スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「MEZQUITA」。 後ウマイヤ朝建造の「大モスク」の名称通り、コルドバ出身のグループ。 79 年と 81 年に二枚の作品を残している。 フラメンコを取り入れたテクニカルかつけたたましいハードロック。
Jose Rafa | guitar, vocals |
Randy | bass, percussion, vocals |
Roscka | keyboards, vocals |
Zorrilla | drums, percussion, vocals |
guest: | |
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Snatlago Crespo | violin |
Jose Azpiri | violin |
Juan Ferrera | violin |
Manuel Lopez | cello |
79 年発表の第一作「Recuerdos De Mi Tierra」。
アナログ・シンセサイザー、オルガンとギターを中心にした英国風のプログレ/ハードロックに、大胆にフラメンコのスケールを盛り込んだ作品である。
スペインといったときに誰もが思い浮かべるイメージにピッタリの音であり、スパニッシュ・ロックのエキゾチズムの魅力への期待は裏切られない。
演奏は情熱のほしいままにスピード感にあふれ、それでいて安定感もある。
ドラムスにあおられるように急旋回しながらひた走る姿とそこから生れるスリルには、イタリアン・ロックに通じるものがある。
最大の特徴は、とにかくテンション、ヴォルテージが高いこと。
基本的に体温が高いというか、悪くいえば、暑苦しい。
演奏は、主としてギターとキーボードによるスピーディでシンフォニックなアンサンブル(テーマはクラシカル)をベースに、ラスゲアドを用いるアコースティック・ギターや、朗々たるカンテ(謡)、激しいパルマ(手拍子)といったフラメンコの素材をふんだんに盛り込んで色をつけている。
エレキ・ギターは、リズムにおさまり切らないエネルギッシュなピッキングによるプレイが主。
さらに特徴的なのは、民俗楽器を思わせるユニークな音色でモーダルなメロディを歌い上げるシンセサイザーだ。
管楽器のようなニュアンスが非常におもしろい。
アコースティックなパートでは、まんま本格的なフラメンコになってしまうが、それは十分予想できる範囲である。
ロックとフラメンコという異種の音楽の融合という点では確かにプログレッシヴだ。
「スペインのプログレ」といったときにお薦めできる一枚です。
いかにもスパニッシュなテーマの背後では、バロック調のオルガンやロックらしい直線的でダイナミックなビートが根を張っていて、明らかに英国プログレのスタイルからの影響がある。
たとえば、5 曲目では DEEP PURPLE か KING CRIMSON を思わせる、ヘヴィで凶悪なトゥッティを軸とした演奏を見せ、3 曲目および最終曲では、ギターもシンセサイザーもテクニカルなジャズロック調のプレイを見せる。
全体としては YES のようにシンフォニックな演奏になっている。
特に 3 曲目は、ストリングスと熱っぽいヴォーカルが交錯する、美しくもスリリングな名作である。
ハードロックがフラメンコへとめまぐるしいリズムで変化する 1 曲目も、フラメンコ・シンフォニック・ロックの傑作だ。
濃厚な歌とスピーディな演奏が魅力の、フラメンコ・プログレッシヴ・ロック最右翼。
TRIANA と比べると、土臭さにもデフォルメが感じられ、全体にスタイルとしてのプログレへの傾倒がはっきりしている。
ヴォーカルは当然スペイン語。
「Recuerdos De Mi Tierra」(7:47)
せわしないシャフル・ビートともつれるようなトゥッティで走り続けるハードでクラシカルなシンフォニック・ロック。
DEEP PURPLE かイタリアン・ロックにありそうな曲調だが、アコースティック・ギターによるフラメンコ/アラビアン・テイストが入った途端にイメージが変わる。
管楽器風の抑揚をもつシンセサイザーが鮮烈だ。
後半、濃厚なヴォーカルがエキゾティックな情念を強力に押し出すが、それをクラシカルな音が取り巻いて重厚な演奏となる。
名品。
「El Bizco De Los Patio」(4:21)
独特のコード進行による序章をもつワイルドなフラメンコ・ハードロック。
ギター、シンセサイザー、オルガン、ベースがたたみかけるようにスピーディなインタープレイとトゥッティを繰り広げ、土(酒?)臭いヴォーカル・ハーモニーがその間を縫って朗々と歌い上げる。
曲調はけたたましさのみを一貫してせわしなく次々と切りかわり、特に後半は強引な演奏を引きずり回す。
「Desde Que Somos Dos」(5:48)
音数多い挑発的なリズム・セクション、シャープなギターによるジャズロック調の作品。
ギターがリードするせわしないトゥッティがくっきりと浮かび上がる。
アコースティック・ギターとカンテが現れるまでは、フラメンコ/アラビア臭はさほど強くなく、BRAND X のようなニュアンスだが、次第に、スパニッシュ・フレイヴァーとともに RETURN TO FOREVER 化し、後半は完全にサラセン・ロック。
ヴォーカル・パートの伴奏には弦楽セクションも参加し、西部劇映画音楽の趣も。
ヴォーカリストはヒゲにソンブレロ、ショットガンを抱えた悪漢のイメージ。
演奏力を見せつける作品だ。
「Ara Buza(Dame Un Beso)」(4:37)
パルマをフィーチュアしたリズミカルなフラメンコ・チューン。
シンセサイザーは木管楽器を模した音色で演奏にとけ込む。
パワーコードのギター・リフやベースのオブリガート、キメのハーモニーなどは、典型的なハードロックの語法と思うが、節回しがあまりに濃いためにどうしてもフラメンコに聴こえる。
後半は、再びジャズロックなリズムで、アラビックな祈祷や魔術師の奏でる笛のようなシンセサイザー、ギターの暴走速弾き(かなりカッコいい)がめまぐるしく展開し、さながらスペインの OSANNA といった趣がある。
「Suicidijo」(7:24)
苦悩しつつもシャフルで疾走するエモーショナルなハードロック。
オルガンによる 3 連のリフで加速し、さまざまに変転しつつも勇ましい調子は維持される名品である。
中盤は、テンポを抑えてギターのアルペジオとともにヴォカリーズでエモーショナルに迫り、ものすごい音のシンセサイザーが泣く。
この朗々たる中間部では、ドラムスもいいプレイを見せる。
アコースティック・ギターが満を辞してソロを披露し、エレキギターへと引き継がれる。
エンディングではコラールとともにメロトロン・ストリングスが迸る。
男性的な勇ましさと感傷とが表裏をなす。
「Obertura En Si Bemol」(6:09)
YES をジャジーに強化したようなインストゥルメンタル作品。
せわしなくも技巧的であり音は明朗。
フル・ピッキング・ギターは、ややスペイン訛りのスティーヴ・ハウ。
最初から最後まで、ギターを中心にすさまじいテンションで突っ走る。
(SRMC 3011)