ケベックの作曲家、ギタリスト Tim Brady 氏。56 年生れ。 マルティメディアを使ったギター独演や BRADYWORKS なるユニット、また現代音楽の作曲家として活動する。 作品多数(一作ごとに趣向が大きく異なる)。
Tim Brady | composer, guitars, live electronics |
Andre Leroux | tenor & soprano sax |
Marie-Josee Simard | vibraphone, marimba, roto-toms, bongos, tam-tam |
Gordon Cleland | cello |
Nathalie Paulin | soprano |
Louise-Andree Baril | piano |
96 年発表の BRADYWORKS 名義のアルバム「Revolutionary Songs 」。
内容は、ソプラノ歌唱をフィーチュアした透徹なイメージの現代音楽作品。
きっぱりとした歌唱表現の内には、中世音楽やフォークロア、雅楽をイメージさせる素朴かつ厳粛な響きがある。
現代音楽特有の厳しさ、険しさはさほどでなく、エネルギーを秘めながらもクールで落ちついた表現が主である。
前半「Revoluionary Songs」は、チェロ、ヴァイブ、サックス、アンビエントなギターらを伴奏に、英語、フランス語、スペイン語でそれぞれ 2 曲歌われる。
タイトル通り「革命」を主題にした組曲(フランス語曲はフランス革命のテキスト、スペイン語曲はニカラグア革命のテキストである)のようだが、決然としたヴォーカルはアジテーションよりも厳粛な宗教曲に近いニュアンスを生んでいる。
伴奏は、挑戦的な変拍子を駆使しながらも流麗極まるアンサンブル。
ギターやパーカッションなどの音とヴォーカルが一つになってなめらかなダンスをしているようなイメージである。
一曲目「The Twelve」は "DISCIPLINE" CRIMSON にソプラノが入ったような傑作。
「Circling」は、サックス、ヴァイブらによるシリアスなジャズロック・インストゥルメンタル。
変拍子を使用した器楽アンサンブルが非常にカッコいい。
もう一曲(カート・コバーンの死を契機としたらしいインストゥルメンタル作品)をはさみ、後半「Walker Songs」は、英詩に曲をつけたソプラノ完全独唱。
ART BEARS のファンにお薦め。
いわゆるロックではないが、刺激的な音楽である。
歌ものと思って入ってゆくと、器楽の充実に驚かされるだろう。
「Revolutionary Songs」(39:14)
「The Twelve」(10:07)
「When I Return」(7:34)
「Chuchotemets」(4:35)
「Le Nom De Frère」(3:53)
「Manàna」(7:31)
「Luces」(5:34)
「Circling」(11:11)
「Three Or Four Days After The Death Of Kurt Cobain」(8:51)
「Walker Songs」(11:17)
「Greetings」(1:40)
「Lavished In Glory」(3:18)
「Thunderwhirl」(2:21)
「Green Party」(4:04)
(JTR8459-2)
Tim Brady | guitars, electronics, tape |
97 年発表のアルバム「Strange Attractors」。
内容は、多重録音、ライヴな電子処理、変則チューニングなどを駆使したソロ・ギター・パフォーマンスである。
アグレッシヴな一人 KING CRIMSON(いや、一人 PHILHARMONIE か) から、アンビエントなもの、ミニマル・ミュージック、荘厳でスペーシーなものまで、さまざまな作風の大作(10 分以上)が並ぶ。
それらの作品で活かされるのが、残響処理、ディレイによる重層化、多彩なヴォリューム奏法による弦楽器的な音響、といった技術である。
また、スライドなのか電子処理なのか分からないが、和音のままグリッサンドするような表現は、あたかも未来の弦楽奏のようでワクワクさせられる。
ギターのフレージングはジャズがベースになっていて、そこへクラシック、スパニッシュといった要素がからんでいるようだ。
全体に清潔感のある独特の美意識を呈しており、この手の一人多重録音ギター作品の中では図抜けて出来がいい。
それはおそらく、ギターを音を出すスイッチとして還元せずに、あくまで弦を弾(はじ)くという行為とそこから生まれる効果を主にしているからだろう。
かき鳴らされるギターの音の魅力を大切にしているのだ。
4 曲目のようにアンビエントな効果が主の作品でも、シリアスなサウンドスケープの果てにやはりギターらしい和音の連打が現われる。
もちろん、快速跳躍アルペジオや高速オルタネート・ピッキングなどテクニックも超級である。
本アルバム発表後、ワールド・ツアー(ライヴではおそらく自身のプレイにシンクロして音を出すような機構を使うのだろう)を行い、来日もしている。
「Linear Projection In A Jump Cut World」(8:16)
「Collapsing Possibility Wave」(10:36)
「Difference Engine #1,#2,#3」(13:22)
「Pandermonium Architecture」(11:23)
「Minimal Surface」(4:34)
「Memory Riot」(19:04)バンド的なグルーヴのあるスリリングなミニマル・ミュージック。ギターを活かした傑作。
(JTR8464-2)
Tim Brady | guitars, composition |
QUASAR | saxophone quartet |
BRADYWORKS | piano, percussion, sax, cello, guitar |
KAPPA | sax, trumpet, trombone, bass drums |
2003 年発表のアルバム「Unison Rituals」。
内容は、金管楽器(主にサキソフォン)をフィーチュアした三つのグループの演奏による現代音楽。
ブレイディは主として作曲者としての参加であり、一部のギター演奏を行っている。
全体には、シリアスな現代音楽(グラスやライヒの影響下か?)ではあるが、運動性の高い場面では SOFT MACHINE や KING CRIMSON、フランク・ザッパの楽曲がイメージされる。
現代クラシック的な緊張感が、EL&P 風に聴こえることも。
勢いのいい反復からストレートなベクトルが生じて風を巻いて走るような痛快感も出てくるかと思えば、小気味よくブレーキを引いてたゆとい、再び力を呼び覚まして走り出す。
そういった緩急の呼吸がいい。
全曲インストゥルメンタル。
ドラムレスではあるがグルーヴがあり、テーマもなかなかキャッチーなのでジャズロックのファンにはお薦め。
かなりのヴォリュームなので聴きとおすのには体力が要ります。
「Unison Rituals」(12:34)
QUASAR の演奏。
4 つのサックスによる挑戦的な変拍子チェンバー・ミュージック。
変拍子のパターンをタイトルとおりの二管、三管、全体のユニゾンで反復しながら、独奏が提示するテーマを巡って演奏が展開してゆく。
アグレッシヴながらもつややかな音質を使った構築的なアンサンブルである。
不定形の生物が意図不明の伸縮を繰り返しているような不気味なイメージもある。
「Double Helix」(13:11)
BRADYWORKS の演奏。
マリンバ、ピアノ、サックス、チェロのアンサンブルによる渦を巻くような変拍子ジャズロック。
SOFT MACHINE やフランク・ザッパに通じる、きわめてプログレ的な作品。
ドラムレスながらもピアノがビート感を支えており、小気味のいいモーメンタムがある。
「Two Chords Less Than A Blues」(10:21)
BRADYWORKS の演奏。
衝撃的なパーカッションを使ったドラマティックな即興風現代曲。
「Escapement」(14:56)
BRADYWORKS の演奏。
変則チューニング/奏法のギターをフィーチュアした作品で、シリアスな前半からじょじょに躍動感が強まってくる。
チェロの存在感強し。終盤の疾走もカッコいい。
「Sound Off」(12:39)
KAPPA の演奏。
ブラス・オーケストラによる交響楽的スケールの作品。モダン・ジャズのビッグ・バンドを意図的に模するような表現もある。
(AM 110)
Tim Brady | guitars |
Nouvel Ensemble Moderne |
2004 年発表のアルバム「Playing Guitar: Symphony #1」。
七つの章から構成される 40 分あまりの管弦楽作品とピアノとギターのデュオの二曲から構成される。
第一部は、管弦楽、打楽器とエレクトリック・ギターによるシンフォニック・ミュージック。
さまざまな変拍子パターンの反復と交錯によって波打つように複雑な音の文様が描き出され、衝撃的な音響表現、とりわけ挑戦的でパーカッシヴな表現がそれを貫く、ダイナミックで劇的な作風である。
管弦楽によるクラシカルで勇壮な表現だけではなく、エレキギターの歪んだサスティンと弦楽器の対比、ノイジーでインダストリアルな効果など、正統的な現代音楽ながらもロックな迫力があり、プログレ・ファンには OK な内容だと思う。
わたしは、虚空に響く木管の音で KING CRIMSON の「Islands」の諸曲を思い出してしまいました。
作者は、「ギター協奏曲」のつもりだったが、出来を見て「ギター交響曲」であったことに気づき、このタイトルにしたそうだ。
エレクトロニクス、サンプリングも多用している。
個人的に、これまではギターと管弦の共演でもっともカッコよかったのはジョン・ウィリアムスの「アランフェス協奏曲」だったが、それを凌ぐかもしれないと思っている。
第六章は、アコースティック・ギターのソロ作品。ギターの弦が発するあらゆる音響を駆使して描く息苦しいほどに緊迫した作品である。
最終章は、管弦楽のドローン(電子音に近いニュアンスである)のうねりとともに、メカニカルな反復運動が螺旋を描き、やがて一大スペクタクルへと発展する神秘的かつスリリングな傑作。
第二部のデュオは、重厚かつ深刻。
特殊奏法による多彩な音響/ノイズを駆使し、陰鬱なピアノ演奏に執拗に挑んでゆく。
ピアノの問いかけに対する応答は、ストレートというよりは搦め手からのはぐらかしや独り言に近い。
ピアノもまたいらつくように激昂するかと思えば、ふと考えごとに沈むように寡黙になる。
互いの呼吸を読みながら動き、強圧的なアンサンブルから音を拾い上げて虚空に放つような繊細な表現まで、いちいちドラマティックである。
(AM125 CD)