オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「SCOPE」。 71 年 STRANGE POWER を母体に結成。76 年解散。ATLANTIC から二枚のアルバムを発表。テクニカルなジャズロック。 2010 年未発表だった第三作発掘さる。
Rik Elings | Fender rhodes piano, Hammond organ, grand piano, flute, mini moog |
Rens Nieuwland | guitar |
Henk Zomer | drums, percussion |
Erik Raayman | bass, grand piano, pecussion |
guest: | |
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Jochen Petersen | soprano sax |
74 年発表のアルバム「Scope I」。
内容は、ややサイケでハードなジャズロック。
音数の多いリズム・セクション(キレは今ひとつ)の上で、ギターとキーボードが火花を散らし自己主張する、せわしない調子が主である。
たたみかけるリフに扇動されて突っ走り、ソロで爆発する。
スピード感はあるが独特のタメがあり、キメの緊張感よりはルーズなカッコよさの方が似合っている。
おそらく、ハードロック出身のプレイヤーが流行のジャズロックにチャレンジした結果ではないだろうか。
プロデュースも務めるゲストによるソプラノ・サックスなどでジャジーな味わいを見せるが、インプロの雰囲気などは完全にロックである。
忙しなく荒々しい演奏とサウンドは、英国ジャズロックの雄 ISOTOPE の初期作品に通じる。
ギターは、エコーを抑えてヘヴィなナチュラルトーンで弾きまくるタイプであり、ジャズというよりはハードロック寄りのプレイである。
ワウやフェイザーのようなエフェクトもバンバン使っている。
ソロも、ペンタトニック主体のアドリヴが主だ。
一方、キーボードのプレイは、サポートに回りながらも全体をしっかり支えている感じ。
お決まりのローズ・ピアノとともに、オルガンやムーグを使って全体のバランスを調整しており、フルートのプレイでもロマンティックで可憐なアクセントをつけている。
おそらく、音楽的な主導権は、ほとんどの作品を書いているこのキーボーディストが握っているのだろう。
リリカルな作品では、思い切りセンチメンタルな表情も見せている。
ハモンド・オルガンの音が耳を惹きつける辺りが、まだジャズロックになり切れないところにいることを示しているようだ。
B 面 1 曲目は、ややラテン・テイストのある佳作。
やはり意識は RETURN TO FOREVER なのだろう。
全体にさほど突出したところのない内容だが、ハードロックからジャズロックへの過渡的な音、フュージョンではないジャズロックとはこういう音を指す、ということを再確認はできる。
曲想はフュージョンを目指したのにプレイと音がまだハードロックだった、といってもいいかもしれない。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースはヨーヘン・ペテルセンとグループ。
「Watch Your Step」(6:20)オルガンとワウ・ギターで突進するハード・ドライヴィンなジャズロック。
オルガンによるシンフォニックな演出とフルート、ピアノによる叙情的な表現、キャッチーな R&B テイストが特徴。
細身の音ながらノリはよくドラマもある。
リズミカルなパートは TV 番組のテーマに使えそうだ。
「Can You Follow Me」(6:40)勢い一発の作品。
けたたましいドラムスもなんのその、マイペースでネジを巻くようなムーグがおもしろいが、とりあえず主役はギターか。
このギターがエレピとともに突っ走る。やはりイメージは、ISOTOPE。
「Kayakokolishi」(7:19)ソプラノ・サックスをフィーチュアした、フュージョン寄りのリリカルな作品。
ミドルテンポで淡々と。
しかし、タメの効いたワウ・ギターのソロにソウルフルなオルガンが絡み始めると、血が騒ぎ出す。
「Yesternight's Dream」(1:40)思わせぶりなアルペジオによる埋め草。
「Description」(6:30)RTF 風の幻想的な作品。
ワイルドでチープなギターが意外にカッコいい。
「Walpurgis Night」(9:49)ソロをフィーチュアして疾走する大作。
「Chewing Gum Telegram」(4:50)フルートがリードするロマンティックな作品。
「The Queen Can Do No Wrong」(3:10)リング・モジュレータ炸裂のオルガン、ムーグがカッコいい。
(ATLN 40553)
Rik Elings | Fender precision bass, Hammond organ, Arp synth, grand piano, flute, Solina string ensemble |
Rob Franken | Fender rhodes piano, Arp odyssey synth |
Rens Nieuwland | guitar |
Henk Zomer | drums, percussion |
75 年発表のアルバム「Scope II」。
内容は、まろやかにしてスリリングな極上のジャズロック。
ベーシストは脱退し、二人目のキーボーディストが加入した。
テクニックも作曲も、前作からは格段のグレードアップである。
ギターとシンセサイザーのせめぎあいを軸に、テクニカルなソロ、キメ、さらにはフルートによるリリカルなアクセントまで盛り込んで、シャープな筆致で進んでゆく。
バシっと決まったユニゾンで走る場面は痛快そのもの。
ギターのプレイそのものも前作より切れがある。
また、シンセサイザーの大幅な投入も成功だろう。
前作ではギターに譲りがちだったソロを、Arp シンセサイザーでしっかりと披露している。
そして、ジャジーな切れのよさとともにシンフォニックな広がりも生まれている。
フロントで突っ走るエレピとギターのバックで吹き上げるストリング・アンサンブルの生むファンタジーの妙は、何ものにも変えがたい。
ローズ・ピアノの緩やかな響きやエキゾチックな風味も、もちろんちりばめられている。
全体に硬軟の切り換えが冴えわたる、メリハリある作風といえるだろう。
いつもいっていることだが、ファンキーさはあっても黒っぽさはなく、常に憂いをたたえ謎めいた表情を持っている。
熱っぽい演奏にも冷徹なイメージがある。
そこがヨーロッパのジャズロックの主たる特徴のひとつなのだ。
結論、ISOTOPE や BRAND X、中期 RETURN TO FOREVER のファンにはお薦めの大傑作。
プロデュースはヨーヘン・ペテルセン、リック・エリンフス、レンス・ニーウラント。
「Tamotua」(4:12)
「Frisky Frog Funk」(5:38)
「Shuttle Service」(7:41)
「Ant-Artica」(6:39)
「Big Ferro」(4:35)
「High Checker」(2:54)
「Shuffle Funk Dog」(5:18)
「The ZebraPart I / Part II」(1:58 + 4:00)
(ATLN 50078)
Rens Newland | guitar |
Arthur Clarck | bass |
Rob Franken | keyboards |
Robert Vink | drums, percussion |
2010 年発表のアルバム「Scope III」。
1977 年に制作されるも未発表だった作品をサルベージして、デジタル形式で発表した。
前作での要だったリック・エリンフスが脱退、ドラマーとベーシストも新メンバーと交代している。
内容は、ギターをフィーチュアしたテクニカルでアグレッシヴなジャズロック。
エレクトリック・ピアノのジャジーでメローな響きとは対照的に、ナチュラル・ディストーション・トーンによるギターの小気味のいいプレイにはサイケデリック・ロックやハードロックのガレージ、ストリートっぽいニュアンスがたっぷりある。(もちろんジャズだって五十年遡れば同様なトッポさがあったのだが)
ギターとエレクトリック・ピアノの応酬はかなりカッコいい。
バッキングのストリングス・シンセサイザーのニュアンスはジャジーというよりはもう少し少年向けの未来っぽいファンタジーの演出である。
「Fusion Xtreme」というタイトルながら、日本語でいうところの「フュージョン」との違いは、ロマンティックな響きにすらもササクレだったような荒々しさがあるところだろう。
ISOTOPE やデメオラのいた中期 RTF のようなテクニカル・ジャズロックらしいキツキツの忙しなさの生むスリルやしなやかでずしっと応えるハードネス、覆い被さるような圧迫感、つまり「弾き倒し」が好みならお薦め。
9 曲目なんて「Red」の KING CRIMSON いや、CRIMSON が追いかけた MAHAVISHNU ORCHESTRA のような破綻すれすれのエネルギーを発揮しているではないか。
確かに 1977 年に出すには少し古めかしい内容かもしれない。1974 年だったら間違いなく発表されていただろう。
一部ヴォーカル入りなのは時代を勘案したのかもしれない。
「Musiphysical Experience」(5:37)
「Super Serenade」(4:55)
「Perpetuum」(3:58)
「We Gotta Do」(3:12)
「Fire Words」(3:27)
「Pure, Magic & Clean」(6:12)
「Spring Thing」(7:16)
「Strunk」(4:12)
「Honky Pank」(6:24)
「Electric Eel」(3:11)
(Jive Music)