SALIS

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「SALIS」。69 年結成。サルディニア出身。 作品は三枚。80 年解散。

 Dopo Il Bio La Luce
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Francesco Salis guitar, vocals
Antonio Lotta piano, Fender Rhodes, Mini moog, organ, Solina
Antonio Sardu drums, percussion
Antonio Salis bass, flute, sax, vocals

  79 年発表のアルバム「Dopo Il Bio La Luce」。 内容は、キーボードが中心となったインスト中心のシンフォニック・ロック。 ジャジーなところもあるがジャズロックというよりはエッジの立ったインスト・ロックであり、シンフォニックで多彩なアレンジが典型的であることから、「歌ものの少ないイタリアン・プログレ」というべきだろう。 ギターはクランチなサーフロック調あるいはサイケデリック・ロック的な豪快でパンチのあるプレイが中心である。 アタックの強いピッキングで弾きまくるタイプであり、弦楽奏をしたがえて位相系エフェクトの効いたサイケ・ギターを弾き倒すシーンもいくつかある。 (ジョン・マクラフリンを意識しているようなフシはある) しかし、この硬派なギターを僅差でおさえて主役を張るのは、多彩な音色とプレイでファンタジックな世界へと誘うキーボードである。 弾き捲くるタイプではなくムーグの不思議な音色でおだやかかつグルーヴィにフレーズを紡ぎ、ソリーナやオルガンで時に暖かく時にクールに背景を彩る役割を担っている。 アコースティック・ピアノのプレイは出色だ。 このゆるゆるとフレーズを歌うキーボードが、我慢できなくなったように突出する性急なギターのプレイといい対比になっている。 全体にインストゥルメンタルでもテーマがリズミカルでメロディアスなので、たいへん聴きやすい。 もちろんイタリアン・ロックらしさあふれるアコースティックでにぎにぎしいフォーク・ロックや、ジャジーなプレイにサイケの残り香をたっぷりとふりかけたところもある。 インスト中心なだけに歌ものの魅力はより一層輝いている。
   この内容で 79 年発表ということは、5 年くらい作品を寝かせていた可能性が高い。 イタリアン・ロックの忘れられた佳品である。

  「Novembre」(4:44)AOR 調のジャジーなインストゥルメンタル。 吹きすさぶ木枯らしに巻かれるアンニュイをスペイシーなムーグで表現し、メランコリックなギター・ソロへとつなぐ。 ギターはサイケデリックなサウンドながらも細かなパッセージでジャズ風に迫る。ギターをそのまま受け止めるのが光沢あるサウンドが独特なムーグ・ソロ。 アドリヴのニュアンスはサックスに近い。自然主義的叙景による佳作だ。

  「Rapsodia Per Emigrazione」(5:02)ピアノとギターが追いかけあうスピーディな狂詩曲風の作品。 オープニングから素っ頓狂な感じである。 ピアノによるエレガントなカデンツァがいい。 金管風シンセサイザー中心のテーマ演奏を経て、後半はピアノ伴奏でゴツい速弾きギター・ソロからピアノ・アドリヴへ。 最後にムーグが高鳴る。 音楽ジャンルの、勢いのあるクロスオーヴァーという意味で EL&P に近い。 インストゥルメンタル。

  「Dopo il Buio... La Luce」(7:40)キーボードとギターが反応しながら溌剌とドラマを繰り広げるファンタジックなジャズロック。 木管楽器風のムーグ・シンセサイザーがやわらかく歌い、ギターがせいいっぱい優しく応じる序盤。 デリケートなサウンドは 10CC、いや CAMELKAIPA だろうか。 ローズ・ピアノのにじむような響きがギターのマクラフリン魂を呼びさまし、一気にジャズロック調に。 そして転がるようなピアノ・アドリヴから、もう一度弾き倒し型ギター・ソロへ。 険しい変拍子パターンの繰り返しでエネルギーをため、三度ギターを解き放つ。 スリリングながら安定した余裕のある演奏が心地よい。 飛翔するが如きギターを中心としたアンサンブルは IL VOLO によく似ている。 高潔なる歌心が共通するのだ。 そして最後に出た!、エピローグはアコースティック・ギターのストロークが心地よいイタリアン・フォークロック。 イメージは CITTA FRONTALE でしょうか。 5 拍子のテーマをまろやかかつ歯切れよく打ち出す中心にいるのは、やはりキーボード。 傑作。

  「Peccato Che...!」(3:58)むせび泣くようにメランコリックなサックスがリードする序盤を経て、一気に弦楽奏が高まると、泣きのギターによるテーマ演奏へ。トレモロでうねるギターに呼応し、次第に迎撃体制を整える弦楽奏がカッコいい。TV 時代劇の OP または映画音楽風。インストゥルメンタル。嫌いではありません、こういうの。

  「Diablo」(6:29)バルトークやヤナーチェクを思わせるハードな怪シンフォニック・チューン。 ラプソディ風の邪悪でせわしない演奏パートと男臭くもメロディアスなヴォーカル・ハーモニー・パートが強烈にコントラストする。 フレンチ・ホルン風のシンセサイザーが印象的。 ギターはマクラフリン流のムチャな手癖プレイ。若干インドがかっている。 強烈なベース・ラインが導く厳かなトゥッティは、ギターの奔放なエネルギーの放射を受けて、ストリングスを巻き込みながら狂騒的になってゆく。 イタリアン・ロックらしい過激なデフォルメをつけた作品だ。

  「A Walter」(5:13)外面と内面を使い分ける人のような、やや屈折した作品。 ストリングス系キーボードによる穏やかなテーマを前後に配すも、不安げな和音の響きに導かれる中間部は気まぐれなムーグや無造作なリズムが支配し、それに抗うようにギターが走る。 晦渋な曲調の中、ギター・ソロだけは迷いのないパワー・プレイである。(あまりデリカシーがないともいう) 序章のイメージは覆され、全体に渦を巻くようなイメージである。インストゥルメンタル。

  「Inquinamento」(4:37)即興主体と思われるジャズロック作品。 ジャジーなアドリヴとスキャット、滑稽さ、思いのほかへヴィなテーマなどカンタベリー風といえなくもない。 リズムを強調したテーマ・パート。 レゲエのような裏打ちリズム・ギターにのってエレピのアドリヴが続く。 インストゥルメンタル。

  「Yankee Go Home」(3:54)妙なタイトルだが、素朴な歌もの。 キーボードもギターもオーケストラも総出で伴奏をつとめる。 切ない余韻が胸を締めつける。 イタリアン・ロックに出会えてよかったと、改めて思い返す機会をくれる曲です。
  
(LPA 89018 / SAF 031)


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