PROGRES 2

  チェコのプログレッシヴ・ロック・グループ「PROGRES 2」。 68 年結成。作品は前進グループを含め六枚。

 Dialog S Vesmirem
 No Image
Zdene Kluka vocals, drums, bells, clavinet, recorder
Pavel Vane vocals, guitar
Pavel Pelc vocals, bass, minimoog, bells
Milos Moravek guitar, vocals
Karel Horky synthesizers, clavinet

  80 年発表のアルバム「Dialog S Vesmirem」。 多くのアーティストとのコラボレーションによる、ロック・オペラ・プロジェクトの一環として発表された作品。 ギター中心のハードロック風の音使いとスペイシーなキーボード、男臭いヴォーカルを基本に、YESGENTLE GIANT の影響を受けたと思われる、しかけの多いプログレ的な表現を盛り込んだ力作である。 パワフルに走るところでもフォーク風にゆったりと歌うところでも、とにかく熱く濃く、その濃厚さを軸にさまざまなヴァリエーションを付けたハードな音である。 ロカビリー、ファンク、などの唐突にプリミティヴな表現も、いかにも東欧ロックらしい。 表現の様式は 60 年代から 70 年代初頭、中盤くらいのものなのに、電子技術によるサウンド製作面だけが進化して、その結果、英国にはない音になっている。 ギターの表現は、完全にブルージーなハードロック・スタイルであり、時にスティーヴ・ハウ的なサイケデリックなカントリー風味を交える。 サウンドも多彩だが、個性的というよりは、オーソドックスなプレイによる安定感が第一というべきだろう 。 また、ヴァイオリン奏法やワウ・ペダルの多用も、ハウ氏を思わせる所以である。 キーボードは、管絃の音で全体に広がりと色彩を付与する役割であり、70 年代初期の「オーケストラ競演」効果を、より洗練されたサウンドで大胆に実現しているといえばいいだろう。 牧歌的な演出には「Close To The Edge」辺りの YES の影響が見え、また、大胆なまでのピコピコ・サウンドもプログレ的な文脈には決定的に珍しい。 そして、何より大仰なシンセサイザー・サウンドが衝撃的。 荘厳なストリングスからうねるベース・シンセサイザーまで、あらゆる音域において、ドカーンと爆発するようなフレーズを叩きつけてくる。 リズム・セクションは、曲調がヘヴィなわりには重さを感じさせず、むしろ弾力に富み、ノリがいい。 硬質な音のベースは、意外なまでに弾けている。 ヴォーカルは、男性的ながらも伸びやかなリード・ヴォーカリストに加えて、むさ苦しいオヤジ・ヴォーカルが分け合い、コーラスもよく決まる。
  演奏全体に、無機的なざらつき感と黒光りする光沢を兼ね備えた金属的な感触があり、このヘヴィにして冷ややかなタッチが原語のヴォーカルと組み合わされて独特のものになっている。 ハードな演奏のみならず、バラードにおける哀愁ある表現やジャジーな演奏のこなれ具合もみごとである。 いわゆるユーロロックとして抜群の魅力がある。 白眉は、幻想的なバラードから始まって多彩な変転で演奏力を見せつける 3 曲目。 バラード・パートのみのエディット・ヴァージョンが収録されているところからして、シングル盤になったようだ。 さらに、キーボードによる爆発的な重厚さで押し迫る 4 曲目。
   ヴォーカルは原語。

  
(BONTON BON 492931 2)

 Treti Kniha Dzungli
 No Image
Zdene Kluka drums, percussion, lead vocals, chorus
Roman Dragoun lead vocals, chorus, keyboards, percussion
Pavel Pelc bass, keyboards, chorus
Milos Moravek guitar, chorus

  82 年発表のアルバム「Treti Kniha Dzungli」。リード・ヴォーカリスト交代を含む若干のメンバー変更を経た PROGRES 2 名義の第二作。 オリジナル LP は二枚組。 英語盤タイトルは、「The Third Book Of Jungle」(本 CD に収録)。 地球規模の自然破壊への警告といったテーマをもつらしい作品であり、全体で長大な一曲となっている。
  作風は、ほぼ前作と同じ。 ハードロック的なヘヴィネス、むせ返る男臭さ、GENTLE GIANT ばりの弾力あるアンサンブル、PINK FLOYD 風のスペーシーで暗めのサウンドによる重厚なシンフォニック・ロックである。 生々しくそそり立つようなシンセサイザー・サウンド、ブルージーなギター、唐突な AOR タッチ、時代錯誤的ロックンロール、果ては、分水嶺を越えたのか、80th そのものというべきハードポップ調も特徴的だ。 PINK FLOYD 風というイメージは、「Wish You Were Here」のような、楽器の生音を活かしたサウンド・メイキングのせいもあるだろう。 トータル作になっているせいか、リヴァーヴとエフェクトで深みを与えたヴォーカルの比重は高い。 バラードでは、フェイズ・シフタで加工したギターのアルペジオを伴奏にいきみかえるように歌い上げ、ハード・チューンでは、ヘヴィなギター・リフとベースのスラッピングともにリズミカルに(重いけど)歌い込む。 この原語の男性ヴォーカルは、テーマの深刻さとともに、どうしようもない暑苦しさを演出する。 キーボードの冷ややかなサウンドと演奏全体の無機的でメタリックなタッチが、この蒸し暑さとうまくバランスしているのが救いだ。 そして、ロシアのロックとも共通するが、過酷な冬場を凌ぐためだろうか、男臭さの中に尋常ならざるストイシズムと苛烈さから立ち昇る無常感がある。 全体に重量感と硬質なサウンドが基調となるが、演奏は一本調子ではない。 上で述べたような典型的な演奏のみならず、軽妙な演奏やスピード感ある演奏で巧みに変化をつけている。 終盤では、キーボードを駆使した神秘的なクライマックスから厳かなバラードへと落とし込んで一気に片をつけるといった、力強いストーリー・テリングを見せる。 その後のイタリアン・ロック的なヒネリもおもしろく、大団円の盛り上がりはただごとではない。
  現 CD に収録されている英語盤は原語盤と比べてクレジットが 3 曲ほど少ないが、原語盤と同じインストゥルメンタル曲を収録しなかったためと思われる。
  
(BONTON BON 501677 2)


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