NATHAN MAHL

  カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「NATHAN MAHL」。 80 年結成。 70 年代プログレッシヴ・ロックとハードロック、フュージョンの影響を見せるテクニカルでアグレッシヴな演奏が特徴。 リーダーのルブランは CAMEL のキーボーディストとしても活動した。2015 年逝去。

 Exodus
 
Guy LeBlanc Rhodes, Moog, Hammond, piano, clavinet, Korg Trinity, recorders, percussion, voice
Guy Dagenais basses, 12 string guitar, guitars, percussion, voice
Alain Bergeron drums, percussion, backing voice
Tristan Vaillancourt guitars, mandolin, percussion
guest:
David Campbell guitar
David Peterson violin
France Morin voice

  2008 年発表の作品「Exodus」。 内容は、アメリカンなハードロックとフュージョンを合体させた現代的なテクニカル・ロック。 HM 系ジャズロックはすでにさまざまなアーティストが展開しているが、その一系統である「キーボード中心もの」である。 ただし、その方面の泰斗イェンス・ヨハンソンやデレク・シェリニアンほど複雑怪奇ではなくとっつき難くもない。 どちらかといえば、チック・コリアやヤン・ハマーの目指した方角を向いている。(一時期のデイヴ「変拍子」スチュアートと同じである) シンセサイザーではコンプレッサを効かせたギターのように粘っこく酸味のある音色でピッチを揺らがせながら奔放に暴れまわり、ハモンド・オルガンでは意外に抑制の効いたプレイを放ち、ピアノのプレイはどこまでもふくよかだ。 こういったキーボードのプレイが純粋に楽しめれば、本作は O.K. だ。 ギタリストは標準的なコンテンポラリー・ロック(HR/HM ということです)のスタイルであり、ベック、ホールズワース(あるいはスティーヴ・モーズ)に寄せているところがミソ。 ヘヴィなサウンドでもステレオタイプな HR/HM 化しないのは、このギターの微妙なスタイルと柔軟性に富むリズム・セクションのおかげだろう。 秒何発のような曲芸的ブラスト・ビートでは描けない景色もあるのだ。 その一方で 80 年代そのものなネオクラシカル・メタル風の表現もある。 これはおそらくメンバーたちの音楽歴の根っこにあるのだろう。 また、エレクトリックで鋭角的なサウンドにトラッドなどアコースティックな音を取り込むところもいい。 つまり、コンテンポラリーなスタイルながらも、目指している音はやや古めのものということになりそうだ。 ルブラン氏の、ハードロックに起点を置いた『ジェフ「Wired」ベック的ハード・ジャズロック』志向に基本的にブレはないようである。 ヴォーカル・アレンジはこれまでよりもぐっと良くなった。 個性的な声色を生かしてラップにも挑戦するなど野心的である。 GENTLE GIANT 好きも変わらない。 今回は、フュージョン・キーボードだけではなく、パル・リンダー氏ばりのチャーチ・オルガンなどクラシカルなスタイルも披露している。 製作もこれまでよりも充実している。 THE TANGENT のアンディ・ティリソン氏へのライバル意識はあるのでしょうかね。
  

  「Burning Bush」(7:20)じっくりとミドルテンポで迫るモダン・ハードロック。 ソロではテクニカルなギターとシンセサイザーをフィーチュア。
  「Let My People Go」(6:06)ダークな怪しさで迫る HR/HM チューン。8 分の 6 拍子がカッコいい。SPOCK'S BEARD にありそうな作品。
  「The Plagues」(6:21)にぎやかなファンク・チューン。ヴァイオリンをフィーチュアし、トラッドな味わいも交える。傑作。
  「The Parting」(7:38)ゲストらしき伸びやかなヴォーカルをフィーチュアした LA メタル風の作品。 さりげなくも変拍子。HM のようでいて多面的に迫る。これも佳作。
  「Down From The Mountain」(7:25)R&B 風味を強調したヘヴィ・ロック。
  「40 Years」(7:14)思いの丈をじっくり紡いだ歌もの。
  「The Last Climb」(2:50)
  「Canaan」(5:14)ベーシストの作曲によるわりとプログレまっしぐらなインストゥルメンタル作品。
  「Zipporah's Farewell」(2:50)神秘的な小品。Zipporah というのはモーゼの妻の名らしい。
  「The Price Of Freedom」(6:30)終盤 3 曲はメドレーになっている。

(UNCR-5058)

 Parallel Eccentricities
 
Guy LeBlanc piano, organ, synths, lead & backing vocals
Mark Spénard guitars, lead & backing vocals
Dan Lacasse drums, backing vocals
Don Prince bass, spontaneous vocals

  82 年発表の第一作「Parallel Eccentricities」。 CD ジャケットは 1999 年の再発盤。 収録時間が 29 分余りと短いせいか、グループのヒストリーをまとめたインタラクティヴ CD のオマケ付きである。
  内容は、ハモンド・オルガン、ピアノとギターの超絶プレイを軸に、テクニカルなアンサンブルが暴れまわる痛快なプログレッシヴ・ロック。 スピーディなインタープレイや決めのユニゾン、ファンキーなビート感など、ジャズロックの典型のような演奏もある一方、ハモンド・オルガンやシンセサイザーによる挑戦的なプレイや悠然とした広がりのあるアンサンブル、曲調の急旋回/急展開など、プログレらしさもしっかりとアピールしている。 たとえば、 2 曲目「Slow Burn」のように、きわめてメリケンな DREGS タッチで幕を開ける作品でも、謎めいた展開やクラシカルなプレイが放り込まれ、気がつけば、結末の予測がまったくつかない。 (逆に 4 曲目「Schizophrenia」は、全力全開疾走で、これはこれで痛快) とりあえずは、ジャズ、フュージョンなどを吸収したハードなプログレという表現が適切だろう。 力強い技巧と速度を備えた上に、やや脱力したユーモアのセンスもあるという、天晴れな作品である。 スピードとともに芯のある重さもあり、快速球というよりは、豪速球のイメージだろう。 それでいて、ギアを落としたときのユーモラスなキーボード・プレイには、HAPPY THE MAN に通じる抜群のセンスがある。 リーダーであるキーボーディストは、クラシック、フュージョンに強そうなテクニシャン。 ギターは、ハードロックをベースにフュージョン風味もとりまぜ、ややもするとメタルに近いような暴れっぷりを見せる。 変拍子と尋常ならぬスピード感を、疲れを知らぬパワーで演出するリズム・セクションも相当の強者である。
  演奏は、緻密に構築するというよりは、火の玉のような勢いで突っ走るスタイルであり、プレイの鋭さ/スピード/反応のよさが信条だろう。 音の密度も高い。 緻密なる爆走ともいうべき押しの強い演奏と、ジャズで鍛えたテクニックの切れは、中期 RTFDIXIE DREGS、またはヤン・ハマー&ジェフ・ベックなどに通じるものがある。 ゴリ押しの迫力では、これらを超えているかもしれない。 3 曲目「Orgasmik Out-Burst」のパワフルな疾走は、こういう音を聴き慣れているリスナーにも、かなり刺激的だと思う。
   82 年時点にして、その後のテクニカル・フュージョンを先読みしていたような、未来的な演奏スタイルともいえる。 ヴォーカルだけがいかにも素人臭いが、この時代だと、ニューウェーヴ系のヘタウマが氾濫していたので、あまり違和感はなかったかもしれない。 そう考えると、意外にも XTC 辺りのニューウェーヴ・バンドを超絶高密度技巧化したような気もしてくる。 おそらく、何かその時代を思い出させる音があるのでしょう。 なかなかユニークな演奏です。

  「Moral Values(Part One)」(6:35)
  「Slow Burn」(6:32)
  「Orgasmik Out-Burst(part 3)」(5:15)
  「Schhizophrenia」(5:13)
  「No Vacancy」(5:46)

(NMA003)

 The Clever Use Of Shadows
 
Guy LeBlanc keyboards, odd percussion, vocals
José Bergeron guitars, effects, French vocals
Alain Bergeron drums, percussion
Claude Prince 4 & 5 string bass

  98 年発表の第二作「The Clever Use Of Shadows」。 銃撃戦で幕を開け、シュプレヒコールと爆撃で幕を閉じる本作の内容は、重量感あふれるテクニカル・プログレッシヴ・ロックである。 フュージョン/ジャズロックへハードロック的な重みと荒々しさを叩き込んだ、痛快な演奏だ。 ハモンド・オルガンとホールズワース風の太くサスティンの効いたギターなど、70 年代英国プログレッシヴ・ロックの伝統をサウンド面にキープしつつ、80 年代以降のテクニカル・フュージョン路線を突っ走る、きわめてモダンなインストゥルメンタル・ロックといえるだろう。 喩えていえば、U.K. のキーボーディストとして当時のデイヴ・スチュアートが加わった感じ(それだと BRUFORD か、という話もある)である。 リズム・セクションやキーボード・アンサンブル、アコースティック・ギターらのプレイは、緻密にしてスピードとスリルもある強烈なものだ。 そして、前作が、変拍子を多用しつつもハードロックとしての直線的な明快さをもっていたのに対し、本作では、曲調の変化が多彩になり、複雑さもぐっと増したようだ。 それでも、ドラマ性やストーリー性よりは、演奏そのものの迫力とスリルに主眼のある内容といえるだろう。 そのイメージは、いってみれば、強烈な光線で切り取られたように輪郭のはっきりしたドライな音が、すさまじい勢いと機械的な稠密さで空間を満たしてゆくような感じ、である。 肉体的なカタルシスとも異なる純音楽的カタルシスともいうべき抽象的な印象を与えており、ヨーロッパ風のリリシズムからも、アメリカ的なロケンローな突き抜けからも、離れていると思う。 ロックのもつヘヴィさ、荒々しさ、ルーズさを活かしたまま、ジャズ/フュージョンの技巧主義を推し進めた結果、こういう一種無機的でソリッドな演奏ができあがったのかもしれない。 アコースティックなパートやメロディアスなアンサンブルはストレートなフュージョン風であり、そこにある種の過剰さを持ち込んでいる。 ギター、キーボードともに「緻密に弾き倒す」という表現がピッタリなのだ。 横一線で驀進するポリフォニックなアンサンブルは、かなりの迫力だ。 驀進するあまり、時おりハードロックそのものになってしまうところも面白い。 ギタリストはホールズワース+ハウ系、そして、ルブランはキース・エマーソン(または EGG 時代のスチュワート)ばりのワイルドなプレイを連発するぶっといハモンド・オルガンから軽妙きわまるクラヴィネットまで、ヴィンテージ・キーボードから惜しげもなく音の豪雨を叩きつける。 サウンドやコンセプトこそノスタルジックな性格をもつのかもしれないが、演奏のイディオムは、きわめて現代的であり、単純な比喩では語りきれない。 テクニカルなプレイを好む若年層(もしくは腕自慢)向けの内容といえるだろう。 プロデュースはホセ・ベルジェロンとギ・ルブラン。
  2 曲目のクラヴィネットや 4 曲目のアコースティック・ギターによる「Green Sleeves」のようにクラシカルなテーマが現れることもあるが、主となるのは、ギターとオルガンによる無表情なまま沸騰する演奏である。 クラヴィネットやムーグの色調、ヘヴィなハードロックに込み入ったパターンのリフや変則リズムのアンサンブルを入れ込むなど、GENTLE GIANT に通じるセンスも感じる。 ギターとオルガンにサックスが加わると、LARSEN FEITON BAND のようなカラッとしたフュージョン・テイストも出てくる。 好きなバンドを素直にリスペクトしているということなのだろう。

  「Without Words」(9:50)
  「Clever Use Of Shadows」(10:20)
  「Orgasmik Outburst II」(2:42)ハードロック風、ただし走り出すまではかなり屈折している。 第一作でも見られたような作風だ。
  「Machiavelique」(6:41)「Green Sleeves」から始まる(ややワザとらしい気もする)も、EL&P 流の邪悪なユニゾンで攻め立てる古典的キーボード・プログレッシヴ・ロックへと発展。
  「Beyond The Rims Of Despair」(9:16)メロディアスなサックスをゲストにしたテクニカル・フュージョン。 ダイナミックでグルーヴィなリズムがいい。 ホールズワース直系の速弾きギターとたたみかけるハモンドも強烈。 このグループの個性が前面に出た傑作だ。
  「Something Like That」(8:23)サイケデリックなギターと攻めたてるピアノ、オルガン、シンセサイザーが鮮烈なナンバー。 ベースもフィーチュアされる。 全くテンションが落ちないまま演奏が続く。 やや KING CRIMSON
  「The Rubber Cage」(5:51)再びヴォーカルもの。微妙に調子っぱずれのテーマと逸脱した雰囲気。
  「Call To Arms」(9:08)ハイテンションでギターとオルガンがせめぎあうジャズロック。


(NMA004)

 Subversia
 
Guy LeBlanc keyboards, rhythm section, all vocals
Scott McGill guitars on 2, 3, 6, 7
Mark Spénard guitars on 3, 5
José Bergeron guitars on 1
Paul Desgagné sax on 2, 3

  99 年発表のルブランのソロ・アルバム「Subversia」。 元 FINNEUS GUAGE、現 HANDS FARM のハイテク・ギタリスト、スコット・マッギルや新旧 NATHAN MAHL のギタリストを迎えたソロ第一作は、音楽が本来の姿を持っている架空の領域「Subversia」にまつわるコンセプト・アルバムである。 リズム・セクションは打ち込みであり、キーボードとギターの華麗なインタープレイを中心にした演奏だ。 キーボードは、鋭利なハモンド・オルガンとチック・コリア直系のムーグ・シンセサイザーを中心に、クラシカルなプレイとジャジーなプレイを平然と詰め込んで迫る。 そして、安定したプレイでソロもバッキングも完璧にこなし、アンサンブルをコントロールしている。 また、マッギルのギターは、ホールズワースを超えるためか、超絶的なアドリヴはもとよりジャズからメタルまで、実に幅広いプレイをこれでもかと強調する。 ギターとシンセサイザー、オルガンが交互にソロを取るスリル、反応よく対話する面白さも抜群だ。 2、3 曲目のジャジーなナンバーでは、サックスも交えたフュージョン風のリラックスした演奏を聴かせるが、そこでもキーボードは多彩な音色をスピーディに切り替えて迫り、ギターはすさまじい勢いでフレーズを決めてゆく。 ともに圧倒的な存在感を示している。(キーボードに関していえば、2 曲目はムーグ中心、3 曲目はハモンド中心か)
  しかし、全体的には、コンセプト・アルバムとしての骨格がしっかりしており、単なる弾き倒し合戦に終始していない。 波乱のストーリーは、いかにも物語を感じさせるメロディアスで幻想的なシーンやヴォーカル、劇的な場面展開などによって、巧みな語り口で綴られてゆく。 メロディとハーモニーを重視した演奏が本流にあり、ジャズロック/フュージョン・スタイルのテクニカルなソロ、インタープレイはあくまで薬味である。 不器用そうなヴォーカルが、次第に訥々とした語り部として聴こえてくるから不思議だ。
  ハモンド・オルガン、シンセサイザーなどヴィンテージ・キーボードを巧みに使った鳥肌もののキーボード・ロックに、凄腕ギタリストのジャジーで奔放なプレイをたっぷり交えた、コンテンポラリーな感触のロックである。 しかし、演奏の凄さを必然たらしめる想像力豊かなストーリーがあってこそのこの出来ではないだろうか。 つまり、まず CAMEL のようなコンセプト・アルバムであり、ストーリーを描くために演奏面においてきわめて現代的な技巧を凝らしているというべき作品だろう。 気がつけばギターの歌う旋律は皆美しく、ピアノの響きもすなおな優しさをもっている。

  「The First Lie」(6:23)
  「Joyride」(7:51)
  「A Question Of Authority」(5:55)
  「The Cold Truth」(4:02)
  「The Trial」(3:52)
  「Subversia」(29:15) 音数にもかかわらず、意外なまでにリリカルでファンタジックな印象を残すタイトル・チューン。 間違いなく本アルバムの中心に位置する作品であり、CAMEL 抜擢もうなずける。
  「Home」(6:07)

(NMA005)

 Heretik  volume I  Body Of Accusations
 
Claude Prince 5 string bass
Marc Spénard guitars
Alain Bergeron drums
Guy LeBlanc Hammond & Korg organ, Hohner clavinet, piano, Rhodes, Moog liberation
 Korg Trinity V3 & X5DR, vocals, additional drums, recorder

  2001 年発表の第三作「Heretik  volume I  Body Of Accusations」。 CAMEL ツアー参加の余勢を駆ったか、早々と現われた新作は「Heretik」サーガ三部作の第一部である。 ギタリストに第一作参加の旧メンバーを迎え、その内容は、あいかわらずの豪腕テクニカル・ロック。 ヴィンテージ・キーボードを駆使した絨毯爆撃的なプレイで、当るを構わずなぎ倒す、強硬な演奏スタイルである。 技巧的な演奏やサウンドなど、原点は、BRUFORD の初期二枚や RETURN TO FOREVER の「浪漫の騎士」などに代表される 70 年代終盤のジャズロック/フュージョンだろう。 ギターは、もちろんホールズワースであり、印象的なシンセサイザーは、ヤン・ハマーかチック・コリア、そして、ハモンド・オルガンとピアノは、エマーソン直系。 弱点は、BRUFORD の三作目を思い出させるヴォーカルと、耳に残るようなメロディが少ないことくらいだろうか。 それ以外は、変拍子アンサンブル、大胆なポリリズム、超絶ソロ、多彩にしてツボを押さえた音色、どれをとってもスリリングなプログレ度は満点である。 プログレ・メタル、HR/HM 系テクニカル・フュージョン、アヴァンギャルド・ロックのどれでもない隘路に咲いた一輪の花であり、ベテラン・ミュージシャンの逞しい生命力と夢の結晶といってもいい。 アグレッシヴな演奏のカッコよさもさることながら、スローなパートやクラヴィネットのプレイで見せるクラシカル・テイストがうれしい。 演奏重視のテクニカル・プログレでありながら、音響効果に頼り切らず弾き倒す硬派な雰囲気が、「Blue Wind」ジェフ・ベックを思い出します。

  「When All Was Well」(1:46)リコーダーを用いたクラシカルな序曲。

  「Heretik Part 1」(21:19)変拍子を用いたテーマを駆使して絶え間なく疾走する大作。 小さな起伏はつけつつも基本は緊張感あふれる演奏を続けてゆく。 オルガン、ムーグ、クラヴィネットらのプレイがみごと。 キーボードを中心とする変拍子アンサンブルやソロが、もろにプログレなの対し、「引き」のロマンティックなムードは、懐かしのフュージョン・タッチになるところがおもしろい。 現代の感覚からすると、リズムがやや弱めに感じられるかもしれない。 ともあれ、本アルバムの核となる超大作である。

  「Heretik Part 2」(4:17)HM 作品によくあるバラードもの。 ギターがフィーチュアされる。 歌はかなり苦しい。

  「Crimen Excepta」(5:45)変拍子が錯綜するポリリズムによる不安定で抽象的な作品。 ややモード風のシンセサイザーが独特。 後半は、前半に比べると、メタル風のギターとキーボードが明快なやりとりを見せる。 高密度のインストゥルメンタルだ。 聴き終わってみると、モダンな EL&P というイメージ。

  「Heretik Part 3」(11:01) スリリングなイントロにも関わらず、メイン・パートの中心は、メロディアスなヴォーカル。 もっとも、間奏部分では、トリッキーなアンサンブルとキーボード/ギター・ソロがたっぷりフィーチュアされ、次第に遠慮会釈のないヘヴィな世界へと進んでゆく。

  「Carpe Diem」(15:06) ハードロック的な痛快な演奏とクラシカルなキーボード・プレイの対比の鮮やかな叙情的傑作。 ミドル・テンポで堂々たる演奏が続く。 ECHOLYN に通じるムードあり。

(NMA006)

 Heretik  volume II  The Trial
 
Guy LeBlanc Hammond organ, acoustic & electric piano, Hohner clavinet, voices of the accusers and the accused
 Moog libaration, Korg Trinity V3 & X5DR synths, background vocals, percusssion
Claude Prince 5 string bass
Marc Spénard guitars
Daniel Lacasse drums, percussion
Natasha LeBlanc vocals of the final appeal

  2001 年発表の第四作「Heretik  volume II  The Trial」。 「Heretik」サーガ三部作の第二部。 内容は、70 年代プログレ・テイストを基本にフュージョン、ジャズロック、HM/HR をブレンドしたユニークなキーボード・ロック。 70 年代の大御所と同じくシンセサイザーやハモンド・オルガン、エレクトリック/アコースティック・ピアノを豪快かつ快調に弾き倒す。 ただし、そのスタイルがクラシックや R&B よりもジャズ、フュージョン側に寄っているところが違う。 そして、ネオクラシカル調のギターも加えた HR/HM 的な表現が強力なアクセントとして盛り込まれている。 とにかく大曲を休まず一気呵成に突き進む。 圧倒的だ。 インストゥルメンタル・パートにおけるドラマ作りはあまり目指していないようで、豊富なフレーズ・ストックに基づく奔放なソロ合戦が延々続く感じである。 そういうところはジャズのプレイヤーと同じスタンスだし、キース・エマーソン的である。 また、冒頭のようにいわゆるシンフォニックな演奏もあるが、どちらかといえば、ジャジーなプレイ(シンセサイザーのベンディングがすべてヤン・ハマーかチック・コリアに聴こえてしまう、というわたしの悪癖もあるのだろうが)の方が多いと思う。 または、クラシカルな演奏とへヴィなジャズロック風の演奏が互いに高まりながら交差するところに魅力がある、というべきだろう。 クラシカルなアンサンブルやハードロックっぽい演奏など、スタイルの分かりやすい明快な表現が主なので、アクセスはしやすい。 難解な感じはない。 反面、度胆を抜くような新奇なものがないため、波長が合わないと入り込むのに時間がかかりそうだ。 どちらかといえばシンセサイザーの音色やキーボードのプレイそのものが楽しめる方向け。 個人的には、3 曲目のようなオルガンとギターがぶつかり合うハードロック的な展開が好み。 クラヴィネットによるバロック音楽風のアクセントもいい。 なお、「De Praestigiis Daemonum」という作品が 3 曲目としてクレジットされているが、CD のデータには見たらない。

  「Entrance Of The Judges」(23:14)序盤はクラシカルな管弦楽調、シンセサイザーのソロを経てザクザクと刻むギターとともにテクニカルなプログレ・メタルへ。シンセサイザーの音色こそ牧歌調だが、演奏は PLANET X のようなスタイルである。 フュージョン風のクリシェ、クラシカルな跳躍アルペジオや和音進行などもバンバン盛り込んでとにかく突き進む。 終盤は、EL&P、ウェイクマン ばりの演奏で大いに盛り上がる。
  「Malleus Maleficarum」(7:38)
  「Heretik part IV」(13:10)70 年代プログレを継承する傑作。エマーソンばりのオルガン主導で進み、後半はギターと派手なバトルを繰り広げる。
  「Ad Judicium」(7:32)前曲後半の勢いのまま、ギターとバトルを続ける。
  「Moral Values part II」(7:58)ジャジーなシンセサイザー・ソロとハードロックを繰り広げつつ、愛娘(?)と思われる女性のヴォーカルをフィーチュアした安らかなエンディングへと流れ込む。 冒頭のポップ・テイストにちょっとビックリ。

(NMA007)

 Heretik  volume III  The Sentence
 
Guy LeBlanc Hammond organ, acoustic & electric piano, Hohner clavinet, Korg Trinity V3 & X5DR synthesizer, Moog Liberation, recorders
Marc Spénard guitars
Daniel Lacasse drums, percussion
Guy Dagenais 5 string & fretless bass
Natasha LeBlanc vocals
Kaleigh LeBlanc spring drums, vocals
Tracy Clark guitar

  2002 年発表の第五作「Heretik  volume III  The Sentence」。 「Heretik」サーガ三部作の最終、第三部。 内容は、オルガン、シンセサイザーを中心にルブランが弾き倒す 54 分一曲勝負のロック・インストゥルメンタル。 リック・ウェイクマンと同じく、テーマ、オブリガート、ソロまで全部一人で弾く。 どの機種のシンセサイザーなのかは定かでないが、お得意のハーモニウムのようなコンプレスされた音のシンセサイザーで込み入ったフレーズを延々と奏でる。 スタイルはジャズ・フュージョン以降のものであり、いわゆるプログレッシヴ・ロック的な閉塞感よりも開放感が強い。 オーソドックスなテクニシャンであるギタリストがいい感じで絡んでくるが、主役はあくまでキーボードである。 バロック音楽調のクラシカルなアレンジやジャジーな(フュージョン・タッチの)アドリヴ、そこにさりげなく GENESISEL&P クリシェも盛り込み、豊かな響きの叙情的なパートと奔放にかっ飛ばすパートの極端な対比をつけつつ、最後まで一気呵成に走る。 ルブランのバックグラウンドそのままのさまざまな音楽性を生のままに打ち出した作風だとは思うが、あえていえば、ロックンロール・マインドあふれるテクニカル・クロスオーヴァーというのが正しい表現だろう。 個人的には「Wired」時のジェフベックの作風を思い出す音である。(力が抜けて開放的になったところでは、DIXIE DREGS もあり) 基本的に 70 年代終盤風の音作りであり、音色やプレイのスタイルが気に入ればかなりのめり込めると思う。 ラスト 10 分あまりは感動的に盛り上がります。

  「De Mortuis Nil Nisi Bonum(Of The Dead, Speak Nothing But Good)」(54:00)

(NMA008)

 All The Rage
 
Guy LeBlanc compose, arrange, perform, produce, mix, master
Natasha LeBlanc backing vocals
Sylvie Dion backing vocals

  2004 年発表のソロ第二作「All The Rage」。 内容は、キーボード・メインのテクニカルかつ叙情的なシンフォニック・ロック。 峻厳なイメージの技巧派ハード・チューンから、ノスタルジックな 70 年代調、リリカルなポップス調まで、テクニカルジャズロック路線を貫いた前作よりも、遥かに多彩な内容になっている。 全体的には、キーボード・メインながらもメロディを重視したしっとりとした筆致の作品といえるだろう。 「Heretik」三部作に全力を注ぎ込んだ後の余韻に身を任せるような、おだやかでなおかつ知的な作品である。 また、CAMEL の影響が露なのも特徴的だ。 ルブランは、全パートの演奏のみならず、プロデュースからマスタリングまでを一人で行っている。 今回も感じたが、シンセサイザーのソロは超絶技巧系ギタリストのプレイを意識しているようだ。 (これは、デレク・シェリニアン、イェンス・ヨハンソン、ジョーダン・ルーデスといった現代のキーボーディストの共通点のようだ) ただし、弾き捲くり/弾き倒し系の作品では決してなく、曲のよさをキーボードが支えている作品である。 ドラムスは、プログラミングだけではなく、実際にプレイしているところもあるようだ。
   キーボード中心の技巧的なロックという形を取りながらも、素直なオプティミズム(達観か?)がリスナーを心穏かにしてくれる傑作だと思います。 こういう作品は、飛び抜けた評判を呼ぶわけではないが、何年たっても必ず誰かが憶えていてことあるごとに話題に上ることでしょう。
  
   1 曲目「Life On The Blade」は、クラシカルなタッチを散りばめたスリリングなインストゥルメンタル大作。 ギターとキーボード(ともにキーボードの可能性は大だが)のやり取りがカッコいい。 ラティマー/バーデンスを思わせる呼吸のよさである。 演奏は、さまざまなスタイルを自由に楽しげに行き交う。 オールド・ファンにはアナログ風のシンセサイザーの響きとなめらかにフレーズを紡ぐギターがうれしいはず。 真っ直ぐ空に向かうようなメイン・テーマもいい。
   2 曲目「All The Rage」は、「怒り」を現すような演劇調の声色ヴォーカルが特徴的。フツウの HM/HR。
   3 曲目「Ailleurs」では、フランス語で歌い、英語のヴォーカルと比べて陰影があってかなりいい。 ただし、どうしてもクリティアン・デュキャンに聴こえる。 もしくは、フランス語のアンディ・ラティマーといった趣も。
   4 曲目「One Sky」は、ピアノ、ハモンド・オルガンをフィーチュアしたほんのりラテン調のロマンティックな作品。 オーケストラも加わった美しい作品である。 軽やかなオルガンは、ニール・ラーセンか?
   5 曲目「The Silent Thread」では、アコースティック・ギターも使った穏かで力強い作品。 再びヴォーカルがラティマー風なので、すっかり後期の CAMEL である。 80 年代以降のベテラン・アーティストに共通するワールド・ミュージック調あり。いい曲です。同世代なので。
   6 曲目「The Immortals」は、アメリカン・オルタナティヴ風のレイド・バック感がいつのまにか雄大さに変わってゆく作品。素朴で伸びやかなギターが聴ける。ハモンド・オルガンもいい。
   7 曲目「The One Who Knows」は、ルーツ・ミュージックを回顧するような大作。抑えの効いた丹念なシンセサイザーのプレイに感動。 パット・メセニー(というかライル・メイズ)も入ってます。
   8 曲目「Choices」は、溌剌としたハード・フュージョン・タッチのシンフォニック・チューン。 ヴォーカルが入ると完全に CAMELTHE FLOWER KINGS もびっくり。

(XNtrik 101)


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