WALRUS

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「WALRUS」。作品は DERAM レーベルからの一枚。 ベーシストのスティーヴ・ホーソンのアイデアの下、ジャズ/ブルーズ・オーケストラを目指した。

 Walrus
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Steve Hawthorn bass
John Scates lead & rhythm guitar
Nick Gabb drums
Barry Parfitt organ, piano
Noel Greenaway vocals
Don Richards trumpet
Roy Voce tenor sax
Bill Hoad soprano & alto & tenor & baritone sax, clarinet, flute, alto flute
Roger Harrison drums, cow bell, tambourine, claves

  70 年発表のアルバム「Walrus」。 内容は、へヴィでパンチが利いているが意外なほど精妙な造りの「ブラス・ロック」。 (じつは、いわゆるブラスはトランペット一管だけで、あとはサックスなののだが、IF と同様な管楽器を大きくフィーチュアしたロックということで、便宜的に「ブラス・ロック」と呼んでおく) ブルーズ・ロック全盛のシーンを経て、アメリカで勃興するブラス・ロックそしてジャズからの不気味な浸透を意識し、さらにはクラシカルな叙情性すらも見据えて試みた、新しいロックの一つである。 そのサウンドは、12 小節ブルーズ進行に管楽器をぶつけて R&B の火花を散らし、ハードロック風の重さももたせた革新的なものだ。 ギター、ベース、ドラムスによるへヴィ・ロック・ユニットに、トランペット、サックス、フルート、木管を動員して、力強い広がりと上昇感を打ち出している。 また、同時代のグループと同じく、オーケストレーション効果を狙ったハモンド・オルガンもしっかり取り入れている。 スティーヴ・ホーソンのベースはブルーズ調では音数多く迫り、モダン・ジャズ風のアンサンブルではきっちりとランニングを決めている。 奏者として一流なのだろう。 アフリカン・ミュージック風のアクセントもあるようだが、それもまた往時のロックの強靭な雑食性を象徴している。 そして、ブルーズ・テイストの強いへヴィなリフのドライヴする演奏が堂に入っているのは当然として、フルートやアコースティック・ギターを使った繊細な幻想性も打ち出せている点がみごとである。 BS&T ばりのブラスを聴いているとにわかには信じられないと思うが、KING CRIMSON の第一作に通じる瞬間は確かにある。 いきみかえるダミ声ヴォーカルや荒削りなサウンドからはへヴィな無骨さが第一印象になると思うが、じつは、組曲形式の構成や音響効果、ソロ(ピアノからドラムスまで)も交えた多彩なアレンジなど、野心的な試みがこれでもかとばかりに盛り込まれている。 アメリカのブラス・ロックとの決定的な違いは、R&B に交じるフォーク・タッチやクラシカルなナイーヴさである。
  限られた時間と気まぐれレーベルの予算の中でこれだけさまざまな要素を叩き込んだサウンドをまとめあげるのには、相当な苦労があっただろう。(当人たちはかなり楽しかったと思うが) こういう作品を前にすると、しっかりと耳を傾けて味わい理解することが後から追いかけるものの努めである、なんてことを柄にもなく思う。 リーダー格のスティーヴ・ホーソンもまた、ロックがロックだけにとどまれない性質があることを見抜いた優れた英国ミュージシャンの一人だったのだ。 先進的な試みを音に置き換える作業については、プロデューサー、デヴィッド・ヒッチコックの手腕にももちろん注目すべきだろう。 大友克洋のようなイラストもいい感じです。(DERAM お抱えのアート・ディレクター、デヴィッド・アンステイによる)
   さて、ジャズのビッグバンドの迫力とポップスのまろやかさをロック・バンドに持ち込んだブラス・ロックだが、その嚆矢となるのはどんなバンド、作品なのだろう。 BS&T にしても CHICAGO にしてもデビューアルバムは 68 年以降である。 両グループとも 60 年代後半にはすでにライヴで活動していたとは思うが、ひょっとするとレコードで最初の作品は、ポール・マッカートニーの「Got to get you into my life」ではないだろうか。 もっとも、マッカートニーは彼の作品を「モータウンからの影響」と述べている。 真実や如何。 そういえば「セイウチはマッカートニーだ」だとジョン・レノンが明かしたこともあったっけ。(関係ないか)

  「Who Can I Trust ?」(2:33)悪声のヴォーカリストを前面に立てた逞しきブラス・ハードロック。 リフを弾くギターは、IF のギターがハードロック寄りに代わったイメージ。 意外にキャッチーなので、シングル用の作品か。(実際シングル曲だったそうです)

  「Rags And Old Iron / Blind Man / Roadside」(13:38) まずは、ジャジーなブラスが守り立てる、英国らしいフォーキーなセンチメンタリズムのあるブルーズ・ロック。 ランニング・ベース、変拍子によるサックス・ソロ、バックを走り抜けるオルガン、高潔なるトランペット・ソロ。 最後はパーカッションが鳴り響くアフリカンなサードワールド・ロック。 (〜5:20) フルートとアコースティック・ギターのアルペジオが導くクールな 60 年代調の歌ものからスタート。 弾力あるリズムとブラスが強引に飛び込むと一気に温度が上がり、悪声ヴォーカルとネジを巻くようなブラスのトリルがすべてを蹴散らす。 ベース・ラインが元気でカッコいい。 定位を変化させたようなコーラスがサイケデリック・ロック調を醸し出す。 二つの種類の違うヴォーカルをフィーチュアした混沌たる牧歌幻想というべき佳編。 (〜10:12) ヘヴィなギター・リフとビートっぽいヴォーカルの妙なミスマッチに味があるキャッチーなブラス・ロック。 60 年代テイスト、リズム・セクションの存在感、ともに強し。 いいグルーヴです。

  「Why」(4:28)フルートが舞い踊りアコースティック・ギター、ピアノがさんざめく、風に巻かれるようなフォーク・ソング。 ジェントルなツイン・ヴォーカルのハーモニーがリードする。 インスト・パートの無闇な強度は「弾き語りフォーク」の文脈のものではなく、いかにもジャズ出身者らしい。 フルートは多重録音されて目が回るような効果を出しているが、ややうるさい。 青春の蹉跌。 シングル曲。

  「Turning / Woman / Turning(Reprise)」(7:16)高速回転するようにスピーディで性急なブラス・ロック。 序盤からアヴァンギャルドな展開を見せる。(〜2:58) ギターをフィーチュアしたブルーズロック。 ハードロック・ギターのアドリヴも大胆不敵。最後でブラスがカッコよくからんでくる。(〜6:27) 最後は前半のテーマを回想。

  「Sunshine Needs Me」(3:21) 変わった音やアレンジが散りばめられるが、そのコアはフォーキーな歌メロもいい真っ当なブラス・ロック。 オーヴァー・ダブされたフルートのオブリガートがギターのフィードバックのように不気味。

  「Coloured Rain / Mother's Dead Face In Memoriam / Coloured Rain」(6:03)得意の三部構成。 暖かな管楽器セクションの音を活かした活気ある序章からモダン・ジャズのピアノ・コンボへと展開、ノイジーなギターやベースも前面に出て主張を始め演奏は熱を帯びる。 管楽器セクションは随所で仕切り直しの役割のようだ。(〜3:50) ドラムス・ソロ。スタジオ盤にドラムス・ソロが入るあたりがジャズ出身者の矜持か。(〜4:48) 最後はブラス・ロックの再現。ピアノがリズムを仕切るとファンキーな味わいも出る。

  「Tomorrow Never Comes」(3:30)シャフル・ビートの小行進曲とパンチ効きすぎのブラス・ロックが交互に現れて対話するような、大胆な構成の作品。 ヴォーカルを中心にしたブラスロックの演奏はエネルギッシュにして安定感抜群。 この挑戦的なアレンジが奏功したかどうかは分からない。
  
(BR-140 / SML1072)


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