スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIANA」。 スペイン、アンダルシアを代表するプログレッシヴ・フラメンコ・ロック・トリオ。 74 年結成。 83 年キーボーディストの事故死によって解散。 作品は編集盤、再編新譜など含め十一枚。 スパニッシュ・ギターに加え、パルマ、サパテアドなどフラメンコの要素をふんだんに取り入れた、キーボードを多用するサウンド。
Juan Jose Palacios | drums, assorted percussion |
Jesus De La Rosa | keyboards, vocals |
Eduardo Rodriguez | flamenco guitar |
guest: | |
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Antonio Perez | guitar |
Manolo Rosa | bass |
75 年発表の第一作「El Patio」(The Patio)。
キーボード・トリオ(とはいえ、ベーシストの代わりにフラメンコ・ギタリストがいる)を中心に、エレキギターとベースのサポートを得て録音されたデビュー作。
フラメンコのギター、カンテ(歌)にキーボードなどのエレクトリックなサウンドを大胆につぎ込んで、雄大な広がりと繊細な情感が混然となったシンフォニック・フラメンコ・ロックを生み出すことに成功している。
アコースティックなフォルクローレと当時代のエレクトリックなロックが、明快な形で結びついている。
イタリアン・ロックに負けない、みごとな融合というべきだろう。
アナログ特有の音色を活かしたシンセサイザーとピアノ、オルガンのプレイは、メランコリックなメロディをゆったりと歌わせたり、豊かな音色で伴奏するなど、かなりセンスのよいものである。
そして、スパニッシュ・テイストにとどまらないクラシカルな味わいや、メタリックでモダンな表情を示しており、エレキ・ギターとともにシンフォニックな曲調をつくりあげている。
ヴォーカルはいわゆるフラメンコのカンテであり、独特の濃厚な節回しを見せる。
声質も本格的だ。
さらに、ロックに慣れた耳に新鮮なのが、細やかな表情を見せるアコースティック・ギターのプレイと、サパテアードを思わせるやや癖のある 3 拍子中心の躍動的なリズムである。
全体としては、哀愁と情熱がない交ぜになったメロディ/ハーモニーを、スペイシーなシンセサイザーやオルガンで奏でるという試みが、みごとにあたった作品といえるだろう。
そして、何より驚かされるのは、シンフォニック・ロックの文脈においても、深みのあるメロディの味わいを違和感なく発揮しているフラメンコの力である。
さすがに世界に冠たるフォルクローレ、ロックもたじたじの浸透力だ。
荒れ地を吹き抜けるような物寂しい「歌」を重視したスタイルなので、プログレ的なけれん味については、MEZQUITA など後進グループに一歩譲るかもしれない。
しかし、フラメンコをロックで咀嚼し、新たな世代に提示したオリジネータとしての地位は揺るがないだろう。
そして曲も、おそらくはフラメンコ自身の力であろう、聴き込むほどに味わいが出てくるものだ。
作曲は、3 曲目を除いてキーボードのデ・ラ・ロッサによる。
ややシャリ気味の録音さえ気にしなければ、かなりの名盤です。
「Abre La Puerta(It Opens The Door)」(9:49)エキゾチックなメロディ、乾いたヴォーカル、フラメンコ・ギターらをテクニカルなリズム・セクション、ピアノ、シンセサイザー、エレピ、オルガン、ヘヴィなギターなどを総動員して盛り上げるフラメンコ・ロック大作。
ソロもフィーチュアした力の入った作品だ。
最初から最後まで泣きのメロディでぐいぐい押し捲り。リズムは一貫してダンサブルな 8 分の 6 拍子。
アコースティック・ギターの荒々しいプレイと、モノ・シンセサイザーの取り合わせがかなり新鮮。
終盤のパルマ(手拍子)とギターの絡みは、完全にフラメンコ。
この一曲で、本作のサウンドの特徴をかなり語りつくしている。
「Se De Un Lugar(At A Place)」(7:07)ストリングス・シンセサイザーをフィーチュアした、ミドル・テンポの雄大なシンフォニック・ロック。
アコースティック・ギター伴奏、ドラムレスによるメローなフラメンコのヴォーカル・パートは、サビで一気に音が広がり、オーケストラのような盛り上がりを見せる。
間奏部は 4 拍子に変わり、フラメンコ調ながらもメロディアスなエレキギター・ソロと、エレクトリックな効果音風のキ−ボード・オーケストレーション。
パノラマが開けるような雄大な演奏である。
歌メロは濃厚なフラメンコ調。
「Todo Es De Color(Everything Is Color)」(2:06)M.モリナ、J.J. パラシアス作。
朝の風景を描く効果音とアコースティック・ギター・デュオによるメランコリックなフラメンコ。
情熱的にして厳粛。
「Luminosa Manana(Light Of Tomorrow)」(4:02)スローな歌ものフラメンコを多彩なキーボード、特にハモンド・オルガンとシンセサイザーで彩った作品。
フラメンコ・ギター、ヴォーカル、キーボード、ドラムスによる演奏である。
強烈なアコースティック・ギターのプレイとパルマで始まり、またも 8 分の 6 拍子。
ただし、オブリガートから間奏まで、ヴォーカルを支えてリードするのはフルに、オルガンとシンセサイザーなどのキーボードである。
キーボードの効用は、メロディの土臭さをいく分か和らげることと、オーケストラに似た多色多様な音色で厚みをつけることであり、他の国のロックと変わらないアプローチである。
しかし、フラメンコにぶつけることによって生まれたえもいわれぬ効果は、ここでのみ味わえる。
ハモンド・オルガンは、音色こそやや丸みをもつが、プレイの質はフラメンコの世界と近い。
「Dialogo(Dialogue)」(4:29)他の曲と比べるとスペイン臭があまり感じられず、無国籍フォーク・ロック風に聴こえるのは 4 拍子のせいだろう。(マカロニ・ウェスタンの劇伴風である)
オルガンが唸ると、アートロック風の曲調でメロディがスパニッシュという逸品になる。
今度の間奏はフラメンコ・ギターのカデンツァである。
スパニッシュ・ギター独特の緩めに張った弦の響きが、オルガンといいコントラストを成す。
エンディングは、トレモロのようなシンフォニックな決めを繰り返す。
オルガンをフィーチュアしたミドル・テンポのスパニッシュ・バラード。
「En El Lago(In The Lake)」(6:34)
シャフル・ビートを刻むギターとオルガンが伴奏するスペイン風のフォーク・ロック。
8 ビートを刻むドラミングはタイトで鋭く、オルガンやエレキギターのオブリガートが入るとイメージはきわめて英国アートロックに近くなる。
この曲も過剰なフラメンコ/ローカル色は感じられない。
アコースティック・ギターもラスゲアードをアクセントとして用いるが、主となるのはストロークとオブリガートであり、他の曲ほどにはフラメンコ的ではない。
多くの人がフラメンコ・ロックとして思い描くのは、こういう音ではないだろうか。
後半ヘヴィなギターが盛り上がる。
「Recuerdos De Una Noche(Memory Of A Night)」(4:42)
濃厚な歌ものフラメンコとヘヴィなジミヘン風ギターをフィーチュアした 5 拍子のアンサンブルが交錯するプログレッシヴな作品。
ミステリアスなイントロがいい。
曲調は 8 分の 6 拍子のヴォーカル・パートではぐっとおちついているが、間奏から展開部への 5 拍子のパートでは独特のスリルとスピード感が生まれる。
バッキングはオーヴァードライヴしたファズ・ギターとクラシカルなオルガン。
(S-32.678 / FON MUSIC CD-8090)
Jesus De La Rosa | vocals, keyboards, guitar on 7 |
Juan Jose Palacios | drums, special effect & moog on 4 |
Eduardo Rodriguez | guitar, vocals on 8 |
guest: | |
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Antonio Perez | guitar |
Manolo Rosa | bass, spanish guitar on 8 |
Enrique Carmona | introduction guitar on 8 |
77 年発表のアルバム「Hijos Del Agobio」(Children From Obsession)。
野太い声が朗々と歌う、ほぼ前作通りのフラメンコ・ロック。
しかし、アートロック風のオルガンやシンフォニックに高まる曲調は若干抑えられ、エレキギターをフィーチュアしたテンポのよい作品やメロディアスなバラードが主流である。
シンフォニックな作品も高揚感よりも、映画音楽のようなメロディのよさのほうが目立つ。
シンセサイザーは多用されており、息遣いの感じられるようないかにもスパニッシュな旋律や和声との対比の妙が活かされている。
フラメンコ色は、スパニッシュ・ギターのプレイと独特の歌メロに凝縮した印象だ。
全体としては、土臭い荒々しさよりも、ていねいにまとめあげた聴きやすさが勝り、メイン・ストリームへと近づいた感のある作品。
「Hijos Del Agobio(Children Of Agobio)」(5:18)泣きのバラード。ギターとシンセサイザーがツイン・ギターのように寄り添ってむせび泣く。
「Rumor(Rumour)」(3:20)リズミカルなフラメンコと輝くシンセサイザーの絶妙のミスマッチ。男臭いヴォーカルをオブリガートするシンセサイザーとロングトーン・ギター。
こういう曲でオーケストラ・ヒット調のシンセサイザーが出てくるところがきわめて珍しい。
「Sentimiento De Amor(Feeling Of Love)」(5:32)イタリアン・ロック風のフォーク・ソング。土埃と乾いた空気。アコースティック・ギターの爪弾きと位相系エフェクトによる風の音がヴォーカルを取り巻く。
キーボードとパーカッションによる間奏部の侘しげながらもファンタジックな趣も、イタリアン・ロック的。後半はフラメンコ・ギターによって力強くドライヴされる。
「Recuerdos De Triana(Memory Of Triana)」(2:50)エキゾチックな味わいのドラム・ソロ。緩めのフロア・タムは、電気処理されているように聞こえる。
「Ya Esta Bien!(Already Alright)」(3:12)サスペンス映画の主題歌のように大仰でカッコいい作品。
スリリングなムーグのテーマを経て、ジャジーなエレピとともにスローダウンし、やや雰囲気が捻れながらも、リズミカルなロックで突き進む。
「Necesito(Needed)」(4:04)アコースティック・ギターに導かれて、前曲の雰囲気をそのままに演奏が続く。斜に構えたヴォーカル。ギターはともかくムーグの音がこういう文脈ではかなり珍しい。
そのムーグとギターのハーモニーが間奏である。3 連でたたみかける、モノローグのような歌。8 分の 6 拍子。
ムニエラ、タランテラ調である。
「Sr.Troncoso」(3:38)アコースティック・ギター伴奏の叙情的なフォーク・ソング。
ラスゲアード、タンボーラは控えめであり、フラメンコといったときの濃さはない。
どちらかといえば、やはりイタリア風のフォークである。ほのかに物憂い。
「Del Crepusculo Lento Nacera El Rocio」(5:50)ヴォーカルはぐっと土臭いが、演奏はかなり洗練されていて、珍しくエレキギターによるスパニッシュなアンサンブルがある。
エレピも用いたテクニカルかつ劇的な傑作。
エンディングは、EL&P と KING CRIMSON が合体したような大波乱。
(17.0907/9 / FONMUSIC 89.2105/2)
Jesus De La Rosa | vocals, keyboards |
Eduardo Rodriguez | spanish guitar, palmas, ,voice, vocals on 5 |
Juan Jose Palacios | drums, percussion, voice on 3 |
guest: | |
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Pepe Roca | guitar |
Manolo Rosa | bass |
79 年発表の第三作「Sombra Y Luz」(Shadow And Light)。
スペインのシーンがようやくプログレッシヴ・ロックで活況を呈しはじめた 78 年に製作、翌年発表されて大ヒットした作品。
内容は、フラメンコに PINK FLOYD、KING CRIMSON といった英国プログレッシヴ・ロックに影響されたサウンドとスタイルを取り入れたユニークな折衷様式のロックである。
スペインらしい異教風で濃厚なメロディと和声に英国ロックのブルーズ・フィーリングが重なり、エレクトリック・ギターやエレクトリック・キーボードにおるテクニカルなロック・サウンドがごく自然にアコースティックな響きの歌ととけあう。
結果、フラメンコのエネルギーだけではないロック本来のドライヴ感が強まっている。
特に、インストゥルメンタル・パートの進境は著しい。
前二作と比べると格段にロックとしてのグレードが上がり、変拍子や不協和音や効果音など、フラメンコ・ロックというアプローチの前衛性を超える大胆な表現衝動に基づく演出も充実している。
プログレらしさが高まったということだ。
リズム・セクションもジャズロック的な精緻なリズムを打ち出している。
全体としては、シンフォニックな構築性よりも、ジャズロック的でアヴァンギャルドな面が強調されていると思う。
「Una Historia」(5:06)
「Quiero Contarte」(5:00)
「Sombra Y Luz」(7:40)安定を拒絶するスリリングな作品。
「Hasta Volver」(10:40)
「Tiempo Sin Saber」(5:21)
「Vuelta A La Sombre Ra Y Luz」(5:20)
(L7 1439.4)