ポルトガルのプログレッシヴ・ロック・グループ「SAGA」。 76 年に唯一の作品を発表。バンドではなくワンタイム・プロジェクトであった可能性もある。
Jose Luis Tinoco | piano, synth, guitars | Ze da Ponte | bass, guitars, vocals |
Fernando Falle | drums | Vasco Henriques | moog, flute |
Rao Kyao | tenor sax, soprano sax | Fernando Girao | percussions, vocals |
Dulce Neves | vocals | Jose Themudo Barata | vocals |
Carlos Rodrigues | vocals | Jose Fardilha | vocals |
Clara | vocals |
76 年発表のアルバム「Homo Sapiens」。
内容は、エレクトリック・キーボードとハートフルな混声ヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアしたジャジーなプログレッシヴ・ロック。
表情豊かな歌唱、メイン・ヴォーカルと巧みに呼応する混声のコーラス、ナレーションやモノローグといったヴォーカル・パフォーマンスとエキゾチックな音遣いを軸とした、ドラマ性を強く打ち出した作風だ。
メロディアスな本格ラテン・ポップス調の音楽でありながら芸術としてさらに一段階上を目指しているようだ。
弾き語りのパートでも英米の著名シンガー・ソングライターやイタリアのカンタウトゥーレと遜色ない表現を打ち出してくる。(ポルトガルなのでファドなのかもしれないが、個人的にはイタリアン・ポップス風といった方がしっくりくる。モノローグの大時代な響きもまさにイタリアン・ロックでよく耳にしたものと共通する)
ヴォーカル・パフォーマンスの多彩さに加えて、スネアの小気味いいロールとともにシンセサイザーやエレクトリック・ピアノがリードするスリリングなパートから、フルート、ピアノやサックスらがささやくジャジーでエモーショナルなパートまで、ジャズをベースとする器楽演奏も非常に充実している。
特に、シンセサイザーはソロやオブリガートでは尖ったプレイで眼を惹き、バッキングではユニークな音色で落ちつきある演奏にピリッとしたいい薬味になっている。
プログレ風味は、この緻密にして弾力もあり時に鋭く変拍子も交えつつもメロディアスに迫る器楽アンサンブルのおかげである。
効果音やヴォーカル・アレンジの演出だけではここまで耳を惹きつける内容にはならない。
そして、ジャズ、フュージョンの濾過吸収の過程と結果など、カンタベリーとの共通点は多いにある。
実際、スキャットやエレクトリック・ピアノなど HF&N を連想させるところがいくつかある。
台詞回しのようなモノローグ、ダイアローグや爆音の SE といった演劇を意識したアレンジやカヴァー・アート、タイトル、曲名(HIROSHIMA への言及あり)などから反戦など重厚な主題を持つトータル・アルバムと思われる。
70 年代半ばには本作のトータリティやメッセージ性に対して、「過剰な意気込みを抱く時代は終わった」、「手垢がつきすぎた」と思わせる反動ともいうべき諦念に似た空気があったかもしれない。
しかし、このメッセージはいくら繰り返してもその意義は損なわれなし、どの世代でも発信するべきだと思う。
僕らは自分で思っているよりも忘れっぽいのだ。
76 年、確かにベトナム戦争は終わり、毛沢東が死んだ。面白いマンガは一つもなかったので、ガリ勉に明け暮れた。限りなく透明に近いブルーな難しい時代だった。
演奏そのものは、全体の均衡が取れていてきわめて安定感がある。
ドラマティックな作品を実現するために選ばれたメンバーは、スタジオ・ミュージシャン系の玄人集団であるのは間違いない。
結論、60 年代風の「熱いのにシニカル」というクール・テイストのあるジャジーなシンフォニック・ロックの佳品。
プロデュースはホセ・ルイス・ティノコ。
「6° Dia」(5:49)
「Filius Domini, Filius Hominis」(2:17)
「Hiroxima」(2:30)
「Cantiga De Imigo」(3:47)
「Invasão」(3:47)
「Guerra」(5:38)
「Carta」(1:10)
「No 20° Aniversario Da Morte Do Poeta」(3:17)
「Aprendiz De Feiticeiro」(4:32)
「Dunas」(3:54)
(MOV 7002 / M2U-1008)