SHUB NIGGURATH

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SHUB NIGGURATH」。83 年結成。 作品は四枚。クトゥルー神話の邪神であるグループ名通り、MAGMAUNIVERS ZERO に迫る怪奇サウンド。

 Introduction
 
Alain Ballaud bass
Franck Coulaud drums
Franck William Fromy guitars, percussion
Jean-Luc Herve piano, harmonium
Ann Stewart voice
Veronique Verdier trombone

  2009 年発表のアルバム「Introduction」。 82 年カセットで発表されたデモ音源「Shub Niggurath」の CD 化。 CD 化に際しては、Udi Koomran ら デイヴ・カーマン周辺のイスラエル人テクニシャンが尽力したとある。
   内容は、きわめておどろおどろしいチェンバー・ロック。 暗黒室内楽ロックの最北端にある作風は、このデモ作品の段階でも高いレベルで完成されている。 ひたすら暗く怖いが、各パートのプレイには安定感があり、全体としても重厚でオーセンティックな演奏になっている。 1 曲目は、「Les Morts Vont Vite」で再演。
  
(SOLEIL ZEUHL 22)

 Les Morts Vont Vite
 
Alain Ballaud bass
Franck Coulaud drums
Franck W. Fromy guitars
Jean-Luc Herve piano, organ, harmonium
Ann Stewart voice
Veronique Verdier trombone
Michel Kervinio drums & percussion on 5, 6

  86 年発表のアルバム「Les Morts Vont Vite」。 オリジナルはカセット・リリースであり、97 年 MUSEA より CD 再発された。 ここのジャケットは、その MUSEA 版 CD のもの。 内容は、濃密かつ邪悪な室内楽調暗黒ヘヴィ・ロック。 幽鬼の如きソプラノ・ヴォイス、重苦しくも猥褻なベース、凶暴なギター、アコースティック・ピアノらをフィーチュアし、徹底した反復を基調に、即興を大胆に取り入れた演奏である。 反復を支える安定したリズム・キープと、低音主体の音作りも特徴だろう。 ビートの源泉は、ドラムスとアコースティック・ピアノである。 これだけおぞましいサウンドと怪奇な表現の内にあっても、あくまで厳格かつ明確なアンサンブル/リズムとアコースティック・ピアノの演奏には、確固たる近現代室内楽調がある。 したがって、エレキギター、エレキベース、ドラムスがあるにもかかわらず、全体の音のイメージはクラシックのものである。 ギターの演奏は、特に即興による運動性が強調されており、重厚緻密な歩みを見せる全体演奏と鮮烈な対比を成している。 ロバート・フリップばりの荒々しいスタイル(イコライジング/オーヴァードライヴ、dim/aug、フィードバック、ハイポジションと開放弦を使ったコード・ストロークなど)も見せる。 MAGMA を凌ぐパワーと凶悪さは、このギターの即興演奏に負うところが大きい。
  重く突き進む演奏に、トロンボーン、ギター、ピアノによるパワフルな即興が、あたかも安定を引き裂くように、散りばめられる。 そして、すべてが着実に底無しの狂気地獄へと引きずり込まれてゆく。 MAGMA の爆発力(4 曲目序盤の炸裂はすごい)と 初期 ART ZOYDUNIVERS ZERO のコワさをともに備えた暗黒ロックの傑作である。
  
  「Incipit Tragaedia」(16:39)
  「Cabine 67」(6:16)
  「Yog Sothoth」(13:07)
  「La Ballade De Lenore」(9:30)
  「Delear Prius」(9:30)
  「J'ai Vu Naguere En Peinture Harpies Ravissant Le Repas De Phynee」(4:17) 力を解き放ったかのような壮絶きわまる演奏。沸騰しています。
  
(GA 8613.AR)

 C'etaient De Tres Grands Vents
 
Alain Ballaud bass
Sylvette Claudet voice
Jean-Luc Herve guitars, piano, harmonium
Michel Kervinio drums on 2, 3
Edward Perraud drums & percussion on 1, 3, 4, 5, 7
Veronique Verdier bass trombone

  91 年発表のアルバム「C'etaient De Tres Grands Vents」。 内容は、前作よりもさらに気味悪く、おぞましいチェンバー・ロック。 即興を突き詰めた感ある演奏は、抽象的な印象が強まり、より現代音楽化しているといえるだろう。 激しく暴れるときの地鳴りベースと音数の多いドラムスにかろうじて MAGMA との接点を感じるも、音楽そのものは、MAGMA よりもはるかに薄気味悪い。 女声ヴォイスはほとんどイタコであり、バス・トロンボーン(そういう楽器があることを初めて知った)にいたっては、ラブクラフトの「蝿の王」が地獄から這い出る際の怒声そのものである。 リズム・セクションも、リズムのキープというよりは、打撃音で衝撃を与えることを一義としているようだ。 効果音的なシンバルも多用される。 また、ギタリスト脱退に伴い、キーボーディストがギターも兼任、専門ではないはずだが、ノイズを多用した狂ったようなプレイは前作以上である。 相当に危ない感じだ。 全体に、音の密度は高くなく、むしろ隙間だらけといっていいが、ありとあらゆるものを破壊し尽くすような印象は、運動性の高かった前作を完全に凌いでいる。 悪意や憎悪の果て、真っ暗な精神の深淵に、意識の残滓が狂った火花をバチバチと飛び散らしている、そんな感じ(どんな感じだ)である。 ハーモニウムとトロンボーンのドローンによる、緩くて邪悪なアンサンブルなど UNIVERS ZERO とイメージがダブるところもある。
  
(FGBG 4042.AR)


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