ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「ZYMA」。 72 年結成。作品は二枚。ハードロックをやっていたようだがアルバムはジャジーでファンタジック。
Dorle Ferber | violin, flute, vocals |
Günter Hornung | keyboards, harpsichord |
Meinrad Hirt | keyboards, flute, violin |
Bodo Brandl | bass |
Udo Kübler | drums |
76 年発表のアルバム「Thoughts」。
内容は、女性ヴォーカルやヴァイオリン、キーボードをフィーチュアしたシンフォニックなジャズロック。
メロディアスな楽曲をツイン・キーボード編成を活かした厚みのある音で囲み、テクニカルでタイトなリズム・セクションで躍動させている。
ジャズロックといってもアドリヴ・パートは多くなくメロディアスなテーマを巡ってさまざまな音がやりとりをするイメージである。
ヴァイオリンがリードする場面もあるが、やはりメロディアスで優雅なプレイが主である。
ただし、キーボードは例外的にシンセサイザーやオルガンでアドリヴを放つ。(2 曲目の前半部分など。シンセサイザーの場合はフレージングよりもサウンドそのものの刺激が強い)
ジャジーでビートロック風の R&B テイストもあり、なおかつ、クラシカルで素朴、ファンタジックな趣もある。
キーボードとリズム・セクションはジャズロックで、そこにヴァイオリンがクラシカルな優雅さを持ち込むとキーボードもやおら神秘的なムードを強める方向に音を出し始める、といえばいいだろうか。
マイナー 7th のエレクトリック・ピアノがなめらかで深みのあるストリングスにすっと道を譲ってゆくのだ。
ややうつむき気味でスペイシーだけれど官能的、つまり 70 年代初期の英国ロックの雰囲気に近い。
楽曲が長めなので、演奏そのものを味わうのにはちょうどいい。
テーマを中心にあらかじめ決めた曲想もあるのだろうが、演奏そのものがその場の呼吸で広げてゆくイメージにも依存した内容だと思う。
ブルージーなジャズだったり骨っぽいロックだったり、果てはラテン風だったりと自由な展開を見せる。
要所でヴァイオリンが現れて達者なプレイでジャズロック調の流れにエレガントなアクセントをつけている。
フルートは限りなくリコーダーに近いニュアンスである。
クラヴィネットを多用していて、アタックが強く鋭さのあるリズム・セクションとともに歯切れのいいリズムを刻んでグルーヴを打ち出している。
最終曲のエレクトリックなシーケンス・ビートとスペイシーなスキャットの組み合わせは、いかにも「ドイツのカンタベリー」らしい。
スピーディでビート感の強いジャズロック的な展開は KRAAN また、女性ヴォーカル・フロントでバッキングが充実しているところ、特にベースを含めリズム・セクションが独特の存在感を放つところは RENAISSANCE とも共通する。
ジャズロックながらユーモラスな SE やノーブルな男声リード・ヴォーカル、パンチのある女声リード・ヴォーカル、そしてその男女ヴォーカルのやりとり、変拍子リフ、といったサイケデリックな感覚はカンタベリーに源があるのだろう。(MOVING GELATIN PLATES のような大陸のフォロワーとも似る)
じつは、男女ヴォーカルのハーモニーなどは、セルジオ・メンデス風といった方が正しい。
音楽性は幅広い(逆にいうと統一感はない)が、演奏が安定していて雰囲気作りがいいために最後まで聴きとおせる。
デビューは 76 年だがポップ・ミュージック畑を長く歩いたベテランなのだろう。
演奏力をストレートに活かした展開が多いため、76 年ものにしてはほんの少し古めかしく感じるかもしれない。
ただし、そういう古めかしさもまた英米との距離を感じさせるドイツ・ロックの魅力である。
この時代にしかない音です。
「Thoughts」(8:19)
「Businessman」(12:33)スペイシーな SOFT MACHINE。カッコいいです。
「One Way Street」(8:04)
「We Got Time」(3:43)
「Wasting Time」(9:39)
以下 CD ボーナス・トラック。1974 年のクラウト・ロック・コンピレーション「Proton 1」に収録された二曲である。
演奏にはギタリストが参加している。
「Law Like Love」(7:04)R&B 色のあるハードロック。女性リード・ヴォーカルもソウルフルだ。
「Tango Enough」(6:01)ヴァイオリンをフィーチュアしたジャジーなシンフォニック・ロック。
(0381978 / CD 026)