GILGAMESH

  イギリスのジャズロック・グループ「GILGAMESH」。 72 年 ASSAGEI、ジェイミー・ミューアとの SUNSHIP を経たアラン・ガウエンらが結成。 孤高のイメージの強いガウエンの美しいキーボードを中心としたジャズロック・サウンドはマイナーながらも HATFIELD AND THE NORTH とともにシーンを活性化し、NATIONAL HEALTH に向かう。 75 年解散。 77 年に再編し、二作目を発表。

 Arriving Twice
 
Alan Gowen piano, electric piano, synths
Phil Lee guitars
Mike Travis drums
Neil Murray bass on 1,2
Peter Lemer electric piano on 3,4
Steve Cook bass on 3,4
Jeff Clyne bass on 5,6,7,8

  2000 年発表のアルバム「Arriving Twice」。 デビュー作収録へ至る道のりを示した驚きの発掘音源。 NATIONAL HEALTH で再合流するニール・マーレイや元 CMU のスティーヴ・クックなど、グループに加わるもデビュー作に音を残さなかったメンバーの演奏を初めて耳にできる。 また、ジェフ・クライン以下四人の確定メンバーによるアウト・テイクも興味深い。 楽曲は、一部未発表の作品も交えるが、ほぼデビュー作のレパートリー。 ユーモラスな決めのフレーズをもつ「Phil's Little Dance」やタイトル曲など、このグループの個性を強く訴える作品の収録がうれしい。

  「With Lady And Friend」(4:25) 73 年録音。第一作収録。
  「You're disguised - Orange Diamond - Northern Gardens - Phil's Little Dance - Northern Gardens」(17:52) 73 年録音。
  「Island Of Rhodes - Paper Boat - As If Your Eyes Were Open」(6:52) 74 年録音。第一作収録。
  「Extract」(9:27)74 年録音。 HATFIELD AND THE NORTH とのダブル・カルテットによる演奏用の作品。
  「One And More - Phil's Little Dance - World's Of Zin」(9:11) 75 年録音。第一作収録。
  「Arriving Twice」(1:41) 75 年録音。第一作収録。
  「Notwithstanding」(4:21) 75 年録音。第一作収録。
  「Lady And Friend」(4:06) 75 年録音。第一作収録。

(RUNE 140)

 Gilgamesh
 
Phil Lee guitar
Alan Gowen acoustic & electric piano, clavinet, synthesizer, mellotron
Jeff Clyne bass, contrabass
Mike Travis drums
Amanda Persons vocals

   75 年発表の第一作「Gilgamesh」。 グループ結成以来メンバー交代を重ね、ようやく最終ラインアップをまとめてアルバム・セッションへとこぎつけたようだ。 メンバーは、元 NUCLEUS のベテラン・ベーシスト、ジェフ・クライン以下、フィル・リー、マイク・デイヴィスなどブリティッシュ・ジャズ・シーンの顔ぶれである。
   内容は、多彩なキーボードとジャジーなギターをフィーチュアしたカンタベリー・ジャズロック。 エレガントにして暖かなテーマ、テクニカルにしてユーモアもあるインタープレイ、繊細なアンサンブルがバランスよく配された好作品だ。 エレクトリックのみならずアコースティック・ピアノ、ギターが用いられる場面も多い。 個人的には、丹念な作りこみにもかかわらず、奇抜さに走りすぎず自然な優雅さがあるところがとても気に入ってます。 プログレ・ファンよりも、ジャズ・ファンに新たな世界への窓口としてほしい作品です。
   スキャット以外は全編インストゥルメンタル。 共同プロデュースにデイヴ・スチュアートを迎えている。 シンセサイザーの美しい音色を聴きたくなったときにトレイに乗せるべきアルバムの一つ。

  「a)One And More b)Phil's Little Dance - For Phil Millers Trousers c)World's Of Zin」(10:22) 三部構成の作品。 第一部、ジャジーでまろやかなシンセサイザーとメロトロンのアクセントに導かれて始まるのは、奇妙に角ばったテーマをピアノ、ギターらのユニゾンでたたみかけるように奏でるアンサンブルである。 メロウなサウンドにもかかわらず、スピード感のある、饒舌で無機質でアヴァンギャルドな演奏である。 テクニカルな変拍子ユニゾンもサウンドのせいかどこか穏やかであり、キツすぎない。 ほんの 1 分だが濃密だ。
   第二部は、一転、リズミカルなクラヴィネットが現れて、9 拍子のフレーズを決め、ギターとエレクトリック・ピアノのユーモラスなユニゾンが繰返される。 クラヴィネットの伴奏で、くにゃくにゃとしたムーグのソロが繰り広げられる。 クラヴィネットに呼応するように刻まれるベースの 5 拍子リフもおもしろい。 フレージングにあわせてシンセサイザーのトーンを丹念に調節している。 ピッチ・ベンドも巧みだ。 ユーモラスだがとらえどころの分からない奇天烈な演奏である。 ギターも加わって、ややシャープに形を整えながらも、ホンワカとしたインタープレイが続いてゆく。 5 拍子によるアブストラクトな演奏に暖かみがあるという不思議さ。 9 拍子のユニゾンの決めが、HATFIELDS と似ているのは、興味深い発見だ。 このユーモア感覚はは、カンタベリー・ジャズロック独特のものなのだろう。 (というか、RETURN TO FOREVER の「The Shadow Of Lo」か?)
  後半、第三部と思われるパートは、テンポがゆったりと落ちつき、ソロ・ギターのリードによるメロウなジャズロックである。 歪みある音やベンディングなど一見ロック・ギターのスタイルだが、無骨なポルタメントやフレーズの歌わせ方はジャズ風。 ゆるゆるとささやくギターは、フィル・ミラーのような唯一無二の個性派でこそないが、ナチュラルで素朴な味わいがある。 アマンダ・パーソンズのドリーミーなスキャットがひそやかい付き随い、HATFIELDS との区別が難しくなる。 唯一の違いはロマンティックなアコースティック・ピアノのオブリガートだろうか。 オルガンの響きにもアーティフィシャルなのに人肌の温かみがある。 ピアノの響きは次第に存在感を増し、あたかも長い長いクレシェンドを経るように、アンサンブル全体に重量感と力強さが生まれてくる。 ファンタジックなピアノと素朴なギターの呼応を堪能するうちに、静かにフェード・アウト。
  ユーモラスにしてファンタジックな傑作。 スリリングな序盤で一気に惹き込まれ、これぞカンタベリーといわんばかりのリズミカルなキーボード・プレイに酔いしれることができる。 ガウエンはクラヴィネットとムーグの両手弾きからロマンティックなピアノまで大活躍。 売りは、デリケートでメランコリックな幻想美。 そして、スリリングなはずのユニゾンの決めが、あくまでユーモラスなところもカンタベリーらしい。 アブストラクトでルーニーな展開にも含み笑いのような表情が見える。 後半はムードは一転し、気持ちよく動くベース、華やぐピアノ、表情豊かなギターらによってメロウに迫る。 アメリカ産のラテン風クロスオーヴァー・サウンドと音楽要素は似ているものの、音の触感と総体がつくり出す空気感はまったく異なる。

  「Lady And Friend」(3:44) アコースティック・ギターとエレクトリック・ピアノのデュオによる、夢のように淡くデリケートなイントロダクション。 寄り添う二重唱のようなユニゾン。 突如、ファズの効いたギターとドラムスが雷鳴のように飛び込んでビックリするが、それも一瞬のできごと、すぐに密やかなアンサンブルに還る。 ゆったりと時を刻みどこかへ導こうとするベースのリフレイン、エレクトリック・ピアノは一つ一つの音を静かに置くように響かせ、それに合わせてエレクトリック・ギターもささやくように歌う。 タムタムもこっそりと刻まれる。 眠りを誘うようなアンサンブルだ。 ギターのひと声をきっかけにビートが戻り、ゆったりとしつつも、目の覚めた、締まった演奏が始まる。 ギターは悠然と歌い、ピアノの和音が重々しく響く。
   密やかな愉悦を彩る幻想的な小品。 ロマンチックな序奏を吹き飛ばすハードなギターのキメは一種のイニシエーションとして機能し、そのコントラストによって以降のファンタジー感は一層強まる。 これ以上続くとたゆとうような美しさに気を失いそうになるところで、ギターとピアノのアンサンブルがタイミングよく動き出す。 中途半端なのかもしれないが、美人の横顔を眺めていて現実を忘れていた、そんな時間を思わせる作品だ。

  「Notwithstanding」(4:47) RETURN TO FOREVER ばりのギターとエレクトリック・ピアノによる挑戦的なテクニカル・ユニゾンが決まるイントロダクション。 追い込むようなリズムの上でギターとエレクトリック・ピアノがやわらかく呼応するも、再びワイルドにユニゾンの決め、そしてメロトロン・ストリングスがごーっと吹き上がり、ピアノが重々しいフレーズを放ち、ユニゾンを叩きつける。 まなじりを決するかのような、めまぐるしい展開だ。 ピアノをきっかけに一瞬でドラムスが消え、ベースが何かを待ち受けるようにリフを刻む。 フェードインするドラム・ロール、そしてエレクトリック・ピアノ伴奏、ジャジーなソロ・ギターでほんのりファンキーな演奏が始まる。 エレクトリック・ピアノとギターがやや歯切れの悪い即興風の応酬を繰り広げるも、ベースはそ知らぬ顔で 5 拍子のリフを刻んでいる。 偏屈なエレクトリック・ジャズである。 エレクトリック・ピアノは即興風のプレイを矢継ぎ早に打ち出し、ギターも奇妙なノイズで攻め立てる。 ワウも使っているようだ。 ユーモラスなユニゾンでキメ、そして、突如凶暴なファズ・キーボードが変拍子のリフが打ち出されて、世界のネジを巻き始める。 秩序を失いかけた世界で、ドラムスと弦を緩めたようなギターによるフリー・フォームの演奏が繰り広げられる。 ノイズが渦を巻き、やがてフェード・アウト。
  アグレッシヴなフュージョンと思いきや、サイケデリックな感覚が冴えたアヴァンギャルドな作品である。 挑発的なユニゾンや即興風のインタープレイなどが次々と盛り込まれ、アイデアと勢いではち切れそうだ。 変拍子ボトムでのインプロが発展し、結局はノイズと脈絡を拒否するようなプレイが折り重なる奇妙な展開へと進んでゆく。 互いに無視しあっているようなエレクトリック・ピアノとギターのデュオ、大胆なギター・ソロがおもしろい。 精緻にして若々しい生きのよさもあり、そして何より諧謔味がカンタベリーの血である。 1 曲目の冒頭や本作のオープニングなど、メロトロンは要所で使われている。 作曲クレジットに初期メンバーのスティーヴ・クックの名前がある。

  「Arriving Twice」(1:37) エレクトリック・ピアノとアコースティック・ギターが美しいハーモニーを綾なすイントロダクション。 ベースが演奏にしなやかなモーメントを加える。 重奏へささやきかけるのは、ドリーミーなムーグ・シンセサイザー。 丁寧なドラミング。 エレクトリック・ピアノとアコースティック・ギターのデュオが繰り返され、再びムーグ・シンセサイザーが反応する。
  ガウエンらしいデリケートなキーボードをフィーチュアしたロマンティックな小品。 アコースティック・ギターとエレクトリック・ピアノのソフトな音色が構築する繊細な世界である。 ムーグは絶品としかいいようがない。 HAPPY THE MAN のルーツは、1 曲目のクラヴィネットやここでのムーグではないだろうか。 小さいが抱きしめたくなるような作品である。 代表作だろう。

  「a)Island Rhodes b)Paper Boat - For Doris c)As If Your Eyes Were Open」(6:41) コントラバスがシンコペーション気味の 3 拍子の無表情なリフを示し、オルゴールのようにドリーミーなエレクトリック・ピアノとギターが静かに対話しつつ音を散りばめる。 スネアが跳ねるように刻まれて演奏に推進力が生まれ、エレクトリック・ピアノの示したテーマをきっかけにゆっくりと動き出す演奏。 何かを予感させるスリリングなイントロダクションだ。 最初期の WEATHER REPORTRETURN TO FOREVER の系譜である。 演奏はリセットされて再びベースのリフが刻まれ、エレクトリック・ピアノとギターによる静かな、余韻を慈しむような交歓が続く。 フリージャズの最良のリリシズム、すなわち「Moonchild」のイメージだ。 スネアの小さなロールとともに演奏はふんわりと動き出し、エレクトリック・ピアノとギターの密やかなプレイが続いてゆく。 低音部とドラムスによるアクセントの効きもいい。 印象派の絵画の如き淡い色彩の点描的アンサンブルであり、音楽にしかできない異世界のイメージの提示である。
  ベースがややハードな 8 分の 7 拍子のリフを提示して新たな展開を導く。(1:52) ギターはディストーションのかかったロングトーンを使って前面に出、重く緊張感のあるフレーズをつむぎ始める。 ベース・リフ主導の重苦しさから逃れようとするギター、全体に奇妙にかしいだイメージである。 ギターに続いて、ピッチベンドで揺らぐムーグ・ソロ。 やはりどこかに抜け出そうとする軟体動物ようなイメージだ。 一瞬でブレイク、エレクトリック・ピアノとギターによるファンタジックでメロウなデュオで世界が一変する。 序章の世界に戻ったような安堵感。 美しく夢見心地の音色が沸き立ち、精緻な文様を成しつつ、柔らかなアンサンブルが続く。
  ベースが 8 分の 5 拍子 + 8 分の 7 拍子のリズミカルなリフを示して、リズム・セクションがカムバック。(3:27) シャープなギターが切込み、シンセサイザーが追いかけあうようにオブリガートを決め合う。 険しくはないが、どちらかといえば無機的な印象である。 ギター、キーボードの追いかける音形を支えてキメを織り込みつつ、ベース、ドラムスらリズム・セクション主導で調子を決めて全体を引きずりまわす、込み入った演奏だ。 カンタベリーらしい複雑なアンサンブルである。 シンセサイザーが控えめにギターをなぞっていく。 次の主役は、鐘のようなピアノ。 力強いリフレインで演奏をリードし、荒々しいユニゾンを繰り広げて、大見得を切って結末をつける。 思い切りのいいエンディングに息を呑む。
   エピローグだろうか、一瞬のブレイクから急激にテンポ・アップ、クラヴィネットが 8 分の 5 拍子のリフを小気味よく刻み、のたうつようなギター・ソロが走る。(4:59) スリリングな演奏だ。 アドリヴで暴れるギター、そして加速を煽るクラヴィネットとエレクトリック・ピアノ。 改めて、たまったエネルギーを解き放つように、再び思い切りのいいユニゾンで終止符を打つ。
  動と静のコントラストが冴える変拍子ジャズロック。 イントロから繰り返される 8 分の 6 拍子のコントラバス・リフは、やがて訪れるスリリングかつスピーディな展開の予兆のようだ。 序盤、ドリーミーなアンサンブルの描くパステル調の世界が、いかにもこのグループらしい。 そして一旦動き出すと、スリリングな変拍子リフに駆動されて、徹底的に折れ曲がりながらも緊張感あふれるポリリズムのジャズロックへと変貌する。 起承転結の「結」を回避するように延々と「転」を続けていくイメージだ。 独特の線の細さ、デリカシーがあり、走っても攻めてもそれは変わらない。 終盤の潔い突っ走りもよし。

  「For Absent Friends」(1:13) 情熱に埋もれた哀しみを探し出すようなアコースティック・ギターの響き。 現代クラシック的な和音から始まり、南米風の郷愁、ロマンを感じさせる調べへと移ってゆく。 ジャジーかつ現代的、そしてラテン風エキゾチズムをも漂う好演である。 マイナー 7 th の響きが美しいアコースティック・ギター・ソロ小品。 大人です。

  「a)We Are All b)Someone Else's Food c)Jamo And Other Boating Disasters - From The Holiday Of The Same Name」(7:49) エレクトリック・ピアノによる 8 分の 5 拍子のリフレインに、ロングトーン・ギターによる 8 分の 7 拍子のテーマが重なる、ファンタジックだが謎めいたオープニング。 ポリリズム特有の幻惑的な演奏である。 リズムの入りとともに、ファズ・ギターがエレクトリック・ピアノのリフを引き継ぎ、タイトなアンサンブルが始まる。 ギターは再び 8 分の 7 拍子のテーマへと戻り、エレクトリック・ピアノの和音が追いかける。 ここでのリードは、むしろ堅実かつ機敏なベースかもしれない。 得意の室内楽的ポリフォニーである。 KING CRIMSON を思わせるシリアスな反復演奏が、流れるような筆致とともに小粋なアンサンブルへと変化し、柔和な表情になるところがみごと。(1:50)
   一転、リードはジャジーなエレクトリック・ピアノへと移る。 ソロは、ほんのりラテン風。 アコースティック・ベースのせいもあって、RETURN TO FOREVER のイメージだ。 ギターによる内向的なアドリヴ、転げ落ちるようなエレクトリック・ピアノ・ソロ、そして攻めの調子を落とさないリズム・セクション。 ギターも熱くなる。 エレクトリック・ピアノはゆるやかで訥々とした調子のバッキングから、次第に自己主張を強めてゆく。 ドラムスはスリリングなプレイを連発。 ギターのアドリヴにエレクトリック・ピアノ、ベースが激しく反応し、ハードなせめぎあいが続いてゆく。 遂にギターはオープニングの変拍子テーマへと回帰し、なめらかなアンサンブルが次の展開へと導いてゆく。(4:30)
  テンポはそのままに、技巧的なユニゾンのキメをきっかけにして一旦エネルギーを放出、快調なベースのリードから再び仕切りなおして、ダイナミックなアンサンブルが始まる。 ファンキーなギターを際立たせつつ、追いかけるようなユニゾン。 最後は、もつれるように長いユニゾンを息継ぎなしで決めてゆく。(5:20)
  一転、クラヴィネットとギターによるファンキーにバウンスする曲調へ。 リズミカルで小気味のいいクラヴィネットとギターの応酬は、やがてコミカルなギター・ソロへ。 軽妙にしてピリッとした呼応。 アコースティック・ピアノが加わり、ギターのテーマ変奏を挿入、やや重厚なイメージへと変化。 そして、管楽器的なファズ・ギターに導かれて、ドリーミーなスキャットがたゆとう。 スキャットに重なるようにムーグも歌い始め、ギターもコーラスに参加するようにアンサンブルへと寄り添ってゆく。 何度も仕切りなおすような演奏がおもしろい。 ピアノ、スキャット、ギターらによるメロディアスな演奏が、アコースティック・ピアノのエレガントな上昇スケールへと吸い込まれて、彼方へと去ってゆく。
  変拍子とポリリズムを多用しつつも、ファンタジーの趣を貫くジャズロック。 HATFIELD AND THE NORTH から NATIONAL HEALTH へとつながってゆく、頭脳優先型のカンタベリー・サウンドである。 音色、リズムのめまぐるしい変化と、緊張と弛緩の巧妙な切りかえが特徴だ。 メカニカルなイメージのプレイから醸し出されるのが、独特のウィットと力まぬシニシズムなところがおもしろい。 テーマは再現され一貫しているが、曲そのものは無限に変転してゆくイメージである。 フィナーレでもメロディアスな演奏を端折りつつ、反復するような奇妙な曲調が維持されている。 エンディングも「あれもう終わり?」と思うほど唐突だ。 最後までリスナーをはぐらかし続けるのも意図なのだろう。 クラヴィネットもユーモラスな文脈でよく生かされている。 フィル・リー氏のギター・プレイにも熱が入っている。

  「Just C」(0:45)モダン・ジャズ風のアコースティック・ピアノ・バラード。 情熱をはらみつつも気品を崩さず、いかにもエピローグに相応しい、静けさと落ちつきのある小品である。


  ファンタジックで洒脱でデリケートなジャズロック。 きらめくスピログラフのようなアンサンブルは、時に静謐かつ幻想的なロマンを満々と湛えてたゆとい、また時に風を巻くような勢いでスリリングに疾走するかと思えば、気難しく立ち止まって難解な秩序のネジを巻き始める。 ギター、エレクトリック・ピアノ、ムーグ・シンセサイザー、クラヴィネット、それぞれの役者が、豊かな歌心と心地よい緊張感を保った演奏を生み出すことに徹している。 リラックスしすぎて呆けたフュージョンでも眉をしかめて技巧と脱構築一本槍のアヴァンギャルドでもない、微細カットの宝石のように精緻な音のきらめきと人間らしい呼吸のよさと知的なユーモアのブレンド、三位一体、つまり上質のポップ・フィーリングがある。 ジャズとして作曲部分と即興のバランスもいいのではないだろうか。 HATFIELDS と同時期にこんなにすばらしいアルバムがあったとは、カンタベリー・シーンの層のなんと厚いことか。 この音楽をさらに進めて NATIONAL HEALTH へと収斂するのはもう必然だったのだろう。 ガウエンのプレイは響きを大事にする美音指向であり、そのスタンスこそがこの個性的な美しさをもつサウンドの根幹をなすのだろう。 特にムーグのプレイは出色である。 リーのギターは、ややヘヴィなエレキギターとロマンチックなアコースティック・ギターを巧みに使い分けている。 デリケートなファンタジーとして一級品のカンタベリー・ジャズロック。 ジャケットはよく見ると双六になっており、「ドラマーがギグに遅刻。一つ戻る」などといったユーモラスな文章がある。

(CA 2007 / CACD2007)

 Another Fine Tune You've Got Me Into
 
Phil Lee guitars
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass
Trevor Tomkins drums

  78 年発表の第二作「Another Fine Tune You've Got Me Into」。 アラン・ガウエンが NATIONAL HEALTH を脱退していた時期に発表された。 第一作からメンバー交代があり、ドラマーにトレバー・トムキンス、ベーシストにヒュー・ホッパー(本当にどこにでもでてくるおっさんだ)を迎えている。 ちなみに、この時期からホッパーとガウエンは SOFT HEAP などのセッション、コラボレーションを始め、いくつかのアルバムを残している。 トムキンスのドラミングは、ジャズを基本にしながらも、要所でカッコいい 8 ビートも決めている。 また、ガウエンは二台目のシンセサイザーを入手し、演奏の幅を広げている。
  前作からの変化は、独特のユーモアや深刻さ、つまりカンタベリーらしい諧謔味を醸し出していた緻密なアンサンブルに、ナイト・ミュージック風のメロウなジャズ風味(これはスウィング・ジャズの要素であり、この時期にメインストリーム・フュージョンが採用したのと同じもの)を強めたこと。 この変化は、より幅広いリスナーに向けての洗練戦略であり、ミュージシャンとしての自然な嗜好でもあるだろう。 精緻にして挑戦的な変拍子アンサンブルも、ロマンティックで優美なテーマが主導するジャズらしいグルーヴィな演奏に包まれて悪目立ちしなくなっている。 むろん、それでも演奏はきわめて技巧的であり(強引なまでの超絶ユニゾン連発もあり)、いくつもの旋律が織り成す柔らかな幾何学模様に包み込まれるような聴き心地がある。 ガウエンの述べているとおりオーヴァー・ダビングがないとしたら、本当に息を呑むテクニックである。 アドリヴと作曲を自然な流れでつないでゆくという試みがみごとに的を射た、エレクトリック・ジャズの佳作といえるだろう。 特に、ガウエンのシンセサイザー・プレイは出色。 わたしはジョー・ザヴィヌルよりこちらが好きです。 プロデュースはグループ。 全曲インストゥルメンタル。 ジャケットは、元祖怪獣好きウィリアム・ブレイクの「蚤の幽霊」より。

  まず印象的なのは、1 曲目「Darker Brighter」や 4 曲目「Play Time」におけるキーボードとリーのギターによるデリケートなインタープレイである。 密やかな表情と気品、そして美音に心地よいグルーヴが加わったぜいたくな内容である。 ガウエンのエレクトリック・キーボードのプレイは、きわめて繊細なタッチであり、文字通り、流れるように軽やかに美音を紡ぎ出している。 女性的なデリカシーと品のいい奔放さがあり、カンタベリーらしいユーモラスな面も忘れられていない。
  2 曲目「Bobberty-Theme From Something Else」の前半のように、ディレイの使用や、シンセサイザーの音色の使い分け、シンセサイザーとエレクトリック・ピアノとのコンビネーションなど、アンサンブルにもさまざまな工夫が見られる。 リーのエレキギターは、前作よりもぐっと音色とタッチを柔らかくし、オクターヴ奏法も交えてジャジーに迫っている。 キーボードとの絡みもデリケートだ。 スムース・ジャズ、フュージョンらしさは、まずこのジョージ・ベンソンを朴訥にしたようなギターに顕著である。 終盤のエレクトリック・ピアノとのインタープレイはみごとだ。 一方、アップテンポになったときのドラムスの小気味のいいタム打撃は、ジャズにとどまらない広がりを感じさせてくれる。 いくつかの雰囲気を堂々と描き分けたこの 2 曲目は力作だ。
   アコースティック・ギター・ソロの 3 曲目「Waiting」では、ほのかなラテン・テイストを盛り込みつつ、クラシカルで整然としたプレイも披露している。 典雅な中世風味とラテンの情感をブレンドした、微妙なニュアンスを表現しきった名演だ。
   8 分の 10 拍子 による 4 曲目「Play Time」は、ドリーミーなサウンドによる幻想性と変拍子による緊張感がバランスした名品。
   5 曲目「Underwater Song」は、ドラムス・ソロをイントロに繰り広げられる渦を巻くようなオムニバス。 ガウエンが得意の鮮やかなピッチ・ベンド捌きを見せる。ギターのソロも非常にロマンティックだ。メロトロン・フルートも聴こえると思う。
   ホッパー作曲と思われる 6 曲目「Foel'd Again」は、お得意のシリアスな音響実験的小品である。 ドラムスは、やや硬めの音を用いており、シンバル・ワークなどのスタイルも完全にジャズだ。 ホッパーはあいかわらず要所でベースにファズを少々使用している。
  さらに、美音/繊細路線にとどまらず、最終曲「T.N.T.F.X」のような短くもスリルがギュッと詰まった展開もある。 突き進む力を明確に感じさせる作品であり、繊細な音響とパワーの結びついた新境地といえるだろう。 ただし、残念ながらまだ完成品ではないようだ。
  全体にメロウなフュージョン路線だが、ガウエンとリーの呼応を中心とした演奏はアメリカのグループよりもぐっと繊細でしっとりとした湿り気がある。 この、ソフトにして軽妙でエモーションを露にせずクールに秘めたプレイは、おそらく、メインストリーム・フュージョンとカンタベリーの中間に位置するのだろう。

  「Darker Brighter」(5:40) 饒舌なギターがリードし、エレクトリック・キーボードが縁取る、ファンタジックかつテクニカルなジャズロック。 ユーモラスなテーマやギタリストがフィル・ミラーのスタイルをなぞっている間は、HF&N によく似ているが、キメの鋭いユニゾンのキレなどの技巧面やシンセサイザー・サウンドなどのキーボードのスタイルに個性が現れる。 ソロに挟み込まれるユニゾンのキメのアクセントの小気味よさや硬軟自在の切り替えのうまさは、第一作のまま。 ホッパーのベースも、シンクレア流のフレットレスかもしれない。

  「Bobberty-Theme From Something Else」(10:41) オムニバス風のカラフルでリラックスしたエレクトリック・ジャズ。 序盤は繊細なキーボード・ワークと弾力のあるベースを中心としたカンタベリーらしいアンサンブル。 中盤は、「フィル・ミラー・スタイル」から完全な「ジャズ・ギター」へと変化したギターのプレイを中心にメロウなモダン・ジャズ・タッチで迫る。 続いて、こちらもモダン・ジャズ的なナイト・ミュージック風エレクトリック・ピアノ・ソロ。 後半は、再びギターとシンセサイザーがカンタベリーらしいやり取りを見せるも、次第にフュージョン・タッチが強まる。 音を重力から解き放つようなシンセサイザーのピッチ・ベンドがいい。 ドラムスも丹念なシンバル・ワークを見せ、曲展開の起伏にあわせて鋭敏なプレイを放つ。 自由に雰囲気を描き分けたジャズの名作。

  「Waiting」(2:25)郷愁を誘うスタンダード・ジャズ風のアコースティック・ギター・ソロ。 「ジョージア・オン・マイ・マインド」を思わせるマイナー 7th の響きがいい。 ほのかにクラシカルな響きが、メキシコの作曲家マヌエル・ポンセの作風に通じる。

  「Play Time」(7:14)ソフトな音色と反復の多用によるややアブストラクトなクールネスが特徴的なカンタベリー・ジャズロック。 ドラムスにも鮮やかな主張がある。 小刻みにブレーキを踏むような変拍子。 エレクトリック・ピアノが散りばめる音は弾ける水泡のよう。 突然残響とともに奥に引っ込むシンセサイザーにびっくり。 寄木細工のように繊細な音たち。 緊張感とともに独特のウィットが感じられる。

  「Underwater Song」(7:04)終始優美で密やかな幻想曲風の作品。 プロローグはドラムス・ソロ。 天使の奏でるアコーディオンのようなムーグ・シンセサイザーと朴訥で暖かいギターの調べが歌い出す。 ベースはオブリガートしながらアクセントを刻み、足元を守る。 驟雨のようなエレクトリック・ピアノのコード・ストローク。 うつむきがちにささやくギターの後ろではスペイシーなキーボードがファンタジックな背景を描き続ける。 終盤のまろやかだが少しざらついた音はメロトロンだろうか。

  「Foel'd Again」(1:50)エレクトリック・ベースのハーモニクスが刻むビートの上でエレクトリック・ピアノがさまようアブストラクトな小品。 夢の中の時計のイメージ。 ホッパーらしい不気味さもあり。

  「T.N.T.F.X」(2:54)フリー・ジャズのサックスのアドリヴを思わせる、破格でハイ・テンションのギター・ソロが導くジャズロック。 小品ながらも、冒頭からクライマックスであり、その後の展開もドラマティック。


  カンタベリー独特の諧謔味は抑え目ながらも、フュージョン的な心地よさを加味した繊細なサウンドと丹念なアンサンブルによる優雅なジャズロックである。 抑えすぎではないかと感じられるほどあらゆる点で過剰さやデフォルメを控え、美しくも慎ましやかな音響としなやかな躍動感のバランスで最後までまとめられている。 モダン・ジャズ的なスリルもあり、プログレというよりは、デリケートなエレクトリック・ジャズというべきかもしれません。

(CRL 5009 / spalax 14838)

 Two Rainbows Daily
 
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass
Nigel Morris percussion on 8-12

  80 年発表のアルバム「Two Rainbows Daily」。 SOFT HEAP、再編 GILGAMESH で共演したヒュー・ホッパーとのコラボレーション。 多重録音も用いた美しいセッション集である。 後半 5 曲は、CD 化の際のボーナス・トラックであり、内容は 80 年 9 月 21 日のライヴ録音。ジャケット写真は CD のもの。
  ひそやかにたゆとうようなムーグ・シンセサイザーやエレクトリック・ピアノが綴る珠玉の音響。 ホッパーのファズ・ベースが和音を用いた伴奏やメロディアスなプレイで重心を支え、ほどよい酩酊感と繊細な幻想美におだやかな動きを与えている。 GILGAMESHHAPPY THE MAN のファンへお薦め。 もう少し音質に奥行きがあったらたいへんな傑作になっていたでしょう。 こっそりひとりで味わいたい。

  「Seen Through A Door」(5:51)
  「Morning Order」(6:28)
  「Fishtank I」(4:53)
  「Two Rainbows Daily」(4:11)
  「Elibom」(5:01)
  「Every Silver Lining」(5:19)
  「Walz For Nobody」(8:59)
  以下ボーナス・トラック。
  「Chanka's Troll」(5:13)
  「Little Dream」(4:01)
  「Soon To Fly」(3:59)
  「Bracknell Ballad」(4:08)
  「Stopes Change」(3:25)

(RUNE 77)

 Bracknell - Bresse Inprovisation
 
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass, tape loops
Nigel Morris percussion on 1-3

  94 年発表のアルバム「Bracknell - Bresse Inprovisation」。 CD 版「Two Rainbows Daily」のボーナス・トラックと同日(80 年 9 月 21 日)収録のライヴ録音から 3 曲、78 年の SOFT HEAD のフランス・ツアー中の(正確にはツアーが途中で崩壊したため暇になった間の)セッション録音から 5 曲から成る編集盤。補遺集といっていいだろう。 二人のコラボレーションはすでに 78 年にはスタートしていたことになる。
  ライヴ録音の方はナイジェル・モリスのパーカッションとホッパーの音響操作が中心でキーボードは思ったよりも控えめ。 録音状態はさておいても、全体に各プレイヤーの自己主張がさほど強くないのは、いまひとつ調子が出ていないということなんだろうか。 デュオではガウエンはエレクトリック・ピアノ中心のプレイ。 ホッパーの快調なランニング・ベースとせめぎあう静かなエキサイト・シーンもたっぷり。

  「Floating Path」(18:00)終盤ベースが加わったあたりで盛り上がりそうだったが。
  「Now What Exactly」(7:59)アコースティック・ピアノをフィーチュア。客は少なそうです。
  「Zaparoshti」(5:20)フェードインながらも熱気の伝わる演奏。華麗なムーグ捌き。
  「Ranova」(2:00)ここからがホッパー、ガウエンのデュオ。スリリングなフュージョン小品。
  「A 'Louest」(14:46)
  「Winged Trilby」(7:08)
  「Six Cream Bombs From Beaune」(1:17)
  「Rubber Daze」(3:42)

(VP186CD)

 Before A Word Is Said
 
Alan Gowen keyboards
Phil Miller guitars
Richard Sinclair bass, vocals
Trevor Tomkins drums

  GILGAMESHNATIONAL HEALTH と華麗なキーボードワークを見せたアラン・ガウエンの遺作となった 81 年のアルバム「Before A Word Is Said」。 ややセッション風であり、楽曲の緻密さやアルバムとしての主張は今一歩に感じられるが、各メンバーの個性が際立つストレートな演奏が楽しめる。 佳作といえるだろう。 ミラーが 4 曲、ガウエンが 3 曲、シンクレアが 1 曲持ち寄っている。 録音はガウエンの自宅で行われたそうだ。

  夢の中に飛び込んでいくようなキラキラしたキーボードとシンクレアのファズ・ベースの動きが印象的な「Above And Below」(7:41)から、アルバムは幕を開ける。 各パートの音の分離が明快で、非常に聴きやすい。 ユーモラスで躍動感もあるのにどこか捻じれた感じがするところが、カンタベリーの味わいだろう。 ロック風の音色にジャズ風のプレイというミラーの個性的なギター・ソロに続いて、シンクレアのベース・ソロ。優れたヴォーカリストとして注目されるシンクレア、改めてベースの腕も相当なものだとわかる。 キーボード・ソロは上品なピッチベンド捌きも含め、流麗かつきわめて官能的。佳人のささやきのようなプレイです。 ミラーの作品。

  2 曲目「Reflexes In The Margin」(4:00) ファズ・ベースがリードするハードバップ風のサスペンスフルなイントロから、緊張感あるアンサンブルが続いてゆく。 キーボードは夢見るような音色にもかかわらずブルーズ・フィーリングあるアドリヴ。 パワフルな 4 ビート主体の大胆なドラミング。 たたみかけるユニゾンと短い各楽器のソロの連続。 ランニング・ベースも心地よし。エンディングの編集がちょっと奇妙だが。 ガウエンの作品。

  3 曲目「Nowadays A Silhouette」(4:30)シンクレアのエフェクタッド・ベースがたゆとい、ガウエンのムーグ・シンセサイザーとドリーミーな交歓を繰り広げる。 ギターは静かにバッキング。 ミラーの作品。

  4 曲目「Silver Star」(2:24) ミラー独特のぎこちないギターとガウエンの颯爽としたムーグが奏でるリズミカルでグルーヴィな作品。 ベースはファズ。 へヴィな音と軽快なフレージングの取り合わせの妙。 ガウエンの作品。

  5 曲目「Fourfold」(6:15)親しみやすいムーグのテーマがすてきな、活発なイメージの作品。 こういう暖かくユーモラスな語り口こそが、カンタベリーならではの味わいである。 エレクトリック・ピアノ、ベース伴奏でギターのアドリヴが続く場面展開は、HATFIELDS と区別がつかない。 中盤のムーグ・ソロは、華やぎものびのびとした感じもある名演。 ミラーの作品。

  6 曲目「Before A Word Is Said」(7:58) 珍しくアンビエント風のキーボードを用いたミステリアスで実験的な作品。 シンセサイザーの不気味な低音によるテーマと子供の争う声の SE から始まり、波乱を予感させる。 コラール調のスキャットも交えて、キーボードの音が重なり合いつつテーマが変奏され繰り返される。 ドラムス、ギターがアドホックにアドリブを乗せていく。 4 分頃からコードがメジャーへと移り、ギターのメロディとともに光が射しはじめる。 キーボードは一貫して背景を彩る。 ギターはジャジーでリラックスしたプレイを続ける。 最後は再び、低音のシンセサイザーが唸り、子供の声の SE とともにテーマを回想つつフェード・アウト。 ガウエンの作品。

  7 曲目「Umbrellas」(3:54)エフェクト・ベースからゆったりと始まりハイハットとムーグの響きに導かれてシンクレアのスキャットが始まる。 あいかわらず色っぽいヴォイスである。 ムーグはぐっと抑え目、フルートのように密やかに舞い踊る。 ドラムスが純ジャズ風なところをのぞく、とこれも HATFIELDS と区別がつかない。 ややレトロな感じの未来/宇宙といったイメージが膨らむ。 シンクレアの作品。

  8 曲目「A Fleeting Glance」(7:33)ギターとムーグがユーモラスなアンサンブルを繰り広げる作品。 ギター、ムーグのソロは、それぞれしっかり持ち味が出ている。 7 拍子のリフや変拍子を交えた決めなど、「チャンレンジングにしてメロディアスで聴きやすい」という典型的なカンタベリー・ジャズロックである。 こういう曲は、まだまだ音源がありそうなのだが。 ミラーの作品。

  ガウエンのキーボードは、エレクトリック・ピアノにフェイズ・シフタ、サスティンなどのエフェクトをかけたものとムーグ・シンセサイザー中心と思われる。 粒の揃ったきらびやかな音色である。 ミラーのギターがいかにも訥弁型のジャズ・スタイルであるのと対照的に、ソロにおける流れるようななめらかさも特徴的である。 そしてムーグのピッチベンドも鮮やかだ。
  スリリングなインタープレイの中に、キーボードがエレガントで軽やか、ポップな色をもつけるカンタベリー・ジャズロック作品。 メンバーの個性が十分活かされており、ドリーミーなのに躍動感もある、不思議なサウンドが魅力がいっぱいである。 叶わぬことではあるが、この作品を仕上げて欲しかった。
(BP130CD)


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