GRITS

  アメリカのジャズロック・グループ「GRITS」。 70 年結成。 ワシントンを中心に活動。90 年代に入ってライヴ音源が発掘された。さらに 2008 年には別の音源も発掘された。作品は三枚。

 Rare Birds
 
Rick Barse keyboards, vocals
Tom Wright guitar, viola, bass, vocals
Amy Taylor bass, violin, vocals
Bob Sims drums, vocals

  97 年発表の作品「Rare Birds」。 1976 年 Maryland 州の Gaithersburg におけるライブ録音盤。 同会場では THE MUFFINS のライヴも行われたようだ。 内容は、室内楽寄りの表現が特徴的なカンタベリー風ジャズロック。 明瞭で親しみやすい旋律と小刻みなパッセージのソロを軸にして組み立てた楽曲が主である。 メロディアスなアクセスしやすさとアヴァンギャルドな姿勢が交わった、カンタベリー傍流の一つといって差し支えないだろう。 実際、女性ヴォーカルが入るところでは、HF&N によく似た雰囲気になる。 R&B 的なノリはほとんどなく、明快なテーマを中心に主張を丹念に、時に執拗に、積み重ねてゆく。 クラシックの練習曲のようなところもあるが、素朴な表情づけと明快な音の生む巧まざるユーモアが一体となって誠実な印象を与えている。 演奏面の特徴は、キーボードがエレクトリック・ピアノ中心であること(パトリック・モラーツのファンのような気もする)、ギタリスト、ベーシストがそれぞれヴィオラ、ヴァイオリンを兼任していること(ベーシストがヴァイオリンを弾いているときには、ギタリストがベースを演奏している)。 さらに、アドリヴの割合は少なく、スコアに則ったソロと全体演奏のバリエーションで聴かせるスタイルである。 また、5 拍子など奇数拍子による全体演奏を得意としている。 何にせよ、インストゥルメンタル主体ながらも、同時代に流行ったフュージョンとは音楽性のまったく異なる、ワサビの効いたユーモアのあるジャズロックである。 録音状態は、最良質のブートレッグ並。

  1 曲目「Jupiter Jam」(13:05)矢継ぎ早にフレーズを繰り出す絶好調ギターとささくれ立ったエレクトリック・ピアノによる諧謔味あふれる正統カンタベリー・チューン。 オルガンの響きがうれしい。 小刻みなアンサンブルと対比する、ヴァイオリンとヴィオラによるゆったりとメロディアスなシーンもいい感じだ。

  2 曲目「Inside Straight」(11:58)ベース・ソロ、ドラムス・ソロをフィーチュア。

  3 曲目「Communa Lacrimosa」(3:25) ジャジーなアンサンブルに三声のハーモニーを加えた作品。 間奏部のギターとエレクトリック・ピアノは HF&N のようだ。 終盤はギアを入れて快速アンサンブルで走る。 密度の高い演奏とややおどけたような調子のコーラスの組み合わせは、AOR を歪ませたような奇妙な味わい。

  4 曲目「Easy For You」(3:16) 小刻みに変化する曲調が GENTLE GIANT を思わせるヴォーカル・チューン。 ヴォーカルは、女性ベーシストが担当。 トリッキーな演奏だ。

  5 曲目「Glad All Over」(3:31) 再び女性ヴォーカルをフィーチュアしたジャズロック。 バラードから始まって、曲調、テンポ、ギターやエレピのプレイがめまぐるしく変化する。 典型的なカンタベリー・スタイルだ。

  6 曲目「As the World Grits」(14:11) カントリー・フィドル風のヴァイオリンをフィーチュアした作品。 メイン・パートは、ややメランコリックながらもしなやかなアンサンブル。 中盤は、テクニカルなベースをフィーチュアし、角張った変拍子トゥッティで走る。

  7 曲目「Rare Birds」(25:51) 三部作。ヴァイオリンをフィーチュアした軽やかなシンフォニック・チューン。 一部は、クラシカルな演奏とポップな演奏が巧みに混ぜ合わされた佳曲。 メローな表情は完全に NATIONAL HEALTH だが、シンフォニックに決めるところでは正調クラシック風である。 二部は、やや落ちついた雰囲気のバラード。フュージョン・タッチもあり。 三部は、勇ましくも愛らしいテーマとジャジーな和音のコンビネーションによるシンフォニックな作品であり、モーツァルト風のアンサンブルから、華麗なヴァイオリンのカデンツァへと進む。 全編ヴァイオリンがリードし、エレクトリック・ピアノが守り立てる。


(CUNEIFORM 55012)


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