ARTI+MESTIERI

  イタリアのジャズロック・グループ「ARTI E MESTIERI」。 73 年、TRIP を経た超絶ドラマー、フリオ・キリコとジジ・ヴェネゴーニ、ベペ・クロヴェッラ等によって結成、翌年アルバム・デビュー。 78 年解散。その後キリコを中心に再結成し 85 年解散。 2000 年再結成及び新譜発表。
  南イタリアの薫風を胸いっぱいに吸い込んだ技巧的なジャズロック。 アヴァンギャルドの雄 AREA と双頭を成す CRAMPS レーベルのアーティスト。

 Murales
 
Furio Chirico drums, percussion
Marco Cimino keyboards
Beppe Crovella piano, keyboards, Hammond organ, accordion
Marco Gallesi bass
Gigi Venegoni electric & acoustic guitar
guest:
Corrado Trabuio acoustic & electric violin

  2000 年発表の最新作「Murales」。 このところ往年のグループの再結成・新譜発表が続いたが、遂に大御所 ARTI+MESTIERI まで現れた。 ゲストのヴァイオリン奏者と三作目から参加のマルコ・チミノ以外は、オリジナル・メンバーでの再結成である。 キリコのドラムスに過剰なまでのケレンがないだけで、ヴァイオリン、ギター、キーボードによる流麗かつスリリングなサウンドは、全く健在。 ラテンのリズムやケルティック・テイストを散りばめらながも、つややかさは一層の輝きを放っている。 そして豊かさとすっきりとした明るさは、かえって増しているのだ。 イージー・リスニングとしてのメイン・ストリーム・フュージョンの普遍性や、ワールド・ミュージックへの注目度合いの高さを利用しつつ生来の歌心を十分に活かした、いわばテクニカル指向へのアンチ・テーゼともいうべき云々....などというとややこしいばかりだが、要するにわたしのモノサシでは「聴きやすいプログレ」の大傑作である。 決してノスタルジーだけではなく、今演りたい音をグループとしての存在意義と照応し、ビシっと重なった瞬間のきらめきがあるのだ。 充実した瑞々しいサウンドである。 底辺に流れるプログレの奔流に耳を傾けてもよし、リラックスして聴くもよし。 それにしてもクロヴェッラ氏のプログレ魂は、正真正銘のホンモノだ。 爽やかなスタカートのオープニング・ナンバーが「Gravita 9,81」を思わせニンマリしていると、最終曲で椅子から転げ落ちる。

(ART)

 Tilt
 
Furio Chirico drums, percussion
Beppe Crovella keyboards
Marco Gallesi bass
Gigi Venegoni guitar, synthesizer
Giovanni Vigliar violin, percussion
Arturo Vitale sax, clarinet, vibraphone

  74 年発表の第一作「Tilt」。 ヴァイオリンと管楽器を含む六人のメンバーで録音されている。 多様な音楽性が封じ込められた、70 年代イタリア・プログレッシヴ・シーンからの贈物のような大傑作である。 テクニックが強調されがちなグループではあるが、本作では技巧のみならず豊かな歌心をもしっかりと印象づける。 スタイルは、ふくよかな音色のヴァイオリンと管楽器がリードするアンサンブルに、キーボードが立体感を付与するシンフォニックなジャズロック。 リズム・セクションとサックスにジャズのセンスを感じさせる一方、ギターはロックっぽいハードなプレイを鮮やかなテクニックで決めている。 また、キーボードはプログレッシヴ・ロックの常套句というべきメロトロン、アナログ・シンセサイザーを多用する。 そして特に有名なのが、ドラムスのフリオ・キリコの超絶プレイ。 確かにすばらしい技巧であり、正確無比なリズム・キープに加えて素早いフィルとの切りかえなど、打撃技にもかかわらず「歌」を感じさせてくれる。
   さて、そもそもイタリアン・ロックは、バロック音楽と土臭いフォークソングを容易に往来させるくらい懐が深い。 それは伝統的な美意識によるものであり、高々20世紀に生まれたポップ・ミュージック・カルチャーにとってあまりに贅沢なバックグラウンドというべきだろう。 したがって、英米から登場したジャズロック、フュージョンといった音楽のもつ「ミクスチャー感覚」や「都会的洗練」という側面に対しては、特に ARTI のような「芸術家+職人」からは、どちらかといえば「何を今さら」という反応が自然だったのかもしれない。 もちろん、ありとあらゆる音楽に英米からの影響があるのも事実であり、確かに PERIGEOIL BARICENTRONOVA といった RETURN TO FOREVERWEATHER REPORT への意識を隠さないグループもある。 このグループも MAHAVISHNU ORCHESTRA などの音は当然参考にしているだろう。 それでもなお、本作の音楽は、英米のジャズロック、フュージョンとは異なるタッチ、ニュアンスをもっていると思う。 それはおそらく、素朴でロマンティックな叙情味である。 主流のフュージョンのもつラテン/ファンク・タッチとも異なるこのエキゾチズムが、全体のまろやかなみずみずしさの源泉となっている。 音楽的には、ジャズを出発点の一つとしながらも、黒人音楽の影響から離れてゆくような音使いが感じられるといってもいい。(プログレ心あふれるというべきか) 本作を傑作たらしめているエッセンスは、全編に満ちわたるこの独特の叙情的な歌心といえる。

  1 曲目「Gravita 9,81(重力)」(4:07) 豊かなイメージを与えるテーマと溌剌たるソロによるシンフォニック・ジャズロックの傑作。 シンプルな構成の作品ながら、しなやかなテーマは、あたかも各プレイヤーのエネルギーが注ぎ込まれているように圧倒的な存在感を示す。 音にツヤとテンションを同時に付与するヴァイオリンの魔術など、演奏面では MAHAVISHNU ORCHESTRA (「Trilogy」だろう)の影響下にあるが、決して火を吐くような演奏スタイルが主ではなく、湖水をわたってゆく風のように、涼やかでみずみずしい生命感に満ちたイメージの演奏である。 次第に高揚するアンサンブルはゾクゾクするような興奮を呼び覚まし、それ以上に、しっとりとした官能的な響きが秘められている。 ギター、ヴァイオリン、管楽器らのユニゾンによるテーマをしっかりと刻み込むと、ベース、サックス、ドラムスと緻密な技巧を披露する見せ場が続くが、やはりメロディの隅々に歌心がゆきわたっている。 ほぼ最高/完璧のオープニング・ナンバーだろう。 多面的な魅力を孕んだ、まさに目の醒めるような作品である。

  2 曲目「Strips」(4:40) 前曲の高揚を静めてゆくようなクラシカルな響きのあるアコースティック・ジャズロック。 弾き語り調のヴォーカル・パートあり。 豊かなハーモニーとユニゾンを織りあわせたテーマは、切れ味鋭いリズムに支えられて、シンフォニックな高揚を生み出す。 レガートなヴァイオリンが主導する気品と官能美を備えたテーマを、古色蒼然たるメロトロンの響きが支える。 こういうコンビネーションは、非常にユニークだ。 ヴォーカルのバッキングと間奏における繊細で表情豊かな演奏がみごと。 キーボードはさまざまな音色を操りながらも抑えの効いたプレイに徹し、流れを彩っている。 ジャズ、フォークとクラシックを吸収しきった本格的なシンフォニック・ロックであり、イアン・マクドナルド主導の初期 KING CRIMSON を連想させる繊細な内容である。 切ない気持ちを織り込んだメロディがいい。

  3 曲目「Corrosione(侵食)」(1:25) 今度はサックスによるレガートなテーマが、前曲のセンチメンタリズムから前々曲を回想しつつ勇ましさを取り戻してゆく。 小さな橋渡しの曲であり、サックスのまっすぐでジャズの自信に満ちた音と「擦り半」風のタム回しが緊張を高める。 オブリガートでは、ヴァイオリンも寄り添い鋭いアクセントをつける。

  4 曲目「Positivo/Negativo」(3:38) あたかも対話のように前曲のテーマに応ずるヴァイオリンの優美なテーマ。 伴奏はアコースティック・ギターの力強いコード・ストローク。 ヴァイブのおだやかな旋律が、遠慮がちにオブリガートし、テーマを小粋に受け止める。 フレットレス・ベースのポルタメントが重心を支える。 一転すさまじいドラム・ロールとともに、演奏が走り出す。 テーマは三倍速で再現されて、ギターがしなやかなプレイで参入する。 後半は、超速ソロ・ギターから、テーマの変奏を取り巻くシンセサイザーの勇壮な響きをはさみ、ギター主導の快速アンサンブルが疾走する。 この後半の爆発的な演奏は、まさにジャズロックの醍醐味だ。 ギターが初めて大きくフィーチュアされる。

  5 曲目「In Cammino(路上にて)」(5:31) 幻想美を湛えるアンサンブルからタイトにして優雅な演奏を経て、ドライヴ感たっぷりのインストゥルメンタルへと発展する劇的な作品。 序奏は官能的なサックス、深いエコー、ディレイにたゆとうエレクトリック・ピアノの和音による演奏であり、初期の WEATHER REPORT に通じる世界である。 ずっしりとしたピアノに導かれて、ヴァイオリンのリードによる第一曲の変奏のようなテーマが提示されて、アンサンブルが走り出す。 朗々とテーマを歌いつつも、すっと裾を翻すように小粋なワルツを挿入する辺りがアレンジの妙である。 優雅なテーマから、一瞬にしてぶわっと沸騰するように立ち上がる迫力は、RETURN TO FOREVER に近い。 後半は、フリーキーなサックスのアドリヴからエレクトリック・ピアノの官能的なアドリヴへと続き、ギターの豪快なソロへと発展する。 ここは密度の高い演奏だ。 一人かけあい風に左右のチャネルからギターが攻め立てる。 最後は、ヴァイオリン、サックスらのユニゾンによる最終テーマが朗々と奏でられる。 こういうジャズロックの文脈でメロトロン・ストリングスが用いられるのも珍しいのでは。
  ここまで LP の A 面は、一つのコンセプトにしたがった連作というべき内容のようだ。

  6 曲目の小品「Scacco Matto(チェス狂)」(00:57) 一瞬の中にハイ・テンションの演奏を叩き込んだ佳曲。 大曲のクライマックスを取り出したような完成度がある。

  7 曲目「Farenheit(華氏)」(1:15) 一つのテーマをピアノ、クラリネット、ヴァイオリン、サックス、シンセサイザーの順で奏でてゆく小曲。 メランコリックだが豊かな響きをもつテーマがみごとな存在感を示し、一分あまりでしっかりとしたイメージを作ってゆく。 次第に楽器が増えることによる劇的効果もあり。 テーマがいいだけにもう少し聴きたかった。

  8 曲目「Articolazioni(関節)」(13:51) シリアスにしてヘヴィなオムニバス風のシンフォニック・ジャズロック。 フュージョンだけに収まらない濃厚なロマンチシズムと構築性を誇る大作である。 ヴァイオリン、サックスらによるレガートなテーマはそのままに、シンセサイザー、メロトロンを主としたキーボードが活躍を見せ、より劇的な展開を見せてゆく。 リズムの変化も大胆だ。 それどころか、くるくると変化する曲調をリードするのが、ドラムスであるようにすら聴こえる。 中盤は、クールなヴォーカルを狂言回しに、ヘヴィ・ロックとフュージョンの混ざったような独特のスリリングな演奏が続いてゆく。ギターやベースのヘヴィな演奏もカッコいいが、ドラミングも圧巻だ。 謎めいたメロトロン・フルートをきっかけに、テンポ・アップした超絶演奏とゆったりとした演奏を交互に配して、緊張感を高めてゆく。 メロトロン・ストリングス、ヴァイブらが伴奏するヴォーカル・パートには、周りをハイテクニックの応酬のような演奏に取り囲まれているにもかかわらず、いかにもイタリアン・ロックらしいのどかさがある。 メロトロン・ストリングスの渦をヴァイオリンのテーマが切り裂くと、終盤である。 ジャジーでおだやかな演奏は、最後の高まりの前の小休止だろうか。 けだるげなヴォーカルもいい感じだ。 最後は、ヴァイオリン、管楽器のユニゾンによるテーマを堂々と支えてゆく演奏となり、最後の最後で、アコースティック・ギターが演奏をリラックスさせ、鮮やかなポップ・センスを振りまきながら終わってゆく。 1 曲目と同じく多面的な魅力にあふれ、P.F.M の作品にも匹敵するイタリアン・ロックの大傑作といっていい。

  9 曲目「Tilt」 コンクレート・ミュージック風のアルバム・エンディング。1 曲目のテーマも変調したヴァイオリンにて再現。


  イタリアン・ポップスの伝統とジャズロックの技巧が一体となって、シンフォニックなサウンドを生み出している大傑作。 ヴァイオリンのリードするアンサンブルには、えもいわれぬ美しい光沢がある。 そして、ジャジーでおだやかなムードをぶち破るように、ヘヴィ・ロックの顔をのぞかせるギターとキーボードのプレイも魅力的だ。しかし、切れ味鋭くクールな演奏という第一印象は、音に込められたみずみずしい情感に気づくにしたがい次第に変化する。 南欧の風をたっぷりはらんだジャズロックは、すべての旋律に豊かな歌がある。 テクニックで圧倒するような強烈なインパクトをもつ演奏というのは確かにあるが、本作のもつ衝撃は、それとも若干異なる。 その違いとは、奔放ながらも歌を活かすことを一義としたアンサンブルとサウンド・メイキングの結果として、メロディに浮かび上がってくる芳しい詩情だろう。 作風こそ多彩だがそれぞれの曲はごくストレートでシンプルといっていいほどであり、この手の音楽にありがちなすさまじいまでの複雑な構築性はない。 それでも、テーマと奔放なソロからは若々しく爽やかな歌心が立ち昇ってくるのだ。 ソロを支えるおだやかなメロトロンの調べや、アコースティック・ピアノ、管楽器のテーマに込められた詩情にいつまでも抱かれていたくなる、そんな魅力をもつ作品なのだ。
  特筆すべきはやはりオープニング・ナンバーだろう。 まぎれもない傑作である。 続いて、叙情的な 2 曲目。 7 曲目の何気ないデュオも美しい。 そしてテクニカルなアンサンブルの奏でるテーマをエキゾチックなヴォーカルやキーボードで彩ったドラマチックな 8 曲目の大作もいい。 38 分弱とは思えない内容の濃さである。 シンフォニックなジャズロックの決定盤であり、イタリアン・ロック屈指の作品の一つ。


(KICP 2838)

 Giro Di Valzer Per Domani
   
Furio Chirico drums, percussion
Beppe Crovella ac. & el.piano, synthesizer ARP, Mellotron, Hammond
Marco Gallesi bass
Gigi Venegoni guitar, synthesizer ARP
Giovanni Vigliar violin, percussion, vocals
Arturo Vitale soprano & baritone sax, clarinet, bass clarinet, clavinet, vibraphone, vocals
Gaza Gianfranco vocals

   75 年発表の第二作「Giro Di Valzer Per Domani(明日へのワルツ)」。 サウンドは前作とほぼ同じ、スピーディなアンサンブルとソロを強調してソウルフルなヴォーカルも盛り込むなど楽曲とスタイルが若干変化した。 全体に、シンフォニックな広がりよりもジャジーでタイトなイメージが強まっている。 メロディアスでつややかなサウンドであり、腕達者の集団だけあって、ドラムスを筆頭に各楽器の主張はすさまじい。 流麗なユニゾンを活かしたテーマやソフト・タッチのエレクトリック・ピアノの清涼感とともに、メインストリーム・フュージョン色も強まったようだ。

  1 曲目「Valzer Per Domani(Walz For Tomorrow)」(2:17)。 ピアノが刻むシンコペーションもスイングするエレガントなワルツ。 イントロダクションはうっとりするほど優雅なピアノである。 ギターとヴァイオリンによるふくよかなテーマを、マイナーでメランコリックなヴァイオリン・デュオが切り返し、再びメジャーでおだやかなヴァイオリン、ギターのデュオへと進む。 管楽器は、さりげないオブリガートでバックアップ。 キーボードも、ピアノからチェンバロに切りかえるなど小粋である。 ドラムスはすでに全開だが、不思議と優美な流れを損なわない。 ロマンティックな佳曲。

  2 曲目「Mirafiori」(6:00)。 テーマ・アンド・ソロという明確な構成から成るジャズロック・インストゥルメンタル。 ギター、ヴァイオリンにユニゾンによるによるレガートなテーマを軸に、エレクトリック・ヴァイオリン、ギター、サックスら音色を活かした迫真のプレイが連続する。 サックス・ソロの手前で一回急ブレーキをかけて、ややフリーでスペイシーな表情も見せる。 そしてドラムスは、最初から最後まで表情豊かな超絶プレイを続ける。 エレクトリック・ピアノはバッキングに徹す。 前曲とは対照的に一直線に進む姿が痛快だ。 このグループらしさの出たオーソドックスな作品。

  3 曲目「Saper Sentire(To know To feel)」(4:45)。 ファンキーで熱っぽいラテン・ロック。 ソウルフルながらもクールな表情のヴォーカルはさすがに本職である。 位相系のエフェクトを使ったクラヴィネットが特徴的。 ギターはバッキング、間奏のソロ、ともに技巧的にしてセンスある個性的なプレイ。 ロックっぽい骨がある魅力的な演奏であり、凡百のフュージョン・ギタリストではないことを再認識。 珍しくタメを効かせたドラムスがカッコいい。 抑えるところがあると暴走気味のフィルも活きてくる。 グルーヴィな佳作である。

  4 曲目「Nove Lune Prima(Nine Moon Before)」(00:53)。 サックスがモダン・ジャズ調のブローでテーマを刻みつける序曲。 管楽器とリズム・セクションだけの演奏であり、ドラムスは雷鳴のようにロールしっぱなし。 サックスとドラムスが全体を引きずりまわすようなイメージだ。

  5 曲目「Da Nord A Sud(From North To South)」(5:17) ミステリアスな響きのあるジャズロック・インストゥルメンタル。 テーマ・ソロではなく繰り返し主体のアンサンブルが翳りのある色合いを醸し出している。 サステインの強いメロディアスな上声部に対しベースやギターがヘヴィなリフとアルペジオで、またエレクトリック・ピアノが暗いコード感で対抗し全体を重々しい演奏にしている。 ヴァイオリンと管楽器によるアンサンブルも緊迫感を高める方向に働いている。 2 曲目と好対照をなす深みのある演奏だ。 全体に抑え目の演奏の中、手数多くロールを駆使するドラムスはここでも圧巻のプレイが続く。

  6 曲目「Nove Lune Dopo(Nine Moon After)」(1:08) 4 曲目の別楽器による再現。 美しいテーマである。

  7 曲目「Mescal」(2:01) スリリングなギターにヴァイオリンが絡む疾走感あふれるジャズロック・ナンバー。 前曲で垂れ込めた暗雲を払いのけるような躍動感のある演奏だ。 バッキングにも重量感がある。 ハモンド・オルガンの音色が印象的。

  8 曲目「Mescalero」(00:37) 7、8 曲目はどうやらつながっているようだ。 こちらはいきなりクライマックスの超絶ユニゾン連発大会。

  9 曲目「Dimensione Terra(Earth Dimension)」(1:33) リフ、テーマ一発のスリリングで小粋な小品。 それぞれがすごくよいだけにもう少し長いとうれしかった。 リフを経てテーマを歌い出すところの心地よさはやはり絶品。

  10 曲目「Aria Pesante(Heavy Air)」(3:57) アーバンなフュージョン風ポップス。 ソプラノ・バリトン両サックスとヴォーカルをフィーチュアしつつ、ピアノ、ベース、ギターによるリズムの歯切れよさも印象的。 終盤の静かな盛り上がりがいい。

  11 曲目「Consapevolezza Parte 1(Knowledge Part 1)」(3:25) ギターが主役の落ちついたジャズロック・ナンバー。 こんなにいい音ならヴァイオリンに負けずもっと弾いて欲しい。 最後のユニゾンはいかにもこのグループらしい音。

  12 曲目「Sagra(Festival)」(3:06) 緊迫感あふれるジャズロック・ナンバー。 煽り立てるような緩急の落差の中に強い生命感が躍動する。 RETURN TO FOREVERBRAND X に通じるテクニカル・アンサンブル。 痛快。

  13 曲目「Consapevolezza Parte 2(Knowledge Part 2)」(1:15) Parte 1 はギターが主役だったが今度はヴァイオリンが主役。 短いが柔らかな音色のヴァイオリンがテーマを優美に奏でる。

  14 曲目「Rinuncia(Renunciation)」(2:52) 驚きのイタリア語ヴォーカルによるウエスト・コースト・ロック。 70 年代前半のイタリアン・ロックの濃厚な味わいに一陣の涼風が吹く。 ギターはリラックスしたプレイである。 ドラムスも大活躍。 普通のロックもうまいのよという見本。

  15 曲目「Marilyn」(2:45) ピアノ・ソロをプロローグとエピローグに配しメインにサックス、エレクトリック・ピアノ、ドラムスのアンサンブルをすえた作品。 ピアノはごく短いが絶品。 中間のアンサンブルはドラムスがひたすら叩き捲くる脇でサックスとエレクトリック・ピアノがリラックスした演奏を見せる。 ドラムスがなければ美しい小品。 ひょっとするとドラム・ソロをすこしお化粧した曲なのかもしれない。

  16 曲目「Terminal」(2:21) しなやかなテーマをもつ小品。 ヴァイオリンとギターのユニゾンはたおやかなメロディに弾性を与えており、えもいわれぬ味わいをもつ。 やはりこのヴァイオリンの存在がこのグループの魅力の大きな部分を占めていることを再認識。 素直にメロディと音の響きを味わえるフュージョン小品である。 ドラムスは少し控えめか。


   いわゆるジャズロックから軽めのフュージョン、歌ものまでさまざまな作品を詰め込んだアルバム。 短い曲も多いのでヴォリューム感はさほどでないが、一曲のテンションの高さと詰め込まれた音の量はかなりのものだ。 特にハイテクで突っ走るショート・ナンバーが強烈。 フュージョン風のリラックスした曲でもメロディに身を任せていられる時間は短く、すぐに壮絶な展開に翻弄されるか、次の曲の超絶ユニゾンにぶちあたることになる。 爽やかさを感じさせる音にもかかわらず、ハイ・テクニックなモチーフを次々に繰り出すことによって独特の緊張感が生まれている。 エレクトリック・ピアノやピアノによる情感豊かなプレイの味わいはほぼ一作目と同じなので、よけいに他の面が目立ってくる。 やはり、どちらかといえばハイパー・テクニック志向へと重心が移ったのではないだろうか。 目の醒めるようなメロディは少ないものの、全体的な聴き応えは一作目に劣らない。 テーマで前後をはさむような組曲風の構成を散りばめるところも面白い。 やはり傑作だろう。

(VM 005)

 Vicolo
 
Claudio Montafia clavinet on 1, piano on 1, flute on 1,4,5(solo),6, guitar on 3,9,10
Gianni Cinti soprano sax on 1,4,10
Marco Gallesi bass on 3,4,5,6,7,9,10, fletless bass on 1,2,8
Giorgio Diaferia drums, percussion
Marco Cimino piano on 2,6,7, Arp 2600 on 2,7, cello on 3,9,10, flute on 5,8, voice on 7
Marco Astarita percussion on 2,5,6,7,8
Arturo Vitale tenor sax on 2, soprano sax on 2,3,6,7,9, vibraphone on 2
Giovanni Vigliar violin on 3
Aldo Rindone fender rhodes on 3,10, piano on 4,5,8, mini moog on 5,6,8,9, electric piano on 9, Arp 2600 on 10
Gigi Venegoni guitar on 6

  76 年発表のアルバム「Vicolo」。 ヴェネゴーニら ARTI E MESTIERI の主要メンバーが脱退後に集結した新グループ「ESAGONO」の唯一作。 このメンバーが、そのまま 79 年の ARTI E MESTIERI 再編へと向かう。 内容は、サックス、フルート、ヴァイオリンをフィーチュアしたジャズロック。 前グループの延長上の作風であり、ほのかにエキゾチックなメロディを、惜しみないテクニックで水際を渡る風のように涼しげになめらかに綴ってゆく、あのスタイルだ。 ヴァイブなどパーカッションも要所でソロやテーマを彩っている。 ファンキーなフュージョン調も見せるが、管弦のほかにキーボードがカラフルでファンタジックなサウンドに大きく貢献しており、そこから生れるロマンやスリルはプログレッシヴ・ロックのものだ。 もちろんイタリアものらしい長閑さもある。 テーマは主としてフルート、サックス、キーボードが中心となり、ギターは出番を抑えられている。 逆に、エフェクトを使って前面に出るフレットレス・ベース、手数全開のドラムスなど、リズム・セクションの主張は強い。 技巧を素朴で爽やかな開放感の演出に向けてまっすぐに発揮できるところが特徴である。 タイトル曲は再編 ARTI の作品「Quinto Stato」にも収録された。 クレジット上の最終曲 10 曲目はタイトル曲のエピローグ。 ややチープな製作であることさえ除けば、出色のジャズロック・アルバムといえる。
   ジャケット写真は再発 CD のもの。 作曲は一部以外はすべてマルコ・チミノ。 プロデュースはマルコ・チミノ。

  「Five To Four」(4:37)5 拍子のテーマがキャッチーなフュージョン。 サックスのテーマをリズミカルなクラヴィネットが支えるソフトなファンキー・タッチである。 フルートややわらかなファンタジーの味わいなど、「Raindances」期の CAMEL を思わせるところもあり。 録音のせいかエフェクトのせいか、サックスの音がにじむ。

  「Serpento Piumato」(4:37)シンセサイザー、サックスのリードするジャズロック作品。 ソプラノ・サックスのつややかな響きがまさしく ARTI 風な一方、こぶしの効いたテナー・サックスはフリー・ジャズ的である。 ガレシのフレットレス・ベースのプレイはサックスをバックアップ、オブリガートしてしっかりと支える。 展開は両サックスがリードし、ヴァイヴとマリンバがいい感じで余韻をふくらませる。 はねないリズムとベースのリフのせいでアブストラクトな印象の作品だ。

  「Dedalo E Icaro」(5:32)ヴァイオリン、ギター、シンセサイザーをフィーチュアした、スリリングかつ涼しげな開放感もある、きわめて MAHAVISHNUARTI 風の作品。 ヴァイオリンが主役のユニゾンのテーマがカッコいい。 エレキギターが初お目得。 ARP シンセサイザーのソロは BRAND X そっくり。 ディアフィリアはキリコばりのドラミングで活躍する。 刻むだけでなく、サックス・ソロのバッキングのような大きいノリの仕切りもいい。 後半、ヴァイオリンとともにキーボードを相手に大バトルするフルートがなぜかクレジットにない。 ヴァイオリンは、オリジナル・メンバーのジョヴァンニ・ヴィグリアがつとめる。 痛快な傑作。

  「Diatomea」(6:40)弦楽カルテット入りのスリリングなジャズロック・チューン。 緊張感あるフルートとメロディアスなサックスのコンビネーションの妙。 いわば、リズムを強調した熱っぽい初期 RETURN TO FOREVER であり、メローで甘めの ZAO

  「Arena」(5:45) エレクトリックかつファンタジックな HAPPY THE MAN を思わせるジャズロック。 しかし、緻密でエネルギッシュなフルートのプレイやエレクトリック・ピアノのソロに田園風の心地よい湿り気とおおらかさがあり、アメリカの音楽との味わいの違いがある。 ディアフィリア作曲。

  「Araba Fenice」(8:24)西アジアの夜の涼風のように心地よいミドルテンポのジャズロック。 神秘的なムードがあり、謎めいたパッションもある。 パーカッションのビートにのせたミステリアスなフルートをフィーチュア、ヴェネゴーニのアコースティック・ギターがオブリガートで支えてゆく。 中盤はベースとサックス、キーボードが睦みあうようなアンサンブルをなす。 後半は硬派なジャズロックと化し、キレのあるリズムの上でエレクトリック・ピアノ、シンセサイザー、ギター、サックスらが華麗なソロの応酬を繰り広げる。 ガレシとチミノ共作。

  「Maya」(4:13)サックスをフィーチュアしたロマンティックなフュージョン。 シンセサイザーの華美なサウンドがギリギリ下品になっていない。

  「Niño」(4:15)シンセサイザーとフルートをフィーチュアしたテクニカル・メロー・ジャズ。 エレクトリック・ピアノのバッキングがいい。 変幻自在のベースにも注目。 ディアフィリア作曲。

  「Vicolo」(4:06)ガレシとモンタフィア共作。

  「Anaconda
  
(UM 101 / ARTIS 9011)

 Rumore Rosso
 
Max Aimone drums, gongsGigi Venegoni bass, guitar, percussion, vibraphone, piccolo, steel drums, voice
Luca Francesconi electric pianoPietro Pirelli percussion, symbals, conga, vibraphone
Ludovico Einaudi electric piano, clavinetCiro Buttari percussion, piano, sitar, voice, drums
Claudio Pascoli soprano saxMaurizio Gianotti tenor sax
Roberto Possenaini bassClaudio Montabin flute
Francesco Revelli fluteArtuzo Romano flute
A.R.P 2600 ARP synth

  77 年発表のアルバム「Rumore Rosso」。 ARTI E MESTIERI を脱退したジジ・ヴェネゴーニが結成した新ユニット「VENEGONI & Co.」の第一作。 グループというよりは、数多くのミュージシャンを巻き込んだレコーディング・ユニットと思われる。 内容は、民族楽器、パーカッション、アコースティック・ギターを多用した、フォーキーでライトウェイトなジャズロック。 爽快感あるテーマをほのかなエキゾチズムを漂わす音を散りばめたアンサンブルでリズミカルに歌い上げている。 ARTI E MESTIERI と同じで、テクニカルだがスリルよりも溌剌としたみずみずしさが感じられる。 余裕があるといってもいい。 軽快さはフュージョンの軽さではなく、フォークダンスのノリの良さからくるというべきだろう。 ジャジーな中にフォークっぽさをうまく導き入れている管楽器群の存在が大きい。 また、ソロをフィーチュアするいわゆるジャズ・スタイルではなく生き生きと反応よく離合集散するアンサンブルで、カラフルなイメージを描いている。 アレンジはきめ細かく、場面をリードする楽器の脇にもキーボードやパーカッションらの音が巧みに配されて、音楽を立体的にしている。 また、それぞれに走りながらも互いにやり取りが成されていて、そのチームワークと呼吸のよさが心地よい。 全体に演奏は軽快にして安定感があり(特に自由闊達にフィルやロールで迫るドラマーはかなりのテクニシャン)、ポリリズミックな変拍子での進行すら小気味よさと人懐こさが先行する。 ARTI E MESTIERI の作品のアレンジや、デメトリオ・ストラトスばりの重厚なヴォイス・パフォーマンスもあり。 この時期のメイン・ストリームの音を意識しつつ、イタリアン・ロックの牧歌調と第三世界の音による人間味あふれるジャズロックの佳作。 70 年代中盤以降の P.F.M はにもかなり接近していると思う。

  「Coesione」(5:19)「長閑なフュージョン」というあり得ない作品。
  「Danza Della Mutazione Perenne」(4:17)多声のマドリガルも盛り込んだ GENTLE GIANT ばりのテクニカル・チューン。しかし一貫して愛らしくにぎにぎしい。
  「Libertà Definitiva」(6:05)P.F.M に通じるテクニカル・フォークロック。ダンサブル。ヴェネゴーニのリズム・ギターが冴える。
  「Memoria」(3:30)ARTI+MESTIERI の作品の翻案である変拍子チューン。 ミニマリズムの湛える幻想。
  
  「Ubud」(2:52)小洒落たフォーク・フュージョン。
  「Positivo E...」(3:45)ダイナミックなリズム・セクションがドライヴするハイトルクのエンジンのようなエネルギーを感じる作品。
  「Coda Tronca」(1:04)マイルス・ディヴィス的な小品。前曲のエピローグ?
  「Libertà Provvisoria」(4:37)スティール・ドラムス、ヴォーカリゼーションをフィーチュアした序章から一気に沸騰するテクニカル・チューン。シンコペーションが気持ちいい。 技巧的でも内にこもらず突き抜ける感じがいい。
  「Cuica」(4:15)クイカのキュルキュルいう音(クインシー・ジョーンズの Soul Bossa のあれ)を生かしたラテン・アフロ・フュージョン。
  「Morti Di Ideologia」(3:16)
  
(CRAMPS 5205 503 / 522 653-2)

 Sarabanda
 
Marco Astarita percussion, cuica, handclap
Ciro Buttari percussion, vocals
Giovanni Vigliar violin
Gigi Venegoni guitar, bass, 12 string, mandolin
Marco Cimino cello
Ludovigo Einaudi piano, ARP odissey, Solina, synthesizer, Fender Rhodes, handclap, percussion
Beppe Sciuto drums, percussion
Paolo Francini bass, percussion
Gualtiero Gatto handclap
Marco Bonino chorus

  79 年発表のアルバム「Sarabanda」。 ヴェネゴーニの新ユニット「VENEGONI & Co.」の第二作。 内容は、パーカッション、アコースティック・ギターを多用し、シンセサイザーで的確にアクセントした WEATHER REPORT 系ジャズロック。 時にデミトリオ・ストラトスを思わせる民謡風のスキャットも用いたエキゾチックな舞踏音楽の音の密度を上げて加速、なおかつメロディアスで叙情的なシーンも現れる個性的な音楽である。 スリーヴ内の写真にも、数多くの民族楽器らしきものが並んでいる。 民族ものというとリズムに重きをおいた作風という印象があるが、本作はリズミカルな面と「Tilt」で見せた豊かな歌心のあるメロディと和声が絶妙にブレンドしている。 同時期の P.F.M と同じく、英米の影響を消化した後に、再び自らの足元を見直して作り上げた音楽という見方もできそうだ。 流行に敏感でスタイリッシュだがチャレンジングな心意気も豊麗なジャズロックである。
   個人的には、シンセサイザーの使い方が気に入っており、かなり好きな作品。 音楽はともかく、内ジャケットの写真は、WEATHER REPORT をパクリ過ぎ。

  「Mezzogiorno」(4:45)ムニエラ風のリズムによるアップテンポの開放感あるジャズロック。 シンセサイザー、ギター、ヴァイオリンが連携して螺旋を巡るように登ってゆくテーマがいい。 P.F.M の「Celebration」を思わせる楽しげで痛快な作品だ。 ギター・ソロはしなやかでキレキレ。

  「Opa」(9:08)ほんのりとニューエイジ・ミュージック風の作品。 アコースティック・ギターとスティール・ドラム風のキーボードによるサード・ワールド・フュージョンである。 クイカなど民族楽器やヴォーカル、スキャットもフィーチュア。 アコースティックなパーカッションとシンセサイザー・パーカッションのブレンド具合も聴きもの。

  「Balon」(5:16)民族系打楽器を大幅に導入した、さらに第三世界志向の作品。奏者ほぼ全員がパーカッションまたはパイプ担当。 口笛風の涼しげなテーマが印象的。

  「Sarabanda」(18:38)シンセサイザーと民族パーカッションがリードするリラックスしたオムニバス風ジャズロック大作。 いろいろなテイストのアンサンブルを色彩豊かに繰り広げて飽きさせない。 ここの「リラックス」は、アメリカ風のイージーな脳天気さではなく、素朴で真面目な生活や人生を送るための古来の知恵からきている穏やかさである。 後半のスペイシーなキーボードが活躍するファンタジックなシーンが特にいい。
  
(CRAMPS 5205 504 / EDEL 0136562CRA)

 Quinto Stato
 
Furio Chirico drums, percussion
Marco Cimino keyboards
Marco Gallesi bass
Claudio Montafia guitar
Gigi Venegoni guitar
Rudy Passuello vocals
Arturo Vitale sax, clarinetto, vibraphone

  再編後の 79 年発表の第三作「Quinto Stato」。 開巻劈頭パンチのあるヴォーカルが唸り始めてビックリ。 実は第二作から三年の間にグループは解散状態にあり、本作は新メンバーを迎えた再結成作ということになる。 キーボードは、ベペ・クロヴェラから ERRATA CORRIGE 出身のマルコ・チミノに交代、ジジ・ヴィネゴーニも参加しているが、オープニング一曲で弾いているのみであり、正ギタリストの座はクラウディオ・モンタフィアヘ譲っている。 モンタフィアは、作曲も含め完全にヴィネゴーニの役割を引き継いでいる。 ヴォーカリストとして、ルディ・パッスエロも新加入。 これらから、新生グループはフリオ・キリコを中心とした編成といえるだろう。
  サウンドは、前作のフュージョン路線を踏襲しており、さらにリラックスした雰囲気になっている。 イタリアン・エキゾチズムともいうべき特徴は、インストゥルメンタルよりもヴォーカル曲に集約されたようだ。 演奏面では、キーボードの比重が上がり音の厚みが増したものの、ヴァイオリンとギターによるスリリングなアンサンブルの不在が強く意識される。 またキリコはスタイルを変えており、以前ほど神経症的に細かいロールは見せない。 全体に、第一作の頃のカラーが薄まっているといえる。 技巧的にしてバランスのとれたフュージョン・グループへと変貌した、といっていいだろう。 こうなると独自色をどうだすかがポイントであり、どうやらそれが存在感抜群のヴォーカル曲らしい。 確かに、エキゾチックな個性を一手にひきうけたダミ声ヴォーカルには、70 年代前半のイタリアン・ロックを思わせるエネルギーが感じられる。 本作の後、グループはキリコを中心としたプロジェクトと化す。

  1 曲目「Quinto Stato
  2 曲目「Vicolo
  3 曲目「Arterio
  4 曲目「Torino Nella Mente
  5 曲目「Mercato
  6 曲目「D'eesay
  7 曲目「Arti
  8 曲目「Sui Tetti


   地中海のリゾートを思わせるオシャレで涼しげな演奏と、泥臭いイタリアをアピールする歌ものが交互に現れる個性的なフュージョン・アルバム。 初めギョッとさせられるが、次第にニヤリとさせられる内容である。 音楽的なリーダーシップは新ギタリストへ移り、肩の力の抜けるとともにいわゆる普通のフュージョンとしての風合いが強まった。 またこの人のギター、フルートの独壇場も多い。 典型的なフュージョンとして見ても、シンセサイザーによる管弦のようなアコースティック・サウンドが美しいし、フレットレス・ベースとドラムスの活躍も見逃せない。 そして、個性的なヴォーカル存在とどうしても突出してしまうドラムスのプレイが典型的なサウンドにいいアクセントとして機能している。 個人的にはもう少し曲展開が豊富であってほしかった。

(CRAMPS 7243 8 57433 2 0)

 arti+mestieri LIVE
 
Furio Chirico drums, percussion
Beppe Crovella Wurlitzer electric piano, Farfisa & Welson organ
Marco Gallesi bass
Gigi Venegoni guitar
Giovanni Vigliar violin, vocals
Arturo Vitale soprano sax, vibraphone

  92 年発表のライヴ・アルバム「arti+mestieri LIVE」。 74 年トリノでのライヴ録音。 曲目は、未発表曲一曲以外はすべて第一作から。 音質は海賊盤レベル。 それでも尋常ならざるテクニックをもつ演奏家による、迫力満点のパフォーマンスが押し寄せるライヴを疑似体験するには、十分ではないか。 疾走感にあふれつつも、荒々しさよりも豊かに澄んだ歌心が感じられるところがすごい。 圧巻は、壮絶なインプロヴィゼーションと端正なテーマが華麗なドラマを成す「Gravita 9.81」でしょう。 また、オリジナル・アルバム未収録の「Comin' Here To Get You」は、YES 風のヴォーカルと CRIMSON 的叙情性をもち MAHAVISHNU ORCHESTRA にもつながるプログレ大傑作。 全体にメロディアスなヴァイオリンの存在感が大きい。
  本作の内容は、2003 年発表の「Live / 1974-2000」にリマスター、ボーナス追加で再収録されています。(ジャケットは右側) 2000 年のライヴでは、新作、第一作、第二作を中心に演奏されており、特に、旧作品のアグレッシヴな演奏がすばらしい。

  「Strips」(3:44)ミドル・テンポとギター、メロトロンがきわめて初期 CRIMSON に近いニュアンスをもつ。ヴォーカルは英語。

  「Corrosione」(1:28)何気ないタム回しに異常な迫力あり。

  「Positivo/Negativo」(3:14)ヴァイオリン、ヴァイブによる凛としたテーマから、一気呵成の豪快な演奏へ。 ギター・ソロはライヴ・オリジナル。 ここまではほぼ一作目と同じ展開である。ジャズロックというよりシンフォニックなプログレッシヴ・ロックという面を改めて感じる。(後年発表される初期作品集で、その事実が明らかになる)

  「Comin' Here To Get You」(6:24)鋭角的な演奏とサビでぶわっと高まるメロトロンがいかにも英国プログレに通じる佳作。 ヴォーカルは明らかにジョン・アンダーソンを意識。 残念ながらフェード・アウト。

  「Articolazioni」(13:30)緩急自在のアンサンブルによるオムニバス・テクニカル・チューン。 気まぐれ風のようでいて全編にしっかり芯が通っている。 意外なことに、卓越した技巧で奮い立たせてもたせているという印象もない。(ただしドラムスはすさまじいですが) やはりメロディの魅力が大きいのだろう。 この曲の伸びやかなエンディング、大好きです。

  「In Cammino」(4:56)スタジオ盤そのものの序盤にびっくり。

  「Gravita 9.81」(7:29)ケレン味たっぷりのドラミングが味わえる大傑作。スリリングにして豊麗。

(VM 018)


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