エキゾチズムと、ハイ・テンションのせめぎあうような演奏が特徴だ。
とはいえ、中盤で、いかにもこのグループらしいリラックスしたグルーヴが現れ、なぜか安心する。
全体にキーボードがフィーチュアされている。
個人的には、ヒツジの鳴声がオーヴァーラップすると、なぜだかポール・マッカートニーの名作を思い出します。
「Non Siamo Perfetti」(1:57)美しいテーマを奏でるアコースティック・ギター一本のインストゥルメンタル。
テーマは、前作もしくは前々作のもの?
「Flight Call」(4:36)ロマンティックなバラード。
やはりメロディアスで爽快感があるところが特徴だ。
マンドリン、ムーグの音がいい。
「Horsemen To Symphinity」(11:55)ボーナス・トラック。
98 年のライヴ録音。
(MICP-10175)
Mario Millo | vocals, electric & acoustic guitar, synthesizer |
Jackie Orszaczky | bass | Greg Tell | drums |
Mike Kennedy | percussion, drums | Peter Kenny | Hammond organ, Fender Rhodes |
David Glyde | sax | Ric Herbert | harmony vocals, chorus |
Safanya | chorus, vocals | Ian Stuart | chorus |
Cos Russo | Fender Rhodes | Laura Chislett | flute |
79 年発表のソロ・アルバム「Epic III」。
WINDCHASE をさらにロマンティックにメローにした内容であり、70 年代後半に青春を過ごした人には、とても懐かしい音になっている。
ギターは、もちろん満載であり、楽曲もきわめて多彩だ。
全体に AOR 調のソフトネスが強まるも、メロディ・ラインには SEBASTIAN HARDIE を思わせるファンタジックでイノセントな響きもある。
そして、ハーモニーを多用するソフトなメロディ・ラインとは対照的に、リズムやギターのプレイはかなりテクニカル。
ベーシストがなかなか見せ、小刻みなドラミングもいい。
サックスやフルートなど新たな音も加わって、ジャジーなフュージョン・タッチも強まる。
1 曲目は、超大作ながらも、あくまでジャジーでポップ。
西海岸フュージョン・ファンにもうれしい音だ。
アコースティック・ギターやエレキギターはロマンティックなプレイで迫るも、涼感を失わない。
いまさらながらに、この人はギターだけでなく、ヴォーカリストとしても一流だと分かる。
終盤は、フュージョン・タッチのギター・ソロがドラムスとギター、オルガンがせめぎあう、プログレらしいアンサンブルへとラッシュし大満足。
3 曲目は、なんだか日本のフュージョン・バンドを思い出させるインストゥルメンタル。
4 曲目は、まさしく CAMEL をほうふつさせる幻想的な作品。
フルートが美しい。
5 曲目は、弦楽の調べと女性ヴォーカルとのデュオが、往年のハリウッド・ミュージカルを思わせるロマンティックなワルツ。
LP 最終曲は、ストリングスとエモーショナルなギターが歌い上げる純愛ロマン。
「Epic III」(14:18)
「Life In Our Hands」(4:30)
「Mary's Theme」(6:11)
「Quest Theme」(6:09)
「Harlequin And Columbine(Waltz Theme)」(5:29)
「Cast Away」(2:40)
「Sogno D'amore(Love In Dream)」(4:41)
「Rebecca」(4:27)ボーナス・トラック。
(MUSEA FGBG 4319.AR)