TOWNSCREAM

  ハンガリーのプログレッシヴ・ロック・グループ「TOWNSCREAM」。 AFTER CRYING を脱退したヴェドレス・サバ氏が結成したグループ。 作品は一枚。

 Nagyvarosi Ikonok(Big City Icon)
 
Acs Peter contrabass, bassBaross Gabor drums
Gal Bela cello, synthesizerVedres Casaba piano, KORG Trinity synthesizer, vocals
Egervari Gabor words
guest:
Fogolyan Kristof flutePreda Laszlo trumpet
Makovecz Pal trombone

  99 年発表の唯一作「Nagyvarosi Ikonok」。 圧倒的な演奏力を誇るピアノとシンセサイザーを中心にクラシックからジャズまで幅広く揺れ動くダイナミックな楽曲が並ぶ作品である。 変拍子オスティナートで容赦なく迫るピアノに加えて、ドラムスも EL&P と同じくキーボードとのユニゾン形式が多く実にけたたましい。 チェロも過激なボウイングで疾走し続け、全体にある種の興奮状態が長く維持されている。 インダストリアルな調子すらあるこれらの性急でけたたましい演奏に、管弦などアコースティック・アンサンブルによる純クラシカルなナンバーを配して、雰囲気のバランスを取り起伏を作っている。 このとっ散らかった演奏は、EL&P にクラシック楽器が導入された、いわば 70 年代プログレの強化版とでもいうべきものだ。 つまり AFTER CRYING と同系統であり、より緻密さや緊張感が強められたバージョンなのだ。 細胞分裂して、おなじバンドが二つできたようなものである。 個人的には、もちろん大歓迎。 金管楽器、特にトランペットの響きがアヴァンギャルドな方向へも走るピアノと合わせて、初期 KING CRIMSON(「Lizard」くらいだろうか) を思わせる場面もある。 実際 KING CRIMSON の「In The Wake Of The Poseidon」の「Peace」をモチーフにした作品(「Hajnali Enek」)もあるくらいだ。 おそらく、ヴェドレス・サバのプログレに対する熱烈な思いが、このハイ・テンションのクラシック・ロックを生み出しているのだろう。 それにしても、ピアノは驚くほどキース・エマーソンと芸域が重なっている。 また、ヴォーカルには、教会風のイコライジングのおかげもあって、グレゴリアン・シャントを思わせる厳粛な雰囲気がある。 そして、アップ・テンポのナンバーに漂う怪しさはザッパ。 ジャズ系のドラムスが、手数の多さと重み、安定感を兼ね備えているのもうれしい。 ギターの音も聴こえるがノンクレジットなので、キーボードによるシミュレーションの可能性がある。 ヨーロッパ的なエレガンスと朴訥さ、そして東欧エキゾチズムもあるクラシカル・プログレッシヴ・ロックの佳作。 次回作にも期待。 それにしてもうるさいドラムスです。 忙しない調子になると、ラカトシュ・アンサンブルのようなジプシー系フォーク色が強まる。
   けたたましいリズムとクラシカルなアンサンブルが融合した現代的なクラシック・ロック。 プレイヤーに確たる素養があるせいか、クラシックとロックの融合に伴ういかがわしさのない良質な音楽になっている。

  「Nagyvarosi Ikonok I(Big City Icon)」(5:00)ハイテンションの疾走型クラシカル・ロック。 ピアノ、シンセサイザーはもちろん、弦楽器のピチカート、打楽器のひたすら連打で迫る。
  「Nagyvarosi Ikonok II」(4:35)
  「Nagyvarosi Ikonok III」(5:13)パーカッシヴでインダストリアルな怪曲。大都会のイメージの一つか。
  「Nagyvarosi Ikonok IV」(3:25)

  「Minden Nap」(3:27)フルート、アコースティック・ギター、チェロが美しい素朴で愛らしい歌もの。 歌はフォークソングと教会音楽の中間くらいのニュアンス。

  「A Lazarus-Boi」(1:17)

  「Fekete Hangulat」(7:20)クラシカルにしてジャジー、かつエキゾチックなピアノ、オルガンを中心に変拍子で突き進むハード・チューン。 全編たたみかけるような調子ながらも、舞曲調の軽やかなリズム感があり、メロディアスなチェロ、ギターなどソロもフィーチュアされる。 傑作。

  「Koldus」(4:55)
  「Ime, Hat Megleltem Hazamat」(4:06)
  「Igy Szoit A Madar」(5:10)
  「Hajnali Enek」(6:13)
  「Alaszalla A Poklokra」(7:18)
  「Asz Utolso Ikon」(4:34)

(BGCD 011)

 Zongorazene / Music For Piano
 
Vedres Casaba piano, electric piano, Korg Trinity Plus synthesizer

  2000 年発表の作品「Zongorazene / Music For Piano」。 主として 90 年代に作曲されたピアノ独奏作品集。 剛力打鍵によるバルトーク風のパーカッシヴなオスティナートと饒舌で華やかなオスカー・ピーターソン流を自由自在に行き交う。 高級感あるペーソスと無邪気で楽し気な表情が魅力。 定期的にキース・エマーソンが憑依するので楽しい。 1 曲目の後半は EL&P だよね?、と思って何ら問題なし。 2 曲目は北米への憧れを刻んだカントリー風味のある佳曲。だく足で家路を辿るカウボーイの後姿よ。 3 曲目は日本の童謡風。 4 曲目の大作「Rock Sonata」は力作。 5 曲目はタイトル通りのブルース幻想曲。 6 曲目は軽妙なラグタイム。 7 曲目はハイテンションの超絶インプロ。 8 曲目はコミカルなラグタイム。
  プロデュースはホーバス・ラズロ。

(XP 006)


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