FORGAS

  フランスのマルチ・インストゥルメンタリスト「Patrick Forgas」。 SOFT MACHINE にインスパイアされて活動を始め、77 年デビュー。 80 年代は沈黙し 90 年代に MUSEA の配給で復活。 サウンドは、カンタベリー・ジャズロックを基本にフランス人らしい本格的なジャズやポップ・ミュージックを交えた個性的なもの。 「フランスのロバート・ワイアット」。

 L'Axe Du Fou
 
Patrick Forgas drums
Sebastien Trognon tenor & soprano sax, flute
Dimitri Alexaline trumpet, flugelhorn
Benjamin Violet guitar
Karolina Mlodecka violin
Igor Brover keyboards
Kengo Mochizuki bass

  2009 年の作品「L'Axe Du Fou」。 FORGAS BAND PHENOMENA 名義の作品である。 日系らしきベーシストとキーボーディスト以外はメンバーが代わっている。 内容は、ザッパ、カンタベリー系の変拍子ジャズロック。 コントロールされたアンサンブルが静的な一貫した雰囲気を維持し、ヴァイオリンや管楽器、ギターらのメロディアスかつ時にノスタルジックな響きのあるソロが運動のベクトルを決めて演奏が進んでゆく。 多彩な器楽を抱えながらも基本的に明快な音のアンサンブルであり、そこはかないペーソスと現代音楽調の無機性の両方を自然に取り込めている。 トランペットを中心にモダン・ジャズ的な踊り場を確保しつつも、ファズで毛羽立ったメカニカルな反復がメロディアスなテーマへと収束してゆくさまは、きわめて NATIONAL HEALTHSOFT MACHINE 的だ。 ほっとするほどポップでアクセスしやすいプレイやバカテクでシンプルに突っ走るプレイをさらりとはさむことも多く、それらが安易な方向ではなくむしろ全体を整える方向にうまく作用している。 全体としては、知的なアレンジを駆使しながらも、モダン・ジャズや現代音楽ではない近代以前のクラシックに通じる、フォーキーでおだやかな聴き心地がある作品だ。 加えて、ウィットや諧謔よりも、どこか品のいい、それこそエスプリというべき「粋さ」と生真面目さがあるところが英国ものとの違いであると思う。 ピップ・パイル、ヒュー・ホッパー亡き後、INCAHOOTS 不在の間、現代カンタベリーをしばらくの間代表しそうな作風である。 ビル・ブルフォードのような目立ち方でこそないが、ドラムスがしっかりと主張を見せて演奏をリードしている。 英題は「Axis Of Madness」。 NOETRA というフランスの無名グループの作風にも似ています。 主役を張れる楽器が多数あるにもかかわらず過剰な感じがしないのは、バンマス、作曲家のセンスといえるでしょう。 唯一問題があるとすれば、ソロほどはテーマ部に魅力がないこと。 耳に残るテーマがないことで、いろいろと他の粗まで目立ってしまうことがある。

  「La Clef [The Key]」(10:50)ヴァイオリン、トランペットをフィーチュアしたメロディアスかつ微妙な陰影のある作品。 アブストラクトな変拍子パターンとクラシカルなテーマとの配合の妙とその均衡を支えるギターの存在感。

  「L'Axe du Fou [Axis of Madness]」(16:32)緊張感とリリシズムにあふれる好作品。 冒頭のシンコペーションによる表裏の切り替わる 9 拍子が不気味。 攻め込むアンサンブルから弛緩させるタイミングが絶妙。 ファズ・ギターの荒々しい音やフルートを含め、きわめて 70 年代プログレ的な作品といえる。 力作。

  「Double-Sens [Double Entendre]」(13:50)管弦楽器を活かした室内楽風ジャズロック。 クラシカルなタッチとアブストラクトな変拍子パターンとクールでキャッチーなメロディ・ラインが一つになって豊かな音楽になっている。 ジャズにこだわるトランペット・ソロ、終盤の荒々しいワウギター・ソロもカッコいい。 聴きやすさは一番。

  「La 1eme Lune [the 13th Moon] 」(8:24)8 分の 6 拍子がフォーキーなゆったり感とペーソスを生む。 さすらい感やたそがれ感など、北欧ものに近い。


(RUNE 282)

 Cocktail
 
Patrick Forgas drums, vocals, percussion, guitars, orgue d'enfant, boite a musique, bass, synthesizer
Jean-Pierre Fouquey keyboards
Laurent Roubach electric guitar on 1-4,6-8,10
Gerard Prevot bass on 1-8,10
Patrick Tilleman violin on 1,2,10,12
Patrick Lemercier violin on 1,3,4,6,21
Francois Debricon sax & flute on 2,3,7,9,18
Bruce Grant sax on 10
Dominique Godin keyboards & sax on 11
Didier Thibault bass on 11

  77 年の第一作「Cocktail」。 初の作品にして代表作。 MAGMA 人脈含めフレンチ・ジャズロックの大御所を交え、独特のオプティミズムとポップ・テイストを発揮したカンタベリー風の傑作である。 旧 A 面は軽妙洒脱な小品集であり、旧 B 面は Forgas 氏の名刺代わりの代表曲「My Trip」である。この大作は、スペイシーな音響とアグレッシヴな変拍子ビートが目くるめく展開を繰り広げるカンタベリー・ジャズロックの大傑作である。 ボーナス・トラックは 11 曲目以降。 ジャケットは再発 LP のもの。


(MUSEA FGBG 4758)

 L'Oeil!
 
Patrick Forgas synthesizers, vocals, rhythm programming
Patrick Tilleman electric violin
Didier Malherbe wind synth
Jean-Pierre Fouquey keyboards
Laurent Roubach electric guitar

  90 年の第二作「L'Oeil!」。 内容は、デジタルなサウンドを駆使したアップトゥデートなカンタベリー系ジャズロック。 テクノなダンス・ビートとキーボード、ヴァイオリンらのけばけばしいエレクトリック・サウンドをイコライジングしたニューウェーヴ風ヴォーカルが貫く、クールで洒脱な音楽である。 カンタベリーを故郷としつつも、時代の音にも目配り怠りない。 いわゆる「フュージョン」といっていい演奏もあるが、決定的に異なるのは、過剰に華美なサウンドと、そこから立ち上る猥雑で耽美なタッチ、さらに変拍子反復ビートによるサイケデリックな酩酊効果である。 シンセサイザーはドラムスとともにデジタル・サウンド特有のチープさを押し出しつつも、華やかでグラマラスなシーケンス、ループを構成し、エレクトリック・ヴァイオリンは、流れるようななめらかさを演出、ロックギターらしいオーソドックスなプレイのギターが全体に浮つき気味の音の芯として機能する。 このギターの存在は、本作品がプログレ、ジャズロックというくくりにあるための重要なファクターである。 もちろんシンセサイザーもバッキングだけではなくソロ・パートでも活躍している。 選任キーボーディストによるソロはかなりカッコいい。 また、ドラムスは本人のプレイだと思うが、打ち込みも併用しており、強靭なデジタル・ビートが基本である。 そして、ファルセット気味のヴォーカル・スタイルは、間違いなくロバート・ワイアットを意識している。 眩暈のしそうな色彩感あるサウンドやオーソドックスながらも安定した技巧のあるギターなど、GONG に通じる面もある、と思っていたらデディエ・マレルブがしっかり MIDI Wind で参加して、エキゾティックなアクセントを付けている。 他のメンバーが十年以上前の「Cocktail」のときと大きくは変わらないところからして、Forgas 氏の音楽性に大きなブレはないようだ。 世が彼のセンスに追いついたというべきか。
   エレ・ポップ風ジャズロックというユニークな境地を開発した佳作である。 アルバム・タイトルは、ジャケット通り、「目」。 また、本アルバムは、ロバート・ワイアットに捧げられている。 プロデュースは、アラン・ジュリアックと本人。

  「Secrets Du Tzar」(4:37)幻惑的なエレクトリック・サウンドを駆使しつつも、エスプリある変拍子ジャズロック。 デジタル・シンセサイザーによるビートときらびやかなフレーズが散りばめられて、後半はエレクトリック・ヴァイオリンがロマンティックに歌い上げる。

  「Machine A Bruit」(5:12)テクノ系エレポップの秀作。怪しさ満載のヴォイス。オブリガート、バッキングでギターが活躍し、後半はけたたましいシーケンスをものともせずにしなやかに独走する。

  「Jazz A La Tronconneuse」(4:55)エレアコ・ギターをフィーチュアした 8 分の 6 拍子の歌ものジャズロック。 後半はギターとヴァイオリンが華麗な見せ場をつくる。

  「Bouffe Industrielle Comedie」(6:08) GONG あるいは ANGE 風のねじれた変拍子歌ものロック。 超絶的なギター・オブリガート、奇妙なシンセサイザー・ソロ、変拍子パターンの反復への固執、芝居がかったヴォイスなどカンタベリーの血が濃い。 深刻さと軽妙さの不思議な同居。 エンディングはマレルブによる MIDI パイプ・ソロ。

  「Travlo Bird」(4:57)ソフト・タッチながらスリリングな歌もの変拍子ロック。ストレートな展開がいい。バッキングのデリケートなシンセサイザー、そして小気味よく切り込み突っ走るギター。

  「Magic Decadence」(5:08)ギターが唸りを上げるも軽妙な言葉遊び風のヴォーカルとスペイシーなキーボード・サウンドが世界をかき回す。後半はヴァイオリンが加わって、小気味いいギターのカッティングとともにしなやかさとスリルが倍増。 デカダンスの趣は GONG と同じ。

  「Paris Circus Band」(4:54)ワイルドで怪しい変拍子ロック。英語で歌っているようだ。オーソドックスなロック・ギターが新鮮。

  「Electro-Shirt」(4:37)変拍子テクノ・ポップ。これも英語のヴォーカル。パーカッション系シンセサイザーのサウンドが懐かしい。後半はシャープなインストゥルメンタルへ。

  「Regard Interieur」(5:23)センス溢れる打ち込みジャズロック。ロマンティックかつクール。

  「My Trip」(6:28)ボーナス・トラック。FORGAS のトレードマークとなる初期作品のオルタネート・テイク。オルガンの音や緩急自在の展開がカンタベリー風。

  「ZE(Medley)」(9:45)ボーナス・トラック。フェードイン/フェード・アウトで綴られるメドレー。基本は変拍子ジャズロック。

(MUSEA FGBG4016.AR)

 Art D'Echo
 
Patrick Forgas synthesizers, vocals, rhythm programming, drums
Jean-Pierre Thirault saxes on 1,2,3,4,5,6 and clarinet on 4
Jean-Pierre Fouquey piano on 2
Jean-Claude Onesta trombone on 3,5
Francis Debricon flute on 5
Lionel Duran acoustic guitar on 6
Ron Meza trumpet on 8
Roger Deroeux synthesizers on 9

  93 年の第三作「Art D'Echo」。 内容は、ジャジーな管楽器をフィーチュアしたダンサブルなエレクトリック変拍子ジャズロック。 テクノ・ポップ、サイケ・タッチをふんだんに取り込んだ、スタイリッシュでけばけばしい音である。 タイトル通り、そのゴージャスさの中にキッチュで退廃したムードもある。 Forgas 本人は、今回も人力/打ち込み両ドラムスと派手なキーボード、ヴォーカルを担当。 ドラムスが本職なだけに変拍子や機敏なリズム・チェンジも積極的かつ、楽曲にフィットする形で自然に取り込んでいる。 クールな 7 拍子のボサノヴァなんてなかなかない。
  前作では、ギターとエレクトリック・ヴァイオリンがフィーチュアされていたが、今回はゲストによる種々の管楽器の存在が音楽的なキーとなっている。 ゴージャスでグラマラスでキレもあるエレクトリック・シーケンスをバックに、アナログな息遣いのある管楽器が、時になめらかに、時にパワフルに、また時に切々と歌心を発揮している。 サックスのジャジーなソロとシーケンスという組み合わせはかなり珍しく、けたたましくメカニカルなループと管楽器によるレガートでエモーショナルな表現のコントラストは本作品の鑑賞のポイントとなるだろう。 80 年代の BRUFORD と同じアプローチをフレンチ・エスプリのテイストで試みたデジタル・カンタベリーである。 本作品は、アンドレ・ブルトンに捧げられている。傑作。

  「Revolte」(4:28)いきなりグラマラスなサウンドと挑戦的な変拍子をぶつけてくる。テナー・サックスをフィーチュア。

  「1920-1930」(4:36)前半はキーボード・アンサンブルによるシリアスにしてネジの外れたインストゥルメンタル。 中盤からはスペイシーなソプラノ・サックスをフィーチュアした変拍子ジャズロックとなる。

  「Fakir」(4:40)アラビアン・ナイト風のファンタジックなシンセサイザー・アンサンブルとデカダンなヴォイス。 デディエ・マレルブを思い出させる中近東でメランコリックなソプラノ・サックス・ソロ、トロンボーンをフィーチュア。 エンディングのリズムレス・パートは、すわメロトロン?と思わせる展開。

  「Plus Fragile Qu'une Poubelle」(6:06)5 拍子、3 拍子のリフで攻めるパワー・チューン。基本は 5 拍子。 爆発的なサックス、クラリネットをフィーチュア。フリージャズ的高揚をクラシカルなアンサンブルで受けとめる、リズムレス・パートの暗鬱なロマンチシズムなど、プログレ的興奮度は高い。 ヴォーカルはワイアットによく似ている。

  「Cache Ta Peine」(5:00)レコメン系カンタベリーの佳作。クールなフルートが活躍。後半は、スキャット、フリーキーなソプラノ・サックス、トロンボーンをフィーチュアし、けだるく迫る。5 拍子。

  「Bossa Bergolia」(4:45)4+3 拍子のボサノヴァ調ジャズロック。序盤でアコースティック・ギターをフィーチュア。明快なテーマが心地よい。後半は、テナー・サックス・ソロをフィーチュア。全編通じてシンセサイザー・ベースが適切な絡みを見せる。

  「Metapsychique」(4:04)大胆なブレイク、ストップを多用した、ポップな 7 拍子ジャズロック。 ギターも使用している模様。 明るい HELDON

  「Passe A Ton Vision」(8:26)マイルス風のトランペットを大きくフィーチュア。 挑発的なトランペットをキッチュなデジタル・シーケンスが取り巻く、スペイシーかつスリリングな「デジタル・クロスオーヴァー」。 悠然と広がる終盤の展開がプログレ的。

  「Poltergeist」(5:25)ドラム・ソロ+シンセサイザー。 録音クレジットがここまでの作品と異なるので、ボーナス・トラックか。

  ボーナス・トラック「My Trip」(19:20) 77 年録音の第一作「Coctail」より。

(MUSEA FGBG4074.AR)

 Extra-Lucide
 
Patrick Forgas drums
Mathias Desmier guitar
Juan-Sebasitien Jimenez bass
Gilles Pausanias keyboards
Denis Guivarc'h sax

  99 年の作品「Extra-Lucide」。 FORGAS BAND PHENOMENA 名義の第二作。 内容は、NATIONAL HEALTH を祖に Hugh HopperPip PyleINCAHOOTSEARTHWORKS など近年におけるカンタベリー系作品の一脈につながるジャズロック。 70 年代のカンタベリーのスタイルを継承しつつ、すべてのパートにおいて演奏技術をアップグレードしたようなパフォーマンスである。 明快なテーマを時にさりげなく時に果断に変拍子で支える作風を基本に、いわゆるジャズ、ジャズロック的な音だけではなく、ハードロックやシンフォニックなプログレに迫るような表現も盛り込まれている。 サックスは、女性的というか独特の細身の音ではあるがフレーズを歌える名手であり、機敏にアンサンブルの前面を守る。 フリー・ジャズ的な表現よりも、モダン・ジャズ系、それもメローな表現が主である。 ただし、音色のせいかプレイがやや一本調子に感じられる。 ギタリストは現代的な超技巧の持ち主であり、アラン・ホールズワースを思わせるへヴィ・ディストーションによるレガートな速弾きからフィル・ミラー風の毛羽立ったプレイまでを適宜放ってくる。 HM 風のパワーコードやファズをかけたアルペジオなど、最初は意外に聴こえるところも、すぐに往年のカンタベリーのモダンなデフォルメと分かる。 キーボーディストは基本的に裏方に回っているが、出るところでは出てしっかりと目立っている。 キレのいいオルガンがうれしい。 音色がチープなのは何かを狙ってのことかそれとも経済的事由か。 何にせよ叙情的でシンフォニックなテイストは、このキーボードのプレイが担っている。 主役のドラマーは、オーソドックスにしてアンサンブルをゆったり支える名手。
  全体に新奇な感じはないが、がっちりした運動性と意外な小技が利いていて、楽しく聞ける作品である。 なお、Forgas 氏は 20 世紀の初頭のパリに強く惹かれていて、本作品も、パリにある巨大観覧車(前作や三作目のカヴァーに使われている)の下で行われるお祭り(縁日?)からインスパイアされているそうだ。

  「Extra-Lucide」(7:05)5 拍子や 7 拍子で力強く進むアッパーなジャズロック。 変拍子リフに加えて、適度にキャッチーなテーマや歪んだギターなどカンタベリー丸出し。 ジャンルにこだわらずさまざまな種類の音を放り込むところが、プログレッシヴであり、フュージョンである。 スキャットがあってもよかった。

  「Rebirth」(5:24)メローなサックスを 6+3 拍子のリフで支える。歪んだような優美さ。

  「Pievre A La Pluie」(19:24)スペイシーなキーボードとギター、溌剌と躍動する表現とへヴィな音、メランコリックな表現を目まぐるしくゆきかう、ある意味サイケデリックなソロ合戦大作。メローなサックス(中盤のソロではなぜかコルトレーンと化すが)のベールを取ると、往年のプログレがそのまま現れる。時おり現れる幾何学的なパターンを描くようなアンサンブルが、いかにもカンタベリーの子孫らしい。

  「Annie Reglisse」(8:35)メロトロン風ストリングス・シンセサイザーが耳を惹きつけるシンフォニックなジャズロック。得意のなじみやすい変拍子テーマ。全体にシンセサイザーの音がいい感じだ。芸風は異なるが、MINIMUM VITAL と同じく「憧れ」の音を追いかけている。 名曲。

  「Villa Carmen」(4:58)ピアノ、サックスによる格調高いクラシカルなデュオ。 Forgas 氏によるこういうチェンバー風の作品ももっと聴いてみたい。

(CMPL 002)

 Soleil 12
 
Patrick Forgas drums
Sylvain Ducloux guitar
Igor Brover keyboards
Kengo Mochizuki bass
Frederic Norel violin
Stanislas De Nussac tenor & soprano sax
Denis Guivarc'h alto sax
Sylvain Gontard trumpet, flugelhorn

  2005 年の作品「Soleil 12」。 FORGAS BAND PHENOMENA 名義の第三作。 内容は、ヴァイオリン、サックスによるふくよかでメロディアスなテーマを中心にしたジャズロック・インストゥルメンタル。 ライヴ録音のようだ。 華やかな音色のヴァイオリンや管楽器が前面でアンサンブルをリードする。 多彩な音色の多旋律によるアンサンブル構成や変拍子の反復パターンが交錯する展開もあり、フュージョンというよりはカンタベリー系プログレだろう。 メロディアスなテーマの裏にアカデミックな実験精神が見て取れる。 管楽器もヴァイオリンもソロを振られたところでは、思い切り自由な発想で溌剌と音を放っている。 トランペットが高鳴ってギターとベースが唸りをあげると、空気は 70 年代の英国ジャズロックと同じ色になってくる。 他にも、ナチュラル・ディストーションでレガートに高速プレイを決めるギタリスト(個人的にはこのギタリストのプレイで惹きつけられた)、オルガン、エレピを軽やかに操るキーボーディストなど、テクニシャン達が短くもピリッとしたプレイを散りばめてくる。 全体に演奏には余裕がある。 アルバムの中心となる 34 分の超大作では、その技巧を活かした躍動感あるアンサンブルを披露するが、いわゆるジャズのアドリヴ合戦ではないストーリー性が強く感じられる。 カンタベリー・マインドのエッセンスをつかんだ Forgas 氏の作曲力に敬服だ。 明朗で溌剌とした演奏が次第に圧迫感を増してくるところは、いわば陽性の MAGMA だ。 またイージー・リスニングのように明快なテーマながらも知性とウィットあるひねりを感じさせるところは、EARTHWORKS にも近い。

  「Soleil 12」(9:22)
  「Coup De Theatre」(34:47)
  「Eclipse」(8:16)
  「Pieuvre A La Pluie」(18:18)

(RUNE 218)


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